第2話 オレは恋愛などしてはいけない
* * *
「好きです、わたしとお付き合いしてください」
放課後、校舎裏に呼び出されたオレこと
(彼女は、隣のクラスの
朝、投稿したとき、下駄箱のなかに可愛らしい便箋が入っていた。
封用のシールがハート型になっているそれが、いわゆるラブレターであることは、隣で全部見ていた親友が教えてくれた。
中身に目を通すと、キレイな字体で、オレへの想いが綴られており、とてもよい印象を受けた。
皆本さんはクラスの中心的な存在だという。
そのとおり、彼女は魅力的な女子だ。
サラサラの黒髪をショートカットにしており、とても活発そうだ。
事実、彼女は運動神経もよく、陸上部に所属している。
誰に対しても裏表がなく、明るい笑顔が魅力的だと評判だ。
そんな彼女が、緊張しているのだろう、随分と思い詰めた表情をしている。
それはもちろん、自分の好意を想い人に告げているからであり、つまりはオレに対して告白してくれているからだった。
(ああ、なんて愛らしい。こんな子と本当に付き合えたら……いや、ダメだ!)
実際に付き合うかどうかは別の問題。
オレなんかがそんな人並みの幸せを望んではいけないのである。
「皆本さん、まずはお手紙ありがとう。告白もうれしい」
まずはお礼と、素直な感想を口にする。
「そ、それじゃあ……!」
彼女の顔が明るくなり、そしてどんどん真っ赤になっていく。
うーん、可愛い…………はっ、いかんいかん。
「だがちょっと待ってほしい。キミは受験対策はしているかな?」
「え、受験?」
皆本さんはポカンとした。
まあ、告白直後に受験の話をされたらそうなるだろう。
だがここでやめるわけにはいかない。
ごめんね皆本さん。
「そうだ、受験戦争はもうはじまっている。まだ時間があるからといって油断してはいけない。ときに、キミの成績は学年で何位くらいだったかな?」
「う、それは…………、ユウイチくんよりかは全然低いです、けど」
そうだろうな。わかってて聞いた。なにせオレは一番しか取ったことがないからな。
「…………」
皆本さんが黙り込んでしまう。俯いてスカートの裾をギュッと握っている。
オレはべつに成績の良し悪しを言いたいのではない。
もちろん、自分の成績を自慢したいわけでもない。
なにが言いたいのかと言うと――
「お互いにがんばろう。幸せな未来を掴むため、これからも努力をしていこう」
スッと手を差し出す。
皆本さんはオレの手を呆然と見ていたが、「はっ」と息を呑んだあと、ガシッとものすごい勢いで握ってきた。
「……いまの言葉って、つまりそういう意味だよね?」
意味? 意味など別にない。
ただオレは、恋愛などしている暇があれば、将来のために勉強をするべきだと、そう提案したつもりなのだが……。
「まさかキミがそこまでわたしたちの未来を考えてくれていたなんて。望む未来を手に入れるため、まずは勉強に励みましょう、ダーリン」
ダーリン? 何を言ってるんだこの子は。でも学業優先というオレの意図は伝わったようだ。
「キミが聡明な子でよかった」
「わたしも、あなたみたいなヒトが将来の伴侶になってくれるなんてうれしいわ」
伴侶? さっきのダーリンといい、この子はちょっとおかしいのかな。
その後、皆本さんは「こうしちゃいられないわ、いまから塾の夏期講習予約しなくちゃ!」と走り去っていった。
うむ。アグレッシブな女子は見ていて気持ちがいいな。
だが残念ながら、オレと彼女の人生が交わることは今後二度とないだろう。
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