ママミア!〜新しいママは異世界人でおっぱいが大きくてオレはもう我慢できない!

Ginran(銀蘭)

第1話 プロローグ・初夜

「う、ううう……」


 オレンジ色のナツメ球だけが照らす部屋のなかに、若い女性のうめき声がひびく。


「はあ、はあ、ううっ!」


 その声はとても苦しそうで、だんだんと熱を帯びてきていているようだった。


 布団をかぶり、となりで聞いているオレは気が気ではなかった。最初は寝たフリをつづけていたが、さすがにもう限界だった。


「あ、あの、どうかしたんですか……ミアさん」


 呼び慣れない名前だ。当然だ。つい数時間まえに会ったばかりのヒトなのだ。


 そんなヒトと同じ部屋で、布団を並べて寝ているなんて、とてもおかしな状況と言えた。


 様子を確認しようと起きあがった途端、ムワッと、部屋中を満たす濃密な香りに気がついた。


 いままで嗅いだことのない、とても甘やかな香りだった。煮詰めたミルクの湯気を、何時間も焚きつづけたような、そんな特濃な香りだった。


「うう……夜中にうるさくして、ごめんなさいユウイチさん。なんでも、ありません。わたしは、大丈夫ですから……!」


 かけ布団から顔を半分だけ出した女性――ミアさんがこちらを見上げてくる。


 名前からもわかるとおり、彼女は日本人ではない。それどころか地球人ですらない。遠い別の世界からやってきた、異世界人だ。


 銀色の髪に長い耳。そして褐色の肌をした、とてつもない美人だ。その蒼い瞳はとてもうるんでいて、こぼれでる吐息もかなり苦しそうだった。


「大丈夫なわけないでしょう。そんなに息を荒げて。たしかにオレはまだあなたのことを受け入れたわけではありません。だけど、そんな苦しそうにしているヒトを放ってはおけません。さあ、どこが苦しいのか教えてください」


「ユ、ユウイチさん……!」


 ミアさんの潤んだ瞳にじんわりと涙が浮かび、ポロッと一滴、こぼれ落ちた。


 彼女はたったひとり、異なる世界にやってきて、頼るものは誰もいない。さぞ心細かったことだろう。


「安心してください。幸い日本の医療技術は発達していますし、夜中であっても医者の診察を受けることができます。さあ、遠慮せずに、苦しいところを教えてください」


「は、はい、実は胸が……」


 胸。まさか心臓? 痛みや苦しさがあるのなら、狭心症や心筋梗塞が疑われるな。あるいは呼吸疾患の可能性も……。


「む、胸が、胸が……」


「胸がなんですか、もっとはっきり仰ってください」


「胸が……おっぱいが」


「ええ、おっぱいがどうしました――え?」


 お、おっぱいだと? おっぱいって乳房のことか? え、あれ、病気じゃない?


「おっぱいが切なくて、苦しくて……はあはあ」


 本当に彼女は苦しそうだ。これはもしや女性特有の、女性にしかわからない特有の、乳GUN的なアレかもしれない。


 男にも同じ名称の器官があるとはいえ、女性とは構造も機能もかなりちがう。も、もう少し詳しく聞いてみよう。


「ミアさん、おっぱ――胸がどんなふうに、その、痛いんですか?」


「は、はい、おっぱいが……母乳が」


「――なんですって?」


 母乳? 母乳だって? 耳にした言葉が信じられず固まるオレをよそに、ミアさんは、ファサッとかけ布団を取り払う。


 甘やかなミルク臭がより強くなる。間違いなく室内に充満するこの香りの発生源は彼女自身だった。そして香りの発生ポイントは――


「母乳が……その、あふれ出てしまって……」


「えええっ!?」


 ミアさんが着用するシャツはオレが貸与したものだ。そのシャツの、大きく盛りあがったふたつの大山の火口部分が、びしょ濡れの有様になっていた。


「ごめんなさい、はしたない女と思わないでください。こんなこと、わたしも初めてで……」


「そ、そうなんですか、初めてなんですか。それはしょうがないですね」


 カアっと、薄闇でもわかるほど、ミアさんは顔を赤くしていた。恥じらうように顔を伏せ、手で覆った目元からはポロポロと涙がこぼれている。


 いま一番つらいのは彼女自身なのだ。この世界でミアさんの力になれるのは、一応の家族であるオレしかいない。彼女の涙を止めるためなら、なんだってしてあげよう……オレはいま、そんな気持ちにさえなっていた。


「はうっ、ううう……!」


 再びミアさんが苦しみはじめた。濡れた胸もとを両手で抱え、身体を丸めている。これは本当にヤバそうだ。オレは一体どうすれば……!?


「ミ、ミアさん」


 背中を擦ってやろうと、手のひらで触れてみる。とたんミアさんはビクンと身を固くする。オレの手には、灼熱のような彼女の体温が伝わっていた。


 熱い。熱すぎるだろこれ。どう考えても普通じゃない。本当に大丈夫なのかこれ。


「ユウイチさん、お願いがあります」


「な、なんですか、なんでも言ってください。あ、とりあえずお水を飲みましょう。汗すごいですよ。待っててくださ――」


 立ちあがりかけたオレの手を、ミアさんが掴んでいた。女性とは思えないほどの力強さだ。


「……って、ください」


「はい?」


「吸ってください。わたしの、お乳を。ユウイチさんが……」


「は……?」


 頭が真っ白になった。彼女はなにを言っている?


 お乳? つまりは彼女から何故か唐突に溢れだしてしまっているブレストミルクを、オレに直接口で吸ってほしいと?


「い、いや、さすがにそれは! 救急車とか呼んだほうがいいのでは!?」


 着火したように顔が熱くなった。なんでもしてあげたいとは思うが、ものには限度というものがある。いくらなんでも今日出会ったばかりの女性のおっぱいを、しかも母乳を飲むというのは倫理的にまずい気がする。


「ごめんなさい、気持ち悪いですよね、わたしみたいなオンナ……」


「い、いえ、ミアさんは別に気持ち悪くは――」


「でも、こんなことを頼めるのはユウイチさんしかいないんです。地球で唯一の家族であるユウイチさんにしかお願いできないことなんです」


「……!」


 そうだった。ミアさんはオレの父親の再婚相手。つまりオレにとっては義理の母親ということになる。


 息子であるオレが母親であるミアさんのおっぱいを吸うのはまったくの合法……問題などあるはずがないのだ。


「ほ、ほんとうに……オレなんかが……いいんですか?」


「だ、大丈夫です。それよりも、お乳が出てるせいか、とても切ない気持ちになってしまって……できれば、は、早く……吸って――」


 グスっと、涙声で鼻をすすったミアさんが、剥ぎ取るように自らのシャツを脱いだ。水気を吸ってずいぶん重くなったシャツで、少しだけ胸もとを隠したあと、彼女はそっとシャツを置き、手を両脇におろした。


「あ、ああ、あああ……!」


 とんでもないシロモノが、オレの目の前に現れた。いままで生きてきたなかで初めて目にする女性の、生の乳房。


 言葉がでなかった。大きくてまるくて、柔らかそうで……。いまは汗と母乳に濡れて、その表面はしっとりとしていた。


 オレは、一気に全身のチカラが抜けてしまった。圧倒的な存在感を放つ母性の象徴をまえにして、なにも考えられなくなってしまった。


 花の蜜を求める蝶のように、オレは自然と、ミアさんの方へと引き寄せられていった。


「ミ、ミミミ、ミア、さん……!」


「いいんですよ、来てくださいユウイチさん」


 つらいはずなのに、ニコっとミアさんは優しげな笑みを浮かべた。それはオレのなかにあった最後の罪悪感を消し去る慈愛の笑みだった。


 ああ、どうして、どうしてオレたちはこんなことになってしまったのだろう。


 彼女との出会い。それは少し時間を遡る――

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