第30話 おじさん、神位NPCと出会う
『ほぅ……。わずかなヒントでそこまで掴むとは。脳筋のくせに勘は鋭いな』
「誰だ!?」
声は俺の耳に直接聞こえてきた。
モンスターをリポップした際に流れたアナウンスのような、無機質な合成音声が。
(チャット機能を使ってるのか……!?)
モンスターをリポップさせたり、チャット機能を使ったりと
『
「バグったモンスターのことか。贈り物の趣味が悪いぞ」
『くくっ。褒め言葉として受け取っておこう』
耳元で囁かれているような不快感を覚えながら、俺は警戒を続ける。
相手は抑揚のない合成音声でありながら、やけに人間味を感じさせる言葉選びで続きを話した。
『そう警戒するな。タクト・オーガン。妾はおまえの味方だ』
「味方だと……?」
『おまえの推測どおり、妾は【上位権限NPC】だ。おまえやヴィヴィアンより高位の権限を持つ【
「俺だけでなくヴィヴィアンまで知っているのか」
『神位だと言ったであろう。妾が知らぬものはない』
「それでその神に近しい誰かさんは俺に何の用だ? 顔も見せずに挨拶だけだなんて、ずいぶんとお高く止まってるんだな」
『故あって姿は出せん。しかし、こうしてメッセージなら送れる。直接やり合えぬから【
「鵺……? それがさっきの【バグ・キマイラ】の正体か」
『実に見事な剣さばきだった。おまえの使っている聖剣……無銘と名付けたのだったな。その剣とおまえのチカラがあれば、これから起る
「厄災? 無銘で解決できるってことはバグ関連か」
『左様。エリカが追っておる【トランスウォーター】にも関わる話だ」
音声はそこで一度途切れる。
次の瞬間、目の前にマップウィンドウが表示された。
元PCのエリカならいざ知らず、ウィンドウ表示はNPCである俺には出来ない芸当だ。より高い権限を持つ【
『密売人はこのマップに描かれているエクストラダンジョン【灰の都】におる』
「【灰の都】か……」
【灰の都】とは、モンムーンよりさらに北へ数里進んだ先にある廃都だ。
数千年前に栄えた古代人が建造した都市で、強力なモンスターの住処になっている。下手に手出しができないと国も放置したままだ。
ログドラシル・オンラインのゲーム内ではプラチナ級の冒険者になるか、国の許可がないと立ち入れない仕様になっている。
無銘が眠っていたエクストラダンジョン【
「逃げた密売人はただの盗賊だろ。あんな危険な場所にどうやって入ったんだ?」
『入るだけなら誰でも入れる。出られぬだけだ』
「あ~、そういう話ね……」
行きはよいよい帰りは怖い。
それ相応の実力がないと生存するのが不可能という話だ。
そんな危険地帯に逃げ込むなんて。盗賊たちはよほど切羽詰まっていたのだろう。
ゲームなら死んだらセーブポイントへ戻るだけなので、お試しとして入り口を覗くことも可能だ。
しかし、
『――――そろそろ時間切――だ。冒険者ギ■ドで【灰の都】へ立ち入る許可をmoraえ。方法――任せ……――・――』
「おい! 勝手に消えるな。せめて名前を名乗れっ!」
音声が途切れ途切れになりノイズ混じりになる。
俺の呼びかけに相手は……。
『妾の名maえか。妾、ハ……――』
「おい!」
『――――――――――――』
「……ダメだ。声が聞こえなくなった」
やがて音声は完全に途絶えてしまった。呼びかけにも答えない。
「厄災……か」
俺は無銘を鞘に収めてため息を吐く。
無銘を受け取るとき、勇者になった覚えはないって言ったのに結局そうなりつつある。これも泉の精霊ヴィヴィアンの思し召しなんだろうか。
(おじさんは胸躍る冒険がしたかっただけなのに、どうして面倒事ばかり押し寄せてくるんだろう)
嫌になるが頭に浮かんだのは美味しそうにメシを食べるリリムの姿や、エリカの真摯な訴え。道中で出会った人々の笑顔だった。
もしも厄災とやらが本当に発生したら、そのすべてが失われるわけで。
「リリムも言ってたっけ。労働のあとのメシは美味いって」
ああ、そうだな。言い訳としてはそれで十分だ。
俺はエリカの作る美味いメシを楽しみにしながら、リリムたちが待つバイデンの街へ戻ることにした。
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バーチャルアイドル リリムちゃんの宣伝コーナー
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リリム「これにてシーズン4終了。不穏な伏線を回収できるのか? 続きが気になるな。もちろん次回も読んでくれるよな? 読んでくれないとワシさま悲しいのだ(ウルウル)」
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