第29話 おじさん、【縺ャ縺?】と戦う
『【縺ャ縺?】をリポップします』
盗賊たちのアジトにて、名前も姿もバグった謎のモンスターが目の前に現れた。
姿を現わしたのは雄牛の頭をもち、胴体は虎で、蛇の尻尾をもつ怪物だった。
「キマイラ……なのか?」
キマイラといえばライオンの頭をもち、胴体は山羊で蛇の尻尾を持つモンスターだ。コウモリの翼も持ち、口から火炎を吐いて冒険者を追い詰める。
目の前の名称不明のバケモノは、そのキマイラに姿形が近い。
仮に【バグ・キマイラ】としておこう。
「グ
【バグ・キマイラ】は問答は無用だとばかりに襲いかかってきた。
鋭い虎爪を立てて俺を切り裂こうとする。
「そう簡単にやられてたまるかよっ」
リポップした原因はわからないが、
「
伯爵の時と同じで雄叫びがノイズまじりだ。
俺は【バグ・キマイラ】の攻撃を回避しながら、無銘で一撃を加える。
「せいっ!」
「
蛇頭の尾っぽを斬られた【バグ・キマイラ】は悲鳴をあげながら距離を取る。
切断された尻尾は、別の生き物のようにビタンビタンッと激しく上下に跳ね飛ぶ。
すると……。
「シャァァァ……!」
「蛇が分離した!?」
尻尾の蛇は、本当に別の生き物として再生して自らの意思で動き出した。
斬られた箇所から肉体を分離させて、別のモンスターを生み出すタイプらしい。
(傷口から黒い魔力の霧は生じていない……)
【トランスウォーター】で変身した元人間、というわけではなさそうだ。
それなら遠慮はいらないな。
「グ
「
【バグ・キマイラ】と蛇は耳障りな金切り声をあげながら、同時にこちらへ攻撃を仕掛けてくる。
豪快に剣を振って応戦したいところだが、部屋には密売人の手がかりが残っている。俺は無銘を水平に構え、一歩踏み込んで刺突攻撃を行った。
「【トラスト】!」
剣の切っ先による刺突攻撃。それが【
技量の高いPCが初めに覚える刺突スキルで、ナイフやダガーをメイン武器とする盗賊が好んで使う。
剣を水平に構えてレイピアのように使うことで、狭い室内でも戦闘が可能となる。
そして……。
「スキルブーストっ!」
俺は無銘のブーストを使い、【トラスト】の刺突回数を数百倍に増やした。
「ピ
相手にしてみれば、瞬く間に串刺しにされたようなものだ。
モンスターを分離する暇を与えず、【バグ・キマイラ】を蜂の巣にした。
倒された【バグ・キマイラ】は、素材を残すことなく光になって消えてしまう。
出現方法がバグっていたから退場方法がバグってもおかしくはない。
おかしくはないが……。
(リポップの誤作動だとしても出現するタイミングがおかしい……)
日頃から誤作動が生じているなら、盗賊がこの場所をアジトにするわけがない。
俺が足を踏み入れた瞬間にモンスターを呼び出した犯人がいる、というわけだ。
最初に思い浮かべた犯人は
他に心当たりがあるのは……。
「犯人は【上位権限NPC】……か」
『――――わずかなヒントでそこまで掴むとは。脳筋のくせに勘は鋭いな』
「誰だ!?」
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