ep31 黒木

「センセー、平均点何点すかー?」


 成績は絶対評価だから、平均点が何点でも成績は変わらない。

 それでも平均からどれくらいの差があるのか、上にしても下にしても、気になるのは仕方ない。


 平均点を言ってくれない先生もいるし、その場合はこうして聞かないと素点表配布まで分からない。

 それに、クラス平均は素点表に載らないから、ここが唯一の知る機会。

 クラス全員に点数聞いて計算すれば出せないことはないけど、特に結果が芳しくなかった人は言いたくないだろうから。


「えーと、クラスの平均が……62、学年平均が60だ」

 たぶんExcelが開かれているパソコンの画面を見ながら、京菜先生が答える。

 基本的にテストは平均点が60点前後になるように作るから、まあ予想通り。

 京菜先生も「難易度設定、まあまあうまくいった」って顔してる。


 それに比べてあのチビは…‥どう考えても平均点が60に届かないような難易度設定しやがって……


「……ッたァッ!!」

「どうした?もぐさ」

 あんまり平均超えたとかで喜ぶタイプじゃなかったと思うんだけど。


 チラッともぐさの解答用紙見ると、


「っしゃっ平均点っ!」


 60の数字。

 ん?もぐさって結構頭よかったと思うんだけど。


「樹木叔母さんが言ってたんだけどさ、テストの点とか成績とかで遊べるのって、一年の内だけじゃん?」


 まさか……


「平均点狙って取ったの?」

「そうだよ。誰が何点くらいとるか、学年全員分予想して、その平均になるように徹底的にケアレスミスを排して解く」

 分析特化型の私でもそんなことできないよ……


「全教科?」

「うん。あんまり自信ないけど」

 ヤベーよこいつ。

 幸い、この数学が最初に帰ってくる教科だ。


「よし、賭けしよう!四分の三、いや、三分の二以上の教科で平均点取れたら、私が1000円払う。逆に、三分の二以上の教科で平均点外したら私に500円頂戴」


「この数学も含めるんだよな?」

「チッ……勿論」


「四捨五入?それとも切り捨て?」

「チッ……どっちでもいいよ……」

 とだけ言うと、教科によって都合のいい解釈をされるから、


「……もぐさが好きな方選んで」

 ちゃんとどちらかに限定しておく。


「じゃあ、切り捨てで。そっちで計算してたし、その方が分かりやすい」



「キヲツケッッ!礼ッッ!」


 授業が終わって、わぁーっと一気に騒がしくなる。

 テスト返された直後は、近くの席の人と点数を見せ合ったりしてたけど、今度は少し離れた席の友達と「どうだった?」とか……


「ユキウサギちゃん、どうだった!?」


 ……もうアスハラがやってる。

 ユキは嫌そうな顔で、点数が書かれた解答用紙の右下をアスハラによく見えるように向けて机に軽く叩きつける。


「スゲー!ユキウサギちゃん流石!」

 ユキは結構真面目で、かなり地頭良さそうだからね……

 破壊特殊型でさえなければ、それこそ分析特化型とかだったら、たぶん塾通わずにトップ校合格できる。


 そういえば、アスハラは「席替えしてくださいよー!」って毎日言ってるけど、まだ一回も席替えされてない。出席番号順に並んでるから、アスハラとユキは遠いまま。

 ユキにとっては、アスハラが教室の反対側にいる今の席は最高なんだろうけど。



 っていうか、次の授業技術移動教室だからそんなことやってる場合じゃなくね?技術室後者の反対側だよ?

 ……私も早く準備しないと。



「間に合ったー!」

 と言いながらアスハラが技術室に入ってきた直後。


 キーンコーンカーンコーン……


 チャイムの音。そして、


「キヲツケッッ!礼ッッ!」

 うちの号令係若竹は無慈悲です。


 チャイムが鳴り終わったら、アスハラがまだ席にたどり着いていないことなど一切関係なしに号令。


 技術室は機械やら端材やらが大量にあるせいで通路がかなり狭いから、他の教室ほど容易には辿り着けない。


「アスハラ、間に合ってない。席に着くまでが移動教室です」

「む……」

 間に合ってないのは事実だから、明日ヶ原葉の言葉にも言い返せない。


 あっきーは特に咎めることも揶揄うこともなく、


「テスト返します。出席番号順に来て」

 と、解答用紙が入った大きいマチ付き茶封筒の紐をくるくる回して外しながら言う。


 ……技術のテストって、昨日だよね?

 三日間の期末テスト初日にやった数学を、期末終わってすぐ返す京菜先生も大概だけど、採点異常に速っ……流石あっきー。



 ……さてさて何点かな……?

 席に戻って、半分に折られた解答用紙を開く。

 まあ、大量の丸が透けて見えてたから、それなりに高い点数のはず……


 ……ガッ!


 49点。


 よんじゅうきゅうてん……ヨンジュウキュウテン。


 どこだろう。作図か?違う。

 どこだ、どこミスっ……あ。


 べニ……


 しまった……yaだ!y子音が足りない!


「ケアレスミスが結構多かった。ベニヤをべニアって書いてる人とか」

 はーい、私でーす……!


 普通に何問か間違えたときより、たった一点ケアレスミスで落とした時の方が悔しい。


「センセ……」

 スッ、とあっきーの目が細く。


「……秋葉さーん」

 流石のアスハラも言い直す。


「ケアレ・スミスって誰すか?」

 またバカが馬鹿なこと言ってる……当たり前か。


 Carele Smith鍛冶師……でも割とありそうな名前……あっきーの親戚とかでいるんじゃない?


「……はっ、ははっ、アスハラお前……はっ!」

 明日ヶ原葉、大笑い。


「くっ、くっ……くはっ!お主……傑作であるのぉ……ひぃっ……」

 むくちゃんも?

 嘲りが混じった明日ヶ原とは違って、彼女は単純にツボってるみたい。


「アッヒャッハッハッハ!」

 誰だ笑い屋!もぐさか。


「……」

 竜道撫菜は目をぎゅっと瞑り口を真一文字に、笑いを堪えている。

 笑ったらアスハラが傷つくとか思ってるんだろうけど……


「あの……アスハラさん?ケアレス・ミスって、読み間違いとか、書き間違いとか……そういう、不注意で起こるミスのことです……よ、ね?」

 流石青薔薇真理青い海の雫!優しい……!

 「ケアレス・ミス」って句切って言ってる辺り、気配りが細かい。あと、合ってるかどうか不安になって、近くの席の人に訊いてる……可愛い。


「え、あっそうなんだ……ありがと教えてくれて」

「どう……致しまして……」


「初めて知ったー……芹歌知ってた?」

 と、隣の席の石蕗芹歌Celicaに訊く。


 角度的によく見えないけど、「知ってるわ馬鹿にすんな!」って感じで中指立ててるみたい…‥

 ……百合郎がまた変な妄想してる……「ふぁっく犯すぞ!」という訳ね。

 私が言えたことじゃないけど。



「平均点はクラス27、学年25……」

「っしゃぁぁっ!」

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