六月

ep29 明日原

「ぶちょー……」

「何だAsuhArAアスハラ

 発音変わった?


 カタカタカタカタカタ……


「そろそろ期末っすね……」

 ホワイトボードの前、本来は先生が座る席に堂々と座るぶちょーに、ノートパソコンが置かれたテーブルをはさんで向かいから話しかける。


「そうだな。それがどうかしたか?ああ、期末の五日前からは諸活なしだからパソコン部もUFO道同好会としての活動もないぞ」

 凄い速度でキーボードを叩きながら、ぶちょーの目線は液晶とおれの顔を、チラッチラッと交互に行き来。


「いや、そうじゃなくて……」

「何だ?不安なのか?気にすることはない、一年の成績は進路に全く響かないぞ」


「ぶちょーの勉強法を教えてほしいんです」


 ニィ……ッ、と笑って、


「……秘密だ」


「えー、教えてくださいよー!」

「そんなに言うなら教えてやらんこともないが……当ててみろ」


「……ワークを何周も解くとかですか?」

 取り敢えず定番の勉強法を言ってみる。

 でも、そういうめんどくさいことやりたくないんだよな……


 部長は、無言で新品同然のワークを取り出して、真ん中くらいのページを開いて見せる。

 化学式が並んだ理科の問題。どれ一つとして解答が書かれていない。


「二年の理科のワークだ。この通り、一切解いてない。So・Shi・Teそして、これが二年二学期末テスト」


 答案用紙の右下には、三桁の数字と『Very good!』の文字。


 ( ・´ー・`)ドヤァ……


「問題がかなり易しかったからなっ。当然だ。学年で五人以上『The PERFECT満点』がいた」


 ……ワークを解かずして、満点!?


「まさか、かんに……」

「失礼な。この私がカンニングなどするわけがないだろう!?」

 テーブルの下から何やらコードの付いた首輪のようなものを……何か分からないけど、凄く危険なことだけは分かる……!!


「ち、違います違います!「まさか、勘に頼ったんですか」って言おうとしたんです!」


「流石の私でも、堪に……ん袋の緒が切れそうだぞ?勘でなれる!ほど『The PERFECT満点』は甘くない!!カンニングといおうとしたんだろう?カンニングと」


 ぶちょーはそのコードをパソコンに繋いで、部活動紹介の時の目出し帽を被る。

 「部長ちゃんが茅場モードになったぞ」「あ、あいつ死んだな。あのクソ難易度の死にゲーを初見でノーミスクリアとかムリだろ」「南~無~」という先輩方の呟きが聞こえる。


「カンニング……河●塾に行ってるんですね!?」

「見苦しい言い訳だが……よくそんなこと知ってるな」


 首輪のようなものに製図用の尖った鉛筆をセット。

 ぶちょーはノートパソコンの画面をこちらに向ける。


 そこに表示されたゲーム。キーを操作してキャラを敵に凸、HPが0になった瞬間、


 ガンッ!


 首輪のようなものについたバネが弾け、鉛筆がジャックナイフのように、内側に飛び出す。

 もし、これを首に着けてたら……


 (≧▽≦)ニコッ!


 目出し帽を脱いで破顔一笑、首輪のようなものを片付ける。


 た、助かった……



Sateさて、私の試験対策だが……洗脳だ」

「は?」

 このぶちょーなら、そこまで不思議でもないけど……


「主に暗記系の対策だが、先ず、暗記したい内容をダァァーー……っ!とワープロソフトでも表計算ソフトでもテキストエディタでもいいから、とにかく入力する。手書きよりパソコンで打った方が早いからな」


「体で覚える、ってことっすか?」

「体で覚え……っ!?」

 少し頬を赤らめ、口元を軽く押さえている。


「どうしたんすか?」

「……ん、んっ。何でもない!で、そいつをPDF化して……「音声で読み上げ」ツールで読み上げさせたのをendlessでlistening!」

 言うや否やおれの両耳にイヤホンをねじ込む。

 クッションが外れているのか、硬いプラスチック剥き出しで痛い。


『ヒトリショウタンスウ シュゴ アイ インディア ヒトリショウタンスウ ショユウイチ マイ マイク ヤンキー ヒトリショウタンスウ……』


「何ですかこの気持ち悪いの!?」


「どうだ?」

「『一人称』を『ヒトリショウ』って言ってますよ!?『his[hiz]』も『エイチアイエス』って読んでるし!」


「癖になるだろう?」

「なりません!ぶちょーの……」

「また失礼なことを言おうとしたな?私の喋り方が変なのはこれのせいだ、とか」

 首輪のようなものを再び机の下から……


「言おうとなんてしてません!!」

「……そうか」



「他にないんですか?」

 流石にこの方法はやりたくない。


「あとは……よく寝ることだ。下手に徹夜するよりもちゃんと寝たほうがテストの点も上がるぞ」

「はあ……」

「睡眠導入におすすめなのが……これだ」


『授業×ASMR!【中一理科・地学編①】現役中学校教師kiki&Kによる囁き解説&岩石タッピング』


「フィルタリングされてるはずの学校のパソコンから、どうやってYouTubeにアクセスしたのかは聞かないでおきますけど、何ですかこれ」

「見ればわかるだろう?火成岩とかをタッピングしながら、中一の地学を解説してくれるんだ。顔出ししていないが……『kiki&K』が誰だかわかるよな?夜な夜な校長室で撮ってるらしい」


 ほぼ名前そのまま……秋葉センセー、タッピング上手い……


「保健体育編も聴くか?」

「やめておきます」

「途中から日本の教育について真剣に論じ始めて、最早解説でもASMRでもなくなっているが……個人的には神回だと思ってる」

「だから聴きませんって」

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