ep19 雪乃下

 ……気まずい。

 これで、何事もなかったかのように「それじゃあ私は寝ますおやすみなさい」は流石に気まずくて出来ない。


 ケイ……泊めてくれるかな。頼んでみよう。


 玄関の戸に手を掛け……ん?

 沓脱の近くに何か落ちてる。


 取り敢えずポケットに入れ、大きい音を立てて戸を閉めて家を出る。



 白い髪。月明かりを受けて輝くそれは、薄暗い中で目立つ。


 とっ、とっ、とっ、とっ……小走りでケイの下へ。


「あの……ケイ、今晩泊めてくれない、かな……?」

 ケイは「勿論」と頷いて、私の手を握って歩き出す。


 ……ちょっと歩くスピード速い。



 ブーツを脱いだケイの身長は、私よりだいぶ低かった。

 どうやら、学校の上履きも上底しているらしい。


「ふぁぁ~……」

 ブレザーのジャケットとスラックスをハンガーにかけ、ブラウスのボタンを上から外しながら、


「一緒に風呂入る?ちょっと狭いけど」



「ひゃっ!ちょっとケイ、どこ触って……当たってる!背中に……!」

 身長に対して、かなり大きい。何が、とは言わない。



 かなり長風呂になってしまった。こんなにゆっくり、風呂に浸かったのはいつ以来だろう。


「仁も飲むー?安物の日本酒だけど」

 ……ケイ、一応教師のはずだが。未成年にアルコール勧めて良いのか?


 風呂上がりで少し湿った髪。酔ってとろんとした両の眼。

 気づけば私はベッドに押し倒されていて……



 ケイは天使だった。それも、堕天使……


https://kakuyomu.jp/users/Kuwa-dokudami/news/16818093073369966189




「ん……」

 白いシーツと、あたたかな羊毛布団。

 ……今何時?

 ベットサイドのスマホを見る。


 六時半。


 ……っ!

 飛び起きて、ここがケイの部屋だったことを思い出す。


 服を整えて、部屋を出る。

 ……食パンを焼く香りと、目玉焼きを焼く音。微かに、ジジジ……とトースターのタイマーが動く音も聞こえる。


「おはよう」

「……おはよう、ございます」



 トースト二枚と目玉焼き、レタスのサラダ……というか、レタス半玉をボウルによそって塩と胡椒を振っただけのもの。そして、このコーヒーは……


「バニラフレーバー?」

「正解」


 シンプルだけど随分と洒落た朝食だ……


 目玉焼きに醤油が合うのは分かる。で、トーストの上に目玉焼きを乗せるのは、ジブリアニメであった気がする。

 でも……


「ケイ、パンに醤油って合うの?」

「さぁ?私は好きだけど」


 トーストの上に目玉焼きを乗せて、そこに醤油をかけるのは合うんだろうか……

 私には試す勇気がない。



 幸せは過ぎると毒だ。

 でも、こんな日常をおくれたら、と願わずにはいられない。

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