五月

連休

ep21 明日原

 堕落センパイが死んだ。

 噂では、銃殺されたらしい……まさか、そんなアングラなところまで足を突っ込んでたとは思わなかった。


 堕落センパイがいるなら、おれも野球部に入ってみようか、と思ってたけど。

 死んでしまって、居ないならなぁ……文化部を自称してるし、ユルそうだけど、でもやっぱり運動部はめんどくさい。

 もっとユルくて、気が向いた時に参加できるような部活は……



 という訳で、パソコン部に入った。


 少し前までは、パソコン=オタク=陰キャみたいなイメージがあったらしいけど、そんなのは過去の話。


 部長だって、如何にも陽キャな女子だし。

 時々奇声を挙げて妙なことを滔々と語りだすけど。


「デジタル化する現代社会において、パソコンは社会人に必須のスキルです。せめてブラインドタッチくらいは、出来るようになりましょう!……と、いうのがパソコン部の表向きの目標です!」


 今も、パソコン室の椅子の上に立って、なんか演説している。

 キャスター付きの椅子だから、椅子の上でちゃんとバランスが取れるまで何回か転げ落ちてた。


Soそう、このパソコン部には、裏の活動があるのです!!一年生諸君、仮入部では一切見せていないこの真の活動を教えてしんぜよう……」


 ピラッ!(紙を広げる音)


 A4サイズのプリントの裏紙一枚に、丸っこい可愛い文字一文字ずつ、それを縦につなげたものを広げる。


 デデンッ!!(太鼓みたいな音)


―――――

| U |

| F |

| O |

| 道 |

―――――


 ( ・´ー・`)ドヤァ……


「UFO道……って、なんすか?」

 思わず訊ねると、


 ( ー`дー´)キリッ!


せーぇつめいしよぉう説明しよう!UFO道とは、遊歩道や林道から|Unidentified Flying Object《未確認飛行物体》、所謂UFOユゥ・ェフ・オゥを観察することであーる!」


 いや、結構変な電波受信してる気がする。

 部長はパソコンの画面に地図を表示させ、ながら叫ぶ。


「五月四日みどりの日の夕方、来れる奴はこの林道に集合っ!!それでは本日の活動は終了っ!解散っ!」




 暇だから行ってみることにした。


 バス停から歩くこと数十分。本当にあってるのか……?と思いつつも、


「あ、無患子?」

「……ん?お主、アスハラかのぉ?」

 錫杖と六尺棒を突いて歩く無患子と偶然遭遇。


「こんなところで会うとはのぉ。それでは、さらば……」

 彼女は一切歩く速度を落とさず、いつの間にかすれ違い遥か後ろの方にいた。



 やや開けた場所に、部長がいた。


「ぶちょー!」

ASuHaRaアスハラよ!よくぞ来たっ!」

 足元にはゴミ袋とトング、そしてラジカセ。


「はい!」

 ゴミ袋とトングをおれに手渡す。


「なんすか、これ?」

「活動場所に敬意をっ!UFO道は、ただUFOを観察しUFOと交信するだけじゃない。活動前に活動場所周辺のゴミ拾いを行うことは、社会に貢献するとともに、より良いUFO観察に、UFOとの交信に繋がるのですっ!」


 見れば、既に来ている数名の部員がゴミ拾いをしている。


 こんな山奥の林道に、ゴミなど対してないだろう……と思ってた。

 けど、意外と……


「勿論、意図しない落とし物などもあるだろう。しかし、一部のハイカーやドライバーによるポイ捨て、車内からの投げ捨てだけでなく、特に人目に付きにくい林道では、処分に費用が掛かる大型のゴミの不法投棄も多いっ!」



「ゴミ拾いは大方終わったな?それでは、UFO道を始めようっ!」

 ラジカセのボリュームを最大に、再生ボタンを押す。


sirさぁ、みんなで歌うぞっ!UFOッッ!」

 テレレテッテッテッ♪テレレテッテッテッ♪

「♪手を合わせて……」


「♪UFOユゥゥ、ェェフ、オゥッUFOユゥゥ、ェェフ、オゥッ!」

「♪come on babyカーモンベイベー



「……これ、何の意味があるんすか……?」

「意味などないっ!しかし、この世に本当に意味のあることなどあるのだろうかっ!例えばパーティーゲーム。椅子を取り合って、結局何になるのだ?それでも、楽しいだろう?そういうことだっ!」


 部長はさらに、高らかに語り続ける。


「意味がないことにこそ意味があるっ!意味がないことを無心で続けているうちに、トランス状態となって、今まで見えていなかったことが見えるようになるっ!感じているものが真実であるか、あるいは集団催眠であるか、それはこの際関係ないっ!」


 焦点の定まらない、部長の瞳。演説は、さらに熱を帯び……


「UFO道とは、自己との対話っ!UFO道とは、自然環境の保全っ!UFO道とは、既存の価値観の破壊っ!UFO道とは、無意味に意味を見出すことっ!UFO道とは、自然の中で己を癒すことっ!UFO道とは、自然との合一っ!UFO道とは、超自然との接触っ!UFO道とは、UFO道とは、UFO道とは……っ!」



 いったいどのように帰宅したのか。おれの頭の中のどこにも、その記憶はなかった。

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