ep14 黒木
『ぴーんぽーんぱーんぽーん!仮入部終了の時間です。一年生の皆さんは、速やかに下校しましょう。繰り返します。仮入部終了の時間です。一年生の皆さんは、速やかに下校しましょう』
黄木ちゃん……っ!口三味線みたいにコールサイン口で言うの最高!
……ゴッ!
額にぶつけられる灰色の背表紙。
「帰るぞ」
私を殴った百合郎は、
ずるずる引っ張られて、裏門。
桜明にーさんと森山きのこが、互いに己が木刀を相手に見せつけるように、向かい合ってる。
にーさんと朝顔の顔からすると、随分長い間膠着状態みたい。
特に朝顔は、決着がつかないから帰るに帰れない、って感じ。
零度を下回ってる水みたいに、ちょっと刺激を与えたら、一気に変わるかも。そうだなぁ……
「おまえはもう、斬られている」
とか?
お、きのこが動いた。
これでにーさんが吹っ飛んだら面白い。
「ドーン!!!」
……にーさん本当に布団みたいに吹っ飛んでった。
「……へぇー、にーさん、森山きのこと睨み合う前に、もぐさと戦って負けたんだ……」
「どっちかっていうと、僕の反則負けだけどね。誰かと戦うのって、あんまり好きじゃないから」
金曜日。もぐさ、若竹、私の三人組、通称三バカトリオは、もぐさの部屋で駄弁っていた。
三バカって言ってるのに、更にトリオがつく辺りがバカっぽい。
「それで、速攻で終わらせたのか」
「そう」
「でもさでもさ、にーさんってちょっと繊細だから……大丈夫かな」
「いやいや、流石に本人に面と向かって言わないよ」
「俺を待たせてるから、っつて退散したんだって」
只今の時刻、十一時半。
じっちゃん(青)は、「年頃の娘が、男の家に外泊など何事か!……よし、いつか言ってみたい台詞のうちの一つクリア」とか言ってたけど、私たちがそういうことをするわけがない。
「えー、それが本音じゃないの?……じゅる」
「「おまえはどうして(俺/僕)たちをくっつけたがる?」」
私としては、私以外の二人でそういうことするのは大歓迎だけど。
「ほら、この前若竹が「うちの親父が一番可愛い」っていってたじゃん。やっぱりそういう……」
「ちがう!」
「そんな焦って否定するなんて、余計怪しい」
「あれは、親父の面が……まあ、可愛すぎて?異性に何の魅力も感じないって、そういう……」
「あ、その言い方だとまたこいつに「じゃあ、同性ならいいんだ?」って言われるよ」
失礼な。そんな上げ足取る真似なんかしないよ。ただ、私の経験からアドバイスを……
「告っちゃえば?当たって砕けろ!」
「刺される刺される!親父の包丁と母さんの手刀で滅多刺しにされる!そもそも、好きな訳じゃないし、あの性格はちょっと……」
そんなわけで若竹は、子供の目を憚ることなく
若竹の父親に会ったことあるけど、うん……たしかに可愛い。うちの黄木ちゃんの次くらいには。
容姿は女性的だけどあくまでシスジェンダーの男性。エクリプスって喩えが一番しっくりくる。
私も他人の恋愛を眺めるのは好きだけど、黄木ちゃんって例外を除けば、誰かを好きになることはない。
もぐさは……対人だとチキンだから、私に変なこと絶対しないし、そもそも私を女としてみてない気がする。
「やっぱり、居心地いいわ、ここ」
「だとしても、堂々と官能小説読むな!」
「えー、この前どぎついBLをこの部屋で読むなって言われたから……それに大丈夫、これはライトノベルの棚で売ってた!」
「……っておい、その本のあらすじよく見せろ」
床に対して垂直に立てて読んでたから、帯のあらすじがちらっと目についたらしい。
「はい!」
「えーと……「お互いに異性としては意識できない関係だけど……」っておい!!」
「
酷いなぁ。
「
「「おまえにだけは言われたくない」」
「じゃあ、もぐさの|お宝≪エロ本≫見せてよ」
「何で!?」
「いや、気になるじゃん。男子が女子の部屋のどこに生理用品置いてあるのか探すのと同じ」
「しねえよそんなこと!」
「普通にキモいわ!」
「それで、どこに隠してるの?
もぐさ、ずっとベッドの下に居るから怪しい。因みに、若竹がベッドの上から床にかけて頭を下にするようにして寝っ転がってて、私は床でクッション抱えてる。
流石もぐさというか、ベッドの下には埃の一つもない。単に掃除が行き届いてるっていうより、たぶん日常的にベッドの下で寝てるんだと思う。お前は斧男か。
「この部屋にはない!」
「おい……」
「ふーん、持ってはいるんだ」
「あー!あたかも父さんの所有物であるかのように、AVとAVの間に挿んでおいてあるよ!」
もう吹っ切れたように、堂々と言い放つ。
「成程、共有は……」
「してる」
……父子二人の間にちょっと気不味い空気が流れる中、分け合ったイヤホンからは艶めかしい喘ぎ声。握りしめた己のブツから飛び散る白い液体が、互いの顔にかかって……くぅ!白米二杯はイケる!
「警棒借りるぞ……
若竹が振り下ろした細い特殊警棒が脳天に直撃し、私の意識は徐々に、薄れ……
ちゅん、ちゅん……
小鳥の鳴き声……の携帯の目覚まし音で目が覚めた。
「おはよ」
「オハヨー」
「おはよーございます」
ヨーグルトの製造会社みたいなイントネーションで言ったのがもぐさ、朝方のJRの駅のアナウンスみたいな声で言ったのが若竹。
勝手知ったる幼馴染の家の台所、といった感じで、若竹が作ってくれた朝食を
ん!なんか、腐の匂い。こっちの方かな……
確か、ここは「森」。ゴブリンとかファンタジーなモンスターがいるんだよね。ごく浅いところを、二人に案内してもらったことがある。
殺したばかりの男の服を剥く男。
「びーえる……ねくろふぃりあ……」
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