ep13 桑祓

 剣道部の活動場所は、裏門を出てすぐのコンクリート舗装された場所だ。

 学校敷地内であるのかすら怪しい私道。学校関係者の車が通ろうとする度、素振りの手を止め、傍で腕立てをしているバトミントン部共々端に寄る。


 朝練は体育館を使うらしいが、仮入部期間中は関係のない話だ。



 オレが#神斬蟲で斬ってしまった木刀は、秋葉桂があげた物らしい。桑織神社分社のがらくたの中に、木刀はあったっけな……

 なければ杉菜草花から、木行の剣でも貰ってくればいいか。あの五振り一揃えの刀は、居つつ同時に扱ってこそ真価を発揮するのだが、そもそも既に土行の剣を紛失してしまっているので、構わないだろう。


 なぜか桧木先生はオレに付きっきりで指導してくれる。オレとしては有り難いが、他の生徒の指導はいいのだろうか。


「誰かに教えるのは、僕より部長の方が上手いんだ」

 とは言っているが。


「桑祓君。その刀、どこで手に入れたんだい?」

「桧木先生、あなたの家と同じですよ。江戸時代の初めから、我が家に代々伝わるものです」

 #神斬蟲と#貓爪砥は姉妹の刀。どちらも龍神・森山低木が使っていたものだが、彼女の死後、#神斬蟲はそのまま桑織神社に、#貓爪砥は彼女の生家である桧木家に渡った。


「そうか……どうして君は、その刀を扱える?」

「扱えてなんかいませんよ。無理矢理握って、振り回しているだけです」

「本当か!?」

「ええ。まあ、無理矢理握るのが大変ですが」

 巫女服で軽減しているというのに、今のように振るう事が出来るまで何年掛かったことか。


「コツとかそういうのは……」

「ありません。慣れです」

 厳密にいえばない訳ではないが、呪術特化型ではない者が理解するのは難しい。

 坐禅も森山低木に対して「慣れろ!」と言い放ったというし。


「絶対に無理しないで下さいね?」

「ああ、もちろんだ。更なる強者と戦うまでは、彼女と再び戦うまでは!」

 暴力特化型ではないようだが、暴力特化型とほぼ同じ思考回路しているな……

 ということは、強者の情報を渡せば、関係がより良好に……?


「先生、森山草花の……」

 ばっ、と顔を近づけ、

「あの女の話か!?詳しく聞かせろ!」

「……草花の息子が同じクラスにいるんですけどね?戦います?」

「勿論だ!」

 本人は成長特化型の自分が、そんなに強いとは思ってないらしいが、

「多分耕雨と同じくらいの強さなんだよねー」



 という訳で翌日。

 分社に木刀があったので、桧木先生に渡して……ああ、その前に#The pioneerと#碧鎖棍を渡した黒文字さんに、その二つを持ち運ぶための袋を渡して、杉菜もぐさを剣道部の仮入部に強制的に連れてきた。


「あ、朝顔?僕は戦闘にあんまり興味はないし、その技術も大してないんだけど」

「知ってる。と、に、か、く、ほら!」

 すまんな。オレの為に生贄になってくれ。

 もぐさの腕を掴んで、桧木先生の前に立たせる。


「あー、もう。仕方ない!」

 木刀を握った桧木先生に、母親と同じ戦闘狂の雰囲気を感じたのか、渋々やや細い特殊警棒を伸ばす。

 使い込まれているが、おそらく細い隙間を掃除するために使っているんだろう。


「先生からどうぞ」

「しかし……」

「プライドとかそういうのどうでもいいですから、あと、僕の方が強いーとかマウント取ってるわけでもないです。カウンターメインなんで」

「では、まい……ゴフッ!」

 参る、と言いかけたところで、もぐさは踏み込み、桧木先生の鳩尾を左手に持った特殊警棒で突く。と、同時に右手で木刀を掴む。


「これで僕の勝ち、あるいは反則負けってことで。こういうことは森山きのこにでも頼んでください。ハル待たせちゃってるんで、それじゃあ」


「……」

 呆然と立ちつくす桧木先生。

「まあ、こういう人もいるということで。この時間なら、まだ森山きのこはいるはずですが、呼びますか?」

「ああ」

 期待させて、落として、本命を出す。効果の程は不明だが。



「……」


「……」


 睨み合い。両者一歩も動かず……


『ぴーんぽーんぱーんぽーん!仮入部終了の時間です。一年生の皆さんは、速やかに下校しましょう。繰り返します。仮入部終了の時間です。一年生の皆さんは、速やかに下校しましょう』


 両者一歩も動かず……


「お前はもう、斬られている」

 |サッカー≪作家≫部の仮入部を終えた黒木赤木の一言で、森山きのこの姿が一瞬ブレ、


「ドーン!!!」

 黒木赤木の声と同時に、桧木先生は数メートルふっ飛ばされた。

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