ep5 明日原

 おれってさ、あんま責任感とかそういうのないんだよ。

 だから、しっかり者のユキウサギちゃんがフォローしてくれると、ちょー助かる。


 逆に、ユキウサギちゃんは陰キャで、学校でぼっちで気まずいだろうから、おれが友達になってあげてる。

 実際、おれ以外と話してるの見たことないし。


 そんなわけで係決め。相方がおれじゃなかったら、あの陰キャはまともに会話もできないだろ……と思って、ユキウサギちゃんが選んだやつに、もう一人分の枠が空いていることだけを見て決めてしまった。


 技術・家庭係。


 幾ら責任感ないっつっても、別に係の仕事をサボりたいわけじゃない。

 まあ、多分忘れるけど。

 それでも、一応技術と家庭の先生の名前くらいは確認しておこうって思って、表紙に大きく「1st steppe」って書かれた冊子を開いた。


『技術科・秋葉桂

 家庭科・後藤薪乃』



 一週間前の夕方。

 小学校の時、同じ委員会だった堕落センパイこと田楽先輩に、駅前の繁華街でばったり会った。

「あ、先輩ご無沙汰っす」

「おお、アスハラか、久しぶりやな。元気しとったか」

「元気しとったっすよ。センパイ、ゲーセンっすか?」


 この辺り、夜はちょっと治安悪いけど、うちから駅の反対側にある塾までの最短ルートなんで、おれは日が沈んでないうちはよく使う。


「いや、パチ」


「……」

「……」

「センパイ、いくつでしたっけ?」

「十四」

 これが堕落センパイって呼ばれる所以なんだよな……


「バレんきゃいいんや。流石にヤクには手ェ出しとらん」

「……補導されないように気付けてくださいよ?」


「アスハラも中学生か。古中やよね?」

「そうっすよ」

「……先輩からのありがたーい忠告や。耳ん穴かっぽじってよー聞き。秋葉桂っゆうやつが居るんやけどな、どえらーかわええんよほんまに。学校のアイドルやよ。ただ、ぜってーに深入りすんでねえぞ。綺麗な薔薇には棘があるゆうやろ?」



 係の仕事をユキウサギちゃんに丸投げしたのは、そういう訳だ。

 普通、『学校のアイドル』がセン公だとは思わないっすよ、堕落センパイ……



 やっぱ、ユキウサギちゃんは仕事速い……次の日登校したらもう書いてあった。今朝書いたのか?


「ユキウサギちゃん、ありがとな」

「……ん」

 ユキウサギちゃんは小さく短く、頬杖をついて、窓の外を眺めながらこちらを向かず答える。


 おれが感謝伝えてんのに、顔も見せないで返事したのが、ちょっとだけムカついたから、机の前側を回って顔を覗く。


 ほわほわ、って言葉がぴったりな表情だな。

 オレがのぞき込んでるのにも気づかないで、ユキウサギちゃんは間抜けな顔を晒していた。

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