ep7 雪乃下

 週末。


 私は『桑織神社の資料室、暇な時に覗いてみて』というメモに従って、桑織神社に行くことにした。


 どこであろうとも、自宅にいるよりはずっとマシだ。


 私も母も桑織の住民とはい……っ!


 ……は、は……う……ぁ‥…ぁぁあ……!!!!


 ……はぁ、はぁ、はぁ……

 桑織の住民とは言いながらも、近所付き合いも殆どない、自宅と外界の学校や会社との往復の日々だから、自宅から林道までの僅かな距離の道以外、桑織という地を全く知らない。


 特化傾向、なるものが存在するというのは、どこで知ったのだろう。

 詳しくは知らないし、それでも私は特段他人と変わったところはないので、成長特化型か、特化傾向無しのどちらかだと思っていた。


 しかし、白髪の彼女が言うには、私は「破壊特殊型」。

 聞いたこともない。

 だから調べに行くのだが。


 桑織神社。

 桑織に住んでいるにも拘らず、この地を全く知らない私にも、容易に見つける事ができた。


 桑織の真北。その低いが急峻な山の上に、自宅からでも朱い鳥居が見て取れた。

 そして、真北に向かって歩いて行くと、『↑桑織神社』の小看板がそこかしこに貼られ、立てられていた。


 やや赤黒い鳥居の先に、果てしなく続くように見える急な石段。当然学校の階段より一段一段は狭く、靴底の三分の二ものせる事ができない。段差も高く、段数も多い。

 その石段を、息を切らしながら登り終えると、玉砂利の敷かれた境内。

 一応手水をしてから参拝する。賽銭はしない。


 さて、その資料室とはどこだろう、と振り返ると、そこには禿頭の大男。

 袈裟を着て、手には数珠を持った……僧侶?何故神社に僧侶?


「資料室か?」

 なんというか、気持ち悪い声。その僧侶は、

「こっちだ」

 と、私を案内する。


 拝殿の横、僧侶は学校の図書室より少し小さいくらいの小屋の戸を開け、パチッ、パチッ、と電気のスイッチを入れる。

 蛍光灯は数秒程、ちかちか暗く点滅した後に、パッ、と灯る。


「そこの紙に、日付と名前を書いておけ。それから、使い終わったら、電気消しておけ。鍵は閉めなくていい。戻す場所が分からない資料はそこの机の上に置いておけ。以上」

 それだけ言って、僧侶は立ち去った。


 取り敢えず、名前を書いておこう。

 言われた紙を見ると、無地のA4コピー用紙に二穴パンチで穴をあけ、フラットファイルに閉じたものだった。

 「詩織」と「朝顔」の文字が大半を占めている。私と同じクラスの……?

 傍に置かれた『桑織神社』の文字が入ったボールペンで、今日の日付と「雪乃下仁」と私の名前を書く。



 学校の図書室より少し狭いくらいの広さがあるはずの部屋だが、レールで移動できるスチールの本棚がぎっしり詰まっているために、圧迫感がある。

 確かにこれは資料室だ。閲覧を目的にした図書室ではなく、資料の収蔵を目的にした書庫。

 ただ、本棚を移動させ、背表紙を眺める限り、殆どが世界各地の宗教に関する本や都市伝説に関する本、歴史に関する本。一部の本棚はカギがかかっているが、桑織や特化傾向に関する本はどこにも……


 ん?


『桑織関連の情報は、このパソコンから閲覧できます』


 そう書かれたパソコンが一台、置いてあった。


 早速そのパソコンを起動して、デスクトップ画面にポツンと一つだけ置かれた『桑織データベース』のアイコンをダブルクリック。

 一瞬「loading」の文字とともに読み込みマークがぐーるぐる、と回って、トップページが表示される。

 さて、破壊特殊型について、いや、一応特化傾向全般と桑織の基本的な情報も調べておこう。



 ……な。

 ……な、に……これ……


 パソコンの画面には、破壊特殊型の説明が表示されている。


 ……ここに書かれている情報が、全て本当だとしたら、確かに、私は。

 でも、そんな……

 じゃあ、彼は、彼女は……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る