ep27-13 棚機坐禅(黒紀五年)
翌日。
昨日は久しぶりに、ね。耕雨とイチャイチャできたよ。うん。めっちゃ甘えた。ね、耕雨。
「眠みぃ……!」
カラになるまで搾り取ったからね……げっそりしてる。
「じゃあ、今日は残す一エリア、南東の森に行こう!耕雨!」
「応……」
力ない返事で、物置に大鎌と長斧を取りに行く。長斧は低木ちゃんに壊されたけど、ちゃんと直して使ってる。
「低木ちゃん、昨日は動きやすさ重視だとか言ったけど、南東の森だけは着てた方がいいよ。マジでめんどくさいから」
「はーい」
「外周部だけは、不自然に穏やかなんだよな……」
外周部に出てくる魔物は一種類。
ちっちゃい上にほぼ無害の白濁(スライム)だけ。あ、ドラクエとか転スラみたいな感じの可愛い奴じゃないよ。見た目はアレとか木工ボンドとかみたいな感じのねばねば。
一方で、魔物の中で一二を争うほど素材の有用性がある。
何に使うのかって?えーと、アレだよアレ……媚薬。それもかなり強い。
口径摂取でも直接塗布でも香として焚いても良いんだけど、味が見た目通りの味だから口径摂取はしたくない。アレは、好きな人のだからごっくんできる訳であって、あれ自体を飲もうとは思えない。直接塗布も……見た目があれだから、やだ。
結局香一択な感じは否めない。香りは見た目と違って、イカとか栗の花とかそんな臭いじゃなく、甘ったるいバニラみたいな匂い。桑織神社特製の香にもこいつを使ってる。
「ひゃっ……なんか、なんか入ってきた」
「低木ちゃん今すぐ剥がして!」
「もう入り込んじゃって取れない……!」
生きてる白濁の攻撃力は皆無だけど、攻撃が殆ど利かないうえに、ヤマビルみたいに服の中入り込んで気持ち悪い。そして、強い催淫作用もちゃんとある。
「狩人服脱いで!低木ちゃん足長いからまだ膝あたりでしょ?なにがなんでも白濁を粘膜に触れさせちゃダメ!」
「もう……#不如帰の中に……」
「早ぇーな!?」
「……って脱ごうとしたら、押し込んじゃった」
こりゃもうあきらめるしかない。これ以上酷いことにならないように、低木ちゃんの周りに小枝ぶっ刺して、懐から取り出した糸をぐーるぐる。簡易的だけどこれくらいの結界張っとけば、白濁如き侵入できないだろう。
「ゃ、ぃぁぁ……んっ……ひゃん……!」
十分程後、漸く力尽きて小さく光った。
「……ふぅ……ぁ……」
それでもなお、低木ちゃんの脚はがくがくしている。白濁が消えても、その屈辱的な性感の余韻は未だ残ってるんだろう。
「……ゆ、許しゅまじ!」
呂律回ってない。
「しぇいばい!成敗!」
!!
いつものように龍神化。
二振りの太刀に纏わって蠢く陽炎のようなものが昨日より大きい。
っていうかあれ、怨霊の類か?
亡霊の力を奪って行使する邪術なんて、呪術特化型でも難しいんだから、この怨霊共は低木ちゃんに由来するものじゃない。
#神斬蟲と#貓爪砥側の力だ。
たぶん、周囲の亡霊を強制的にかき集めて怨霊化させて、攻撃に乗せるんだろう。異常な使用者への負荷もこのせいかな。むさっしーならやりかねない。
低木ちゃんは二刀を地面に突き立てる。刀身に纏っていた怨霊共が、地面を広がっていく。
亡霊の力を使った邪術って、何が良いって自分に何の代償もなく、普通に呪術使ってたんじゃあり得ないほどの火力叩き出せるんだよね。エネルギー源として、生きてる自分以外の人間より扱いやすいし。
低木ちゃんを中心に、広がり続ける怨霊共に巻き込まれた白濁が、小さな光を立てる。
偶然か気付いていたのか、低木ちゃんは私が張った結界に立ち、太刀は結界の外に突き刺してるから怨霊共に巻き込まれてない。人間が巻き込まれたら精神完全にぶっ壊れるからね。
えーと、某禁書目録のシスター服が一種の教会になってるように、私の巫女服も一種の結界だから怨霊如きに巻き込まれないんだけど、耕雨はどーしようか。
「しばらくテキトーな木の上にでもいて」
「……あのな、この森の木はただの風景だから、登れるように設定されてないのは知ってるだろ?」
冗談だよ。そうだな……自分の髪を数本引き抜いて、耕雨に渡す。
「両足首に半分ずつ結び付けとけば、結界になるんじゃない?」
「ありがとな」
……あ、やべ。効果薄かった。耕雨の呪術的ダメージは私が肩代わりしてるから、効果が有ろうと無かろうと問題ないんだけどさ。きついけど耕雨より呪術抵抗力あるし。
白濁を一掃して、低木ちゃんは地面から二刀を引き抜き、龍神化も解いて、刀身についた土を狩人服で拭う。
「そういえば、低木ちゃん」
「?」
「昨日、覗いてたよね?」
「!!?」
「いや、ナニを、とは言わないよォ?ナニをシてても咎めるつもりはないし」
「いや、隣の部屋に人がいるのに、気にする素振りもなくあんなに喘ぐお前もお前だとは思うんだが」
「(うわあああああ……もう終わ……どうし……やらしい娘だっ……ちゃっ……けな……しさ……嫌われ……)」
ちょっと揶揄おうと思っただけなのに、低木ちゃん結構落ち込んじゃった……この世の終わりかのような顔で頭抱えてる。
「あー、低木ちゃん?私と耕雨は堂々といちゃつくけど、リア充爆発しろとか言って斬りこんでこなければ、別に覗こうが襖蹴ろうが構わないからね?っていうか、むしろ壁とか叩いて抗議された方が燃えるし、覗かれてる方が興奮する!」
「坐禅がこんな真正の変態だから、覗かれたところで、すべて、コ!レ!の!せいだと思ってるから」
ギャー、髪掴んで引っ張らないでー!噛みつくよ!
「私も耕雨もあの人も低木ちゃんを嫌ったりしないよ」
「うん……」
わー、かわええかわええ!
「よし、スリーピース……」
「「絶対にやだ」」
中層部。南東の森は、単純に強い攻撃力を持った魔物じゃなくて、白濁みたいにとにかく鬱陶しい魔物が多い。神徒はまた少し違うけど。
他の方角は、少ないけどストレス発散の為とかに魔物を倒してくれる人がいるから、スタンピード寸前みたいな感じじゃなかったけど、ここはマジでヤバイ。時々耕雨が草刈してくれるけど、それでも……
「うわぁ……」
大量の
こいつら生命力が強いから、刈っても伐ってもすぐ再生する。
基本的に持久戦になるんだけど、大量に生えてる棘に弱い毒があるんだよね。
まあ、本体が生きてる限り刈り取った末端も消えないから、素材採取は楽でいいんだけど。白濁と同じく、桑織神社特製の香に乾燥させた駄木の枝も入ってる。
「じゃあ、二人ともがんばれー」
耕雨は大鎌を、低木ちゃんは両手の太刀を構えて向かっていく。
耕雨の大鎌は完全な農具なので、やたらと刃がデカくてごついデスサイズじゃなくて、長い柄に手鎌より数回り大きいくらいの刃が付いたもの。おおきく振りかぶって……なんて体力を無駄に使うことなんかせず、その柄の長さと刃の質量を生かし、的確に迫りくる雑草の蔓を刈っていく。
一通り刈り終えると、地面から突き出してくる根をステップで避けながら、長斧に持ち替え駄木を刻む。金太郎が担いでる鉞より、やや柄が長い。そもそも金太郎が担いでる鉞って一般的にイメージされるのは戦斧っぽい形だけど。
大鎌が大きく振ればいいってもんじゃないのと同じように、斧も大きければ、重ければいいってものじゃない。
特に薪割りは体格に合った、割と小さい斧が向いてるんだけど、器用な耕雨はこの大斧で枝を払い、木を伐り、薪を割る。
一方、低木ちゃんは二刀を前方に大きく振るい、雑草と駄木を薙ぐ。その姿は火を放たれた野を天叢雲剣で薙ぎ払う日本武みたい。
で、耕雨が刈り伐った雑草と駄木が徐々に再生して……
ん?なんで低木ちゃんが斬ったヤツは再生してこないんだ?
……怨霊共のせいか。低木ちゃんが直接斬った部分から、雑草と駄木は徐々に再生するどころか枯死し、一瞬光って消えた。
何気にむさっしーが最強説……
謎生物の白濁、植物っぽい雑草と駄木ときて、神徒は無機物の
そういえば、Windowsの旧いOSだとスリープをスタンバイっていうけど、「スタンバイの準備をしています……」っていうメッセージ変だよね。
「なんか、直接攻撃すると刃こぼれしそう」
一応、鎌鼬を飛ばすも流石に効かない。
さて、低木ちゃんはどう攻める?
峰打ち?柄で殴る?
「ぎしぎしさんがやってたのは、確か……こんな感じで重心を移動させて……てぃっ」
蹴り!?剣士だよね低木ちゃん……
スパーンッと石仏の頭が飛ぶ。石仏はそこら辺の石を拾って頭に乗せる。よくあるよね、そういう地蔵。
石仏は手を切り落として投げる。低木ちゃんはそれをキャッチ、石仏に投げ返す。粉々に砕け、光って消える。
私が言えたことじゃないけど、大量の石仏を蹴り飛ばすってなかなかに罰当たりな光景。どっちかっていうと兵馬俑の破壊の方が近いか?
上位神徒は
こんな奇怪な機械を目にする機会なんて滅多にない。
真龍のブレスを吹き飛ばしたアレ……竜巻って呼称を使用しよう……で、同じ上位神徒の殺人機の機関銃の弾幕も吹き飛ばされる。弾丸が吹き飛ぶって……どんだけ強い風発生させてんだか。
回転鋸に刃が巻き込まれないようにしながら、ヒットアンドアウェイ。他の殺人機が撃った弾丸を竜巻で吹き飛ばし……
「むぅ……」
!
なかなか有効打を出せないことにしびれを切らして龍神化。
いったいどうやって発生させてるのか全然分かんないけど、竜巻を体に纏ってる。これで全方位からの弾幕を無力化。
悠々と刃を殺人機に叩き込む。まるで豆腐のように、簡単に斬り裂かれる装甲。さらっと斬鉄してる……!
ずらーっと大量に並んでいた殺人機が、一つ、また一つと光って消える。そして、
「しゅーりょー!」
「いぇーい!ぱちぱちぱちぱち」
パン!とハイタッチ。これで魔物全種類コンプ&全方位攻略完了!ってなわけで、懐から一枚の厚い布を取り出して低木ちゃんに渡す。布は黒、朱の糸で、
『認定証
低木
衣申級狩人
桑織神社発行』
と刺繍されている。
「?」
「ランク制度!衣申級が一番上で、次に織天使級、亜麻級、朽ち縄級ね」
「桑織らしさ出そうとして、失敗した感が滲み出てるな」
そーゆーこと、いわなーい!
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