ep27-12 棚機坐禅(黒紀五年)
「森も残すところあと二エリア!次は南西行くよ!あ、耕雨、一旦離脱していいよ」
「あ、ありがと……」
あんまり耕雨の仕事時間奪うのもね。農家だから仕事時間の融通はきくけど、何日も休む訳にはいかない。
っていうか、南西の森にツッコミ役いらないから。
「まあ、私と低木ちゃん、二人でもなんとかなるでしょ」
もっとも、私はほとんど戦わないけど。今日も弓持ってきてるけど、あくまで案内役。
「突進気を付けて!」
「ぶつかる前に、倒しゃぁいい!」
脳筋だ……
南西の森外周部の魔物、
「低木ちゃん、大猪はね、態々攻撃しなくても倒せるんだよ。まあ、暴力特化型の低木ちゃんに入らない知識かもしれないけど、一応、ね」
私は木にもたれながら、気配を消す呪術を解除して、
「おーい、豚さーん、こっちだよー!」
大声をあげて手を叩く。数頭の大猪が気付き、私目がけて突進してくる。
ここだ!
大猪が数メートルまで近づいてきたところで、どの大猪にもぶつからない隙間を見つけ、サイドステップ。
私目がけて走ってきた大猪が、私の真後ろにあった木に衝突。時間差で別の大猪も迫ってきてるから、より安全なところへ再度ステップ。
「と、こんな感じ」
ドヤァ……
「おぉ!」
低木ちゃんよ、南西の森はアクション要素強いぞ。
中層部の魔物は
「低木ちゃん、ちからこそぱわー!」
「やー!」
力でゴリ押し!現状裏技は無い!
二足歩行で行動が人間に似てる北東、北西の森と違って南西の森は獣形で種類によって戦い方が変わるから、戦いにくいんだよね。
ここの神徒は竜。と言っても、下位神徒は
「低木ちゃん、上!」
低木ちゃんがいた場所を、飛竜の後ろ足の爪が掠める。
「今度は下!」
飛び上がった低木ちゃんの下、地面から土竜が飛び出てくる。
低木ちゃんはその頭に着地、一閃。そのまま上空の飛竜に鎌鼬を飛ばす。
赤鬼青鬼と同じように、こいつらも大抵ペアで出てくる。
一方は上空から、もう一方は地中から、どちらも普通はこっちの攻撃が届かないところから、ヒットアンドアウェイで攻撃してくるから厄介。
でも、気配を消す呪術でほぼターゲットされない私と、射線さえあれば強力な攻撃を飛ばせる低木ちゃんのコンビなら、割と楽勝!
「竜……下位神徒でこれなら、上位神徒はきっと……!」
うん。あ、出てきた。少し天使にも似た、メタリックでスタイリッシュなフォルム。このいかにも強そうなドラゴン、
「……微妙」
低木ちゃん厳しすぎでしょ!龍に対してどんなイメージ持ってるの!?G機関より竜に対する評価が厳しいよ!
「駄竜、死すべし」
!
何か小規模な爆発音がしたような気がした……かもしれない。
見ると、右手だけが鱗に覆われ、籠手と化していた。
いや、更によく見ると、泣き黒子のように、右目の近くに一つだけ、小さな鱗が付いている。
何だろう、全力を出すまでもない相手だと思われちゃった真龍に、ちょっと同情するわ……
ゆっくりと、真龍に向かって歩いてゆく龍神の少女。
真龍のブレスを、鬱陶しい蠅を追い払うように、右手に握った#神斬蟲で起こした風で吹き飛ばす。
軽く跳んだ……ように見えるジャンプは、巨躯の頭上まで達し、そのまま真龍の頭へ#神斬蟲を振り下ろす。
そういえば、倒されて光ったあと、魔物とか神徒はどこへ消えるんだろう。真龍は神徒含む魔物の中で一番デカいから、調べやすいかな?
まだ龍神の#神斬蟲は、真龍に触れてない。間に合う!
懐からあの香を取り出し、火を……起こしてる暇なんかない!仕方ない、邪術で……
指先に、小さな火が灯る。生命力を無理矢理使って熾した火。その分呪術的な力があるけど、今はそんなことどうでもいい。
甘い香りとともに、真っ直ぐ煙が立つ。イメージは理科の実験。線香の煙で空気の流れを調べるアレ。
龍神の#神斬蟲が、メタリックな真龍の鱗を容易く斬り裂き、そのまま豆腐を切るような滑らかさで肉を断っていく。そして……加わったダメージに耐えきれなくなった真龍の巨躯が、光の奔流となって……
ここに!
香を!
染み込ませる!
光が収まった跡、漂う煙は、無風にも拘らず、紺とも黒ともつかないソレに、吸い寄せられ、消えた。
やっぱり……
帰りに普通の魔物でも試してみたけど、最奥部へ向かって漂っていった。
つまり、魔物は倒された後、ソレに、たぶんソレで繋がってる異界に、戻っていくんだろう。まあ、あわよくば妨害したいところだけど、生憎今の私にはその方法が思いつかない。
いつか、その方法を思いついた時のために、その方法を思いつく人が現れるために、ちゃんとした記録に残して、社務所の重要雑記録用の引き出しに放り込んでおこう。
「暗くなってきたから、戻ろっか」
「うん」
集落との境界から眺める森は、目についた魔物を全て殲滅した黒い森は、夕日を受けて橙に輝いていた。
「あの……これ着てると、#不如帰が、急に下着っぽく思えて、脱ぐの恥ずかしい……」
前を開けた狩人服の胸元を引っ張りながら、低木ちゃんが顔を赤らめる。
ハッキリ言おう。
「それ、ほぼ下着として作ってるから」
「え?」
「えっと、じゃあ、昨日は……」
「半裸で戦ってたようなものだけど」
「……」
目をぱちぱちさせてる。
「何か問題でも?」
古代ギリシャにおいて、スポーツは肉体美を観るものだったっていうけど、まあ、私が、リアルでこういう格好で戦ってるのを見たいっていう邪心が少なからずあったんじゃないかって言われれば、否定できない。
「低木ちゃん、動きやすさ重視だよ。戦いやすさと、恥ずかしさ、どっち取るの?」
「戦いやすさ……うん。戦う為なら、勝つ為なら、殺す為なら、どんなことだって……!」
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