ep27-11 棚機坐禅(黒紀五年)

「じゃんじゃ~ん!狩人服の試作品だよ!」

 朝食後、蚕沙茶を飲んでる耕雨と低木ちゃんに、昨夜縫った狩人服を見せる。ちなみに低木ちゃん、蚕の糞は割とすんなり受け入れてくれた。


「ある程度余裕持たせてあるから、低木ちゃんは#不如帰の上からでいいかも。これ着て今日は北西の方行ってみよ!ほら、着替えた着替えた!」



「似合ってる……?」

「似合ってる似合ってる!可愛いよ低木ちゃん!」

 イメージは軍服。

 っていうか、迷彩柄でジャケットとパンツを作れば、大抵軍服っぽくなるような気がするけど。


 頑丈な迷彩柄の布があって良かったよ。戦闘用だから、丈夫じゃないとね。

 え?#不如帰のときと言ってることが違う?いやいや、これは汎用型。

 丈夫なのは敵の攻撃を防ぐためじゃなくて、転んで擦りむいたり木の枝に引っ掻かれたりを防ぐためのものだよ。#不如帰は動きやすさとか重視して、必要に応じてこういうのを上から羽織ることを考えて作ったの!


「時代的におかしいとかそんなことは今更言わないが、坐禅は着ないのか?」

 着るわけないじゃん。巫女服の上からどうやってジャケットを羽織れと?

 え、巫女服を脱いで着ろ?

 つまり私に死ねと?



 さて、この北西の森は獣人系の魔物が多い。外周部に出てくるのは腐れ犬コボルトだけ。でも、こいつ強さは小鬼と大して変わらないんだけど……それより少し厄介で、


「低木ちゃん、絶!対!に!直接攻撃しないで!」

 この腐れ犬、その名の通り、稀に金属製の武器をダメにする。まあ、数パーセントの確率だし、生産特化型が本気で鍛えた二刀にも効果があるのかは分からないけど。


「イエッサー!」

 答えながら前方の腐れ犬に鎌鼬を飛ばした。軍服みたいなデザインの服着てるからなのかな、この返答は。低木ちゃん結構言葉少なだからね……


 と、まあそんな感じで、気を付けながらコボちゃんを惨殺していく。


「その呼び方はどうかと思う」


「あ、低木ちゃん、腐れ犬の頭をコボちゃんカットにして!」

「いえす・まい・ろーど!」

「なんで通じるんだよ!」

「そしたら、四つに斬り割って!」

「やめろ!」

「読売嫌いだから」

「四コマ漫画に罪はない!」


 低木ちゃんの鎌鼬の扱いを上達させるためのトレーニングだよ?ほんとだよ?一瞬、四つに輪切りされたコボちゃんカットが見られたから良しとしよう。鎌鼬だけで髪型を変えるのはもちろんのこと、割と簡単そうに見える四つ斬りも、同時に切断されないと消えちゃうからね。



 北西の森は結構面白い?魔物が多いんだよね。


みのもんたウロスミノタウロスだ!」

 こんな風に。まあ半牛の怪物っていうと、私には牛鬼のイメージが強いんだけど。一応戦国時代の日本だから。

 見た目は大して変わらないか。まあ、正式名称より長い通称から分かる通り、牛の顔なのにどことな~く某元文化放送アナウンサーみたいな顔してるのよね……


「えいっ……!」

 ああ、美濃文田が光って消えていく……ってどこの岐阜県の架空の駅よ!



 あ、豚野郎オークだ。

 多くのファンタジー小説では、肉が旨いとか描写されてるけど、この森で倒したら光って消えるし、生け捕りにしてとどめ刺しても硬い上に毒あって肉食えないし。

 まあ、餓死と魔物による蹂躙を狙った殺処分場なんだから、食料が取れるわけないよね。


「えいっ……えっ?避けられた?」


 こいつ、見た目に反して、反応速度っていうか、瞬発力っていうかがえげつないんだよね。じゃなかったらバカみたいなハイスコア叩き出せない。


「飛べない豚はただの豚、飛べねぇカラスはただのカラスだよ!」


 そういえば、タダカモメ(カモメという種名のカモメのことをバードウォッチャーはこう呼ぶ)とかタダツバメ(ツバメという種名のツバメ以下略)はいるるけどタダカラス(カラスと言う種名の以下略)はいないんだって。


「もっと速く、加速したくはないか……」

「さっきっから何言ってるんだ坐禅」



 中層部の魔物も残すところ一種類、チキン野郎ケンタウロスだ。馬なのになんでチキンなのかって?見たらわかる。みのもんたウロスのときと同じだよ。


「あ、居た!」

 ケンタウロスっていうと、弓矢のイメージが強いけど、チキン野郎の武器は棍棒オンリー。野球バットみたいな形の棍棒を、打球がバックスクリーンまで飛ぶくらいにスイングする。

 そして、顔には最大の特徴である髭。


「低木ちゃん、ストップ!」

 鎌鼬を飛ばそうとしていた低木ちゃんを制止。


「このチキン野郎はね、こんなムキムキだけど、魔物の中で唯一!呪術が使えるんだよ」

「呪術って、坐禅ちゃんが得意な……?」

「まあ、私のと比べたら月とすっぽん、天然繊維と化繊くらい違うけどね」

「どっちが化繊なの?」

「……どっちだろう。私が天然繊維だと思う」

 この喩え方は良くなかったな。天然繊維と化繊、どっちが優れているかは微妙だし。

 私は圧倒的な天然繊維派。化繊って呪術を染み込ませにくいんだよね。そもそも私が生きてる間は目にかかることはないと思うけど。


 いや、それを言ったら私にとっては月よりすっぽんの方が重要……((ノェ`*)っ))タシタシ


「とにかく、普通に倒すと、その後負け続けるんだよ!」

「じゃあ、どうやって……?」


「ふっふっふっふ。目には目を、歯には歯を、野球には野球を、鶏肉には香辛料を!」

 笑いながら、懐から取り出したソレは……


「ペッパーミル!」

 挽いた胡椒の粉を、勢いよく鼻で吸い込む。


「胡椒吸って、は、は、ハクション!ってくしゃみするとハクション大魔王があらわれるから、あいつを倒して~!ってお願いすると……」

「バカか!?」

 冗談だよ。


 そういえば、アラジンのランプはペニスのメタファーって説聞いたことあるけど、どうなんだろう。ジーニーが恋愛関係の願いを叶えられないのも、恋愛は一方的な性的衝動じゃダメだって、そういうメッセージととらえられる‥‥‥のか?


「呪術でカーネル・サンダースの呪いを一時的に抑え込んでるから、今のうちに倒して!」

 幾ら興奮してても道頓堀に投げ込んじゃダメだよね。負けても投手をハゲとか言っちゃメ!


「ったく、高価な香辛料をこんなことに使って……」

 でも、こうやって何らかのエピソードとかをなぞったほうが呪術を使いやすいのは確かなんだよね。



 さ、中層までは狩りつくしたことだし、神徒共の出てくる深層部行くか。

 神徒はそんなに変な奴はいない。そして、雑魚い。悪魔や天使と比べると、迫力にも実力にも欠ける。ほら、その翼ちゃん(ハーピー)なんか……


「……かあいい!」

 超カワ(・∀・)イイ!!んだよね。可愛すぎて倒しづらい。いや、それも一種の戦略か?でも、


「かあいい!死ね!」

 そもそも殺人に躊躇いが一切無い暴力特化型には、通用しない。いや、「かあいい!死ね!」って……ホラーだよそのセリフ。


「GRRR……!」

 唸り声を響かせている人狼(ウェアウルフ)も、低木ちゃんの鎌鼬が喉を一閃。私はホーンを砕かれてアッシュする人狼に言葉を投げつける。


「貧弱!貧弱ゥ!」

「なんもしてないお前が言うな」

 耕雨も何もしてないだろ。流石低木ちゃん、貧弱ゥ!な私ができないことをやってのける、そこにシビれる憧れるゥ!



「上位神徒なんだけどさ、たぶん低木ちゃん一人で、余裕で倒せると思う」

 北西の森のソレから出てくる上位神徒は、ただ硬いだけの……


「えいっ」

 ……今低木ちゃんが一撃で屠った蜥蜴野郎(リザードマン)の他には、その上位互換的な竜人(ドラゴニュート)がいる。けど、


「あ、出てきた」

 天使のような絶対的な正義を体現しようとしているわけでも、その逆でもない。神々しさも天使に少し劣り、何より覇気の補助効果で龍神と化した低木ちゃんとは比べる必要すらない。


「なんか、見ててムカつく。こんな弱そうなのが、龍って共通点だけで、坐禅ちゃんに私と同類扱いされるかもしれないのは絶対に嫌」

 同類扱いなんかしてないけど……まあ、私も似たようなこと思うことはある。

 くだらない共通点だけ見て変なレッテル張られるのとか絶対に嫌だし。まあ、私の場合は「神は唯一」とか「世界を平和に導けるのは私たちだけ」みたいな傲慢な宗教的思想に対する同族嫌悪がかなり混ざってるけど。


「テメェだけは、本気で殺る」


 低木ちゃんは二刀を握り直す。蜥蜴野郎よりはるかに硬い竜人でも、低木ちゃんの鎌鼬はたぶん斬り裂けるけど、そんな邪道、あるいは横道を使わず、王道……いや武を以て制するから覇道か?……で、直接剣を交えようと思ったんだろう。


 そんな強い思いは、戦意は、覇気として顕現する。


 !


 何かが爆ぜるような音がしたような気がした。


 低木ちゃんの両腕は、長袖の狩人服の上から蒼っぽい黒鱗にびっしりと覆われ籠手と化している。

 頬の鱗も顕在し健在。額と、耳の間、総髪にした髪の間には、小さく、然し鋭い角が一対。


 この姿こそ、真の低木ちゃんのような気がする。

 両手に握った#神斬蟲と#貓爪砥、二振りの太刀も、鱗と同じ色に輝き、蠢く陽炎のようなものを纏っている。


 龍神の少女は、異界の神の下僕たる竜人へ駆け、その二刀を……


「       ッ、ァ!」

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