ep27-10 棚機坐禅(黒紀五年)

 そんなこんなで深層部。こっからはただの魔物厄介払いじゃなくて神徒正統な侵略者が出てくる。早速悪魔レッサーデーモンのお出ましだ。順番的には私と耕雨なんだけど……


「低木ちゃん、リベンジマッチだよ!」

「いぇぃ!」

 悪魔に向かって駆け、一閃。それだけで悪魔は光って消えた。



 さてさて、次は私と耕雨の番か……はぁ、低木ちゃんにいい所見せたいんだけど……しょうがない、こいつほったらかして死なれたら困るし、テメェとっとと死ね。


 矢が低木ちゃんのすぐ後ろに潜んでいた暗殺者スプライトアサシンに命中。


 耐久が皆無の暗殺者と言えど、下位神徒。呪術特化型の非力な力で射られた矢の一撃程度じゃ死なない……とでも思ったか?

 私は準桑織特殊型だから、糸に関係するものに色々恩恵がある。弓も弦、つまり糸だから攻撃力が上がる。さらに、呪術特化型の力で破魔矢にあるような弓矢の魔を討つ力を増強。これによって、反動がえげつない身体強化を使わずして、一矢で仕留める事が出来た……うん、光って消えるのを確認……んだけど、たぶんオーバーキルだね。


 暗殺者の攻撃は一撃必殺だけど、こっちも一撃必殺で倒さないと、捨て身で攻撃してくるから、念のため。今のを数本急所に当てれば悪魔も倒せるはずだから、そうしたかったんだけど。私が決めた順番を、私が破る訳にもいかないよね。あ、低木ちゃんのは例外。あくまで、破らせたんだから。



 で、よくできた彫刻みたいに固まってる悪魔と魔王エルダーデーモンを、動き出す傍から狩ってたら、いつの間にやら最深部に到達。

 木々はより一層茂って火の光は殆ど届かない。この薄暗さ、関東のシュヴァルツヴァルトって呼ばれるのも納得だよね。


 木々の奥、何かがある。

 紺とも黒とも見えるソレは、堆積した泥でせき止められ淀んだ川の、その水面に浮かぶ油のように蠢いている。

 さらに言うなら、それを性能の悪いカメラで扱いが下手な奴が撮って、更に変なフィルターかけたような感じかな。とにかく気持ち悪い。


 どんなにソレに向かって歩いても、歩く歩道を逆から歩いているような感覚で、一定の距離以上近づくことはできない。


「ん……この景色……?」

 低木ちゃんは何となくここの景色を覚えてるみたい。低木ちゃんのような外界の住人……いや、低木ちゃんは元・外界の住民ってことでいいよね?……が、正規のルート以外で来る方法は一つ。


 神隠しに遭うこと。


 ほぼ確実に、低木ちゃんはこの方法だと思う。

 ここではない場所に行きたい……って思ってると神隠しに遭うことがある、らしい。その思いの強さは割とまちまちだけど、その願望が叶って、異界に吸い込まれることがある。けど、異界の神とやらは相当排他的みたいで、生身の人間を受け入れてくれない。地球に弾き返すの。で、地球で異界に最も近い場所は?そう、桑織……の森の最深部。木々の奥にある、ソレ。


 ソレの役目は他にもある……っていうか、こっちがメイン。神徒を吐き出すこと。普通の魔物はなんでもない所からポップしてくるんだけどね……あっ、今も魔王が!


『〽Mein Vater, mein Vater, jetzt faßt er mich an!Erlkönig hat mir ein Leids getan!』(念話)

『だからお前は親殺(以下略)』(念話)

『〽私はお前が大好きだIch liebe dich』(念話)

『それは魔王のセリフだろ。たしかにお前はどちらかといえば魔王っぽいが』(念話)


 低木ちゃんが斬りに行った。流石に耐久力が高い魔王には、鎌鼬は殆ど通用しないらしい。

 今のところは。


 ああやって神隠しに遭った奴と一緒に、バカ強い神徒が一緒に吐き出されて襲い掛かってくるんだから、低木ちゃんみたいに桑織まで辿り着けるのは稀。っていうか、セーブ鉄道しながらよく辿り着いたなホント。


 神徒には悪魔、魔王、暗殺者の他にもう一種類、それとは比べ物にならない上位神徒がいる。

 天使エンジェル。それが今、目の前にいる。


「狩れたらいいな……とは思ってたけど、こうしてみると、なんか……」

 神々しい……ってほどじゃないけど、光り輝いてる。強いて表現するなら、光々しい?

 全体的にメタリックで、金とか白金とかそんな感じの色なんだけど、悪趣味さは全くない。

 なんか、見てて嫌になるね。当たり前だけど、特に私みたいな人間を認めないって感じがする。


 ヘルマン・ヘッセ『少年の日の思い出』の主人公が模範少年エイミールに抱いたのは、今の私がこの天使に抱いている感情と似たものだろう。まあ、潰されるのは蝶の標本じゃなくて、テメェだけどな!!


「こらゃぁ、俺ぁっけじゃ無理や……」

「あはははははは……」

 低木ちゃんが壊れた!


「念のため、ここは暴力特化型の二人でやるのが一番いいんだが……」

 連携に向かないんだよね……


「あれ、でも蓼川衆って暴力特化型を纏め上げてるよね?」

 蓼川衆の事業は多岐にわたるけど、実力部門の治安維持班と警護班、家畜部門の屠殺班は暴力特化型が多いはず。特に治安維持班は連携して戦う場面もあるよね……ちなみに、土木部門の鳶班は生産特化型、商業部門は奇術特化型、行商班は表現特化型も多かったかな。


「ぅなゃぁ、軍師ゃ。俺ぁの暴力ぁ象徴。分析特化型ん翁ぁさ居らんかっぁら蓼川衆や成り立てん」

 蓼川衆の軍師は翁、か。蓼川衆の最大の特徴として、実力部門と中枢の面子が顔を隠してることがある。一人一人顔を隠す方法は違って、頭領のギシギシの旦那は眼帯、蓼川衆一の自由人で常識人のむさっしーは麻袋。桑織で顔を隠してるやつがいたら、十中八九蓼川衆の幹部か実力部門ってことね。翁ってことは、能の翁面かな?


 じゃあ、私がその指揮官ポジでいくか。二人ともTUEEE!から簡単な命令で何とかなるだろ。口頭だと聞こえない可能性もあるし、何より間に合わない。だから、ここからは念話で、


『取り敢えずギシギシの旦那、凸れ!』(念話)

「ぅおぉー!」

『スイッチ!』(念話)

「やー!」


「ふぅ……」

「ぁ案外連携って戦っのもありゃぁな」

「倒せた」

 なんか、この二人良い雰囲気なんですけど!



 北東の森の魔物をほぼ殲滅して、社務所まで帰ってきた。

 薄暗い森の中にいるとなかなか気づけないけど、もう空は朱に染まり始めてる。


 あ、ギシギシの旦那とは石段の下でで別れたよ。桑織神社は桑織集落の北側にあるけど、連中は外界への林道が近い南側を拠点にしてる。

 正月近づくと、私たち以上に連中は忙しくなるだろうからね。


「中層部以降の魔物、かぁ……」

 まあ、真っ先に思いつくのは……


「ハンターギルド……でもなぁ」


 呼び方は様々だけど、異世界ファンタジーで必ずと言っていいほど登場する組織。現代ファンタジーでも出てくるの結構あるかも。強さとか経験に応じてランク付けてギルドカード発行したり、依頼張りだしたり、魔物の素材とか魔石を買い取ったり、歴史的にはこっちの方が先だしゴブスレとかもそういう設定になってるけど酒場を併設してたり、とにかくハンターとか冒険者とかダンジョンシーカーを支援する活動をしてる。


 ハッキリ言おう。そんなことする金も労力もない。


 魔物の素材が欲しいって人が依頼出して、ちゃんと実力見極めてからハンターを送りだせばいいんだけど、魔物の素材ってそこまで使う場面ないんだよね。どれにしても食用には適さないから。

 そもそも、必要なのは魔物の素材じゃなくて、魔物を間引くことなんだよね。でも、生け捕りにしないと消えるから、討伐証明なんてできない。呪術でできないことはないけど、コスパ悪すぎる。


 いや、遡って考えろ。そこまで冒険者ギルドは親切だったか?

 いろんなところに支部があって、必ず受付嬢がいてTUEEE!けどランクの低い冒険者を引き留めてくれて、頼めば解体までしてくれる……そんな甘ったるいギルドは最近のモノだろ!?


 フォーチュン・クエストの冒険者支援グループは一人前の冒険者に対してそこまで干渉してない。アイテムがとっても安く買えるとか、そういう類の支援をする組織。

 そうだよそういう活動すればいいんだよ!桑織神社としてやるからには……丈夫で動きやすい、かつキュートでスタイリッシュな服の提供!これだよ!


「呪いはかけるなよ。あと露出も程々に」


 分かってるよ耕雨!みんながみんな私とか低木ちゃんみたいにこんな服着て活動できるわけないじゃん。まあ……相応の金積まれたら、作ってもいいけど。

 あ、単にランク制とかあったら面白そうだから作ろ。アルファベットとか金属じゃつまんないから、ちょっと捻って……



 二日連続で裁縫か……耕雨さみしくないかな。放置プレイってことにしておくか、成長特化型だから勝手に強くなってるかもだし。

 まあ、今日は昨日みたいに本気でやる必要はない。狩人服の試作品作るだけだから、社務所で#妹背鳥着て作業で問題ないし。


 あ、拝殿から裁縫道具持ってこないと。



 普通の、呪術がかかってない布はこの部屋の桐箪笥に……っとこれは書類だ。こっちの箪笥か。

 私は箪笥のもぐらたたき現象って呼んでるけど、他の引き出しがもぐらたたきみたいに出てくるのムカつくんだよね……いや、高い密閉性の証拠だけどさ、ものぐさな私にはいちいち戻すのがめんどくさいっていうか。


 デザインは……西洋の服で使われる、立体構成とやらでやってみるか。

 っと、やべ、服まで縫っちゃった……準桑織特殊型の私が、こんな初歩的なミスをするなんて……耕雨とイチャついてないからか。下手にルーティーン崩さない方がいいね。うん、明日の夜は思いっきり甘えよっと……

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