ep27-09 棚機坐禅(黒紀五年)
ギシギシの旦那と社務所へ。私は普段、ここで書類仕事してる。耕雨と低木ちゃんは隣の部屋にいる。
「さて」
推理小説なら、さてと言った後は探偵が推理を披露するけど、そうじゃない。
交渉の時間だ。戦争の反対語は平和ではなく対話だ……っていうのは結構聞く話だけど、それ以外にも妥協とかいろんな意見があるよね。
何にしろ、戦争を外交の最終手段ととらえて、平和的な外交を行うために必要なことを挙げてるケースが多い。
この低木ちゃんとギシギシの旦那の戦闘で一応低木ちゃんが勝ったから、私たちが交渉で優位に進められる、はず。
まあ、戦わなくたって、万が一低木ちゃんが負けたって問題ない妥協した内容を用意してんだけど。勝ったからって欲かくと失敗すんだから内容を変えるつもりはない。
「ギシギシの旦那、先ずはこれを見ろ」
「むぅ……」
私が取り出したのは高札。まあ、一休さんに出てくる「このはしわたるべからず」の立て札みたいなやつ。祭政一致の是非はともかく、桑織において桑織神社の権力は村長と同程度。権威は桑織神社の方が上だけどね。
双方の意見が分かれた場合はくじ引きなんだけど、桑織神社は村長の意見をできる限り尊重して折れるから、そうそうそんなことはない。
三権分立?知らんがな。
『そういえば、今の村長って誰だっけ』(念話)
『鐙』(念話)
むさっしー!?なんであいつが……
因みに、村長の任期は十二年。どれだけ人気があっても連続で二期以上務めることはできない。っていうか小さな政府というよりもはや放置国家とは言え二十四年間は無理だろ……
個人の能力が偏ってるけど高いから、行政は特にやることないんだよね。利権チラつかせて蓼川衆とかに丸投げすれば十分すぎる成果出してくれるし。
立法も住民から上がってきた条例草案精査して高札に書くだけだし。他の条例との矛盾はだれも気にしてない。基本的に新しい条例の方を優先するから。
司法?重大事件は皆、私に丸投げしてくるよ。
それと、某碧陽学園のように、立候補は存在しない。勿論、投票日前の数日間は演説とか勝手にやっていいし、演説しないで選ばれることはほぼないけど。
美少女ばっかり選ばれるとかそんなことは起こらないのよ!
話を戻して。私が書いた高札の内容は、
『風紀若しくは健康及びその両方を害する虞があるため、桑織集落内にて左記に定めるものを原則禁止する。取り扱う場合、桑織神社若しくは村長から許可を得ること。
・薬物の販売及び譲渡
・賭場の運営
追記・いつもどーり、この条例は全住民の一割の署名で廃止できます』
そりゃギシギシの旦那も唸るよね。でも、
「はい、許可証」
『桑織神社は蓼川衆に、煙草及び大麻の販売、賭場の運営を許可する』
私は懐から小刀を取り出し、指の腹を軽く切りつけて許可証に血判を捺す。この小刀も、だいぶ前にむさっしーから何か買った時のおまけでもらったやつ。
糸切ったり木削ったり髪切ったり大学生脅したり(?)、今みたいに血判のために指先切ったり結構重宝してるっていうか、その時買ったものより重宝してる。っていうか、そのとき何買ったんだっけ……忘れた。
「目立つところに掲げといてね。あと、売り上げの一部は……」
私がニィィと笑うと、ギシギシの旦那もニィィと笑い返す。
「まあ、色々と便宜計るから、これからもいい関係を、ね?」
独禁法?知らんがな。
差し出した手を、ギシギシの旦那は握り返した。
これにて一件落着……なんだけど、耕雨、ギシギシの旦那、低木ちゃん。この三人、桃太郎のお供っぽくない?
耕雨とも、低木ちゃんとも一応主従関係みたいなところがあるし。勿論それ以前に耕雨とは夫婦だし、低木ちゃんとは友達なんだけど。あと、ギシギシの旦那に許可出したってことは、立場として私の方が上ってことになるよね。
つまり、桃太郎一行の完成!桃太郎がやることと言ったら……
「鬼退治に行こう!」
「は?」
「ぅおー!」
「いぇーぃ!」
物置から弓矢を持ってくる。呪術特化型の攻撃手段として、最も多いのが弓。
体力無いから、いくらリーチ有っても槍とか重い武器なんて無理だからね。
ちなみに、二番に多いのがナイフと体術。生命力を消費する邪術とか生命力を動かす仙術を使う呪術特化型は、気とかそういうのが何となくわかるから、合気とか柔術とかそういう体術は割と向いてる。
つー訳で、桑織集落の
低木ちゃんが倒れてたのもこの辺りだよね……あっ、そこの低木のところだ。記念すべき大切な木だから、伐られないようにしないと。
持ってきた注連縄と紙垂を、その低木に付ける。低木ちゃんじゃないよ!?
「何やってるんだ……?」
「新しい御神木よ!」
「坐禅が初めて『御神木』って言った気がする……」
「それじゃあ、レッツラゴー!」
号砲とばかりに鏑矢を射る。鏑矢は良い音鳴らして
まあ、こんな森の外周部は小鬼とかそれよりちょっと野蛮な
さて、漸く歯ごたえのある中層部まで辿り着いた。この辺りで出るのは……あっ、オ……
ゴンッ!
多分
そうそう、生け捕りにして森を出てからとどめ刺さない限り、魔物倒すと一瞬光って跡形もなく消えちゃう。あと、別に倒したからって強くなれるわけじゃあない。
あ、また鬼……
ゴンッ!
今度はちゃんと確認できたけど、またやってるよ。ほんとに暴力特化型は連携に向かないね……
「ローテで倒そうよ。低木ちゃん、ギシギシの旦那、私と耕雨の順で」
私と耕雨の攻撃力は暴力特化型の二人には圧倒的に劣るけど、連携は出来るからここはペアで。まあ、いくら連携しても深層部まで行くとなかなかキツイかもしれないけど。
そんなこと言ってるうちにまた魔物が現れた。
「……私の番」
あれは……
「ギシギシの旦那、ストップ」
たぶん、二体居っから片一方は低木でもう片一方は俺がやらぁ……みたいなことを考えてたんだろうけど、そんなことしたらローテの意味ないからね?群れの場合はそれで一カウントだよ?
「むぅ……」
渋々、って感じで引き下がるギシギシの旦那。
「……んー……?」
なんか低木ちゃんが、ぶつぶつ呟きながら考え込んでる。
「んー、こうっ、かなぁ……」
まだ赤鬼青鬼から距離があるのに、低木ちゃんは刀を振るった。
刃の軌道が……なんか変。
そして……赤鬼の目元から血が流れた。一瞬、泣いたのかと思ったけど、違う。赤鬼の肌の色で分かりにくいけど、確かに血だ。
「おお!出来た……!」
僅かとは言え目元に攻撃を受け、赤鬼と青鬼は怒ってこっちへ凄まじい速度で走ってくる。
「えぃ!えぃ、ぇぃ、っ!」
低木ちゃんが二刀を振るう度、赤鬼と青鬼に浅い傷がついていく。もしかして……斬撃を飛ばしてる?特殊な軌道で刀を振るうと、鎌鼬が発生する?
益々赤鬼と青鬼は怒り狂い、距離を詰めてくる。一方で低木ちゃんの鎌鼬によってつく傷もどんどん多く、深くなっている。
単に距離が近いから命中率が上がり、エネルギー損失みたいなのが少なくなってるだけじゃない。
さっきから見てると、低木ちゃんが刀を振るったすぐ後には必ず赤鬼と青鬼のどちらかに、偶にその両方に傷がついている。そして、両方に傷がつく割合もどんどん増えている。
たぶん、鎌鼬を扱う感覚を掴んで、どんどん巧くなってるからだと思う。
そして、終ぞ刃が赤鬼と青鬼に触れることなく、二体は一瞬光って消えた。
「それにしても、魔物の数多くないか?」
「金んならんし、安全に中層部以降めで入れるやっつぁ少ねくてなぁ」
倒したところでアイテムドロップしてくれるわけでも経験値くれるわけでもないからね。
野菜とか家畜を荒らされないように、外周部の小鬼とかを駆除する程度はやる人いるけど、好き好んでこんな方まで来るのは余程戦いに飢えた暴力特化型とかだけだろう。神徒に至っては、人が近づかない限り動き出さないし。
まあ、低木ちゃんがそれだから、当分は問題ないだろうけど、なんか対策考えないとね。
神社としての責任というかなんというか。宗教団体はただ教義とか宗教的な救済を説くだけじゃなくて、社会問題への対応とか現世における救済こそ最も重要な仕事だと思うんだよね。
その一方で金を集めるために詐欺まがいのあらゆる手段を尽くすわけだから、まあ、蓼川衆みたいなそういう組織と大差ないよね。どっちがマシかはともかく。
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