ep27-05 棚機坐禅(黒紀五年)

「ん……っんん……」

 あ、気が付いた?覗き込んで、目の前に手を翳し、ゆっくり振ってみる。


「また、気絶してた……?」

「してたね」

「修行が……足りない……鍛えないと。もっと強く、なりたい。先ずは腹筋……」


 暴力特化型の欲は修行・殺戮・戦闘の三位一体。人によって偏りがあるけど、「しばらくは安静にしてなよ」なんて言っても聞かないことは明らか。


「いーーち……っ!?」

 ゆっくりと起き上がり、また背を布団に着けて、何か驚いたような顔して固まった。


「……え?何この布団……めっちゃやわらかい……」

 まあ、桑織以外では手に入らないやつだからね。


「……だめ……この布団には勝てない……ここまで完膚なきまでに負けたの、初めて……」

 おふぅとんの魔力には勝てないかぁ……どさくさに紛れて添い寝……(ΦωΦ)フフフ……

 同性だから浮気じゃない!

 ……私結構守備範囲広いけど。


「それにしても、低木ちゃん胸結構あるんだね……」

「でも、戦うには少し……」

 羨ましくなんかない!けど、でも……


「ちょっとだけ……賓頭盧みたいに……いい?」

「……うん」

 なんだろね。私みたいなつるぺたじゃなくて、低木ちゃんみたいな胸で、晒巻いてるのって……すげーエロいよね。


「ひゃぅ……」

 ありがたやーありがたやー。

 指を腕や腹部、太ももの方へも這わせてみる。暴力特化型らしく全身しっかり筋肉付いてて、ギリシャ彫刻みたいな美しさがある。特に腕の筋肉がヤバい。


 っていうか、低木ちゃん異様に手足長いのよね。

 成長期に筋肉が厚くなると、骨がそれ以上伸びなくなるから、腕は元より身長も伸びない筈。だからレスリング選手とか割と身長低かったりするんだけど、低木ちゃんの場合、かなり身長高い。この時代の女性の平均身長なんか知ったこっちゃないってくらいに、耕雨より高い。


「zzz……」

 ツボとか軽く刺激した効果もあったのか、寝顔を見る限りは良い夢見れてるみたい。別にただ低木ちゃんの体撫でまわしてただけじゃないんだよ!



 てなわけで気づいたら夕方です。耕雨が夕飯作ってる音がする。目を開いて横を見ると、


「はぁ……っ!……っ……んんっ……ぅぁ」

 低木ちゃんが腕立て伏せしてた。動きやすいように服を開けさせて、上半身が露わになっている。何度見ても見蕩れちゃう。

 って、いやいやいや……これほんとに腕立て?

 だって、低木ちゃんは……


 床に足を付けていなかった。


 は?ここ水中?

 暴力特化型の身体能力関係の補正を考えると、できないこともない……のか?


 こっちに向かってくる足音、というか床がきしむ音?が聞こえる。この鴬張りが忍び返しとして機能するかについては諸説あるけども、自宅だから忍者モドキの耕雨は、今みたいに堂々と慣らしてる。


「おーい、夕飯出来たぞー……」

「あ……」

 部屋の襖開けちゃった……

 耕雨と暫く見つめ合う半裸の低木ちゃん(肌に滲んだ汗がエロい)。そして、


「……やっぱり、あなたは変態だったのですね」

「不可抗力!不可抗力だー!」

 流石に刀を振りかぶるようなことはしない低木ちゃん。でも、手に取って一瞬迷ったよね?

 ジャンピング土下座で謝る耕雨の頭を刀の柄でぐりぐり。鞘が無いので刀身を素手で掴んでる。セーブ鉄にしたって危ない……



 日本人の身長が低い理由の一つに粗食があるんだけども、これは水田によって主食となる米が安定的に収穫できることで、おかずなどからカロリーを取る必要が無いかららしい。

 そういえば、マクロビオティック……玄米菜食って考え方があるらしいけど、その関係のレシピ本によく出てくる大豆ミートってあれ何なの?肉っぽいけどなんか食感違うし豆臭いし値段高いし。豆腐とか油揚げ食えよ。それか諦めて肉食えよ。


 神仏習合ってことで、私は巫女であり尼僧だけど、破戒僧なので平気で肉食います。まあ、桑織の食肉はギシギシの旦那が取り仕切ってるから、最近食えてないんだけどね。別に好きでも嫌いでもないので食えなくても特に問題ないけど。


 ……肉?


「ふぇふぃふぉふふゃーん!」

「飲み込んでから喋れ」

 漬物を醤油につけ、玄米の上でバウンドさせながら耕雨が言う。

 ……普通二、三回だろ、バウンドさせるのは。もう十回以上してるんだけど。早く食えよ。


「……んっ、ねぇ低木ちゃん、低木ちゃんの一番好きな食べ物ってなにー?」

 まあ、何となくの予想はついている。上手くいけば、ギシギシの旦那との交渉の糸口に……


「え?……雉肉?」

 ビンゴ!やっぱしトリ肉!特に翼を羽ばたかせるために、筋肉がしっかりついてるムネ肉とかは特に良質なたんぱく源だよね。ムネ肉ってとこから低木ちゃんの胸を揉みしだくなんてド定番かつ子供っぽい真似は……


「ひゃ……んっ!」

 もちろんしますよ自分の胸無いから!そして子供だから!

 ……悲しくなってきた。私は貧乳に誇りを持っているんだ……裏切り者の虚乳は敵……!


 そういえば国鳥を狩って食う国は日本以外無いらしい。まあ、駆除対象の害鳥だったりもするしね。


「低木ちゃーん、実はさ、この桑織って野生動物の数が異常に少ないんだよね」


 桑織は不毛の地にされたから、植物も動物も殆ど存在しなかった。

 更に、まどろっこしい手順を踏むか余程の強い思いが無いと住民以外のみで桑織に来ることができない、ってルールが人以外にも適用され、動植物が侵入することは基本的にない。

 ただ、迷い込んでくる動植物は、低木ちゃんみたいな人間と同じく、稀にいる。小動物や植物なら、荷物とかに紛れ込んで結構入ってくる。でも、


「雉、いないんだよ」

「え……」

 桑の葉茶を啜っていた低木ちゃんが目を丸くする。流石に蚕沙茶ではなく、蚕が食べて出すという工程を経ない普通の桑の葉茶。


「まあ、外界で狩ってくればいいんだけど。桑織の住民って、関東ならどこでも出没できるから」

「熊みたいに言うな」


 自由に外界へ行けるのなら、なんで私たちの先祖はこの桑織を棄てなかったのか、ってことになるんだけど、どうも今ほど自由に行き来できたわけじゃなかったらしい。

 とっくに綻びてるけど、これも異界の神の呪い。まどろっこしい手順はその名残。


 桑織の住民は異界の影響を受けてなのか全員何かしらの特化傾向になっている。

 その代償で思考回路がトチ狂ってる連中が外界に出たら、ろくでもないことになるのは明白だよね。下手すると、歴史が大幅に変わる。

 異界の神って奴はどうやら日本出身らしいから、日本史が大幅に変わると異界の神が生まれないルートに入る可能性もあるし、そうすると異界の一部だった桑織もなかったことになり、桑織の住民は桑織という土地ごと消滅しちゃう。だから、今でも過剰な外界への干渉は自粛すべきなんだよね。



「桑織で肉っていうと羊肉なんだよね。ウール取れるし。〽ジン、ジン、ジンギスカーン!」

「羊肉?食べてみたい……じゅるり」


 舌なめずりしてる低木ちゃんに残念なお知らせ。


「肉……っていうか、家畜関係を文字通り牛耳ってる……メインは羊だけど……組織があるんだけどね?」

「うん」


「売ってくれないんだよ!肉を!全部外界で売りやがって……剰え「肉を売ってほしければ……」って脅すんだよいぢめるんだよ!」

「な、何!?こんなかわいい坐禅ちゃんを苛めるなんて……許すまじ、成敗!」

 いい感じイイ感じ。


「蓼川衆を悪の組織に仕立て上げるな。あいつらだって健全……とは言い難いが、肉に関しては非難されるようなことは何もしてないぞ。桑織のために外界で、まあ、苦労してるんだ」

 苦い表情を浮かべた耕雨窘められる。まあ、蓼川衆が外界で苦労しているのは確かだけど。


 私みたいな破戒僧からしてみればくだらないと思うけどね。死や殺しを「不浄」とか「穢れ」とか考えるのは。

 ……御祓いで初穂料どんくらいまでならぶんだくれるかな。


「あと、坐禅は見てくれは可愛いが、中身は蓼川衆より汚えから……」

「だらっしゅぁあああっ!!」

 事実だとしてもそーいうこと言うんじゃない!


 私のドロップキックを受けて、部屋の隅まで吹き飛ぶ耕雨。大丈夫、ソフトバージョンだからダメージは殆どない。


「まあ、羊肉云々を差し置いても、低木ちゃんにとって重要な連中だと思うよ?なにしろ……アレのボス、「桑織のドン」ことギシギシの旦那は「桑織最強」って言われ……」


「!」


 目をキッラキッラさせた低木ちゃんが、一瞬で私の胸元に飛びつく。


「か、顔近いよ低木ちゃん……」

「……戦いたい」

 どう考えても強敵を見つけて喜ぶ暴力特化型の顔だけど、なんかちょっとドキドキしちゃう……


「うん、セッティングしておくよ……」

 果し状を下駄箱に入れて校舎裏か体育館裏で待ってればいいかな……いや桑織には学校も体育館もないんだけど。まあ、ここに呼べばいいよね。そのうち寺子屋開きたいと思ってるからあながち間違いじゃない。

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