ep27-01 棚機坐禅(黒紀五年)
「ふぁぁあ……」
引き戸を開けて空を見る。今日もいい天気だ。いい天気。
ん?誰かに私の思考を覗かれてる気がする。きゃー、えっちー!
深淵を覗くとき、深淵もまたこちらを覗いている……って言うし、先視の使い過ぎは良くないかもな……使う時間を減らす気はないけど。
覗かれて何もしなかったらこの私の名が廃るね(笑)。軽い悪戯を投げちゃるっ!
突然ですが、ここで、私の好きな天気ランキング~!
一位、曇天!
ちょっと不安になるような、夜のような曇りの日って最高だよね。
二位、小雨!
静かでいいよね。
三位、豪雨!
屋根に雨粒が当たってチョー五月蠅い。でも、そんな音も良いよね。雷とか鳴ってるとよりいい。
四位、晴天!
まあ、洗濯物とか早く乾くし。
最下位、快晴!
眩しいし、日焼けするし……私、肌弱いから外出できないし。曇りでも外出しないけど。
いい天気だね( ̄ー ̄)ニヤリ。
どんな天気だろうね~いや、曇な天気だろうね~
「んんんーーっ」
軽く体を伸ばして、縁側に腰掛ける。
さて、今日の運勢でも占ってみるか。
別に日課ってわけじゃない。気が向いた時、まあ、三日に一回くらい、何となく占いたい、って思う日があるのよね。私はこれを無意識下で何かを感じ取ってるからだと考えてる。つまり、占いたいと思った時点で占いは半分終わってる。
いっつもどうやって占うかで悩むんだけど、たまに、この方法しかない!ってピンとくることがあるんだよね。今日がそれな訳なんだけど、自分の直感なのに二度見?みたいな感じになっちゃったよ……
先視。
私の十八番。占い……なのかは割と怪しい。
未来をその場にいるかのように体感できるんだけど、正確すぎる。これで視たことは、呪術で強く干渉しない限り、若干のズレはあっても確実に起こる。
でも、ほぼ確実な未来なんて知っちゃったら、つまらないじゃん?だから近い未来、少なくとも私が死ぬまでの未来はよっぽどのことがない限り視ないようにしてる。
代わりに三百年後とかはまるで映画見てるみたいで面白いから、結構視ちゃうんだよね。
あと、応用の幅がすごい広い。先視と言いつつ、過去視とか千里眼としても使える。
とにかく、こいつで占えと私の直感が訴えてるのよ。で、占う方法がピンとくる、中でも正確性が高い方法を推すっていうのは、占ったほうがいい、って思うのと同じく、やっぱり無意識下で何かを感じてるんだと思う。
だけどやっぱり、近い未来は視たくないんだよね。でも、気になる気持ちもある。無意識下で何を感じ取っているのか知りたい。
よし、覚悟を決め……なくてもいいや。軽い気持ちで視てみよう。
「ほゎんほゎんほゎぁん……っ」
……↑パラパラ共和国?
場所は……この桑織集落だ。たぶん、集落を囲む森との境界あたりか。
「ん?」
襤褸切れが落ちてる……いや、あれは人?
近くには墓標のように抜身の太刀が刺さってる。死んで……はいなさそう。呼吸の度、微かに体が動いている。
突然、空を飛んでいる小鳥が不自然に止まった。
一瞬遅れて、風景が止まったことに気付いたころには、コンフィデンスマンJPの終盤みたいに高速で巻き戻されていた。
巻き戻しは森の中で満身創痍の少女、おそらくあの襤褸切れが、両手に太刀を握って戦っているところで止まった。
相手は、巨躯に羊の角、触手のような尻尾……悪魔(レッサーデーモン)。神徒だ。
私のような呪術特化型は先手を取らなければ確実に殺される。真正面から殴り合うのはいくら強いゆーても所詮成長特化型の耕雨でもきついだろうな。
暴力特化型なら、特にギシギシの旦那くらいになると余裕で文字通り殴り合えるだろうけど。
彼女の握ってる刀、セーブ鉄っぽいから生産特化型じゃない。武器の力を百パー引き出す生産特化型がセーブ鉄なんて使ったら『セーブ鉄道運転見合わせ』が起こって身動き取れなくなるから。
疲労からか辛そうな顔してるけど、その中に笑みが混ざってる。セーブ鉄を用いた縛りプレイ、所謂セーブ鉄道をしている暴力特化型の顔だ。
ただ、あの顔を私は見たことがない。私は桑織集落全住民の顔と名前、特化傾向を把握している。けど、彼女の顔はその中にない。たぶん彼女は、外界の……?暴力特化型とはいえ、森を通って桑織まで辿り着いたのか……
「お」
何とか勝ったみたい。
ただ、随分危なっかしいところがある。どうも意図的にセーブ鉄道してるわけじゃなさそう。
何らかの形でセーブ鉄の刀を手に入れてしまって、使い続けてるんだろう。セーブ鉄の製造技術は外界に広まってない……というか生産特化型にしか作れないうえに需要がないんだから当然だ……から、外界の暴力特化型が知らなくてもおかしくない。
さてと、あの少女を保護しに行くか。森を抜けられたのにあのままじゃ衰弱して死んじゃうし、ギシギシの旦那と戦える奴は取り込んでおかないと。
「つー訳で耕雨ー!朝飯食ったら久しぶりに娑婆の空気吸いに行くよー!」
少し前から私の後ろに気配を感じていた耕雨に言う。
「シャバて……ただの引き籠り破戒僧がシャバとか言うな」
「四の五の言わずに行くよ!……あ、その前に朝ご飯!」
今日の……っていうか、ほぼ毎日同じだけど、朝食のメニューは、昨日の夕食の残りに薩摩芋でかさ増しした玄米の粥、ずいきの味噌汁、納豆、蚕沙茶。
そこの秋田県知事!貧乏くさいとか言わない!江戸時代初期までの日本の食事は、一日二食で粗食なんだよ!その分米を大量に食うんだけど、私は小食なので、ご飯の量は耕雨の三分の一くらい。
蚕沙が何かは……気にするな!まあ、昆虫食の一種なんだけど、昆虫が出した黒糖マジパンみたいなブツ……というか、もうぶっちゃけて言ってしまうと蚕の糞なんだけど、それで昆虫食を名乗ってるのが納得いかない。
未だ意識を失っている彼女を俵担ぎした耕雨が、遥か前方にいる。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ……待って、耕雨……」
「坐禅……夜の異常な体力はどこ行ったんだよ」
「……あれは……仙術で無理矢理体力を回復させて……三大欲求くらい強い感情を原動力にしないと反動が抑え込めない……言わせんな恥ずかしい」
「そうか……」
「私が引き籠りなのは……全てこのクソ長い石段のせいだ……ぜぇ、ぜぇ……やっと、登り、終え、たっ!」
「で、この襤褸布みたいな娘をどうすればいい?」
「んー、とりあえず裏の滝で体を洗ってやって……あっ、変な気起こさないでよ?泥の付いた大根か何かだと思いなさい!何なら私以外の女は全員大根に見える呪いをかけてやる!」
着替えは滝行用の白装束でいいかな?社務所の箪笥を漁り、丁度良さそうなサイズのものをチョイス。裏の滝にもっていくと……
「ん……ん?……ひ、ひゃあぁあ!」
「わぁ……」
最悪のタイミングで意識が戻ったか……あ、耕雨のが平手打ちされてる。
「まっかだなーまっかだなーこーうのほっぺがまっかだなー……」
さっき自分の腰を探ってたけど、刀を差してたらそのまま切るつもりだったのかな。
「た、たすけてください!こ、この人が、私の体を触ってきて……穢されそうに……っ」
「なるほどー、それは許せないなー(笑)。私という最高の妻がいながら、しかも無理矢理だなんてねー?」
「え……妻……?ロリコン?いや、幼妻、ロリ婚?」
「ははははは。耕雨がそんなことするわけないじゃない」
私以外に性的な感情を抱かないようにつよーい
「ほら、体洗ったら浴衣代わりにこれ着て」
「え……あっ、はい」
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