準備4日目
その翌日。
コテージに設置されている三人掛けソファに座るヒロが神妙な面持ちで呟く。
「何か、……レジーナに避けられてる気がする」
具体的に言えば、昨日の昼食後に雪玉を投げられた後からだ。
おおよそ彼らしくなく様子で似合わないため息をついたヒロの両隣には、困った顔のティアリーと呆れた顔のアウトリタがそれぞれ座っている。
ヒロの言葉にアウトリタとティアリーは同時に深く頷く。
「ありゃ、あからさまに避けてんだろ」
「話さないどころかそっぽ向いてますもんね」
ヒロは肩を落とすと大きく項垂れた。
昨日、今日の予定をどうするか迷っていたうえにレジーナに余計なお世話だと言われたヒロだったが、結局自分の気持ちに従ってコテージの一室に籠って薬を調合しているレジーナの作業をいつでも手伝えるよう留守番を買って出た。そして、アウトリタはグローウィンと一緒にバイトに行く予定だったが、ヒロが留守番すると聞いたモイからヒロの側にいてほしいとお願いされて予定を変更している。ちなみに当のモイは、グローウィンと作戦会議をしてくると言い残して意気揚々とバイトに出掛けた。
そしてティアリーは、先程までアクセプタとパーチェの三人でクリスマスパーティのメニューを考えながら女子トークに花を咲かせていたのだが、アクセプタが足りない食材を買いに出かけパーチェが昼食の準備を始めたところで次なる話し相手を求めてソファへと移動してきたのである。
目に見えて落ち込んでいるヒロを見かねて、ティアリーが言う。
「ヒロ、ヒロ。クリスマスまで時間がなくて焦る気持ちはわかりますけど、少し距離を置くのはどうですか? 避けられちゃうと謝ることもできないですし……」
「だな。互い冷静になりゃ、もう少しちゃんと話せるんじゃねぇか?」
「それはそうかもしれないが……」
言い淀んだヒロの脳裏にあの日の燃え上がる炎がちらつく。
忘れたくても忘れられない感覚を思い出して、思わず彼は自身の拳を握りしめた。
「でも、心配なんだ。ティアリーもアウトリタも知ってると思うが、レジーナはすぐ自分のことを後回しにして無茶ばかりするだろ。だから、誰かがちゃんと見ててやらないと、いつか取り返しのつかないことになるかもしれない」
彼の言葉に、ティアリーとアウトリタは顔を見合わせた。
一昨日レジーナと言い争った後にヒロが零した言葉も、昨日モイがヒロの気持ちを代弁した内容も、ヒロがレジーナを心配している、といったもので。好奇心と世話好きの塊のようなレジーナの行動力を思えば、ヒロの心配は最もだろう。
ヒロは深刻そうな声音で言葉を続ける。
「それにレジーナは、薬師の作業を始めるとすぐ食事も睡眠も疎かにするんだ。だから過労で倒れたらと思うと心配だし、……それにあいつ、万が一倒れても大人しく寝てないで這ってでもクリスマスパーティに出そうだろ」
「それはさすがに、……ないとは言い切れないですね」
「だな……、レジーナならやりかねねぇ」
初めてのクリスマスを楽しみにしているモイやグローウィン同様に、彼らと同じくらいにレジーナもまたクリスマスをとても楽しみにしていることはヒロだけでなくティアリーもアウトリタも知っている。フリィに続いて突拍子もない行動に定評のある彼女なら、栄養ドリンクか何かで体の不調を誤魔化してパーティに参加する可能性は大いにあり得るだろうと、この場にいる全員が納得してしまった。
沈黙が流れる中、パーチェが料理している音がコテージのリビングに響いている。
それを聞きながらティアリーはレジーナが籠っている客室を見やる。
ちょうどそのタイミングで部屋のドアが開いた。
「ねえセプ、この間の話なんだけど…………ティア? どうしたの? そんな深刻そうな顔しちゃって」
小首を傾げたレジーナは真っ直ぐにティアリーを見ているが、その視線は絶妙に彼女の隣に座っているヒロと目が合わないようにしているのが見て取れた。
ティアリーは様子を窺うようにそっとヒロを振り返る。目が合った彼が困った顔でひとつ頷いたのを確認してから、彼女は小さく頷き返すとレジーナの側へ移動する。
「ちょっと真面目なお話をしてたんです。レジーナは休憩ですか?」
「そんなとこ。キッチンにパーチェしかいないみたいだけど、セプは部屋?」
「セプたんならついさっきお買い物に出掛けましたよ」
「……一人で?」
「はい。ルミエル村の広場に行ったからすぐ帰ってくると思いますよ」
「ふーん……」
レジーナは意味深な相槌を打つと、一瞬だけヒロに冷たい視線を向ける。
目が合ったヒロが口を開くより先に彼女はあからさまな態度で目を逸らした。
その一瞬感じた不穏な空気に何かを察したティアリーが焦った様子でヒロを振り返り、そして改めてレジーナを見やる。ティアリーとしては何気ない会話のつもりだったから、まさか地雷を踏んでしまったとは思わなかったのである。ティアリーはレジーナがキッチンへ向かうのを追おうとして、その前に申し訳なさそうにヒロを振り返る。表情とジェスチャーで謝罪する彼女に、ヒロは気にしてないと言いたげに首を横に振って答えた。ティアリーはもう一度頭を下げてから、レジーナを追いかけた。
ティアリーがレジーナの肩に座る様子を眺めていたアウトリタが、ふと気になって隣を見やれば、ヒロはどことなく不満そうな表情でレジーナの背中を見ていた。
アウトリタはソファの背もたれに寄りかかりながら、小さくため息を吐く。
ふと、キッチンで料理をしていたパーチェが気配を感じて顔を上げる。
「レジーナ。昼食までまだ時間があるわよ」
「あ、ほんと? ちょうどよかった。薬を調合するのに素材が足りなくなっちゃったから、今からちょっと出掛けようと思って」
「え? 今から行くの?」
パーチェが不思議そうに首を傾げた。
彼女だけでなく、側で話を聞いていたティアリーや彼らの会話が聞こえていたアウトリタもまた不思議そうな表情を浮かべた。……ただ一人、ヒロを除いて。
ヒロは弾かれるように立ち上がると思わずといった様子で口を開く。
「レジーナ、どこに出掛けるんだ?」
「うん。少しでも早く調合を終わらせたいからね」
しかし、レジーナはヒロの言葉など聞こえていないかのように話し続けた。
パーチェは困った様子でレジーナの肩越しにそっとヒロの様子を一瞥する。立ち上がったもののヒロがそれ以上アクションをする気配がないのを確認してから、彼女は普段通りの微笑みを浮かべてレジーナに向き直る。
「どこまで行くの?」
「村の広場で売ってるのを見たから、そこでどこで採れるのか聞いて、自分の手で採取して来ようと思って。だからお昼ご飯、私の分はなしでいいよ」
「それなら、昼食はサンドイッチの予定だから、持ち運べるようにしようか?」
「ううん、大丈夫。そこまでしてもらうのは悪いし、広場で適当に食べてくるよ」
「レジーナがそう言うなら、……わかったわ」
彼女たちの会話が終わった直後。
「昼飯も食わずに採取に出掛けるのか?!」
ヒロが血相を変えてレジーナの腕を掴んだ。
ビックリしたティアリーが少しだけ浮き上がる。
しかし、当のレジーナは無視を決め込んでいるのか無言のまま振り返らない。
「レジーナ、聞いてるのか?」
「…………そんな大声出さなくたって聞こえてる」
レジーナは淡々とした声を返しながら。ヒロの手を振り解いた。
ようやく彼を振り返ったレジーナは普段の彼女らしくない冷たい表情をしていて。
ヒロは一瞬たじろいだもののすぐに気を取り直して口を開く。
「だったら無視するなよ」
「言われた通り、出掛ける場所までちゃんと伝えたよ。まだ文句があるの?」
「そうじゃなくて」
「薬師の話だから、勇者のヒロには関係ないじゃん」
「関係なくはないだろ。一緒に旅する仲間だし、それに俺は、レジーナの薬師のことも手伝いたいんだ」
ヒロの言葉にレジーナは思わずといった様子で言葉を詰まらせた。
その台詞は、彼女が旅の仲間になった際に伝えた言葉でもある。彼女自身のやりたいことよりもヒロとの勇者の旅を優先してくれたレジーナに、少しでもその気持ちに報いたくて一緒に旅をして良かったと思ってほしくて恩義を返したくて告げたのだ。
レジーナはバツが悪そうにそっぽを向くと、少し早口で言う。
「今言ったでしょ、薬の調合に必要な素材が足りないの。だから、採取ついでに広場で昼ご飯を買って食べようと思っただけ」
「だったら俺も一緒に――」
「要らない。必要ない。余計なお世話だよ」
ピシャリと言い捨てたレジーナに、ヒロは表情を顰める。
「だが、俺も一緒のほうが早く集まるだろ」
「私に対して信用がないのはわかったけど、そこまでしなくたっていいじゃん」
「聞き捨てならないこと言うなよ」
「事実でしょ。私のことは放っておいて」
「あれ、珍しいね。ヒロとレジーナが言い争ってるなんて」
そこに、朗らかな声が割り込んできた。
ヒロとレジーナが弾かれたようにそちらへ顔を向ける。
「フリィ!?」
そこにいたのは、相変わらず朗らかな笑みを浮かべるフリィだった。
ヒロは驚きで言葉を失い、ポカンと口を開けた。そして、彼同様にティアリーとアウトリタ、パーチェの三人も突然のことに思考が停止したらしく、目を丸くして固まっている様子からは突然現れたフリィに対しての驚きと困惑が見て取れる。
彼らの表情はまるで、買い忘れた物があったことを思い出した時のそれで。
フリィが浮かべていた笑みに、少しだけ諦めの色が混じりそうになった時だ。
「お帰りフリィ」
唯一レジーナだけが、散歩から帰ってきた相手に向けるような気軽さで声をかけた。
フリィは嬉しそうに表情を和らげた後で、改めて笑顔を返す。
「うん、ただいま」
「首尾は上々?」
「もちろんだよ。ね?」
フリィは同意を求めるように、ふと視線を頭の少し上に向けた。
「まァ。どうしてもってお願いされちゃ、断れねェよな……!」
フリィの視線の先にいたのは、宙で足を組む小さな悪魔だった。
腰から蝙蝠のような羽を生やすその悪魔は、目測でティアリーと同じくらいのサイズだろうか。その姿を見た瞬間、目を見開いたティアリーが文字通りすっ飛んでいく。
「ヴィクリ!! ヴィクリじゃないですか!」
「ぐぇっ」
「久しぶりです~、会いたかったです~!」
「わァーったから離れろ、この泣き虫!」
ティアリーにタックルされた小さな悪魔ヴィクリは力の限りで彼女を引きはがそうとするが、ティアリーもまた力の限りで彼に抱きついて再会を喜んでいる。
この状況を前に改めて説明するまでもないだろうが、ヴィクリはティアリーと同じく魔物である。とある森の中にひっそりとある魔物の隠れ里と呼ばれる場所でともに生まれ育った二人には浅からぬ縁があり、周囲から見れば微笑ましいほどに仲良しなのである。ヴィクリだけはそれを否定しているが。
嬉しそうな様子で彼らを見守るフリィの後ろで、何かが落ちる音がした。
ティアリーたち再会を喜ぶ二人も含めた全員が音のしたほうへ振り向く。
開けっ放しの玄関にアクセプタが立っていた。
ワナワナと震える彼女は驚愕の表情を浮かべてフリィを指さしており、その足元に転がり落ちた紙袋からは買ったばかりのパンが顔を覗かせている。
「あ。セプたん、何か落ち――」
「配達員! テメェ、今までどこ行ってたんだ!!」
フリィの言葉を遮って、アクセプタはそう怒鳴ると彼の胸倉を掴む。
「揃いも揃って勝手なことばっかしやがって! 集団行動ってのを知らねーのか。出掛けんなら一言言えや、ああっ?!」
「うん、だから配達に行ってくるって言ったよ」
「そーゆーことじゃねーんだよ!!」
アクセプタの怒りは頂点に達しているらしい。
地獄の底から響くようなドスの利いた声で怒鳴る彼女に首が取れるのではないかと言わんばかりの勢いで前後に揺さぶられているというのに、しかしフリィは空気を読まず場違いにもニコニコとしている。きっと彼はアクセプタがここまで怒るのは、それほどまでに心配していたことの裏返しだとわかっているのだろう。忘れられるのが常の没キャラであるフリィにとって、少し天邪鬼な彼女の心遣いが新鮮で貴重で、そして、そんな当たり前なことがとても嬉しいことなのは想像に難くない。
ヒロがチラリとレジーナの様子を窺えば、彼女は彼女で他人事のようにフリィとアクセプタの二人を微笑ましそうに見守っている。
「数日も出掛けるなら! せめてもう少し! 言うことがあんじゃねーのか!」
「だから、数日は食事は準備しなくていいって言ったんだよ」
「だあぁぁあ! そんなんでわかるわけねーだろうが!!」
「ごめんねセプたん、心配かけちゃって。でもただいま」
始終嬉しそうにしていたフリィがそう言って笑った。
反省しているのかいないのか。それは当のフリィ本人にしかわからないが、これほどの怒りをぶつけられてもニコニコと笑みを絶やさなかった彼にアクセプタはすっかり毒気を抜かれたらしい。
彼女は、それはそれは大きなため息を、わざとらしく吐く。
「ったく。まあいい。次はねーからな、ばーか」
アクセプタは悪態を吐きながら、軽く突き飛ばすようにフリィの胸倉を放した。
しかし、その声がどことなく優しげなことまでは隠せておらず。
彼女はそんな気恥ずかしさを誤魔化すかのように、ついでといわんばかりにレジーナを睨むように振り返った。
「いいか薬屋、アンタも、次はねーと思えよ」
「えっ、何で私も?」
「寝ぼけたこと言ってんじゃねーよ。薬屋の仕事だからって、黙ってランパートまで数日も出掛けたこと、忘れたとは言わせねーぞ」
「あはは……。ごめんね。次から気を付けるよ」
「わかりゃいーんだ」
そう言い捨てたアクセプタの物言いにはどこか棘があった。
だが、隠し切れない優しさが滲んでいることもわかるからか、レジーナもまたフリィ同様にニコニコとしている。そんな彼女の、自分の時とは違う反応にヒロは内心で少しだけ面白くなさを感じたが、結果としてレジーナが勝手な行動をしなくなるのならそれが一番だと思えた。
しかし。
「じゃあ私、行ってくるね」
あろうことかレジーナはそう言ってのけた。
「待てよ。まだ話は終わってない」
「別に、ヒロと話すことはもうないけど」
ヒロが慌ててもう一度彼女の腕を掴めば、レジーナは不服そうに彼を見た。
ティアリーとアウトリタとパーチェが心配そうに二人を見やる。一方で状況がわからないアクセプタとヴィクリが不思議そうな顔をし、フリィは意外そうな顔でレジーナ、ヒロの順で視線を向ける。
「何があるかわかんないだろ。だから俺も行く」
「村の広場に素材を買いに行くだけだよ」
「だが、足りなかったら村の外に採取しに行くんだろ?」
「村の周辺なんだから、何かあるわけないじゃん」
「でも俺は、今のレジーナを一人で行動させたくない」
「…………それって、私一人じゃ安心できないってこと?」
「というより、心配なんだ」
ヒロははっきりと言い切った。
それを聞いたレジーナは逃げるようにヒロから目を背け、そっと目を伏せる。言葉を失ったというよりも何かを堪えている様子の彼女に、ティアリーが不安そうに眉を八の字にした。ふと感じた不穏な空気に、アウトリタとパーチェが顔を見合わせ、状況がわからないながらもアクセプタが慌てて口を挟もうとしたが。
それよりも先に、ヒロが言葉を続ける。
「それでも、レジーナがどうしても一人で行きたいって言うなら、俺は一緒に行かない。けど、その代わり約束してほしい。村の外に出る時は必ず俺に言うことと、面倒だとしてもちゃんと昼飯を――」
「もういい。わかったから」
ヒロの言葉を遮ってレジーナは言い放った。
俯いた彼女の顔は前髪が陰になっているせいで表情は見えなかったが、ヒロにはその声が震えているように聞こえた。
「レジーナ……?」
「ヒロがそこまで言うなら、セプと一緒に行く。それなら満足でしょ」
そう告げるレジーナの声は努めて明るい口調だった。
ニコリと笑みを作った彼女はヒロの手を乱暴に振り払うと、逃げるように顔を背けて早足で離れると、アクセプタの手を掴んだ。
「行こうセプ」
「は? え? 何でアタシ?」
「ヒロ、弱くて頼りない私が信用ならないんだって。だから強くて頼りになるセプがいれば安心でしょ」
「いや、どっちかっつーかあれは…………ま、後でいーか」
アクセプタは若干のため息混じりで肩を竦めた。
それから、先程落とした紙袋とそこから転がり出てきたパンを拾ってフリィに渡す。
それを見届けたレジーナは、ヒロを一瞥することなく玄関へと向かう。
「いってきまーす」
「んじゃ、よくわかんねーけど行ってくる」
そう告げながらアクセプタも彼女を追ってコテージを出た。
玄関扉が気遣うようにゆっくりと閉まっていく。
それから、フリィが隠し切れない戸惑いを滲ませながら静かにヒロを振り返る。
「状況がよくわからないんだけど……、僕がいない間に何があったの?」
その問いにヒロは答えない。
というより、ショックが大きくて答えられないといったほうが正しいだろう。
ティアリーとアウトリタは揃って呆然としているヒロの様子を窺うと、どうしたものかと言わんばかりに顔を見合わせた。
何とも言えない沈黙が続く中、しびれを切らしたのか、パーチェが答える。
「ケンカしているのよ、一昨日からずっと」
「え? 一昨日からずっと? 何でまた?」
「それが――」
心底驚くフリィに、パーチェは言葉を選びながら簡単に事情を説明する。
一言で言ってしまえば、勇者の仲間としてもっと頼ってほしいレジーナとそんな彼女が心配で仕方ないヒロの気持ちの擦れ違いだ。普段ならば思い違いがないよう会話を重ねる二人も、状況が状況だったゆえに変に拗れてしまったのである。
説明を聞き終わったフリィは、仕方ないと言いたげに首を横に振る。
「それは完全にヒロが悪いよ」
容赦のない一言である。
とはいえ否定しきれない部分があるヒロとしては、親友の言葉は耳が痛かった。
代わりに、同様に説明を聞いていたヴィクリが口を尖らせる。
「そうかァ? どっちもどっちって感じじゃねェか」
「きっとヒロ、レジーナがいつもみたいに軽く受け止めたことに我慢できなくて強く言い過ぎたんだと思うよ」
フリィは当たり前のように言う。
「だってヒロは頑固で心配性なところがあるからね、またレジーナが同じような危険な目に遭うのが心配で耐えられなかったんじゃないかな。もちろん、レジーナの態度にも問題はあるけど、レジーナは自分に対する命の危機感が薄いから、そこはもうどうしようもない部分でもあるし。そうなるとやっぱり、今回はヒロの言い方が悪かったってことになるよ」
身も蓋もない親友の言葉にヒロはいたたまれない気持ちになった。
否定も反論もできないほどにフリィの言い分は完璧に的を射ている。ヒロ自身も言い方が悪かったことや言い過ぎたことを理解しているからこそ、その場にいなかった第三者の、しかも彼らをよく知るフリィの客観的な意見は心を抉るように痛い。
そんなヒロの様子から、この場にいる全員が図星なのだと悟った。
「すげぇなフリィ……」
「完全に見ていた人の発言ですよ……」
「ヒロもレジーナもわかりやすいよね」
フリィは微笑ましそうに笑った。
楽しげともとれる彼の声音からは、放っておいても大丈夫だという思いが言外に伝わってくる。フリィはヒロとレジーナが仲直りできると信じてくれているのだろう。
ヒロは自身の掌を見つめる。
そうして、何かを堪えるように強く握りしめた。
その後。昼過ぎにレジーナとアクセプタが素材集めから戻り、夕方過ぎには出稼ぎに行っていたモイとグローウィンも帰ってきた。配達から帰ってきたフリィにモイがタックルをお見舞いし、ヴィクリが初めて見る生物兵器のグローウィンにテンションが上がったりと、コテージは大賑わいだった。
その日の夕食は十人で鍋を囲んだが、ヒロはレジーナのほうを向けなかった。
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