マサ

 謹慎から明け、大野は会社に出社すると自分のデスクに荷物を置くより先に、部長と人事課長に謝りに行った。

 

「行き過ぎた発言をしてしまい、申し訳ございませんでした」

 

 部長と人事課長は最初、面食らいながら驚いた表情を見せた。しかし、大野の謝罪を受け入れる。

 

「うん、分かればいいんだよ。大野くんが素直に謝るなんて感心したよ。あの発言で怖いイメージがついたからね」

「いえ、本当に申し訳ございません。これからまたよろしくお願いいたします」

 

 部長と人事課長になんとか受け入れてもらえると次はマサのところに向かう。

 

「山本さん、この前意味不明なチャットすみませんでした」

「え、ああ。いいよ別に。今の今まで忘れてたし。なんか様子おかしかったけど、辛いことあったの? 私でよければなんでも相談してね」

「ありがとうございます。マサさんのおかげで……あ、いや、山本さんのおかげで頑張れそうです」

「今、マサって呼んだ?」

「ええ、はい」

「なんで?」

「名前が元プロ野球選手の山本昌に似ているので……」

「そういうことね。いいよ、マサって呼んでも」

「ありがとうございます。マサって呼びます。ありがとうございます。マサさん」

「大野君、早いなあ。まあいいよ。これからも仲良くしてね」

「はい」

「あのチャットの時はどういう状況だったの?」

「あの、彼女だと思っていた人の連れにダサくてキモイって言われて、しんどくなって否定してほしいと思って思わずチャットしてしまったんです」

「あー、そうなんだ。ってか彼女いたのか。残念だなあ……」

「いや、彼女っていうかぶっちゃけそういう詐欺師です。あと残念ってどういう意味ですか?」

「詐欺にあってたの? 最近大野君宛ての変な電話多いもんねえ。そういう影響か。残念っていうのは内緒」

「詐欺にあってました。内緒はやめてください。教えてほしいので内緒話できるようにご飯行きませんか?」

「んー、いいよー。今日でもいい?」

「もちろんです」

 

 大野の心は晴れ渡った。マサに許してもらえたことと、マサという呼び方を公認してもらったことと、可愛い女性と食事に行けることがうれしいのだ。大野はその日の仕事に謹慎前以上に真剣に取り組んだ。そうして真剣に仕事に取り組むと自然と仕事が楽しいと思えるようになった。そのように真剣に仕事をしているとすぐに時間が過ぎ、定時の時刻になった。マサのところへ向かうと、マサもちょうど仕事を終えたところだった。

 

「大野君も仕事終わった? じゃあ、行こうか」

「はい!」

 

 2人で会社を出ると外は晴れ渡っていた。だんだんと熱くなってくる季節でアスファルトからの照り返しが熱い。少し歩いただけで汗ばんでしまう。マサが尋ねる。

 

「大野君、食べたいものある?」

「もう予約しました。イタリアンなんですが大丈夫ですか?」

「あ、うん。ありがとう」

 

 大野はなんとなく女性との付き合い方が分かってきた。歩いているときも車道側を歩きエスコートする。大野は長谷川との出会いからいろいろカップルのことを勉強し、自然な振る舞いができるようになっていた。目的の店に着く。

 

「予約の大野です」

「お待ちしておりました。こちらの席へどうぞ」

 

 通された席は窓側で外の風景が見える良い席だった。当然禁煙席で、雰囲気はとてもよかった。

 

「良い席予約できたんだね」

「はい、マサさんと仲良くなりたかったので」

 

 メニューを見て2人とも白ワインを注文する。メインはパスタにして、サラダやおつまみを適当に注文した。なんとなく食の好みが近しい感じがした。大野が切り出す。

 

「マサさん、さっきの彼女いて残念ってどういう意味ですか?」

「そのまんまの意味。大野君のこと少しいいなって思ってたから」

「僕もマサさんのこといいって思ってますよ」

「あらそう。でも私、簡単には付き合わないよ」

「じゃあ、この1、2時間の食事で惚れさせてみせます」

「お、いいねえ! 頑張って!」

 

 大野にも積極性が見えてくる。長谷川に浮かれていた男とは到底思えない。長谷川との経験から少しだけ成長できたようだ。白ワインが届くとマサのグラスにまずは注ぐ。

 

「どうぞ、飲んでください」

「ありがとう。大野君も飲んで」

 

 そう言ってマサが大野からボトルを受け取り逆にグラスに注いでくれる。

 

「ありがとうございます。今日は飲みましょう」

「うん」

 

 サラダから順番に料理が次々に届き、2人で食事を楽しむ。ワインも料理と相性が良く美味しかった。だんだんと2人に酒が回ってくると、話題は過去の恋愛話になっていく。

 

「大野君はその詐欺師以外に恋愛をしたことないの?」

「ないです。ずっとモテなかったので。だから舞い上がってしまったんですよね。マサさんはどうなんですか?」

「そうなんだ。私は大野君と違って何人かと付き合ったことあるよ」

「なるほど。ちょっとショックですね」

「ショックって、誰とも付き合ったことのないほうがやばいでしょ」

「俺のことですか?」

「そうそう。なんてね」

 

 2人で笑いながら過去の話をする。マサの過去の恋愛話は大野としては複雑な気持ちで聞いていたが、確かに誰とも付き合ったことのない方がやばいななんて思いながら話を聞いた。なんとなく時間も更けてきて、次どこに行くかの話になる。

 

「もう帰りますか?」

「うーん、大野君が行きたいなら二件目行く?」

「行きましょう」

「じゃあ、こっちね」

 

 マサが向かったのは夜のライトが怪しく輝くホテル街だった。大野は緊張と焦りで思わずたじろぎながら、ここってホテル街だよななどと思う。

 

「こっちってホテル街ですよ?」

「そうかもね。嫌?」

「嫌じゃないです」

 

 大野は初め戸惑ったが、ついに童貞を捨てられると思って興奮しだした。2人でホテルに入ると、マサが慣れた手つきで部屋を決める。大野はただ黙ってついていくだけだった。

 

 マサが「シャワー浴びてくるね」と言い、その間大野は勃起がすさまじいことになっていた。今まで感じたことないほど怒張しているのだ。今にも張り裂けるのではないかと思ってしまうほどだった。1回マスターベーションをして収めた方がいいのだろうかと思うほどで、しかし、マスターベーションをしてしまうと再び勃起しないのではないかと思ってしまいためらう。

 

 すると、マサがシャワールームから現れる。「お待たせー」なんて言いながら、大野に近寄る。髪や身体がしっとり濡れたマサは女慣れしていない大野にとって最高にフェロモンを感じた。マサが大野の怒張した陰茎に気づく。

 

「なに? そんなに興奮してるの?」

「いや、これは……」

「今すぐしたいけど、まずは大野君もシャワー浴びてきて」

 

 そう言ってシャワーを浴びるように大野を促すとマサはベッドで横になった。シャワールームで大野はやはり怒張した陰茎に気を遣いながら、身体を入念に洗う。大野は途端に緊張が抜け、興奮した気持ちに変わってきた。あと少しでセックスできる。そう思うとどんどんテンションが上がり、鼻歌なんて歌いだす。丁寧に身体を洗い終えると全裸でマサのところに向かった。

 

 すると最悪な状況に気づいた大野。マサが横になったまま寝ていたのだ。大野は絶句する。

 

「まじかよ……」

 

 大野は少しマサを揺さぶってみたり、咳払いをしたりで起こそうとしたがマサは目を覚まさなかった。大野はがっかりしながらマサの裸を見て、おっぱいを揉みながら、マスターベーションに興じた。そのマスターベーションは今までで一番気持ちよかった気もするし、なんの味気もないマスターベーションだった。

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