北海道ツーリング

 自宅謹慎となり、ものすごく暇になり、精神状態も最悪な大野は考えていた。何をしよう。正直出かけたくはないが、出かけないで家にずっといるとそれはそれで精神状態がより悪くなってしまいそうだとは、想像に難くない。そうだ、せっかく休みになったのだから、時間がないとできないことをしようと思い立つ。まず思いついたのはバイクで北海道をめぐることだった。そうと決まればPCを立ち上げ、北海道までのフェリーやら北海道のツーリングルートを調べだす。ここはバイクで走ったら気持ちが良さそうだな、ここの飯はおいしそうだ。絶対に寄ろう。お金は結構かかるが、絶対やった方がいい気がする。大野はざっくりとしたルートを決めると、テンションが上がってきた。

 

「休み最高だな」

 

 そう独り言つと、大野は布団で横になる。ある意味自宅謹慎になって良かったかもな。こんな自由な時間を過ごすことができるんだ。会社員だったらめったにできないぞ。うちの会社ただでさえ有休取りづらいのに。絶対明日から楽しむぞ。あいつら見てろよ。お前らの人生の100倍楽しんできてやるからな。そんな妄想をしていると瞼が重くなり、いつの間にか眠っていた。


 次の日、大野はバイクにまたがると大洗にあるフェリー乗り場へ向けて、バイクを走らせようとバイクからカバーを外す大野。大野の愛機はいつも通り輝いていた。準備は万端で、このツーリングも動画を作成しようと思っていたので、マイクやカメラの設置をする。バイクにまたがると早速走らせる大野。天気は良く、ツーリング日和だった。常磐自動車道を通り、大洗まで行くルートで時間は調べたところ1時間半ほどかかるらしい。


 平日の朝からバイクを走らせているだけあって大野は妙な解放感を感じていた。仕事をしないとこんなに自由なんだなと思い、嬉しくなる。俺はこれから北海道を走るんだと思うと、ワクワクするし、この途中の道も楽しむことができた。バイクは順調に走っていく。信号にもあまり引っかからず、快適なバイク旅だ。途中何回かパーキングエリアで小休憩をしつつ、大洗まで走らせる。バイクを買う前だったら味わえなかった快楽が大野を支配する。走りながらナレーションを入れることも大野は忘れない。

 

「私はですね、今東京都内から大洗のフェリー乗り場を目指してバイクを走らせております。何目的かと言いますと、実は今回北海道をツーリングするつもりです! 会社でまとまった有休を申請できたので今回北海道に行ってみようと思ったわけですが、そのワクワクをみなさんと共有したいと思い、今動画を撮影しています。今は茨城県に入った辺りですが、ここまではとても快適な旅路です。早くフェリーに乗って、北海道まで行って、北海道の大地を満喫したいですね。しかし、北海道は実は2年程前に友達と飛行機で行ったんですよね。実はその時財布を忘れてしまい、友達に大きな迷惑をかけてしまったことは思い出として残っています。今回はね、さすがにそんなことはないですが、いい旅にしたいですね。前回はレンタカーで各地を巡ったのですが、今回は前回行かなかったオロロンラインや宗谷岬を巡ろうかななんて思っているんですがね。バイクでまだ肌寒い北海道の風を存分に感じて、まあ、病気の風邪なんかには気を付けて走っていきたいなーなんて思っています。グルメなんかも楽しみでね、セイコマの総菜や味噌ラーメンがね、私大好きなんですけども食べていきたいなと思います。いやーしかしあれですね、関東でも結構風を感じるんですけども、北海道着いたらどんだけ風があって寒いんだなんて思いますけれども、まあ防寒対策はしっかりしているので大丈夫だと信じています。ワークマンで買ったこのジャケットと北海道の風の勝負になりますね。しかし最近のワークマン人気すごいですよね。意外とファッション好きの方からも最近支持されたりですとか。昔だったら考えられないですよね。私は今全身ワークマン装備なので本当に安心してバイクを走らせています。そう言えば私、中学時代は野球部だったんですけれども、用務員の方も野球部の顧問のような形で教えていただいていたんですよね。ワークマンと用務員繋がりで思い出したんですがね。その用務員の方がアラフォーくらいなのかな。結構優しくて、顧問の先生が別にいるんですが、顧問の先生は結構厳しくて、用務員の方は優しかったのでみんな用務員の方になついていましたね。私は割とお二方とも好きでしたが、やっぱり部活やっていてよかったななんて今思うわけです。理由としては根性論は嫌いですが、でも根性って少しはあると思うんです。今の仕事好きじゃないのに続けられているのはやっぱりそこで根性が身についたからなのかななんて思いますね、最近。中学時代と言えば2、3年の担任が女性の美術の先生だったんですが、ちょっとこれがヒステリックな先生で。友達が事あるごとに厚化粧だったというくらいの見た目をしている先生だったんですが、本当に私は嫌いでした。なにが嫌かって、思い出すのは合唱コンクール。合唱コンクール、私は本当に嫌で嫌でしょうがなくて。みんなで練習するときも私をなんとか説得しようと担任がしてきたんですが、私はそれを拒否して勉強していましたからね、みんなの練習時間に。ここだけ聞くと私が自己中な感じしますが、担任が根性論の信奉者で、頑張ればみんなうまくなるって言って効率化を意識せず、とにかく時間をかければいいと思い込んでいやがるんですよね。私は本当に非効率的なことが嫌いなので、本当にその練習時間が嫌でした。みなさんも嫌な先生とかいましたか? いたらコメント欄に書いていただけると嬉しいです」

 

 といった具合にバイクの走りも順調であったし、お得意のトークも調子が良かった。これは結構な取れ高あるなーと思う大野。大野はただのツーリング動画ではなく、バラエティとして面白い動画を目指している。そういう点ではニコ生やツイキャスで鍛えたトークが生きていた。大野は大学時代からネットにどっぷり浸かり、ニコ生主として大喜利配信や一人しゃべりの生放送をしていた。ネットでの友人は多くできたし、大野自身もそのことについて満足しているが、大学には友人はおらず、キャンパスライフは無味乾燥な日々であった。また、ツイキャスに関しては最近ニコニコ動画が下火になってきたこともあって、ツイキャスに鞍替えした運びであった。


 やることとしては大喜利はやらなくなったが一人しゃべりの動画を配信している。たまに誰も視聴していない時もあるが、そういう時でも一人でしゃべりことをやめない。それほど大野はトーク力に自信があったし、生きがいとして、しゃべりが好きだった。大野は昔からお笑いが好きであったので、自分でも人を笑わせたいと思っていたし、面白いという自信があった。しかし、どこで拗らせたのか、人を笑わせるというより、大野自身のことを面白いと認めてほしいという承認欲求にまみれるようになった。やはりそれは高校時代のずっと独りだったという辛い過去があるからだ。それは大野の中から消えることではないし、これからも引きずってしまうことだが、その経験も今の大野の中に生きていると言える。

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