次から次へと

 蘭月の脅しに屈した襲撃者は、誘拐犯に関する情報をいくつか吐いてくれた。


「あんたらの仲間を誘拐したのは、恐らくロールシャッハの一味だ」


「ロールシャッハ? DCコミックのヒーローみたいな名前だな」


「聞いたことアルアルヨ」


 疑問符を浮かべる俺の代わりに、裏社会に精通している蘭月が解説をしてくれる。


「確かコノマエ私達がセンメツしたモンタージュの下部ソシキがそんな名前だったネ」


「ああ、そうだ」


 襲撃者の男が肯定する。

 モンタージュってのはアメリカからキューブを奪い、bdの力を使って悪さを企んでいたテロリストグループのことだ。このモンタージュはトレちゃんや蘭月の活躍によって壊滅し、キューブもそこで奪還してFMKが預かることになったのは記憶に新しい。


 そのモンタージュの下部組織ってことは、ロールシャッハもテロリストってことだ。

 まあ、目的のために安易に大統領の娘や一般人を誘拐するヤツらが、実はテロリストだったと言われても驚きはしないが。相手が誰だろうと俺達がやることは変わらない。一鶴と大統領の娘の救出だけだ。


「ロールシャッハは、モンタージュの思想を強く受け継いでる組織だ。他のどの組織や勢力よりも、キューブの存在に固執しているはず。真っ先に行動を起こすとしたら、あそこ以外には有り得ないな」


「ソイツラがドコを根城にシテルか教えるネ」


「知るかよ。ただ日本に来てるのは確実だ。確かな情報筋からの情報だし、俺達もロールシャッハには出来るだけ関わらないよう細心の注意を払ってたからな」


「人質とキューブの交換ヨウキュウをしてきたデンワの声はオンナだったネ。コイツに心当りは?」


「そいつは多分マリーネだ。マリーネ・テンパード。組織に忠誠を誓ってるイカれた思想家だよ。ロールシャッハの実行部隊の隊長で、戦闘のエキスパートでもあるな。キューブの確保はロールシャッハの至上命題だろうから、ロールシャッハはほぼ確実にマリーネを投入してきてるだろうよ。これはもう界隈じゃ常識だぜ」


 どこの界隈だよ。

 闇界隈か。


「bd、調べるヨ」


『もう調べました。マリーネ・テンパードは国際指名手配犯ですね。ですが日本に来ているという情報は見つかりませんでした。CIA、FBI、ICPOの調査でもマリーネ・テンパードの所在は現在不明とのことです』


「CIAとかはアテにならんアル。bd独自で調べるネ」


『では全国の監視カメラをスクリーニングして該当人物が映っていないかチェックしましょう』


「整形シテても見つけラレルアルカ?」


『私は超高性能のスーパーAIですよ? 顔以外でも例えば歩容認証でも人物の判別は出来ますし、その気になれば僅かな動作のクセからでも人物を特定出来ます』


「未来のプライバシーはソウヤッテ失わレテいくアルネ。まあ、頼むアル」


『はい、しばし時間を。ついでに丸葉一鶴やキャロライン・M・シルバーチェインが最後に何処に居たかも調べましょう。ワンチャン、そこから追跡調査をすれば現在地も分かるでしょうから』


「ソンナノ言われるマエにやっとけアル」


『今しますぅ』


 喧嘩すんな、こんな時に。


 ともかく、一鶴たちの捜索はbdに任せるしかないだろう。

 そして見つけ次第トレちゃんをぶつけて即救出。これしかない。

 あとは相手の指示に従っている振りをしながら、少しでも時間を稼ぐだけだ。


「ともかく一旦トレちゃんと合流しないと。ロールシャッハに従ってるふりをするためにも、俺がキューブを預かる必要があるし」


「チョット待つネ、トレインからメッセージアル……イヅルのスマホを見つけたらしいネ。ゼンゼン無関係の一般車両の底部に、ダクトテープで貼り付けラレテいたらしいヨ」


「やっぱりそう簡単には見つからないか……」


「こっちにbdが居ることは、敵もハアクしてるヨ。カンタンに尻尾は掴ませてクレナイだろうネ。一先ず、トレインに事務所にクルよう伝えたカラ、少しマツアル」


「……この襲撃者たちはどうする?」


「縛って放置ネ。ザコにカマッテル余裕はナイアル」


 そこまで話したところでフランクリンが事務室に戻ってきた。

 幽名たちを見ているよう頼んだはずなのに、何故持ち場を離れてるのか。

 まあ、何か問題が起きたのだろう。顔を見れば分かる。


「リーダー、悪い報せだ」


「幽名が何か仕出かしたか?」


「そうじゃない。今の騒ぎのせいで、今起きていることが上にバレた」


 上、というのはCIAの上層部か、それかもっと上のことだろう。

 最悪大統領まで伝わってる可能性もある。


「その上はなんて言ってるんだ?」


「一先ずキューブを誘拐犯に渡して、人質を解放させろと言ってる。クソったれの大統領がな」


 脅しに屈するなよ合衆国大統領。


「それで今からここに日本に居るFBIとCIAの連中が来る。あと日本の警察も、アメリカの協力要請に応じて出動するらしい」


「……まさか全部ここに来るのか?」


「そう思った方がいいだろうな。爆発騒ぎがあって通報も入ってるみたいだし、どっちにしろ時間の問題だっただろうが」


 おいおいおい……めちゃくちゃ大事件になってないか?

 爆発騒ぎだとかなんとか、こんな形でFMKが全国ニュースデビューするのは御免だぞ。

 キューブの存在はアメリカさんも世間に公表出来ないだろうから、なんらかのカバーストーリーは用意してくれるとは思うが……場合によっては世間的にFMKを潰そうとしてくる可能性もある。そこに対しても何らかの対策をしなくちゃならないかもしれない。


 ったく……こっちはオーディションで忙しいってのに、なんなんだよどいつもコイツも!!!

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