GOと号をかけてるってワケだ

 未確認飛行物体とは。

 英語で言うとUnidentified Flying Object、所謂UFOというヤツだ。


 UFOと言えば……グレイ型の宇宙人が乗っていて、円盤状の形をしていて、不規則な動きで空を高速移動し、たまに牛や人間を攫ったりするアレを思い浮かべるだろう。


 地球上では1950年前後、或いはそれより遥か太古の時代から今日に至るまで、未確認飛行物体の目撃情報、実際に接触したという話は無数に報告されている。

 が、その多くはインチキ、見間違いに勘違い、嘘、冗談、そうじゃなければフィクションであると俺はずっと思い続けて来た。


 だってそうだろう?

 ネットで目にする未確認飛行物体の映像はどれも合成丸出しか、そうでなきゃ子供騙しのチープな映像トリックだったし、いかにもな立場の人間がUFOの存在を公に認める発言をしたところで、それすらも胡散臭くて信用に値しない場合がほとんどだったからだ。ネットで得た情報や証言なんて、どれも実際には確かめようのないものばかりだしな。


 しかしまあ、常識なんて代物はある日突然、呆気なく崩壊するものだ。

 俺にとっては今年の5月辺りからその傾向が顕著になっていたのだが、今日はめでたく? 常識崩壊の記録更新日となった。常識のインディペンデンスデイだ。


「これがこの船――『宇宙船ラララGO』の全体像だぞ」


 場所は変わって、宇宙船の多分ブリッジらしき場所。

 オペレーター席にぴょこんと座ったララ子が、モニターにUFOの外観モデルを表示する。


 このモニターも、フレームが存在していないホログラフィック仕様のディスプレイになっており、その科学力の高さがララ子が宇宙人であるという自称の裏付けにもなっていた。今の地球で同レベルの技術力を発揮出来るのは、それこそ世界有数のエンジニアである俺の両親か、それ以外だとbdの産みの親である例の博士くらいだろうか。というか、この状況で今更裏付けもクソもないのだが。


「このタマゴみたいのが、今俺達の乗ってる船だってのか?」


「だぞ」


 船の外観は、タマゴを横向きにしただけのシンプルすぎる見た目だ。

 どうやら円盤型ではないらしい。


「信じらんねえ」


「同感よ」


 俺と同じく未だに半信半疑らしいキャロルが、オーバーリアクションに肩を竦める。

 そんなアメリカンステイツの令嬢に、俺は一般市民を代表して胡乱な視線をぶつけてやった。


「アメリカ政府は地球外知的生命体に関する研究を大昔から進めていなかったっけか? ほら、エリア51とかロズウェルとか」


「あぁもう、勘弁してMr.代表。私って考え方的にはどっちかって言うとスカリーなの。分かる? X-ファイルは見たことあるかしら?」


「リマスター版の再放送ならちょっと見たことあるぜ。何回も同じ日をループする話が好きだったな。銀行強盗の犯人が自爆して、毎回それに巻き込まれて朝からやり直すやつ」


「月曜の朝ね。ちなみに私が好きなエピソードはドリームランドよ」


「サブタイ言われてもどんな話か思い出せねえ」


「モルダーと、エリア51に勤めている職員の精神が入れ替わっちゃう話」


「あーはいはい、モルダーが鏡の前で踊るやつか」


「そうそう、それよ」


「おーい! 2人でなんの話をしてるんだぞ!!」


 ララ子に怒られてしまった。

 FMKの既存メンツは海外ドラマを見てる人間が居なかったから(フランクリンは仕事以外の話をしたがらないし)、ついつい興が乗ってしまった。だがくだらない話に脱線したお陰で、ちょっとだけ冷静さが戻って来た。


「ここはマジで宇宙船の中なんだな?」


「だぞ!」


 ララ子はトレちゃんを彷彿とさせる元気さで頷く。


「で、ララ子はマジモノの宇宙人ってことでFA?」


「ファイナルアンサーだぞ!」


 宇宙人のクセに地球の島国のネットスラング(死語)にも詳しいようで。

 ちょっと宇宙人ポイントが減少した。


 だが実際に何の動力で動いてるのか、このフォルムでどうやって宙に浮いているのかも理解不能な船に乗せられたら、嫌でも彼女が宇宙人だと信じるしかない。これでも信用出来ないなら、血の色を見せてもらうか、それとも大気圏を突破して宇宙空間まで飛んでみてもらうくらいしか証明する方法がないだろう。先に断っておくが、どちらの方法もお断りだ。そもそも宇宙人だって血の色は赤いかもしれないし。もう考えるのも面倒なので信じておくこととする。


「じゃあ、3次選考の面接の時に『自分は宇宙人だぞ!』って言ってたのも全部本当だったってことか……」


「だぞ!」


「あ? それじゃあ、面接の時に一緒に来てた保護者の方もそうなのか?」


 ララ子は面接の時、母親らしき人間と同伴で事務所を訪れていたはずだ。

 しかし今のところ宇宙船の中でそれらしき姿は見かけていない。というか、宇宙船の中に居るのは、俺とキャロル、鞍楽と黒王号、そしてララ子の5人だけだ。他にクルーはいない。


「あの人は、ちょっと記憶を操作して、一時的にララの保護者役になってもらっただけだぞ?」


「わぁ、宇宙人らしい狡猾さだ」


 どうやら保護者は無関係の一般人だったらしい。

 どうりで電話を掛けても繋がらないわけだ。


「あー……そうか。まあ、なんだ……ララ子が宇宙人だってことは理解したよ」


「だぞ!」


 だぞじゃないが。

 どこの銀河系からやってきたかは存じ上げないが、地球人類の一歩先の文明力を有している割には、目の前の宇宙人は頭からっぽで夢詰め込めそうだ。コイツから色々と聞かなきゃいけないことがあるって事実に頭が痛くなる。


「で、その宇宙人さんが一体どうしてVTuberになろうと思ったんだ?」


「ちょっとMr.代表、今それ聞くの?」


「俺にとっては大事な事なんだよ」


 前に面接した時は、アレだ。本物の宇宙人だとは思ってなかった。

 個性的で面白いヤツだとは思ったが……なんでコイツを合格させたんだろうな。俺は。


「なんでって、代表が誘ってくれたからだぞ?」


「は?」


 当然だが、俺はララ子をスカウトした記憶などない。

 口を開けて固まる俺を見て、ララ子も口を開けた。


「だぞ? あっ」


 そして何かに気付いたように両手で口を塞いだ。


「あっ、あっ、そうだった。忘れてるってことを忘れてたぞ」


「忘れてるって? 誰が、何をだ?」


「言えないぞ! そういう約束だぞ!」


 言ってる意味は分からないが、ララ子の意志は固そうだった。

 それに約束なら仕方ないな……何故かそういう感情が浮かんでくる。


「じゃあいいや」


「いいの? わざわざ聞いておいて? 明らかに何か隠してるわよ?」


 キャロルがいちいち口出ししてくるが、とりあえず無視だ。


「じゃあ次の質問。なんで路地裏で行き倒れてたんだ?」


「思ったより地球の空気が合ってなかったんだぞ。でも、もう大丈夫だぞ。船のラボで改造したから」


「改造……」


「ぎゅいーん、だぞ」


 その擬音からあまり想像したくない光景が目に浮かぶんだが。

 聞くんじゃなかったな……。


「で、もういっこ質問。密林事務所の屋上から、この宇宙船にアブダクションしてくれたのは助かったけど、もしかしてずっと起きてて、助けるタイミング図ってたのか?」


「そういうワケじゃないぞ? 船はずっと前からエマージェンシーコールで呼んでて、たまたまあのタイミングで来てくれただけだぞ。そのついでに、敵性判定のなかった味方っぽいのをまとめてアブダクションしただけだぞ、船のAIが勝手に」


「なるほど。まあ、事情はどうあれ助かったよ。あのままあんな場所に軟禁されてたら、こっちも野生化しちまいそうだったしな」


「ヒヒ~ン」


「もう野生化してるやつもいるけど」


 黒王号はなんなんだよ。


「他に質問はないんだぞ?」


「ああ、もういい。とりあえずは」


 知りたい事なんて山ほどあるが、とりあえずはもう疲れた。

 馬だのジャングルキングだの宇宙人だの、ワケの分からんのが次から次へと出て来すぎだ。


「なんなんだよ……本当に……」


 空いてる操縦席に勝手に腰を降ろし、両手で顔を覆う。

 現実から目を逸らすかのように。

 気を遣ってか、誰もしばらく俺に声を掛けようとはしてこなかった。

 余裕のない俺は、それを特段ありがたいとも思わなかったが。


 奇人怪人はもうたくさんだ。

 夢のせいかもしれないが、俺はとにかく瑠璃や一鶴たちに会いたくなっていた。

 心の底から。

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