やったやってないの水掛け論

「まぁ、いいわ。ではMr.代表の言う通り、ナキはアンチの嫌がらせに嫌気が差してVを辞めたのではないとするわよ。というか、自身の意志で卒業を選んだワケじゃないと考える」


 俺に気を遣ったのか、キャロルが一旦元の前提に立ち返って考察を始める。


「そうすると、途中でMr.代表が推察していたように、やはり何者かに圧力を掛けられるか……それか脅されるなどして、本人の意思に反して卒業せざるを得なくなった可能性が高くなる。ここまではいいかしら?」


「ああ」


 俺は回想してる最中にキャロルが淹れてくれたコーヒーに口を付ける。

 味は、まあ普通だ。七椿の淹れてくれるコーヒーが恋しくなった。


「私はナキに圧力を掛けた人間を、ナキの両親だと推理したわ。でもMr.代表はそれも違うと否定的な見解を示していたわよね?」


「そうだな、あの人たちのやり方っぽさがない」


「っぽさは大事よね。……それで?」


 それで、と言われてもな。

 キャロルが何が言いたいのか分からなかったので、俺はもう一度コーヒーを口に含んで時間を稼ぐことにした。キャロルの隣で鞍楽が変顔をする。くだらん真似をするな。コーヒー噴きかけただろうが。


「……それで、Mr.代表は他にナキに圧力や脅しを掛けそうな人間に心当たりは? 当然あるのよね? ここまで人の推理を頑なに否定するってことは、貴方なりに犯人の目星が付いているんじゃないの?」


「そうなんすか?」


 キャロルと鞍楽、2人分の視線が俺に集中する。

 何も知らずに暢気に寝息を立てているララ子の顔に目をやってから、俺は観念して頷いてみせた。


「ひとりだけ、そういう回りくどいやり方が好きそうなヤツに心当りがある。しかもFMKを目の敵にしていて、なんなら俺はそいつに一回命を狙われたこともある」


「命とは穏やかじゃないっすね」


「もうソイツが犯人なんじゃないの? 誰なのよ、その愚か者は」


「……密林配信プロダクション社長、有栖原アリスだ」


 ■


 有栖原アリスは、一度FMKの崩壊を狙って俺を亡き者にしようとした前科がある。

 正確には、丸葉一鶴をV業界から追い出すために、まずFMKを潰そうとした……というのが正しい狙いだが。一鶴本人を狙わずに、何故か俺の命を狙うという回りくどい手段を取って来た実績を鑑みるに、今回の件も正にそれなのではと思えてしまう。


 ヤツはナキを卒業に追い込み、それ以外のライバーも休止させるように誘導し、スタッフらも全員離脱させるように綿密な計画を立てた。結果、FMKは機能不全を起こして、V運営としては虫の息の状態にある。演者が全員不在というのはそれだけのダメージを意味している。


 有栖原の真の標的であった一鶴も、つい数時間前に俺を殴って事務所を出て行ってしまった。しかも直後に金廻小槌のSNSアカウントで『しばらく休むわ』と休止宣言をかましてもいる。

 もし有栖原が裏で手を引いていたとするならば、きっと今頃あの社長室で腹を抱えて大笑いしていることだろう。


 有栖原が本当に黒幕だったら、だが。


「なんなのその自信なさげな顔は、Mr.代表。もしかして、自分で有栖原とかいうのを犯人に挙げておいて、それすらも信じられないって言うの?」


「信じられない……というか、信じたくないっていうか……」


「なにそれ」


「そこんとこ俺にもよう分からん」


 それは流石に嘘だ。

 有栖原を犯人だと信じたくないと思ってる理由は、俺が一番良く分かっている。


 確かに俺はアイツに一度理不尽に命を狙われたりもした。

 でもその後は、テロリストから世界を守るために共闘したり、10月に入ってからはアイツの推薦でとあるVTuberイベントへの参加を促されたり、まあ、そんなに悪くない交流があった。


 だからあれだ、簡潔に述べるなら情に絆されたとでも言うべきか。

 殺され掛けておきながら何を馬鹿なことをと思われるかも知れないが、それでも俺は有栖原が根っからの悪ではないのかもしれないという情を抱いてしまっていた。


 だから俺からしてみればここまでの回想劇は、有栖原犯人説を否定する材料を探すためのものでもあったのだ。有栖原以外の別の犯人を見つけるための。

 一応、ここに至るまでで別の犯人候補も思い付いてはいる。


「有栖原以外にも、FMKが潰れることで得をする勢力はいる。例えば、お前のとこの国がそうだよな、キャロル」


 アメリカは、キューブを所有するFMKの存在を疎ましく思っているのは間違いない。

 ならば裏で手を回して、出来るだけアメリカのせいだと分からないようにFMKを潰しにかかっていた可能性は否めない。それ故の回りくどさだったとしたら説明も付く。


 そもそもbdだって、ドムガル案件の時に言っていたはずだ。

 FMKの代表である俺の妹を攻撃することで、俺がbdを使ってアンチに報復することを誘発しているのかもしれないと。そうすることで、FMKからキューブを取り上げる大義名分を得ようとしているのだと。そうbdは推測を立てていたはず。


 つまり犯人候補として考えるなら、アメリカさんは有栖原と同じく動機がハッキリしているってことだ。


「あり得ないわね。私がFMKに入りたがってるのは、パパも知ってるのよ。なのにそんなことするワケない」


 しかしキャロルはアッサリとアメリカ犯人説を否定する。

 理由はちょっとアレだが、キャロルはとにかく自信満々だ。

 一方の俺は自信がほとんどない。


「うーん……いやでも、ほら……なにか見落としているのかも。ここまでで名前が挙がってる人物で、FMKに執着のありそうな意外な人物が犯人って可能性がだな……」


「苦しいわよ」


「苦しいっす」


 苦しいか、流石に。


「とにかく現在挙がってるナキを脅したかもしれない犯人候補は3つね」


「有栖原、ナキの両親、あとキャロルの母国」


「そこまで絞れてるのなら、とりあえず直接本人たちに問い質してみるのが早いんじゃない?」


 まあ、ここまで来たらそういう流れになるよな。

 恐ろしく気乗りがしないが。


 これで本当に有栖原が犯人だったりしたら、それはそれで俺は苦しみそうな気がする。

 アイツがここまでFMKを追い込んだのだとしたら、もう今度こそ本当にどうしようもなく決別しなくてはならないからだ。


「じゃあ本命で、しかも一番接触しやすそうなとこから攻めていきましょう。Mr.代表、有栖原との連絡手段はあるの?」


「……ある」


 前にあっちから俺の携帯に電話してきたことがあった。その時の履歴がまだ残っている。着信拒否とかにされてなければ、その番号に掛ければ有栖原に繋がるはずだ。


「だったら今すぐ掛けるべきね。白黒ハッキリさせましょう。そして、もし有栖原がFMKにちょっかいかけていたのだとしたら、今すぐに止めさせるべきよ。まずは原因を排除しないことには、ナキもFMKに帰って来たくても来れないでしょうから。心配いらないわ、FMKのバックには今私が居るのだもの」


「ああ、そいつは心強いね」


 アメリカが一番の敵じゃなければな。


 俺はスマホを取り出し、しっかりと残っていた着信履歴と数分ほど睨めっこしてから、気乗りしないまま震える指先で画面をタップした。

 スピーカーにしてキャロルと鞍楽にも通話を聞こえるようにして、スマホを机の上に置く。


 そして十秒ほどコール音が鳴ってから、もしかしたら出ないかもという俺の予想を裏切って、画面が通話中のそれになった。


『――そろそろ掛けてくる頃合いだと思ってたのよ』


 可愛らしいのにねちっこい喋り方で、有栖原は開口一番にそんなことを言う。

 どうやらあっちは俺が有栖原に連絡を寄越すことを予想していたようだ。

 つまり、今回の件で自分が疑われるだろうことを分かっていたのだろう。


 だから俺は、駆け引き無しに、一番聞くべきことを有栖原に問うことにした。


「お前なのか?」


『アリスはなにもしてないのよ』


 主語もなにもない質問だったが、有栖原にはちゃんとそれで伝わったらしい。

 そして返って来たのは否定の一言。


「ほんとにか? ほんとのほんと? 神に誓って?」


『アリスは賢いから神なんて信じてないのよ』


「その発言は賢くなさそうだぞ」


『黙るのよ、潰れかけの弱小事務所の分際で』


「うっ」


 痛いとこを突いてくるヤツだ。

 というか、コイツが言うことをそのまま鵜呑みにすることも出来ない。

 勢いで電話を掛けたのはいいが、ここからどうするべきか。


『お前、今どこに居るのよ』


 次になんと質問しようかと迷っていると、有栖原の方からそんな質問をしてきた。


「どこって……FMKの事務所」


『ああ、自分の城でウジウジ悩んでたってことなのよ』


「うるせえなあ、その通りだけどムカつくガキだ」


『ガキって言うななのよ。……まあいいのよ、どうせ今そこで安楽椅子探偵の真似事しかすることがないのなら、一度こっちに来るといいのよ』


「は? こっちって?」


『こっちはこっち、密林の事務所なのよ』


「え……イヤだけど」


『なんでなのよ!!!』


 普通に断ったらめっちゃキレられた。


「だってお前、俺に暗殺者仕向けるじゃん。今俺の身を守ってくれるガードは誰も居ないし……」


『今回はそういうんじゃないのよ。そもそもその気があったら、わざわざ密林事務所まで呼ばないのよ。厄介な用心棒さえいなければ、どこでも好きな場所で、好きな時に殺れるのだから。相手に準備する隙を与えずに』


 うわぁ……。

 って顔を俺がすると、鞍楽とキャロルも似たような顔をしていた。

 誰が聞いてるとも分からないのに不用心なヤツだ。


『ともかく来るのよ。話がしたいと、我が王も仰ってる』


「は? ワガオウ? 誰?」


『来れば分かるのよ』


 そこで通話は切れてしまった。


「どうする?」


「それを決めるのは貴方じゃない?」


 ご尤もだ。

 それに選択肢はひとつしかない。

 瑠璃を連れ戻す手立てがあるなら、俺は迷わず飛び付くべきなのだから。


「じゃあ行くか、みんなで」


「自分らは呼ばれてないっすけど、付いてっていいんすか?」


「俺ひとりで来いとは言われてないし、大丈夫だろ。多分」


 有栖原はその辺寛容だって一鶴が言ってたしな。前に奥入瀬さんの件で一鶴達が密林に乗り込んだ時も、大勢で押し掛けたけど中には入れてくれたって言ってたし。

 そもそも俺ひとりで行くって言っても、どうせコイツらはついて来るつもりだったろうしな。


「この子はどうするの? 置いてく?」


 キャロルが未だに目を覚さないララ子を顎で指す。


「事務所に置いてくのはな……盗られて困るものも結構あるし」


「やっぱりポリスメンに預けるのがベストなんじゃないかしら」


「いや、警察はダメだ」


「なんで警察に預けるってなると、そんな断固拒否の姿勢になるのよ」


 分からんが、とにかくララ子を警察に連れて行くことだけはダメだ。警察に連れて行くくらいなら密林に同行させた方がまだマシだ。そうだな、それがいい。


「ララ子も連れて行こう」


「なんでそうなったの? どういう思考回路?」


「? 別にそれがベストだと思っただけだが」


「……??? まあ、Mr.代表がそれで良いなら私も文句は付けないけど」


「そんなことより誘拐事件の話そろそろ聞きたい聞きたい聞きたいっす!」


「うっさ。じゃあ次の回想は時系列的にも順番通りになるから、その回想からにしてやるよ」


「絶対っすよ!?」


 そんな口約束を交わしながらも、密林の事務所に向かうこととなった。


 事務所の外はすっかり暗くなってしまっていた。

 時刻は気付けば21時半ば。随分と長い間回想に耽っていたものだ。


 一鶴のバカが飛び出して行ってから、もう6時間以上も経過してしまった。アイツのことだから、時間が経てば頭も冷えてヘラヘラしながら戻ってくるかと期待していたが、今回ばかりはそうも行かないようだ。そこについては俺に全面的に非があるので、弁明のしようもない。


 ■


『なんなのよそれ! 瑠璃ちゃんが居なくなったからって、どうして事務所を閉めるなんてことになんのよ!』


『確かに今は瑠璃ちゃんだけじゃなくて、他のみんなも休止しちゃってるけど、それでもこんなのは一時的なもんだって代表さん言ってたじゃない!』


『っていうか、まだあたしが居るでしょ!? みんなの留守もあたしがカバーするから、まだ諦めないでよ!』


『……はあ? 今のもっぺん言ってみなさいよ。たとえ代表さんでも言って良いことと悪いことがあるわよね?』


『あったまきた。歯ぁ食いしばれ、クソ野郎』


『もうアンタなんか知らん! あたしも出てくから!』


『……みんなが戻ってきて、全部元通りになるまで、あたし帰って来ないから。だからさっきのことをあたしに謝りたいのなら、頑張りなさいよ』


『これ、あたしを怒らせた罰ゲームだから。そのつもりで』


『じゃ』


 ■


 瑠璃が音信不通の行方不明になり、俺はもう事務所を開いている意義がなくなってしまったと考えるまで追い詰められてしまっていた。

 それで一鶴に当たって、グーでお仕置きされて……。


 お陰で立ち直ることは出来たが、まだまだ解決とはほど遠い場所に居る気がしてならない。

 ここまでやってたのは、ただ過去を振り返って原因を探ることだけだしな。


 今はようやく状況に動きが生じたとこだ。

 瑠璃が卒業するように仕向けた容疑者の中で、最有力候補だった密林配信プロダクションの社長である有栖原アリスと会う約束を取り付けられた。


 電話では自分は何もしていないと有栖原は言っていたが、実際のところはどうなのか俺には判断が付かない。有栖原はそれくらい平気で嘘を吐くだろうし。


 ともかく直に会って話すことで分かることもあるだろう。

 有栖原の方から来るように提案してきたのが引っかかるが、それでも会いに行かないワケにはいかなかった。


「自分は馬でタクシーの後ろを追っかけるっす!」


「正気か?」


 FMK事務所から密林事務所に移動するのにタクシーを呼んでいたが、鞍楽は馬(人間)に乗っていくからタクシーは使わないと言ってきた。

 シンプルに頭おかしいと思ったが、タクシーに離されることなくピッタリ追従してくる黒王号の存在に、俺とキャロルは戦慄していた。っていうか悪目立ちしすぎだ。ここ都内ぞ。


「通報されてないことを祈ろう」


「されてないワケないと思うわよ」


「鞍楽が捕まっても他人のフリして先を急ぐぞ」


「それが一番クレバーな選択ね」


 幸か不幸か、密林事務所のあるグリーンヘルズビルに着くまで、鞍楽が補導されることはなかった。


 ■


 そんな無駄な一幕を挟んでから、俺とキャロル、鞍楽と黒王号(なんでコイツ普通に付いて来てるんだろう……)、それからララ子(俺がおぶってる)は、密林事務所の社長室を訪れていた。


「なんでこんな大勢で押しかけて来てるのよ! 連れが居るなんて聞いてないのよ! っていうか、こいつら誰なのよ! なんでそこの小娘と大男は、お馬さんごっこしてるのよ!?」


「まさかお前の方からここに来るよう言ってくるとは思わなかったぜ、有栖原。一体どういうつもりなのか知らないが、来たからには俺の質問にしっかり答えてもらうぜ」


「その前にアリスの質問に答えるのよー! 勝手に話を進めるなー!」


 高級みのある社長デスクに鎮座するお子様が、手足をジタバタさせながらぶちギレている。この弄りがいのあるクソガキが密林配信プロダクションのトップである有栖原アリスその人だ。


 この見た目と若さでV業界大手の事務所を運営してる手腕だけは素直に凄い。

 気に入らないタレントを直ぐにクビにする経営方針だけはいただけないが。

 あと目的達成のために手段を選ばないところもマイナス評価だ。


「それに怒りっぽいのも良くないと思うぞ」


「なにが『それに』なのよ! それにの前の文章はどこに行ったのよ!」


「俺の頭の中」


「アリスの良くないところを頭の中で列挙するんじゃないのよ! あと口にも出すななのよ! じゃなくて質問に答えるのよ! 後ろのヤツらは何者なのよ!」


 要望の多いお子様だなぁ。

 しかしこのまま有栖原で遊び続けて機嫌を損ねたら、話を聞く前に外に摘まみ出されるかもしれない。おふざけはここらへんで止めておくか。


「あいつらはFMKの2期生……オーディションの最終選考まで残った強者たちだ」


「まだ最終選考終わってないのだから、現状部外者じゃないのよ」


「そうなんだよね、なんか成り行きで付いて来ちゃった」


「……はぁ、まあどうでも良いのよ、そんなことは」


 有栖原がツッコミを放棄して大人しくなる。

 ひとたび落ち着きを取り戻せば、そこには大手事務所の社長である風格が滲み出て来る……わけもないのだが、有栖原は余裕ぶってデスクに肘を付きながら俺に相対する。


「随分と愉快なことになっているのよ、お前のとこの事務所は」


「なんも面白くねーよ」


「アリスにとっては愉快痛快極まりないかしら。せっかくだからそのまま消えてもらっても構わないのよ」


「生意気な上にムカつくガキね。Mr.代表、こんなのが本当に密林のオーナーなの?」


 有栖原の戯言が聞くに堪えなかったのか、キャロルが悪口混じりに会話に入って来た。

 有栖原のねちっこい視線が俺の背後へと向かう。


「黙っていろなのよ、親の七光り」


「なんですって?」


「親の七光りと言ったのよ。合衆国大統領の娘風情が、この有栖原アリスに嘗めた口を利くんじゃないのよ」


「……fuck」


 言葉が汚いぞ大統領令嬢。

 しかし有栖原のやつ……何も知らないフリをしときながら、しっかりこっちのことは調査済みってことか。


「流石だな有栖原、まさかうちの2期生候補のことまで調べ上げてるとは。じゃあ当然そっちの馬に跨ってるイカレ女のことも知ってるってことか」


「鞍上鞍下のとこの娘なのよ。その娘が跨ってる大男のことは知らんのよ。誰なのよそいつ」


「馬」


「黒王号っす!」


「とりあえず話が通じないってことだけは分かったのよ」


「全然話進まないし脱線させるのやめてくれないか?」


「お前たちのせいなのよ!」


 有栖原がララ子のことも把握してるか聞いてみたかったが、本筋には関係ないので自重しておく。どうせララ子は自称宇宙人なだけの普通の女の子だしな。


「で、有栖原。お前本当にFMKにちょっかい出してないんだろうな?」


「出してないと言ったのよ。今回の件に関しては密林は関与していない。これだけは確かなのよ」


 口だけならなんとでも言えるがな。

 本人の証言だけだと有栖原が裏で暗躍していない証拠にはならない。


「証拠は?」


「アリスに悪魔の証明をさせるつもりなのよ? 何もしてない証拠なんてあるはずないのよ」


 それは有栖原の言う通りだ。

 やった証拠ならまだしも、やってない証拠を出すのは難しい。

 アリバイがどうこうで潔白を証明出来る話でもないしな。


 bdが居てくれれば話も変わってきたのだろうが、今アイツはここには居ない。

 bdは休止……いや、休眠中なのだから。


「じゃあ、やったやってないはこの際置いておく。俺をここに呼んだ理由は? まさか嫌味を言うためじゃないよな?」


「それで終わらせてもいいけど、生憎そこまでアリスも愚かじゃないのよ」


 言って、有栖原は席を立った。


「付いて来るのよ。……我が王がお待ちなのよ」

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