失敗は成功の母となるのか

「瑠璃ちゃんと姫ちゃんばっかり気にしてるようだけどさー、私とトレちゃんにも無断で企画配信立ててるのなんなの? 謝罪の一言くらいあっても良くない?」


「あ、ゴメン」


「雑ぅ、ってか五条悟ぅ」


 オフコラボ前日。

 全員同じ条件じゃないと不公平かなと思い、あえて一鶴たちにもオフコラボのことを伝えずに告知したのだが、案の定クレーマーが俺のとこまで殴り込みに来ていた。

 ちなみにトレちゃんの方は、謝罪メッセージを送ったらあっさり許してくれたので問題ない。


「ったくさぁ、こっちにも予定ってもんがあんのよ。そこんとこ分かってるワケ? そもそも、あたしは今の瑠璃ちゃんと姫ちゃんを無理矢理引き合わせるのは――」


「今回のオフコラボの料理対決、勝者には金一封を俺のポケットマネーから出す」


「最っ高の企画ね。任せて代表さん、配信者としての義務を全うするわ」


 一鶴は金さえ積めば言う事聞いてくれるから楽でいいな。

 かといって、こんなヤツばかりだったら世界が終わるので、身近に2人以上の金の亡者はノーセンキューだが。

 とまぁ、そんな感じで参加者全員の事後承諾を得られたのだった。


 そしてオフコラボ当日。

 一応運営主催の企画配信なので、事前の打ち合わせと前準備があるため、配信開始より5時間ほど早く全員に集まるよう予め指示を出していた。

 かなり急なスケジュールだったが、メインキャストたちは全員時間通りに事務所に集まってくれたのを覚えている。

 そこには、ドムガル案件以降全く連絡の取れなかった瑠璃も含まれている。


「…………配信にはちゃんと参加するけど、それ以外に話すことなんてないから」


 事務所にやってきた瑠璃は、俺の所にやってくるなりそんな素っ気ない態度を取る。目さえ合わせてくれない。


「そう言わずにちょっと2人だけで話せないか? 結構ギリギリに到着したみたいだけど、時間はまだ大丈夫だから」


「は? イヤだけど。他のみんなは会議室? 私もそこで待機してるから」


 取り付く島もないとは正にこのことか。

 俺の制止も完全に無視して瑠璃は会議室に入っていってしまった。


「呼び出すトコロマデは成功シタようダケド、話し合いにはシッパイネ。詰めがアマイんじゃナイアルカ?」


 蘭月は今見てるオーディション応募者のPR動画が余程つまらないのか、死んだ魚みたいな目でモニターを見ながらも俺を煽って来る。まだアルアル口調を馬鹿にしたことを根に持ってるらしい。後でちゃんと謝ったじゃん。


「まあ、瑠璃が俺との話し合いに応じないのは想定の範囲内だ。だがのこのこと事務所にやってきた時点でアイツの負けだよ。俺は和解するまでアイツを家に帰すつもりはないね」


「フツウに最悪なコト言ってるアル」


 それは流石に冗談だが、ドムガル案件から引きずり続けている問題について、今日で何かしらの決着を付けるつもりではいる。


 理想は全部元通りの関係に戻ることだが、そのためには誰かが自分自身に対して妥協しなくてはならない。自分を殺して抑え込んで、波風立てないように相手に合わせて行けば自然とこれまで通りの関係に戻っていくだろう。

 でもそれが本当に正しいことなのかと問われれば、正直俺には良く分からない。


 分かっていることは、自由にやりたい放題やってる時のアイツら一番面白いってこと。

 それだけだ。


 だから俺は幽名の背中を押してやった。突き飛ばした。

 やりたいようにぶちかませと。思いっきり失敗させるために。

 もしくは、それ以上の何かが起きるのを期待して。





「じゃあ、今日のオフコラボの説明をさせてもらう。はい傾注」


 事務所の会議室。

 時間通りにミーティングを始めた俺に、FMK1期生の4人が思い思いの反応を見せる。


 一鶴は金が掛かってる戦いだからか、キリッとした顔で真面目に話を聞いてる。

 トレちゃんはパチパチと満面の笑みで拍手。今日もトレちゃんはかわいいですね。

 そして瑠璃は無関心にスマホを弄り、幽名は俯きつつもたまに瑠璃の方をチラチラという感じだ。


 幽名は全然大丈夫じゃなさそうだな。

 この様子だと瑠璃に挨拶すら出来てなさそうだ。

 瑠璃も瑠璃で、幽名に一言も声を掛けてあげてないのだろう。

 前途多難だな。


「あー……今日のオフコラボだが、事前に(勝手に)SNSで告知させてもらった通り、料理対決ってことになってる」


「はい質問」


「質問はええよ、最後まで聞いてからにしろよ一鶴」


「料理対決って時点で、料理の味を競うってのは想像付くけど、それって誰が審査すんの? 代表さん?」


 俺の注意をガン無視で一鶴が質問を投げて来る。

 仕方ねえヤツだな。


「審査するのは俺じゃない」


「じゃあ誰なのよ」


「シークレットゲストを呼んである。誰かは秘密だ。今教えたら、勝つためになんらかの根回しを行う輩が現れそうだからな」


「あたしそんなことしないわよ」


「誰も一鶴がそうだとは言ってないが」


 語るに落ちてるじゃねえか。


「ゲストはVTuberでお前らも知ってるヤツらだよ。ヒントはそれだけ」


「あたしらが知ってるVで、こんな企画に急遽参加してくれる人なんて数が限られるじゃん。まず奏鳴さんは確定っと」


「アトは密林のヒトたちくらいデスか?」


「考察すな、配信始まるまで楽しみに待っとけよ。サプライズもなにもねえじゃん」


「サプライズって言うならヒカキンくらい呼んできてよ」


「無茶言うな」


 一鶴とトレちゃんはいつものように、ちゃんと(?)話を脱線させに来てくれている。

 が、幽名と瑠璃は全然話に乗って来ない。ずっと黙ってる。

 やれやれだ。


「で、ここで料理対決について重要なお知らせがあるんだが」


「金一封よね」


「それもあるんだが、ちょっと一鶴は黙ってような」


 説明の順序をぐちゃぐちゃにするな。


「――今日の料理対決は、チーム戦で行ってもらう」


「「は?」」


 と声を漏らしたのは一鶴と瑠璃だ。

 一鶴は、


「金一封を山分けしなきゃいけなくなるじゃん!」


 と至極どうでもいい叫びを上げて、瑠璃は、


「チーム分けはどうやって決めんの?」


 と不機嫌そうに質問してきた。

 俺は瑠璃の質問に答えてやることにした。


「チームはこっちでもう決めてある。今SNSでも告知した」


 言いながらノートPCのエンターキーをターンッ!

 SNSが更新される。


 料理対決のチーム分けは、幽名&ナキVS小槌&☆ちゃんだ。

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