ぶちかましてやれ

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【オフコラボ】FMK1期生で料理対決!【ナキ/幽名/小槌/☆】


 フランクリンの考案した策は実にシンプルだった。

 事務所でオフコラボするという企画を立てる。それだけ。


 しかし前述した通りプロ意識の強い瑠璃のことだ。本人たちに無許可とはいえ、既に告知されてしまった企画に参加しなかったとなれば、リスナーからの印象に多少なりとも影響が出ると考えるだろう。

 ただでさえアンチが急増して辛い思いをしている瑠璃には申し訳ないが、それでも俺は多少無理矢理にでも瑠璃と話をしたかった。

 で、その作戦の効果はというと、


『参加はするけど、2度と本人の許可なしに配信の予定立てないで』


 と瑠璃からメッセージが飛んで来たので、一応は思惑通りに事が運ぶ流れとなった。

 俺が勝手な事をした事に腹を立ててるのは文面からも想像が付いたが、その怒りが当日までに多少は和らいでくれるのを祈るだけだ。


 で、問題はもうひとつあった。

 幽名のことだ。


 俺の独断でオフコラボは1期生全員が参加することになっていた。当然だが幽名の許可も取っていない。

 思い付いた時は、これなら配信を通してギクシャクしていた二人の仲も元通りになるんじゃね? とか名案的に思ったのだが、よくよく考えたら幽名のメンタル的にまともに配信出来るのだろうかということに、SNSで告知してから気付いたのだが時すでに遅し。

 もう1週間も配信を休んでる幽名に、恐る恐る事後承諾で企画への出演を打診することになってしまった。

 

「出ますわ」


 断られることも視野に入れていたが、幽名は一言であっさりと出演を快諾してくれた。


「すまん姫様、気ままに休めなんて言っておきながら、こんな無理やりな形で配信させることになって」


「頭を上げてくださいませ、代表様。今回の件、全面的に非があるのはわたくしの方ですわ。こちらこそ今日まで皆様にご迷惑をお掛けしてしまったことをお詫び致します」


 幽名は何も悪くない。

 そう言おうと思ったが、どうせ俺も幽名も主張を譲らないのは目に見えていたので、とりあえずこの場は言葉を飲みこむ。


「瑠璃とちゃんと話せそうか?」


「……自信はありませんわ」


 いつも自信たっぷりな幽名らしくない返答。

 やはりこんな荒療治的なやり方は良くなかったのかもしれない。


 蘭月の言う通り放っておくべきだったのかも。

 そんな風に俺まで自信を無くしかけていると「ですが」と、幽名が力強く付け加えて来た。


「ですが、失敗を恐れて足踏みしているのは、わたくしらしくありませんわ。前に、前に、ひたすら前に……後から続く者のために道を拓いて行くのが、幽名姫衣の流儀ですもの」


 不覚にも、幽名の言葉に勇気付けられる俺が居た。

 ひたすら前に、失敗を恐れず、か。確かにその通りだ。


 俺は完璧とは程遠い人間だ。

 そもそも完璧な人間なんてこの世にはいない。

 世界的に有名なエンジニアである俺の両親は人格面に問題を抱えているし、人類最強のトレちゃんは精神面が不安定だった時期があるし、かつて自分を完成されていると豪語していた白色のお嬢様は絶賛躓いている最中だ。


 大事なのは失敗しても前に進み続けること、立ち止まらないこと。

 そして、また同じ失敗を繰り返さないよう考えることだ。


「そうだな、それが一番幽名らしい」


「ですわ」


「じゃあそんな幽名に俺からひとつアドバイスだ」


 失敗を恐れずに、俺はドムガル案件以降、ずっと思ってたことを言う事にした。


「誰かの言いなりになって型に嵌っちまうのは、幽名姫依らしくない。たとえその誰かって言うのが、ナキであってもだ」


 荒らしはスルーしろ? 荒らしに反応するやつも荒らし?

 知るか。言いたいヤツには好きに言わせておけ。


「ハッキリ言うぞ。俺はお行儀よく荒らし相手に口を噤んでる幽名なんて見たくない。俺やリスナーが見たいのは……次の瞬間には何をしでかすか分からない、破天荒で型破りな暴走機関車みたいなお嬢様なんだから」


 だから


「ぶちかましてやれ、後の責任は全部俺が取る」


「ぶちかます、とは?」


『強い言葉や語気で相手に衝撃を与えることですね』


「注釈サンキューなbd」


 でも盗み聞ぎはやめようね。

 ぶちかますの意味を知った箱入りお嬢様は、クスリと笑って


「ぶちかましてやりますわ」


 と威勢よく啖呵を切った。

 そして緊張のオフコラボ当日を迎えることになる。


 ■


「ああ、あのコラボってそういう意図から始まってたのね」


「自分は直ぐ気付いたっすよ? 時期も被ってるし」


「うるさいわね」


 お喋りな奴らだな、回想中もちょくちょく煩かったし。

 さて、ここまでを一気に語り終えて喉も疲れたので一休みしよう。

 そういや鞍楽が飲み物を買ってきてくれてたっけ。

 折角だからそれを貰うか……ってなんじゃこりゃ。


「おでん缶じゃねーか。なんで今時こんな珍しいもの買ってくるんだよどこに売ってたんだよ」


「そろそろおでんが美味しい季節っすからね、気配りっす」


「そうかいありがとよ、冷蔵庫から普通の飲み物取って来る」


 一旦休憩を挟んでから、俺は鞍楽とキャロルの2人に質問を投げてみることにした。


「話を再開する前に聞きたいんだが、お前ら2人は幽名とナキの件について、どちらが正しかったと思う?」


「なにその質問? オーディションの合否に関係してたりする?」


「しない。ただ参考までに聞かせて欲しかっただけだ。この件に関しては未だに何が正解だったのか分かんないままだったからさ」


「案件の回想前にも言ったっすけど、自分は姫様の行動はちょっとどうかと思ったっすよ」


 シンキングタイムを挟まずに鞍楽が自分の考えを口にする。


「やっぱ荒らしはスルーするのが一番だと思うっす。少なくとも、配信の空気を台無しにしてまで、荒らしに構っちゃうのは悪手だと思うっす。まあ、これは人からの受け売りでもあるんすけど」


 考えを口にしてから、気になる一言を付け足す鞍楽。

 人からの受け売り、ね。


「その受け売りって、もしかして瑠璃からか?」


「やっぱ代表には分かるんすね。そうっす、瑠璃氏が言ってたっす。案件配信があった翌日あたりに学校で自分に愚痴ってたっす」


「そうか……」


「あ、でもそういえば、今話に挙がってたオフコラボの後は、瑠璃氏のスタンスもちょっと変化してたっすね」


「……そうか」


 それを聞いて少し安堵したような、だがそれなら尚更どうして……という2つの気持ちが湧いてくる。


「ちなみに私は行儀の悪いリスナーには言ってやるべきだと思ってるわ。だからスタンス的にはプリンセス幽名寄りね。案件の時はそれで失敗していたけれど、でも行動は間違っていなかったと思うわ。荒らしになど屈しないというアメリカンスピリッツをヒシヒシと感じたわね」


「別に幽名はアメリカンでもなんでもないけどな」


「心意気の話よ」


 ああそう……。

 だがしかし、なんというか、やっぱり考え方なんてものは人それぞれなんだなと思う。

 さっきは何が正解か分からないなんて言ったけど、もしかしたらこの問題に正解なんてないのかもしれない。


 大事なのは、自分を貫けるかどうか。

 もしくは、妥協する自分を許せるかどうかだ。


「じゃあオフコラボの顛末について語らせてもらうぞ」


「その次は誘拐事件についてっすよ!」


「はいはい」

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