VTuber事務所《FMK》 ~宝くじで10億当たったからVTuber事務所作ったらやべえ奴らが集まってきた~
【ドゥームズガールΘリィンカーネイション】大人気ブラウザゲームを紹介するわよ【小槌/姫依/☆】#6
【ドゥームズガールΘリィンカーネイション】大人気ブラウザゲームを紹介するわよ【小槌/姫依/☆】#6
:ナキちゃんを悪く言ってたヤツは姫様の言う通り反省しろよ
:これは姫様が怒るのも当然
:よく言った
:消えろは言い過ぎでしょ、それに消えるべきはナキの方だし
:姫様がどれだけ擁護してもナキがお荷物なのは事実にゃー
:ナキとかいうTier5のゴミを庇うなんて大変ですね
:スパムか?これ?
:ナキいらない
:ナキの話題やめない?
:いくらなんでも不自然にナキアンチ多すぎだろ
:トイレ行ってる間にめっちゃ荒れとる……
:スパムっぽい
:小槌や姫様の人気に寄生するだけの駄猫を許すな
:にゃーさんの配信おもしろくないんだよなぁ
:案件配信荒らすってヤバすぎだろ
:スパムにしては文面全部違うし手打ちっぽくないか
:ナキはどうやってオーディション受かったの?代表と寝たの?
:ナキがゲシュタルト崩壊してきた
:ナキナキナキナキうるせーよ
:なんか俺までナキ嫌いになってきた
:案件に1人だけ呼ばれなかったナキさんの話はやめよう
:なにこのチャット……
:運営はなにやってんだよ、早く荒らしブロックしろよ
やってんだよそんなのとっくに、ナキへの暴言を吐いてるアカウントは片っ端からブロックしている。しかもbdの手を借りて迅速にだ。
それでも次から次へと新しいアカウントが湧いてきて、ナキへの熱心なアンチ活動を繰り広げていく。
その熱心さは、もはや普通のリスナーのコメントが埋もれてしまうレベルにまで達している。
ふざけている。
コイツらが個人犯か複数犯か、手打ちかスパムかなんてことはどうでもいい。
ひとつだけ確かなことは、この荒らしは俺の妹を明確な意図を持って傷付けようとしているってことだ。
あぁ、そうかよ。
そっちがそういうつもりなら、こっちにも考えってもんがある。
こっちには軍事目的で作られたスーパーAIが付いている。
bdがその気になれば、たかが荒らし程度即座にネットの晒し者だ。
「bd、こうなったら徹底的にやってやれ。この荒らしどもに分からせてやってくれ」
『承服しかねますね』
しかし俺の指示は、まるで俺がそう言うのを分かっていたかのような早さでbd本人に拒否された。
「なんでだよ、確かにダーティーな手段ではあるが、先に喧嘩を吹っかけて来たのはコイツらだ」
『でしょうね。ですがここで私が動くのは非常にリスクの高い結果を招くと判断しました』
「リスクだって? 俺の妹が延々と誹謗中傷の的にされることの方がよっぽど重大だ」
『そう、そこですよ』
「あ?」
bdは『いいですか?』と前置く。
『私のスペックを考慮すれば、この荒らし達を黙らせるのはそう難しくないでしょう』
「知ってる、それで?」
『ですがここで私が動けば、FMKの代表である貴方が、危険な性能を持ったスーパー軍事AIである私に命令して、一般人へのサイバー攻撃を仕掛けたという事実が発生します。そうなればどうなるか、流石に分かりますよね?』
「……アメリカが黙っていない」
『はい』
アメリカはトレちゃんとの話し合いを経て、とりあえずキューブがFMKの手元にあることを渋々承諾しているのが現状だ。
本心から言えば、得体の知れないVTuber事務所からさっさとキューブを取り戻したいと思っているのが当たり前だろう。
ここでbdが動けば、そのための大義名分をアメリカ側に与えてしまうとbdは言っているのだ。
フランクリンがこの事務所に送り込まれていた時にこう言っていた。
自分がここに来たのは、FMKがキューブを悪用しないかどうか見張るためだと。
もし俺のbdへの指示が悪用に当たると解釈されてしまえば、より最悪の未来が待っていることも覚悟しなくてはならない。
世界の警察たるアメリカが本気になれば、ちっぽけなVTuber事務所を潰すことなど造作もないだろう。
それこそ軍事AIを個人的に保有している社会悪にでも仕立て上げてしまえばいい。
世間様がみんな敵になってしまえば、もうトレちゃんや蘭月がどれほど強くても、VTuber事務所としてのFMKはお終いだ。
今、FMKが泳がされ続けているのは、bdの暴走を喰い止めたトレちゃんへの感謝と温情が残っているからだと俺は思っている。
ごちゃごちゃと思考が長くなってしまったが、要するに諸々の国際的な事情でbdの力は頼りづらいということだ。
だがそこで別の疑問が出てきた。
「でもお前、1次選考でスパイを見つけるためにハッキングだかなんだかしたって言ってなかったか? それに幽名の両親を探すのにもハッキングしてたはずじゃあ」
『してましたよ? でもそれは、事前にアメリカ側に承諾を取った上でです』
「そんな話聞いてないぞ」
『今報告しました』
「……お前なんか俺に隠し事してないか?」
『とんでもない。AI嘘つかない』
それがまず嘘なのは知ってる。
が、bdの隠し事について追求している余裕はない。
とにかく荒らしをなんとか出来ればそれで良いのだ。
「じゃあアメリカに今すぐ許可を取ってくれ」
『配信に湧いた荒らしを排除したいから、bdにハッキングさせてくれと? それこそ正気を疑われますよ』
「いや……じゃあハックとかクラックとかしなくても、なにか出来ないのか? 荒らしてるやつらをTubeにアクセス出来ないようにするとか」
『それはハッキングしないと無理ですし、その行為も悪用と見なされたら終わりですよ。これは金廻小槌の発言をミュートにするのとはワケが違います。それにこれは罠の可能性もあります』
「罠だって?」
『代表が私の力を使いたくなるよう、代表のアキレス腱である薙切ナキを突いてきた。そう考えると、この不自然なまでのアンチの湧き方にも一応の筋が通ります』
「おい……これが仕組まれたことだって言うのか? 俺の妹を貶めるのが。どこの誰の差金だよ」
『落ち着いてください、あくまで可能性の話です。どちらにせよ、今私が派手な動きをすれば、厄介な勢力に口実を与えるのは確かです。荒らしを排除したいのならTubeの機能で地道にブロックしていくしかありませんよ。それくらいなら私がやっても文句を付けられないでしょうしね。それと誹謗中傷をしている輩には、後々法的措置を取る事をお勧めします。今後の抑止力にもなりますからね』
「ああ、そうだな。アドバイスありがとよ」
今後のことは後で考えるしかない。大事なのは今だ。
こうしている間にも、どんどんとナキアンチが増殖し続けていた。もうまともに案件を進行させられる雰囲気ではない。
こうなったら多少強引にでも締めに入って配信を終わらせるしかないか……。
それが最も傷口を広げずに済む方法だ。
幽名はまた配信チャット欄を見て固まってしまっている。だが諦めの悪い幽名のことだ、放っておけばまた同じことを繰り返すに違いない。こちらの話を聞く気が無いナキアンチに対して、似たような説教を繰り返し、そしてまた裏切られる。
それじゃいくら幽名でも心が保たない。俺だっていい加減我慢の限界だ。
だからまだ比較的冷静な小槌と☆ちゃんに配信の締めに入ってもらうよう俺はカンペを出そうとして、隣で七椿が一足先にカンペを出していたことに気が付いた。
カンペを見た小槌と☆ちゃんが、顔を見合わせて頷き合う。
これで何とかなるだろう。
「さて、もう十分遊んだし、今日の配信はこの辺で終わりにしようかしら。☆ちゃん、最後にドムガルのキャンペーン情報的なのを宣伝お願いしていいかしら?」
「オ、オッケーデス、エーットですね……」
「――どうしてそんな心無いことが出来るんですの?」
「エーット……」
「誰かわたくしに教えてくださいませ、彼らが何を考えているのか。どうして、一体何の得があって、わたくしのお友達を傷付け続けるのか」
「……」
幽名が悲痛な声でそうマイクに向かって問いかける。
それに呼応するようにまたアンチが活性化する。
思うつぼだ。荒らしに対する最適な対処法は相手にしない事だと昔から言われているが、正にその通りだったと納得してしまうくらいだ。
「はぁ」
そんな中、☆ちゃんが小さく溜息を吐いた。
面倒臭そうに、☆ちゃんじゃない別の人間みたいに。
そして――
「わたくしは――」
何かを喋ろうとしていた幽名が、突然意識を失ったように前のめりに倒れる。
そして幽名が倒れるのを分かっていたかのように、隣に座っていた☆ちゃんが幽名の細い体を抱き支えた。
「ちょ、なに、姫ちゃ」
小槌が動揺して幽名の名前を呼び、俺も慌てて3人が座ってるデスクに近寄ろうとした。
その両者を、☆ちゃんが「シーッ」と人差し指を口先に当てて、静かにしてろと言外に示してきた。
トレちゃん……まさか幽名を手刀か何かで気絶させたのか?
恐ろしく早すぎて俺じゃ見えなかったが、多分間違いないだろう。
そしてトレちゃんは、気を失った幽名を支えたまま、マイクに口を近づける。
「失礼致しました、もう落ち着きましたので大丈夫ですわ」
そしてあろうことか、幽名瓜二つの声でトレちゃんは喋り出した。
完璧な声帯模写だ。マジで違いが分からないほどの。
声質、喋り方、イントネーション。全てが幽名そのもの。
「☆ちゃん様、小槌様、それとリスナーの皆様。本当に申し訳ございませんでした」
幽名の声を借りたトレちゃんは、そのまま勝手に多方面へ向けての謝罪を始める。
これには小槌も大困惑だ。
「え、ええ、いや、その、あたしは別になんとも」
「ステもゼンゼン大丈夫デース! ヒメ様のパッションは十分伝わったデス!」
「おぉ……」
まさかのトレちゃんによる一人二役に、小槌が感嘆の声を漏らす。
少々乱暴だが、確かに配信を丸く収めるにはこれしかなかったのかもしれない。
「じゃあ、気をトリナオシテ、ゲームのキャンペーン情報を宣伝するデース!」
こうして波乱しかない初めての案件配信は終わりを遂げた。
案件配信は、だ。
その後も騒動が燻り続けることになるのは、言うまでもなく分かることだ。
それはまた次の回想で語るとしよう。
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