【ドゥームズガールΘリィンカーネイション】大人気ブラウザゲームを紹介するわよ【小槌/姫依/☆】#4

 ドムガルは戦闘システムこそ特徴的であれ、大本のシステム自体は他のソシャゲのあるあるを踏襲して作られている。

 例えばガチャなんかも当然のように実装されており、チュートリアルの途中でガチャの説明も入ってきた。


『大隊長様! まずはこの無料スカウトで新しいドゥームズガールを迎え入れてください!』


 オペレーターっぽい格好のキャラがガチャを回すよう催促してくる。

 ちなみに大隊長ってのは、ゲーム内のキャラがプレイヤーを呼ぶ時の呼び名だ。

 俺も最近みんなから代表としか呼ばれないので、ちょっと親近感を覚える。


「ガチャきた! あたしの出番ね!」


 運が絡む要素が出て来た途端、小槌が生き生きとしだした。

 ここぞとばかりに幽名からマウスを奪い取り、嬉々としてガチャを回し始める。


「――っしゃあ! SSR!」


 そして雄叫びを上げて喜びを露わにする小槌。

 コイツバカだなぁ。


:チュートリアルのガチャはそのSSRが固定で出るぞ

:確定なんだよなぁ

:うおおおおお小槌すげええええ!

:確定だったらしいですよ

:人生楽しそうだな

:草


 チャットでも突っ込まれているが、チュートリアルで引けるガチャは結果が最初から決まっているので運の要素はない。

 最近のソシャゲにありがちな傾向だったのだが、あまりゲームをやらないだろう小槌は大喜びだ。

 幽名は隣でとりあえず拍手、☆ちゃんは苦笑いしていた。


「あん? なによもー、これ中身決まってるガチャだったの? ハズいんだけど」


「ハハハ……デモほらコヅチ、プレゼントBOXに無料石があるハズデスから、それでまだガチャ回せるデスよ?」


「じゃあ全部回収して回すわ」


 この案件配信で今が一番楽しそうだ。

 そうやって何の気なしに配信を見守っていた俺は、完全に油断していた。


「うおおおおお!?? ちょっと待って!? すごいキラキラしてる!!!」


 ドムガルのガチャ結果は、画面に表示される封筒の色でレアリティが判別出来る。

 茶封筒なら通常レア、金封筒ならSR、そして虹色の封筒ならSSR。


 小槌が回したのは10連ガチャ。届いた封筒の数は10。

 そしてその10通の封筒の内、なんと9通が虹色に光っていた。

 マジかコイツ。


:は!??

:ええええええ!?

:虹だらけで草

:どういう確率なのこれ

:運営が確率操作した?

:SSRの排出率3%なんですけど……

:人生の運こんなとこで全部使いきってない?

:すげえええええええ!

:配信でこれ引くのは持ってるわ


 チャットも大騒ぎだ。

 そりゃそうだろう。俺もこんなの初めて見た。

 だがそれをやってのけたのが小槌だというのなら納得だ。

 競馬で1億稼いだり、bd相手にまぐれ当たりのラストアタックを決めた女は、またこんなところでも伝説を作ってしまったらしい。


「エェエエ……ステもビックリして顎がハズレ掛けちゃいマシタヨ」


「これは凄いんですの?」


「スゴイなんて言葉じゃ言いアラワセナイくらいスゴイデス」


「うーん……やっぱあたしって持ってるわよね、自分で自分が恐ろしいわ」


 確かに恐ろしいな。

 たまにハズレくじを引いて自滅することもあるが、勝ち運に恵まれている時の小槌は青天井にぶっ飛んでる。


 危険視すべきはその運の振り幅か。

 有栖原の言葉を信じるワケじゃないが、例えば齎した幸運と同価値の不運に見舞われる可能性があるとするのなら、ツいてない時の小槌は一体どこまで……どれだけを道連れにして落ちるのか。


「どうせなら中身のキャラも当たりであって欲しいわね。SSRにも当たりハズレってやつがあるもんでしょ?」


 俺がくだらない思考に囚われてる間に、案件配信が進行していく。


「Tier1のキャラが引けテルとイイデスネ」


「じゃ、開封していくわよ」


 小槌がクリックして、SSR封筒の中身を確認していく。


『にゃー! 大隊長様! ニャンベル・トリニティ、現着したにゃ!』


 出て来たのは、ネコミミで猫語尾のロリっぽいキャラ。

 なんだか既視感しかない属性のキャラだな。

 うちにもこういうのが居るぞ。

 今はこの場に居ないが。


「まぁ、まるでナキ様みたいな――」


「この子はTier1?」


 幽名の言葉を遮るように小槌がTierを確認する。

 Tierというのは、要するに強さをランク付けたものだ。

 同じSSRの中でも性能によって格差が生じるため、そういう指標のようなものがプレイヤー間で共有されることはままある。

 そしてこのニャンベルなんたらは、


:こいつ弱いよ

:Tier5くらい?

:ゴミスキル持ちの産廃

:強いSRより弱い

:にゃーにゃー言うやつはやっぱ弱いなw

:配布SSRの方が……

:こいつ雑魚なの? まんまナキじゃん


 ……どうやらハズレ枠らしい。

 それはそうと、いい加減チャットが酷いな。

 アレなコメントは次々ブロックしているが、どれだけブロックしてもキリがない。

 複垢でコメントしているやつもいそうだな。


「あ、ハズレなんだ」


「……」


「コ、コヅチ! 次、次開封スルデス!」


 ☆ちゃんが焦ったように開封を催促する。

 小槌も特に異論なく、マウスをカチカチっとクリックした。


『にゃー! 大隊長様! ニャンベル・トリニティ、現着したにゃ!』


「またこいつじゃん!」


:草

:草

:草

:にゃーさんの呪いかな?

:このにゃーにゃー言ってるやついらねーw

:ナキと同じくらいの性能……ってこと!?

:草

:ニャンベルは可愛さだけはTier1だぞ


「………………」


「コ、小槌」


「あによ、分かってるって。次」


 この時点で、流石に鈍い俺でも異変に気付いていた。

 小槌はガチャの結果に夢中で気付いていないが、☆ちゃんが流れを変えようと焦っているのは、幽名の様子が明らかにおかしかったからだ。


 幽名は見た目はいつも通りだ。

 だが、言いようのない威圧感……強いて言うなら、全身から怒気のような気配を滲ませていた。

 そして幽名が怒っている原因は直ぐに明らかになった。

 それが分かった時には、もう手遅れだった。


「嘘でしょ!? なんで9人中9人全部がニャンベルなのよ!??」


 小槌のやつが、SSR9体排出というだけでも伝説なのに、その上全体同キャラというミラクルまで起こしやがった。

 それが最後の一押しとなった。


:ナキが9体w大ハズレです

:にゃーさん……w

:クソワロタ

:草

:wwwwwwwwww

:お前ら言葉選べよ……

:やっぱナキはいらない子なんやなって

:ネコが足引っ張って来てんじゃん

:逆に美味しいからいいだろ

:すげえよ小槌


 チャットは大盛り上がりだが、それ以上にコメントの質が酷すぎる。

 流石に今後は対応を考えないといけないな。

 俺がそんなのんびりとした考え方をしている間に、もう自体は手遅れの領域にまで達してしまっていた。


「みなさま、一度お話をさせて頂いてもよろしいでしょうか」


 ――幽名姫依の怒りのボルテージ、100%。

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