【ドゥームズガールΘリィンカーネイション】大人気ブラウザゲームを紹介するわよ【小槌/姫依/☆】#2

 ドムガルは『アブダクター』と呼ばれる地球外生命体によって、滅亡の危機に瀕する終末世界が舞台のゲームだ。

 プレイヤーは対終末用人型汎用兵器である『ドゥームズガール』を指揮して、人類を勝利を導くのが目的である。


「――ストーリーはこんなもんらしいわ。このドゥームズガールってのは、名前の通り見ての通り、女の子の見た目をしたロボットみたいな存在らしいわね」


 ほとんど台本をそのまんま読み上げながら、小槌がドムガルのストーリーをリスナー相手に説明する。

 プロモーションになるなら問題ないが、そこはもうちょっと自分の言葉にして説明して欲しいんだが。小槌にそこを期待するだけ無駄か。金のために流してるのが見え見えだしな、コイツの場合は。


 その小槌の隣、右手側に腰掛けている幽名は、小首を傾げて白い髪を揺らしながら「はぁ」と釈然としてなさそうな声を漏らした。


「何故女の子の姿でなくてはならないのでしょう?」


 幽名の純粋過ぎる言葉に、小槌と☆ちゃんがピタリと動きを止める。

 多分あの2人は俺と同じ答えを頭に思い浮かべているのだろう。


 この手のゲームでキャラクターが女の子ばかりなのは、その方が売れるからだ。

 しかしそんな身も蓋もない回答はあまり良くない。


「それはね姫ちゃん、この手のゲームは可愛い女の子ばっかの方が売れるからよ」


 しかし小槌は一瞬だけ躊躇したものの、ハッキリとそれを口にする。

 大丈夫か……?


「そういう可愛い女の子が大好きな層へ向けて作ってるのだから当然よね。私も可愛い女の子キャラは好きだし。キチンとターゲットを絞って商品を作るのは、商売をする上で大事だもの。結局、金にならなきゃ開発してる人達だって生きていけないんだから」


 俺の心配を他所に、なんだかエンジンの掛かったらしい小槌がペラペラと喋り出す。

 金に繋がる話になると饒舌になるな。


 だがまあ、言ってる内容は至極真っ当だ。良くもないが悪くもない。

 これで『可愛い女の子目当てのオタクを釣るためよ。そんでガッポリ集金するの』とか言いそうだったら、待機させているbdが即座にマイクをオフにする手筈になっていたが、その心配は杞憂だったか。


「なるほど、勉強になりますわ」


 幽名も何とか小槌の説明で納得してくれたらしい。

 一安心だ。


「でも、女の子ばっか戦わせるのはなんか悪趣味よね」


 おいぃ!! 小槌!!!


『今の発言は配信に乗ってませんよ。ギリギリミュート成功しました』


 俺の片耳に付けたイヤホンからbdの報告が聞こえる。

 あぶねえ……なんで最後に余計な一言を入れるんだ小槌のヤツ。

 あ、やっべ、みたいな顔して口を押えてるけど、bdが居なかったらアウトだからな。


 あと☆ちゃんの顔が若干険しい。

 もしやと思うが、ドムガルと自分の境遇を重ねているのだろうか。

 それか、その似たような自分の境遇を小槌に悪趣味と言われたのが効いたのか。

 或いはその両方か。


「サァ、概要のセツメイはこれくらいにシテ、次行くデス」


 ☆ちゃんは険しい顔のまま、隣に座る小槌の脛を蹴とばして進行を促した。


「え、痛った!? ☆ちゃん今蹴らなかった?」


「足がアタッタだけデス、ゴメンデス」


 ☆ちゃん、ご機嫌斜めです。

 俺は3人から目を離して、タブレットに表示されている配信のコメントへと視線を移した。


:金が掛かってる案件だからか小槌がいつになく真面目だな

:!? 蹴った!?

:さっき小槌の発言途中で途切れなかった?

:☆ちゃんが蹴るはずない、小槌が当たり屋なだけ

:草

:蹴られても仕方ないよ小槌は

:姫様が危険な質問をしないかハラハラするなぁ

:なんだかんだ初期組はこの3人が一番安定してるな

:僕は姫様に蹴られて踏まれたいです

:案件配信なんかやってるんだ

:ドムガル俺もやってる 招待コードm340pi6x3z1ygok5

:にゃーにゃーうるさいのが居ないから今日は楽しく聞けるなw

:ドムガル、広告で興味あったし俺もやろうかな

:www


 どうやら小槌の悪趣味発言はちゃんとカットされていたようで、チャットでそこに言及しているリスナーは皆無だった。

 それ以外にスパムや誹謗中傷になりかねないコメントが散見されたが、そういうのは運営側の方で逐一削除かブロックしていく。

 この辺りの仕事は信頼出来るリスナーにモデレーター(チャットのコメントを編集管理出来る権限を持った人間)になってもらうのも有りかもしれないな。人選が難しいから慎重にやらなくちゃだが。


「じゃあ時間も押してるから、☆ちゃんの言う通り次行くわよ……あー、まだ脛が痛い」


「……そうですわね」


「? じゃあ次はチュートリアルに従ってストーリを進めていくわよ。戦闘システムの紹介とかしなくちゃだし」


 案件配信はハラハラする部分がありながらも、順調に進んでいく。

 しかしこの時俺が気を払うべきは、小槌の失言でも、☆ちゃんの精神面でもなかったのだ。


 チャットのコメント欄に鋭い眼差しを向ける、赤い目をしたアルビノのお嬢様。

 幽名姫依という少女の導火線に火が付いてしまっていたことに、もっと早く気が付いて居れば、誰も傷付かずに済んだのかもしれない。

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