三人寄ればなんとやら
「なんとか現状を打破しようと画策してるのよね? それくらい見なくても分かるわ。だから、この私が力を貸してあげる。それが問題解決に向けて最も確実なファクターだということは、説明しなくても理解出来るわよね?」
「……なんで2回言った?」
「反応が無かったからよ」
だからって長台詞を一言一句間違えずに言い直さなくても。
繋ぎの部分をコピペで楽しようとしたみたいでイヤだろ。
とまあ、またも既視感のあるやり取りを挟んでから一呼吸。
俺はキャロルにどう対応したものかと思案を巡らせる。
キャロライン・M・シルバーチェインは、さっき回想で説明した通り、FMK2期生オーディションに応募してきた受験者の1人である。
そして鞍楽と同じく、3次選考の面接を突破して最終選考まで残った10人の内の1人でもあった。
要するに事務所にとっては今はただの部外者だということになる。なるのだが、今回の騒動そのものに関しては無関係とは言えない。
散々前置きした通り、キャロルの存在はFMKが窮地に陥っている遠因(或いは原因)の一端を担っており、そういう意味ではバッチリ関係者と言える。彼女が日本にやってきてFMKに接触を図ったことで、少々かなり頭が痛くなるレベルで問題事が発生していたのだから。
「ところでこの子は?」
キャロルが鞍楽を睥睨する。
それを受けて、鞍楽は変顔で対抗し始めた。睨めっこちゃうぞ。あと女の子がそんな顔するもんじゃない。キャロルも若干笑いそうになってるし。
「お前と同じ3次選考を突破した2期生候補だよ」
「鞍楽っす! 趣味は乗馬、特技はあらゆる馬を乗りこなせること、贔屓の球団はベイスターズっす!」
「最後の情報いるか?」
鞍楽の元気いっぱいな挨拶に、キャロルは居丈高に鼻を鳴らした。
「こんなのが私の同期? ふぅん……別にどうでもいいけど、FMKの質を下げるような真似はしないよう気を付けなさい」
「ラジャっす!」
「お前ら2人共まだ2期生内定したワケじゃねえからな」
最終選考を前にオーディション応募者をこんな形で顔合わせさせるつもりはなかったが、なってしまったものは仕方がない。今現在進行形で起きている様々な問題に比べれば、こんなのは些末事でしかない。諦めて前向きに人生を生きることにしよう。
「――ということは、そっちの四つん這いになってる彼も?」
キャロルが鞍楽の馬(大男)に視線を向ける。
「それは自分の馬っす!」
「馬?」
「っす!」
「っす、じゃなくて……Mr.代表?」
「そいつは馬だよ」
「馬……なの?」
「ヒヒーン!」
「……確かに馬のようね」
流石のキャロルも馬の存在に理解が追い付いていない様子だった。
俺も良く分かってないけど分かってるフリだけしとこう。
さておき、
「まあいいか。手助けしてくれるってのなら、ありがたく申し出を受けるとするよ」
「賢明な判断ね」
正直な話、ライバーもスタッフも全員が事務所から居なくなってしまい、俺ひとりだけで諸々の問題に対処するのは苦しいとは思っていたのだ。
だから鞍楽やキャロルが力を貸してくれると言ってくれて、心の中では救われたと思っている俺が居る。
「それで? 今は何をしていたのかしら?」
「回想してたっす!」
「回想? なるほど、大体把握したわ」
今のやりとりだけで、キャロルは俺達の意図していたことを察してくれたらしい。なんという超速理解、話が早くて助かる。
「私もちょうど、FMKがこうなってしまった経緯についての全体像を把握しておきたいと思ってたの」
「お前はフランクリンから大筋の情報は入って来てるんじゃないのか?」
「フランクリンが居なくなる10月末までの話はね。そこから先の話は私としても不透明な部分が多いの。協力者が欠けたのは私にとっても相当な痛手だったわ。それに私視点から見た情報もMr.代表に共有しておきたいというのもあるわね」
「それは素直に助かる」
「特に、10月末の誘拐事件については、多角的な視点から振り返っておいた方が良いと思うわ」
「ああ、そうだな」
俺はキャロルの言に頷いた。
神妙に首肯した俺とは反対に、大声で素っ頓狂な声を上げたのは鞍楽だ。
「誘拐事件ってなんすか!?」
そういや鞍楽がその事件のことを知ってるはずないか。
なにせあの件はニュースにもなっていないワケだしな。部外者の一般人が知ってるワケがない。
しかし事件の認知度の低さとは別に、その誘拐事件が齎した被害はFMKにとっては甚大だったという他ない。
なにせその誘拐騒動が発端となって、bdとトレちゃんが長期休止状態となってしまい、事件から1ヶ月たった今も復帰の見通しが立っていないのだから。
加えて、蘭月とフランクリンも同じタイミングで運営から離れざるを得ない状況になっていた。
その事件がケチの付き始めだった。
そこからトントン拍子に他のライバーやスタッフも一時休止。
最後まで残っていた小槌も、つい数時間前に俺の顔面に右ストレートを喰らわせてどっかに行っちまった。
だいぶ痛みの引いてきた頬を無意識に擦りながら、俺は重々しく溜息を吐いた。
「じゃあ誘拐事件の回想でもするか? 鞍楽も知りたいだろうし」
「それ、自分が聞いちゃってもいい話なんすか?」
「まあ……ヤバそうな部分はボカすから。キャロルの意見は?」
「問題ないんじゃない? むしろ面倒だから隠し事なんて無しにして、全部オープンにしちゃえばいいのにと思ってるくらいよ。どのみち、最後に笑うのは私という未来は不変のものなのだからね。もしもの未来なんて存在していないのよ、分かるかしら?」
「そうなんだすごいね」
俺は自信過剰が限界突破してるキャロルの言葉を、華麗に右から左に受け流した。
「じゃ、聞きたいっす。あ、やっぱその前に、時系列順に話をするなら例の案件配信の回想から入るべきじゃないっすか?」
「あーそうか、そっちもまだだったな」
話が脱線しまくるから、回想がどういう流れだったのか忘れてた。
確かに時系列順に話を語るなら、トレちゃんブチ切れ事件の次は、案件配信で幽名が
「ああ、あの案件配信ね。私もあれは見てた。姫様には心から同情するわ」
鞍楽と同じくリスナーとしての立場から案件配信を見てたらしいキャロルは、どうやら幽名に対して同情的な立ち位置らしい。
「うーん……気持ちは分かるっすけど、姫様のアレは自分はちょっとダメだったと思うっす」
対する鞍楽は、姫様の行動にあまり共感出来ていないらしかった。
正しいかそうでないかは別として、違う意見があるのは良い事だ。
アンチテーゼがなければアウフヘーベンがどうのこうのって明智も言ってたしな。明智って誰だよ。
「それじゃあ案件配信の回想をさせてもらうぞ。あの時、配信の裏では何が起きていたのか、俺の視点から見えていたことを話させてもらう」
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