【開封配信】Tubeからなんか送られてきたわよ【FMK/小槌/姫依/☆】

「ボス、なんか荷物が届いテルアルヨ」


 数日振りに事務所に姿を見せた蘭月は、そう言いながら3つの小包をドンとデスクの上に置いた。

 そのついでに、蘭月は縄でぐるぐる巻きにされた一鶴をぞんざいに床に放り捨てる。


「……こいつは?」


「またパチ屋ネ」


「本当に懲りねえなあ」


「ンー! ンンーッ!」


 猿ぐつわを嚙まされてる一鶴が何かを訴えかけているが、今こいつに発言権を与えてもどうせろくでもない言い訳を発するだけだろう。蘭月がまだ本調子じゃなく、休むことが多いからって調子に乗り過ぎだ。そのまましばらく反省していて欲しい。

 それよりも荷物だ。といっても、箱と送り主を見ただけで内容物がなんなのかもう分かっているのだが。


 黒く、ちょっと薄めの箱には、動画配信サービスであるTubeのロゴが印刷されている。

 Tubeから直接送られてくる荷物の心当りは一つしかない。

 そう、チャンネル登録者数10万人越えを記念した盾だ。


 Tubeでは、一定のチャンネル登録者数を獲得した時点で申請すると、記念品の盾が送られてくるようになっている。盾には4種類のグレードがあり、10万人なら銀の盾、100万人で金の盾、1000万人だとダイヤモンドの盾、そして1億人ならレッドダイアモンドの盾が贈呈される。


 小槌と幽名は夏合宿を終えた時点で10万人を突破していた。

 そしてその数日後に、後を追うように☆ちゃんも10万に到達。


 FMKのお騒がせ3人娘の盾をまとめてTubeに申請していたが、ちゃんと3つ同時に届けてくれたようだった。ちなみに申請から届くまでに1ヶ月ほど掛かっているのはご愛嬌。Tube運営が多忙なことを考えれば早い方だ。


「盾が届いたけど、どうせなら配信で開封とかしたらどうだ? なあ、一鶴」


「ンンン、ンー!」


「そうだよな」


 全然何言ってるか分からねえがとりあえず同意しとく。


「蘭月、トレちゃんに今日事務所に来れないか連絡しといてくれ」


「モウしたヨ。学校終ワッタラ来る言ってるアル」


「それじゃ幽名は」


「プリンセスならスタジオでずっとゲームしてるぜ」


 フランクリンがドーナツを食べながら報告してくる。

 幽名は昨日から配信で始めたネトゲにかなりハマってしまったらしい。今日は平日なのに朝っぱらからぶっ続けで遊んでいる。勿論配信しながらだが、こんな時間帯にも関わらずそこそこの人が集まっているのはなんなのだろうか。


 ともかく幽名も事務所に居るなら問題ないだろう。

 そんなわけで、盾開封式を配信でやることになった。


 ■



【開封配信】Tubeからなんか送られてきたわよ【FMK/小槌/姫依/☆】



「――という事で、早速何が入ってるのか開けてみるわよ。☆ちゃんも姫ちゃんも準備良い?」


 配信開始から5分。

 諸々の挨拶やら前置きやらを済ませ、盾の入った箱を手渡された3人娘はさっそく開封に取り掛かる。

 箱を渡し終えた俺は、一言も発さずに黙って壁際でその様子を見届けた。


「オー! スゴイデス! シルバーの盾! 本物は初めて見たデース!」


「素晴らしいですわ。これはティアⅥくらいの価値はありそうですわね」


「姫ちゃんがゲーム脳に侵されつつある……。ところでこの盾って幾らで売れるのかしら」


「売っちゃダメデスヨ??」


 それを売るなんてとんでもない。

 盾は当面は事務所に飾らせてもらうとしよう。

 盗難防止にチェーンでも巻いておこうかな。


「しかしチャンネル登録者数10万人越えか。思えばここまで長い道のりだったわね」


「コヅチ、まだデビューしてカラ4ヶ月くらいシカ経ってナイデス」


 4ヶ月で10万人。

 大手事務所の新人なら数日で達成してもおかしくない数字だ。

 だが新興事務所であるFMKのライバーが、3人も(bdも入れれば4人も)この短期間で10万人を達成出来たのは、ひとえに彼女たちの実力のお陰だろう。

 それだけは間違いない。


「この調子で目指せ1億ですわね」


「流石姫ちゃん、大きくでたなあ。ま、どうせやるならそんくらいは行きたいわよね」


「ですわ」


「3人でレッドダイヤモンドを目指そうデス!」


 意気軒昂の高ぶりで、3人はワイワイキャッキャと将来の展望について語り合う。

 チャンネル登録者数1億に到達したVTuberは未だいないが(なんなら1000万を達成してるVもいないが)、コイツらならいつかその頂きにも辿り着きそうな気もしなくもない。

 未来がどうなるかはスーパーAIにだって予測不可能だが、しかしこれだけは自信を持って言える。

 俺はこの先もこの3人に激しく振り回されるだろうと、確信を持って。


 さてと。

 俺は予め用意しておいたカンペを3人に見せた。

 小槌と幽名と☆ちゃんは、カンペを見てから仲良く顔を見て頷き合う。


「ここでFMK事務所から告知ですわ」


「ナント、FMKの2期生募集オーディションがイヨイヨ始まるデス!」


「詳細は下記のURLから! あたしの後輩になりたいって人は是非応募してね!」


「みなさまのご応募、お待ちしておりますわ」


「デース!」


「ふふふ……だけど今回のオーディションは、前回と一味違って手ごわいわよ? ね、姫ちゃん」


「ですわね。今から楽しみですわ」


「ミンナが面接を突破出来るのかミモノデスネ」


 そうして次のイベントが動き出す。

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