申し訳ないが盗聴はNG

 そんなワケでFMKに新しいスタッフが増えた。

 これから忙しくなるだろうって時にナイスタイミングである。

 しかし新人スタッフのフランクリンは、他のFMK関係者同様に一癖も二癖もある男だ。なにせあのCIA、アメリカ合衆国からの手先なのだから。


 とはいえフランクリンの素性を無関係のスタッフやライバーに教えることは出来ない。

 あくまでもフランクリンは、普通にFMKの求人に応募してきた一般マッチョメンということにしてある。

 フランクリンの正体を知っているのは、俺とbd、それからトレちゃんと蘭月だけ。先日のキューブを巡る戦いに関わった者に限られている。



 フランクリンを初めて新人スタッフとして紹介した時の、各ライバーの反応は以下の通り。

 どのセリフがどのライバーなのか当ててみよう。


「すっげー、筋肉モリモリマッチョマンの変態じゃん。元グリーベレーかコマンドーだったりしない? あ、それよか代表さんがこのクソ暑い中いつまでスーツで出勤してくるか皆で賭けてるんだけど、一口噛まない?」


「この方はわたくしの護衛ですの? え、スタッフ? これはとんだ失礼を。お屋敷にいた頃にこのような空気感の方々に守られていたので、てっきりそうなのかと」


「……ヨロシクデス」


「は? どうゆう採用基準? ねえ代表、この人ちゃんと言葉通じ……あ、すごい日本語上手じゃん。へー、うん、こちらこそよろしくお願いします」


「えええ……ほ、本当にスタッフさんなんですよね? あ、ごめんなさい変な意味じゃなくって……すいません……」


 上から順番に一鶴、幽名、トレちゃん、瑠璃、奥入瀬さんの反応である。

 見た目がイカツイにも程があるから、もっとみんなタジタジになるかと思ったが、ファーストインパクトで気圧されてたのは俺と奥入瀬さんくらいなものだった。事情を知ってるトレちゃんはやや警戒気味だったが。

 ちなみに七椿に至っては、


「そうですか」


 の5文字だけ。

 もっとなんかリアクションあっても良いだろう。

 とはいえそこは流石の敏腕事務員。数秒後にはフランクリンに仕事を割り与えて、FMK事務員のイロハを端的に丁寧にそつなく教え込んでいた。フランクリンの方もCIAに勤めてるだけあって物覚えが早く、初日を終える頃には七椿の仕事を半分くらい任せられるようになっていた。なんというインテリマッチョ。良い意味で見た目詐欺な男だ。

 蘭月が事務仕事はからっきしで、ほぼ一鶴ちゃん係りになっていたせいで(それだけでも十分助かってるが)、今までは七椿の負担が半端じゃなかった。しかしフランクリンのお陰でこれからは七椿も大分楽になるだろう。

 キューブ関連でどんなゴタゴタに巻き込まれるのかとヒヤヒヤしていたが、これは嬉しい大誤算である。


 ちなみに各スタッフは知っての通りマネージャー業も兼任してもらっている。

 今までは蘭月が一鶴担当で、他4人を七椿に任せていた。

 だがAIVTuberであるbdが加入し、フランクリンを新スタッフとして迎え入れ、ついでに色々と人間関係にも変化の兆しが見えて来たので、この辺で改めて担当を割り振り直すことにした。


 七椿は奥入瀬さんとbdの途中加入組担当。今までがオーバーワーク気味だったので、今回は比較的手の掛からない2人を任せる形にした。

 蘭月は一鶴とトレちゃん担当。一鶴の暴走を抑えられるのは蘭月しかいないのだからここは不動だ。それと、トレちゃんと腹を割って話せるのは蘭月しかいないので、これからはマネージャーも任せてみることにした。

 そしてフランクリンは幽名と瑠璃の担当だ。消去方みたいな形で決まったが、まあこれが現状ベターな配置だろう。多分。





「それにシテモ、CIAがスパイを送り込んでクルとは驚いたネ」


「俺テンション上がっちゃったよ、CIAだぜCIA」


 深夜。事務所に居残りしていた俺と蘭月は、フランクリンの話でひっそりと盛り上がっていた。

 なぜ居残りしているのかというと、蘭月が念のために盗聴器の類が仕掛けられてないか探すと言い出したためだ。


「とりあえずコレで全部アル」


 バラバラとデスクの上に乱雑に散らばる盗聴器たち。

 マジで仕掛けられていたようだ。


「別にやましい事をしてるわけじゃないけど、こういう監視のされ方はあんま気持ちの良いもんじゃないな」


「同感ネ」


 トイレにまで仕掛けてあったのはいくら何でもやり過ぎだ。

 そんなことするから奥さんに浮気されるんだぞフランクリン。

 しかしアイツも国の安全保障だかなんだかのために仕方なくやってる側面もあるのだろう。だからまあ、今回だけは大目に見てやろうと思う。


「ともかく盗聴器とかカメラとかは無しだ。次にそういうのが仕掛けられてるのを見つけたら、申し訳ないけど出てってもらうからな」


 盗聴器に向けてそう告げる。

 返事があるわけないが、恐らく聞こえてはいたのだろう。

 それ以降事務所に盗聴器などが仕掛けられることはなくなった。


 フランクリンは七椿並みに有能だけど、信頼とは程遠い位置にいる関係性だってことだけは分かった。

 FMKがキューブを悪用するつもりなど一切なく、ただ純粋にbdをVTuberとして扱いたいだけだということを分かってもらえれば、また印象も変わって来るのかもしれないが。

 それにはもう少しだけ時間が掛かることだろう。

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