【夏合宿6日目】宴だぁ~~~~~~~~~~!!!【FMK】
「bdがFMKに入るぅ~~~~??? なんでそんなことになったワケ?」
密カス終了後のFMK事務所。
配信スタジオから事務室に移動してきたライバー達(と七椿)に、改めてbdがうちに来ることを伝えた。
すると案の定、一鶴が大げさに反応してきた。
露骨に嫌そうな顔してやがる。
分かりやすいヤツだな。
「色々と事情があるんだよ」
「色々って?」
根掘り葉掘り聞き出そうと一鶴が俺に詰め寄って来る。
詰め寄られてもな。なんて説明したら良いのやら。
正直俺も急展開過ぎて頭が追っついてない。
まさか洗いざらい本当のことを言う訳にはいかないし。
「あ~、それはだな……」
『それは私から説明しましょう』
と、事務所のPCからいきなりbdの声がした。
ギョッとしてモニターを見ると、デスクトップの背景にbdが何食わぬ顔で映り込んでいた。
え、なにその技術……知らん怖。
『FMKの皆様、改めましてこんにちは。モデルナンバー:bdでございます』
しかも普通に喋るし。
これハッキングだよな?
流石は軍事AIなんでもありすぎて怖い。
軽くドン引きしている俺を押しのけて、ライバーたちがワラワラとPCの周りに集まって来た。
「bd様、はじめまして? 先程はお手合わせいただきありがとうございました」
『その声と姿は、幽名姫依ですね。礼を言うのはこちらの方です。ご迷惑でなければまた一緒にゲームで遊びたいです』
「勿論ですわ。これからは同じ事務所の仲間ですもの、いつでもお相手致します」
『幽名姫依は器と魂が瓜二つなので見分けが付きますが、他の方々は誰が誰なのでしょうか』
「私がナキだけど」
『薙切ナキですか。配信の時と大分印象が違いますね。もしかして配信中は猫を被っています?』
「2つの意味で被ってるけど、そこは触れなくていいって」
『そちらの方は?』
と言って奥入瀬さんの方を見るbd。
画面の中の存在に視線を向けられ、奥入瀬さんは落ち着かない様子でそわそわしだす。
「えっと……笛鐘琴里です」
『ああ、元密林の。では私と同じ移籍組になるのですね。宜しくお願いします』
「あ、はい。こちらこそ」
『そしてそちらの赤毛の方が』
「金廻小槌よ。なんか文句ある?」
自分の番になった途端、喧嘩腰でモニターに顔を近づける一鶴。
一方bdの対応は至極冷静なものだ。
『こうして言葉を交わすのは数週間ぶりですね。あの節は大変な無礼を……』
そこまで言いかけてbdは言葉を区切る。
『いえ、よく考えたら私はそれほど無礼はしてませんね。やはり今のは無しで』
「ちょっとこのAIムカつくんだけど! 誰か開発者呼んで来てよ!」
その開発者は無事に捕縛されたと、今しがた有栖原から連絡が来たところだ。
詳細についてはトレちゃんと蘭月が戻って来てから、2人に聞くことになるだろう。
そんな事情なお陰で開発者は呼んでも出てこない。
「まあまあ、落ち着けよ一鶴」
「あたし納得いかないんだけど。コイツとは絶対に上手くやってける自信ないわ」
「さっきの戦いでお前がbdに引導渡しただろ。それで全部チャラってことにしないか?」
「大衆の目前で笑い者にされたあたしの自尊心が許さないって言ってる」
自分からbdとの通話に乗り込んでいった挙句、勝手に自爆した癖になに言ってんだか。
「ともかく、どういう経緯でFMKに入ることになったのか、納得のいく説明をしてもらおうじゃないの。納得出来なきゃ、あたしはあんたをFMKだとは認めないわよ」
お前はどの立場だよ。
とはいえ、bd加入の話があまり唐突だったのはその通りだ。反論の仕様もない。
一鶴だけじゃなく、他のみんなも事情を知りたそうにbdの方を見ている。
どれ、ここはひとつ最強AIのお手並み拝見といこうか。
『実はですね――』
■
『――という事情があったのです』
bdが話したのは、事実とは全く異なるあからさまな作り話だった。
しかしその語り口調と、涙なしには語れない心揺さぶる感動のストーリー展開。
AIの苦悩と挫折、そして旅立ちを描いた感動秘話に、気付けば全員が涙していた。
「くっ……あんたにそんな辛い事情があったなんて……! 頑張ってたのね……!」
アホの一鶴が完全に騙されてモニターに抱きついている。アホだ。
まあ、それでもbdの話は、真実を知ってる俺でさえも話に引き込まれて目頭が熱くなったほどだ。
恐るべきストーリーテラー能力……流石は最強AI。
ともかくこれで一鶴からの反発もなくなったようなもんだろう。
「じゃあbdのFMK加入を認めるってことで良いんだな」
「あったりまえじゃないの! こんな行き場のない可哀想な子を追い出すことなんて、あたしにはとてもじゃないけど出来ないわ……!」
「お前マジですげえよな。時々本気で感心するよ」
「代表さんがあたしを馬鹿にしてるってことだけは、なんとなく伝わったわ」
そこは日頃の行いがね。
『それはそうと、あとひとりライバーが足りないようなのですが』
「ん? ああ、トレちゃん……スターライト☆ステープルちゃんなら、今は家の事情でここにはいないぞ」
『そうなのですか』
本当はbdもそのことは知っている。
当然だ、ついさっきまでbdとトレちゃんは壮絶なリアルファイトを繰り広げていたのだから。
だがbdがトレちゃんがいないことに疑問を抱かないのは不自然なので、あえてそこに触れて来たのだろう。俺もそれを察して話を合わせる。
裏で何かが起こっていたという臭いはちゃんと消しておかないとな。
「心配しなくても、トレちゃんならあんたのことも受け入れてくれるわよ」
bdがトレちゃんの不在に触れたことを心配していると解釈したらしく、一鶴がbdにフォローを入れる。
作り話に騙されて、すっかりbdに感情移入している。チョロすぎかな?
「さあて、なにはともあれ、これで夏合宿の明日の配信内容も決まったようなものね」
「え?」
今の流れでどうして明日の配信内容が決まるんだ?
という視線が一鶴に集まる。
しかし一鶴は、みんなの胡乱な眼差しを浴びて、やれやれと肩を竦めた。
「デカいイベントをひとつ終えて、新しい仲間が増えた。となりゃやることはひとつでしょ」
■
【夏合宿6日目】宴だぁ~~~~~~~~~~!!!【FMK】
6日目の配信は、bd加入を歓迎するお祝い配信となった。
やってることはただの雑談配信のようなものだったが、前日の密カスでの盛り上がりが影響して、宴配信は同接10万を記録。
昨日の配信でかなりの注目がFMKに集まっていることが分かった。
というか、まだワンピネタ擦るのかよ。
次回からは別のネタ擦ろうぜ。
そしていよいよ、7日目。
トレちゃんのオリジナル楽曲お披露目の日だ。
しかし7日目の朝になっても、トレちゃんと蘭月はまだ帰って来なかった。
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