【夏合宿5日目】ナキちゃん姫ちゃんとマテラテやる【FMK/金廻小槌】#5
【夏合宿5日目】ナキちゃん姫ちゃんとマテラテやる【FMK/金廻小槌】
祭りの後か、後の祭りか。小槌、幽名、ナキの3人がbdの姿を確認したのは、もうDグループの残り人数がたったの6人になった頃だった。
大量に流れるキルログに小槌とナキが悲鳴を上げながらダッシュしていたが、一番の盛り上がりどころには完全に遅刻。もう流石に勝ち目は無いと誰もが思っていた。
「行きますわ」
ただ1人、幽名姫依を除いては。
最後のエリア縮小に伴い、戦いのフィールドは極限まで狭まっている。
そんな中、遮蔽物に隠れて機を窺う動きを見せる小槌とナキを差し置いて、幽名は単身でbdに奇襲を仕掛けた。
物陰から飛び出るや否や、幽名は速攻で引き金を引く。
「ちょ、姫ちゃん!?」
幽名のいきなりのスタンドプレーに小槌も声が裏返る。
だが暴走したお嬢様はもう誰にも止められない。
まるで全てを見通していたかのようにミドルレンジからの狙撃を避けたbdに、幽名は銃をスナイパーライフルからショットガンに持ち替えて接近を試みる。
だが機械だから冷静で、機械故に完璧なbdが、そんな正面からの突撃に対応出来ないわけがない。
終わった。無鉄砲に突っ込んでいくお嬢様の背中を見て、小槌は賞金100万を完全に諦めた。
が、
「練習の成果をお見せしますわ」
bdの放ってきた銃弾は、幽名のキャラに掠りもしない。
幽名は凄まじい速度で加速し、中空を跳ね回っていた。
しかも不規則な方向転換を織り交ぜ、bdに容易に照準を絞らせない。
変態的な超高速の立体機動戦法。
[
幽名が見せた動きは、密カス1回戦目で五月冥魔によって変態高機動型魔法ビルドと揶揄された、bdが使っていたあの戦い方だった。
■
『う、嘘だろおい!? おったまげた! これって人力で制御出来るもんなのか!?』
『現にやってるし出来るんじゃないの?』
『いや、いやいやいやいや……兎斗乃依ちゃん簡単に言うけど、これ人間業じゃないよん』
シンプルに驚く巨嘴鳥の実況を聞きながら、俺は天に祈る気持ちで画面を凝視していた。
まだbdがゲームで戦えているということは、即ち蘭月達のbd破壊作戦が失敗した可能性が高いということだ。
だが俺は蘭月やトレちゃんがそんなに簡単にくたばるような奴らじゃないことを知っている。
だから頼むぞ、幽名、小槌、ナキ。
ここでなんとか踏ん張って、あの2人を助けてやってくれ。
『なんにせよこの対決は目が離せないぞ! なにせ、壁抜け対決中のBグループに引き続き、この局面でDグループでもまさかの
■
幽名が戦い方の参考にしていた動画の内の1つは、密カス1回戦目のbdの切り抜きだった。
待機時間中にツブッターのタイムラインに流れて来た切り抜きを偶然見つけた幽名は、bdに対抗するために変態高機動型魔法ビルドで戦うことを決めていたのだ。
練習時間は僅かしかなかったが、幽名はたった20分ほどの練習で要領を掴んでしまっていた。
三半規管の弱い人間なら即酔うだろう無茶苦茶な画面揺れ。
その画面を真剣に見つめながら、手元のキーボードとマウスを超高速で操作し、狙いを付ける。
三次元機動からのショットガンによる接近戦。
これもbdが使っていた戦法ままである。
だからこそ、戦い方が完全に被るというまさかの事態に発展してしまう。
「躱されましたわ!」
至近距離からの散弾が見事に全弾外れる。
幽名と同じく変態高機動な動きによって。
そのまま両者共に激しく宙を跳び回る。
超高速で跳び回りながら、超高速で跳び回る相手を狙うというあまりにも高難度なチャレンジ。
幽名もbdもショットガンを撃ちまくるが、どっちもなかなか相手に弾を当てられない。
戦いは奇妙な膠着状態に入る。
「これがヤムチャ視点って奴なのね……」
「言ってる場合じゃにゃいよ! 私達の攻撃は姫様には通らないんだから、どんどん援護射撃しにゃいと!」
小槌とナキがbdを狙うが、やはり弾が掠りもしない。
どころかいつの間にかスナイパーライフルに持ち替えていたbdから手痛い反撃を貰い、2人揃って物陰に引っ込み直す始末だ。
「マズイですわ、わたくしの魔力が先に切れます」
膠着も無限には続かない。
変態高機動が魔法によって実現される動きである以上、MPがなくなれば必然的に終わりは訪れる。
「姫様一旦引いて! 私と小槌が煙幕と壁で時間稼ぐから! その間に魔力回復させて!」
「お願い致しますわ、ナキ様。3……2……1……」
魔力切れまでの時間を丁寧にカウントダウンで報せる幽名。
最後の魔力を振り絞ってbdから距離を取ろうとするが、当然bdもこちらが魔力を回復させることを読んでいた。幽名を逃がすまいと追い縋って来る。
しかしナキの[
bdがそのまま物陰に退避していく。
「ちょっと待って! bdも魔力回復するつもりだよ!」
「回復させなきゃあたしらの勝ちよ! 行くわよナキちゃん!」
ここぞとばかりに小槌とナキが突っ込んでいく。
それに呼応するように、FMK以外の生き残りである2名のプレイヤーが飛び出してきた。
考えは一緒のようだが、bdにトドメを刺して賞金を貰えるのは1人だけだ。
つまり場合によっては邪魔になる存在でもあるわけであって、
「くっ……渡すか100万円!」
小槌は2名のプレイヤーの進路を妨害するように壁を生やした。
■
『ええ!? FMK金廻小槌! 何故かここで戦犯ムーブ!!!』
なにやってんのアイツ。
■
「にゃにやってんの小槌!!?」
「いやつい」
味方を妨害した小槌は悪びれなく平謝り。
結局小槌とナキだけで追撃したが、bdには普通に逃げられて回復された。
そのまま戦いは振り出しに戻り、また幽名とbdの高速戦闘が開始する。
その一方で、Bグループでもbdとリピッドによる壁抜け合戦が続いていた。
AとCは、残念ながら既に決着が付いてしまっている。結果はbdの勝利だ。
残るマッチはBとDのみ。
人間側の希望は、リピッドと幽名姫依に託された。
密カス本配信26万人が見守る中、長いようで短かった勝負も決着の時間が近付いていた。
■
「もう終わりデス」
数百機のbdボディの残骸が、無残な姿となって広間を埋め尽くしていた。
その破壊の光景を1人で作り出したトレインは、ポンポンとメイド服の埃を払いながら戦いの終わりを宣言する。
『ふざけないでください……まだ終わってなどいません』
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