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『どうしました? 何か不都合なことでもありましたか?』
蘭月を取り囲むbdたちが声を揃えてそう問いかけて来る。
白々しいヤツだ。bdも博士も、こちらの思惑などとっくに看破しているだろうに。
看破した上で勝負に乗ってきているのだから、最初から負けるとは思ってもないのだろうが。
だから蘭月も、相手が全てを分かっている前提で言葉を弄すことにした。
「ふぅ……ヒトツ聞いてもイイネ?」
『私はSiriでもAlexaでもChatGPTでもありませんが、冥土の土産にひとつくらいは質問にお答えしてもいいですよ。なんでしょうか』
「ワタシと戦いながら裏でゲームしてるケド、ゲームプレイにリソースを割くのはちゃんとオマエの負担に繋がっテタアルカ?」
「もちろん大いに負担になっていたとも」
蘭月の質問に答えたのはbdではなくヴァレンタイン博士の方だった。
口を開きかけてたbd達が何か言いたげに博士に視線を向けるが、結局何も言わずに黙って口を閉じた。
ムカツクくらいに人間らしい所作だ。
博士はそんなbd達に構いもせずに続ける。
「たかがゲーム、されどゲーム。AIはデジタル上の存在であるが、だからといって無条件に、なんの制約もなく、一切の負荷もなしにデジタルゲームに強くなれると思うのは大間違いだよ」
「フゥン。デモ、人間より強くスルコト自体は難しくナイアルヨネ? 現にbdは、ニンゲンのプレイヤーが、チートツールを使ってようやく実現可能な全弾ヘッドショットとかをやってのけてるワケだしネ。ニンゲンがチートで出来る範囲のコトくらいは、AIも簡単に出来るダロ?」
「無論、グリッチやプログラムの改ざんなど、手段を選ばなければAIがゲームで人間に負けることはないだろう」
『しかしそのような不正な手段を用いてのゲームプレイには、なんの意味もありません。勝てることと、強いことは別問題であり、私に求められているのは
bdが博士から言葉を引き継ぐ。
蘭月としては質問に答えてくれるのはどちらでも構わない。
とりあえず時間さえ稼げればそれで。
幸いなことに相手はもう勝ったつもりでいるらしいし、そのまま調子に乗って喋らせておくべきだ。
『ゲームとは基本的に、決められたルールの中、様々な制限の下でプレイするものです。与えられた手札の中から最適と思える手を選択し、勝利へと駒を進めていく。そして手札――選択肢が増えるほど、勝利への道筋は複雑化して、瞬時の判断に時間が掛かるようになっていきます』
「要するにナニガ言いたいネ」
『要するに、制限が少なく、出来ることが多いゲームほど、AIでも処理が重くなるということです』
お判りでしょうか? とbdが問うてくる。
蘭月は黙って頷いて続きを促した。
『私にとっての強さとは、この処理をいかに最適化出来るかということであり、チートやグリッチを用いた勝利は、処理うんぬんという過程を無視して結果だけを得ると言う無益で非生産的なものなのです。そんなものには意味はない』
「つまりゲームはオマエにとって学習の場ダッタってコトアルカ」
『ゲームだけでなく、この戦場も、ですよ』
「ホゥ……」
『怒らせたのなら謝りますよ。ですが事実です。この戦いは私にとって、私が兵器として十分なポテンシャルを得られているかどうか実証するための最終テストとして扱われています。この戦いに完全な勝利を収めることで、私の本格的な運用が開始されるというわけです』
謝るどころか火に油を注ぐようなことを言いながら、bdが全てを明け透けに開示する。
もうこれで全て終わりだから。
『最初の質問にお答えしましょう。FPSほど選択肢の多いゲームで1キャラを操作するのも、こうやってリアルbdの機体を操作するのも、私にとっては同じくらいの処理負荷が掛かっています。よって、ゲームプレイに処理リソースを割くことは、確実に私本体への負荷を増大させていました』
しかし、
『しかし、全てのシーンにおいて負荷の割合が均等というわけではありません。激戦の最中であれば必然的に処理は重くなりますし、逆に戦闘中であっても敵の程度が低ければ処理は軽くて済むでしょう』
bdは、本当に人間みたいに一拍間を置いてから、口内のスピーカーから合成音声を垂れ流した。
『大勢は決しました。マテラテ密林カスタムマッチにおいて、最も厄介だったグループは既に壊滅。残りのグループは数こそ残っていますが、所詮はトップ層にはほど遠い烏合の衆。あの程度なら、こちらに多くのリソースを割きながらでも、十分勝利出来るでしょう』
その言葉と同時に、フロアの壁と天井についた無数のハッチから、追加で4体のbdが姿を現した。
これで計13体。
減るどころか、増えた。
『さあ、これでチェックメイトだと思いますが、まだ戦うおつもりですか?』
「……降参しタラ、命くらいは助ケテもらえるアルカ?」
『どうしますか博士』
「それは無理な相談だなあ。君を拘束し続けられる自信がない」
暴れすぎたのが裏目に出たか。
いや、どっちにしろあの博士は誰も生きて帰す気などないはずだ。
「ハァ……ヤレヤレ、ついてない日ダヨ」
『申し訳ございません』
「オマエが謝る必要はナイネ。むしろ礼を言っておきたいくらいアル。お陰で希望が持てたネ」
『希望? この状況で何を――』
「あっちの戦いが無駄じゃない。それがワカッタダケでも十分な収穫ダッタ」
虚を突くように蘭月がキューブを狙う。
当然のようにその攻撃はbdに邪魔される。
が、蘭月の攻撃に反応出来たのは、13機中8機のbdだけ。
「どうしたアル? 処理が追い付いてないみたいヨ?」
『――』
bdは追い詰められていた。
ここではなく、ゲームの中で。
「オマエ、ニンゲンを嘗め過ぎたみたいネ」
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