【密林配信】マテラテ密林カスタムマッチ【本配信】#5

 Bグループにbdが持ち込んでいた魔法は[連なる爆炎チェーンボム]と[透過する幻影ゴーストトリック]という名前の魔法だった。


[連なる爆炎]は名前の通り炎属性の魔法だ。効果は触れた相手を爆破して大ダメージを与えるというもの。

 触れた相手をの文言通り[連なる爆炎]の射程範囲は全魔法中最低レベルだ。ほとんど密着状態でしか当たらない。

 しかしその代わり[連なる爆炎]が敵に命中すると、10秒間だけ次に撃つ[連なる爆炎]の消費魔力がゼロになるという特性がある。


 そして[透過する幻影]の効果はシンプルで、1秒間だけ建物の壁を通り抜けられるようになるというものだった。


 この2つの魔法を使って、bdはBグループを壊滅に追いやった。


『あぁっ!? 壁から幽霊みたいに現れたbdたんが奇襲攻撃! Bグループの精鋭が爆破&銃撃で次々に消し飛ばされていくぅ!!』


 bdが根城にしていた古城に誘い込まれたBグループのプロたちは、圧倒的物量でbdを押しつぶすために密集陣形を取っていたが、それが仇となった。

 壁を透過して姿を現したbdが[連なる爆炎]で手近な1名を爆破。そこから当て続ける限り消費ゼロで撃ち続けられる[連なる爆炎]の効果によって、一瞬のうちに数名を爆殺した。


 しかしプロゲーマーたちも流石の対応速度だった。

 大暴れしているbdのアバターを補足するなり一斉掃射で迎撃を敢行。

 bdは少なくない被弾をしつつ、またも壁を抜けて逃げて行った。


 プロゲーマーたちはここが詰め時だと判断したのだろう。

 [透過する幻影]や[地を穿つ者]といった地形を無視して移動出来る魔法を持ってきていた者が、即座にbdを追いかけていった。

 それがいけなかった。


『あ、ヤバいよそれ。今追って行ったらbdの思うつぼ――』


 直ぐに追手が来ることを予期していたbdは、所持していたグレネード系の投擲物を壁抜けと同時にそこら中にばら撒いていた。

 投擲から数秒後に爆発するグレネードはタイミング悪く……いや、bdの計算通り、追手が壁を抜けてくると同時に爆発。ある者は運悪く複数のグレネードを喰らってダウンし、爆死を逃れた者も待ち伏せしていたbdによって容赦なく残りのヘルスを削られて退場させられた。

 この一瞬の攻防で16名が脱落。僅か30秒足らずの出来事である。


 この時点でプロゲーマー連合に壁を無視して移動出来る魔法持ちが、ほぼいなくなっていた。

 あとはもうbdの独壇場だった。

 ヘルスと魔力を回復したbdは、壁抜けによる奇襲と離脱を繰り返してキルを稼いでいく。


『いや酷いね。なまじ人間側が固まって動いてるせいで[連なる爆炎]が刺さりまくりな感じ』


『気持ちいいくらいに次々爆散させられていくねぃ。壁抜けでの離脱も強いし、このゲーム地形無視して移動出来る魔法強すぎないニキ?』


『100%ナーフされるね』


 2分経過時点で46人もいたプロ連合は残り4人となっていた。

 そこからXxXあんのうんとかいう人が、ひとりでbdのヘルスを半分ほど減らしてリスナーと実況席を湧かせたが、善戦虚しく撃沈してしまう。

 5回目のエリア縮小を待たず、Bグループ46名が敗退。

 そのあんまりな結果に、お喋りな巨嘴鳥と楼龍でさえ沈黙してしまったほど。

 それくらいbdの強さは異常だった。



:こんなのどうやって倒せばええねん


:bdやばすぎ

:同じ戦法使えば俺でもプロ連合に勝てそう


:お前じゃ最初の奇襲で返り討ちにあってる

:ここでダメならもう他のグループ絶対に勝てないだろ

:やっぱ人カス如きがAI様に勝てるわけないんだよなあ

:結構惜しかったと思うけど、bdはひとりだった

:対人ゲーにAI出禁は正しかったんやなって

:ここまでbd無双、ここからもbd無双



 リスナーも、もう人間側に勝ち目がないことを悟ったような書き込みばかりしている。

 そんなタイミングで5回目のエリア縮小が始まってしまった。

 Bグループの一大戦力を失った状態で、戦いは最終局面へと突入する――。




 ■




『呆れた人ですね。本当に人間ですか、貴方は』


 bdの問い掛けには答えず、蘭月はチャイナ服の裾を破いて、血の滲んだ拳に乱暴に巻き付けた。

 キューブを殴れさえすれば片が付くのに、どうしても一撃を入れることが出来ない。

 あれからbdの数は更に増えて、現在蘭月は9体のbdと同時に戦っているところだ。

 徐々に身体能力のギアが上がってきていた蘭月だが、あと一歩というところでbdの数が増えて邪魔をされてしまう。

 しかも一気に戦力を投入してこちらを潰しに来ずに、逐次投入で数を増やしくるのが実に腹立たしい。


 だが、戦力を逐次投入しているのは、bd側にもそうせざるを得ない事情があるのだと蘭月は推察する。

 bdが実戦投入されるのは恐らくはこれが初なのだろう。

 つまり、一度に何機まで負荷なく操作出来るのか、実はbdと博士にも分かっていないのではないかという可能性。

 さっさと蘭月を倒そうとして、無理して数十機くらいの数の機体を操作しようとした結果、処理落ちでも起こして隙を突かれでもしたら目も当てられない。

 だからbdはこの戦いの中で、自身が何機までなら負荷なくボディを操作出来るのかテストしているのだ。


 そして先程から9体以上にはボディの数が増えていない。

 恐らくはこれ以上は負荷に堪えられないのだろう。


 一瞬だ。

 一瞬だけでもbdの数が8……いや6くらいまで減ってくれれば、あとは何とかゴリ押せるはず。

 こちらも少ない命の蝋燭を、さらに短くする覚悟が必要だろうが、6くらいまで数が減ってくれれば何とか出来る。

 だからあとは、bdが今も片手間でプレイしているであろう例のゲームが、1%でもbdの処理能力を奪うことを期待するしかない。

 ないのだが。


 蘭月は、密カスの様子をイヤホンで聞いている北巳神の顔色を見て察してしまった。

 状況が最悪に近いだろうことを。

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