【密林配信】マテラテ密林カスタムマッチ【本配信】#4

【密林配信】マテラテ密林カスタムマッチ【本配信】




 エキシビジョンマッチは中盤戦を越え、いよいよ終盤戦に差し掛かろうとしていた。

 もう間もなく4回目のエリア縮小が始まる。

 あれからbdに数十名のプレイヤーが狩られてしまったものの、どのグループもまだ半数以上の人間プレイヤーが残っている。

 現在の各グループの残プレイヤー数は以下の通りだ。


 Aグループ 42/60

 Bグループ 53/60

 Cグループ 45/60

 Dグループ 31/60


 最強クラスのプロゲーマーが多く集まっているBグループはほとんど削られていない。

 しかも既に40名以上の徒党を組んで行動しており、いくらなんでもbd単騎でこれを倒しきるのは不可能だと思えるほど。しかし全米一だか世界一だか言われているLipid? とかいうプロゲーマーが単独行動しているらしく、巨嘴鳥と楼龍がbdそっちのけでそっちにカメラを向けたりもしていた。


 一番人数が減っているのは小槌たちが居るDグループだ。

 2回目のエリア縮小の折に、18人で行動していた団体がbdと遭遇。

 18人も居るなら勝てると踏んだらしく、そのまま全員でbdを追い回し始めたのだが……結果は見ての通り。一人残らず返り討ちにあっていた。

 実況席に居座っているらしい有栖原が『なんで最後まで待たずに仕掛けるのよ!』とご立腹だったが、彼らは裏の事情など知らないのだから無理もないだろう。参加者たちはただゲームで遊んでいるだけなのだから。

 だがそれでいい。ライバーもプロゲーマーもリスナーも、何も知らないままでいい。


 世界の危機だとかテロだとか、そういう純粋に配信を楽しめなくなるような要素は、俺や蘭月や有栖原といった裏方があれこれ頑張ってなんとかすればいいのだから。

 …………いや、よくよく考えたらそれもVTuber事務所の仕事ではない気がするけど。

 深く考えたら負けな気がする。


『あぁ! Aグループで団体に合流出来ていなかった御影星先輩のチームとbdたんが接触ぅ!』


 数少ない知り合いの密林Vの名前が出て来た。

 御影星率いる3人チームは、単独行動するbdを見るなり敵か味方かの確認もせずに速攻で攻撃を開始する。御影星らしいっちゃらしい先制攻撃だ。


『bdの周囲に壁生成魔法で壁を作って……グレと範囲攻撃魔法で絨毯爆撃だ。いかにも御影星って感じの大味な戦法だね』


『bdたん逃げ場がないぞ!? これはやったか!?』


『やったかはダメだってオニキ』


 楼龍の言う通り、生存フラグは無事に回収。

 bdがやられたというキルログは流れていない。


 オブザーバーカメラには、bdが爆撃を逃れて地面に潜っている映像が映し出されている。

 勿論バグではない。

 土属性魔法の[地を穿つ者ダウンダイバー]の効果で、一定時間地面の中に潜っているだけだ。


 bdは4マッチ全てで魔法のビルド構成をバラけさせている。

 Aグループでは[反響する雷鳴ハウリングボルト]と[地を穿つ者]という二つの魔法を持ってきていた。

その内のひとつである[地を穿つ者]の効果は、発動後一定時間地中を高速で移動可能になり、一部の攻撃を除いてほぼ全ての攻撃が当たらなくなるというものだ。

 その代わりに視界は完全に真っ暗闇になり、地上の様子は音だけでしか聞き取れなくなるというデメリットもある。この間はMAPで現在地を確認することも出来なくなる。

 普通そんな状態で移動し続けたら、自分や敵の位置を正確に把握出来なくなってしまうはず。

 だがAIであるbdにそんなデメリットは皆無に等しいらしかった。


 地中に潜行するbdが、迷いなく暗闇の中を泳いでいく。

 御影星たちはbdの姿を探してキョロキョロとしているが、探している相手が足元に居るとは夢にも思っていないだろう。


『御影星先輩ーっ! 足元がお留守ニキー!』


 巨嘴鳥の叫びが虚しく木霊する(実際無駄にエコーを掛けていた。なんで?)。

 次の瞬間には、地面から這い出てきたbdに至近距離からショットガンで攻撃され、あっという間に3人がやられてしまった。

 これでAグループは残り39人。bdを抜けば残り38人だ。


『この魔法強すぎない?』


『移動補助系の魔法としてはかなり強い方……って攻略サイトにも書いてあるよん。潜行中は地上の様子が音でしか分からなくなるって弱点もbdたんが使えばないに等しいし、シンプルにクソつよだねぃ』


『こりゃうち密林は勝ち目ないかなぁ。基本アホで脳金の集まりだし』


『サウナ狂いの兎斗乃依ちゃんだけには言われたくないとみんな思ってるよん。……っと、そうこうしている内に4回目のエリア縮小だ!』


 エリア縮小も4回目となると行動できる範囲はかなり狭くなる。

 どこのグループも既に大所帯が出来上がっているが、もういつbdとの衝突が起きてもおかしくない状況である。

 だがbdに最大の負荷をかけるには、全グループが同時にbdとの最終対決を迎える必要がある。

 ならば今はまだ仕掛ける場面ではない。

 5回目のエリア縮小を待つべきだ。

 待つべきだったのだが、そう上手くことが運ばないのが現実である。


『あ、このままいくとヤバイ?』


『おっ……スタッフさんBグループのカメラをアップに! 急ぐニキ!』


 本配信の画面がBグループのマッチをメインに映し出す。

 40名超の団体がひとつの生き物のように群れとなって、マップ上の古城へと押し寄せる。

 その古城の中には、まるで勇者の到着を待ちわびる魔王のようにbdが待機していた。


『これは、Bグループの人たちお城にbdがいるって気付いてる?』


『索敵系の魔法持ちも居るから気付いてないワケないと思われ』


『じゃあもしかして』


『ここで勝負を決めるつもりだと思うよん』


 5回目のエリア縮小を待たずに、Bグループが先行。

 そういう展開も大いに有り得るとは予期していたが、こちらには止める手立てはない。


『早すぎるのよっ!!!』


 有栖原の怒号も彼らには届かない。

 プロゲーマー46名という最強集団が、bdの居る古城へと突撃した。

 彼らが勝っても負けても、bdに最大負荷を掛けるという目的は達し得ない。

 それは即ち、現実世界で戦う蘭月やトレちゃんが、絶好調状態のbdと戦わされるということを意味している。それは最悪の展開だ。

 出来ることならBグループには、他のグループがbdと戦い始めるまで決着を付けずに戦いを引き延ばして欲しい。いや、46名という人数を考えれば、5回目のエリア縮小まで余裕で保てる可能性もあるか。




 そんな俺の期待はあっさり裏切られ、Bグループはたったの3分で壊滅することとなった。

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