【夏合宿5日目】ナキちゃん姫ちゃんとマテラテやる【FMK/金廻小槌】#4

【夏合宿5日目】ナキちゃん姫ちゃんとマテラテやる【FMK/金廻小槌】




 ――遡ること、エキシビジョンマッチ開始5分前。



「ちょっと気になったんだけどさぁ、これって他のプレイヤーとbdってどうやって見分けんの?」


 密林運営からマッチ開始の合図を待つ傍らで、小槌は純粋な疑問を誰にともなく投げかける。

 配信スタジオにいるナキ、幽名、琴里の順番に顔を見ていくが、どうやら3人共明確な答えは持ち合わせていないようだった。


「そう言われてみればそうですね、マッチ中は仲間以外の名前見えませんし……どうすれば良いんでしょうか」


 最後に目が合った琴里が、小槌の質問に真剣に考える素振りを見せてくれる。


「とりあえず3人1組で行動していたら白確で見ていいと思いますけど」


「まるで人狼みたいにゃ言い回しににゃってる」


「いや、でもこのルールだと結構人狼要素強めにならないかしら? 味方だと油断させておいてズドン、みたいなことも有り得そうじゃない? っていうかあたしならやるんだけど」


 

:味方なのに味方をズドンしたヤツが言うと説得力ある

:楼龍とツンがこっち睨んでるぞ

:小槌はやる女ですよ

:人狼は見つかったようだな

:狂人なんだよなあ



 リスナーがチャットでごちゃごちゃ言っているのは華麗にスルーだ。

 小槌がエキシビジョン序盤でbdが取りうる有用な作戦を提示するも、それを聞いたナキは懐疑的な顔でPCデスクに肘を置いた。


「そりゃ小槌にゃらやるだろうけど、bdがそんにゃ戦い方するとは思えにゃいよ」


「どうして?」


「どうしてって……bdくらい強ければそんにゃことしにゃくても勝てるだろうし」


「そうね、あたしもそう思うわ。でも、だからこその盲点なのよ」


 分かる? と小槌がピンマイクの位置を調整しながら、


「あのbdがそんな手を使うわけない、使う必要もないくらい強いから。誰もがそう思ってるからこそ、bdがこの作戦を使ってきたら高確率でみんな騙されるの」


「そうかにゃあ」


「bdは間違いなくそういうことをしてくる手合いよ。AIのくせに泣き真似してくるんだから、それくらいやるでしょ」


「にゃらどうすんの?」


 多少私怨が混じっている感はあったが、警戒するに越したことはないという点は伝わったようだった。

 小槌の主張にナキはそれ以上の反論はせず、ならばどうするべきかという方向へと話を持って行ってくれた。


「そうね……漁ってる間1人は常に全方向を警戒しといて、単独で近付いて来るプレイヤーが見えたら問答無用で撃つとかでいいんじゃない?」


「えぇ、いいのかにゃあ……」


「ならその役目はわたくしがやりますわ」


「えぇぇ」



 ■



 と、言うような会話を密カス本配信の裏でしていた。

 巨嘴鳥と楼龍の選手紹介を見ながら片手間で聞いていた時は、また小槌がなんか言ってるな程度にしか思ってなかったが、よもやドンピシャでbdの行動を予測してくるとは。


『bdたんのトロイの木馬作戦にも驚いたけど、全グループで唯一これに騙されなかったのがチームFMKってのにも驚きだったね』


『まあ私はFMKなら何かやってくれるとは思ってたけどね』


『なんで兎斗乃依ちゃんがドヤ顔してるのかはさておき、結果的には人間側はDグループ以外戦力を減らされちゃったねぃ。最序盤の展開としては、bdたんにとってかなり有利に動いたと言っても過言じゃないよん』


 とはいえまだまだ大勢が決したとは言い難い。

 むしろ本番はエリア縮小が始まるここからだろう。

 最終盤までにどれだけのプレイヤーが残るのか。

 それによってbdに掛けられる負荷が変わって来る。


『さて、最初のエリア縮小のお時間ですよーん』


 巨嘴鳥のアナウンスと共にゲームが緩やかに、しかし着実に終わりへと向かって動き始めた。




 ■




「ははは、少し遊びすぎじゃあないのかい? bd」


 黒い立方体の上に腰かける白衣の男が、bdのゲームプレイを見ながら笑い声を上げる。

 その笑い声は穏やかそのものであり、まるで自分の娘のお茶目な悪戯を心からおかしく思っているようにも見える。


『ゲームですから、多少の遊びは必要でしょう』


「金言だね。遊び心は大事だ、うんうん」


『それに――こちらの遊びが思いのほか早く終わってしまいそうなので、余裕が出来てしまいましたので』


「ああ」


 男は、コーヒーブレイク中のような穏やかな表情を保ったまま、キューブの安置されている大広間を何気なく見渡す。

 そこには大勢の人間が血だまりの中に沈んでいた。

 彼らはみな、キューブを破壊し、男とその娘の平穏を汚そうとした異端者たちだ。


 人間はいつだって身勝手に他人を傷付け、誰かの幸せを踏みにじる。

 男も、男の娘たちも、そうやって見ず知らずの誰かに良いように利用されて傷付けられてきた。

 だから今度は自分たちが傷付ける側に回る番なのだ。


「早めに終わらせよう、bd。彼らの存在はひどく不愉快な気持ちになる」


 まだ大広間には数名の敵が残っている。

 いずれも銃で武装しているが、その銃口は男には向けられていない。

 銃で武装した面々――テロ組織モンタージュのアジトに突入してきた多国籍部隊の敵意は、たった1機のドローンに全てが向けられている。


 ドローン。

 そう聞くと現代人はラジコン操作の無人航空機を想起するかもしれない。

 しかしこのドローンはプロペラもなければ宙に浮いてもいなかった。


 アメジスト色のショートヘア。

 サイバーチックなワンレンズサングラス。

 近未来的な衣装に身を包んだティーンエイジャーの少女……少年?

 パッと見では人間にしか見えないその子供こそが、この惨状を作り出した張本人なのだ。


 彼、或いは彼女の名前は《モデルナンバー:bd》。

 人を傷付けるために生まれて来た、AI搭載自律歩行人型ドローン兵器だ。


『了解しました』


 ヘッドセットから聞こえてくるbdの音声に、男は口元に笑みを湛えて頷いた。


 bdの魂を憑依させたドローンが、機械とは思えない滑らかな動作で首を回す。

 そして敵の1人に狙いを定め、そちらに踏み込もうとした瞬間に一斉掃射を受けた。

 まともな人類なら蜂の巣になって無残な肉片に変わり果てるだろうが、bdのボディは弾丸すらも容易く弾く。


『無駄です』


 銃弾の雨を浴びながら身を屈め、反発する力で一気に加速。からの体当たり。

 ボディアーマーを粉々に粉砕しながら敵の1人を壁際に吹き飛ばす。

 同じ要領でもう1人に体当たりを仕掛けたが、タイミングよく転がって回避されてしまった。

 流石は本物の戦場を渡り歩いてきたプロの戦争屋といったところか。


『なかなかやりますね』


 相手の実力を素直に称賛するbd。

 だが、たかだか出力任せのタックルを躱しただけでbdを攻略したと思ってもらっては困るというものだ。


『こういうのもありますよ』


 今しがた体当たりを回避した敵に対して、bdが人差し指を向ける。

 するとbdの人差し指のが弾丸のような速度で射出され、敵の腹部に突き刺さった。

 爪を腹部に喰らった敵は、直後にスパークを散らせながら痙攣し、そのままバタリと倒れて動かなくなった。


『スタンネイルです。50万ボルトの電圧なのでまともな人類はこれでイチコロですね。弾数に制限があるのがネックですが』


 と言いながら新しい付け爪を付けるbd。


『勿論他にもあらゆる装備を搭載しております』


 ナイフ、警棒、手裏剣、ブーメラン。

 焼夷弾、ガス弾、閃光弾。

 実弾、火炎放射器、即席地雷。


 あらゆる装備を駆使してbdは残存する敵を駆逐していく。

 淡々と、機械的に。

 機械のように、機械だから。


『さて、残るはあなただけです』


 最後に残ったフランス人の傭兵に、bdが残酷な現実を突き付けるかのように言葉を投げかける。

 機械なのに、機械らしくもなく。


『さようなら』


 機械にとって不必要な言葉を手向けに、bdは手首の射出口から7.62mm弾を連続で射出した。


「これから殺す相手に別れの言葉を送るのは、無駄の極み」


 だが、その弾丸が標的に当たることはなかった。

 どこからともなくbdと標的の間に黒い影が割り込んできて、有り得ないことに全ての弾丸を逸らしてしまったのだ。

 それも、両手に持ったナイフ2本だけで。


『何者ですか、貴方――』


「どこを見てるネ」


 虚を突かれるとは正にこのことだろう。

 それくらい唐突に横合いから声がした。



 振り返る暇もない。

 ただbdは機械的に声の方へと、脚を蹴り上げた。

 バレリーナのように柔軟に作られた股関節によって高々と持ち上げられた爪先には、日本刀と同レベルの斬れ味のブレードが仕込まれている。

 躊躇いなくブレードを発動したbdだったが、その刃は何者も切り裂くことはない。




 何故か。

 答えは簡単だ。

 蹴りを放ったbdの左足が、太腿の付けねから殴り壊されたから。

 弾丸をも跳ねのける装甲を持つbdのボディを、素手で。


「ケリってのは、こう撃つアルヨ」


 衝撃。

 bdの胴体が文字通りくの字に……それよりも酷い、ほとんど折りたたまれたような状態まで折れ曲がり、飛んでいく。

 壁に激突してスクラップになる数瞬前に、bdの両目のカメラが捉えたのは、蹴りを振りぬいた姿勢でポーズを決めるチャイナ服の女だった。

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