【密林配信】マテラテ密林カスタムマッチ【本配信】#2

【密林配信】マテラテ密林カスタムマッチ【本配信】




『どーもー! 密カス実況席の巨嘴鳥オニキでーす! さあさ、間もなく最強ゲーミングAIbdたんvs人類のエキシビジョンマッチが始まりますが、その前に人類側の参加者をちょろっと紹介していきたいと思いますよーん!』


『と言えば聞こえは良いけど、実際は間を繋ぐためのトークなんだけどね。あ、密林配信の楼龍兎斗乃依だよ。今日の兎斗乃依号の営業が終わったから、こっちに合流しましたよろしく』


 俺がトイレに行っている間に密カス本配信に楼龍が追加されていた。

 サウナカー兎斗乃依号をレンタルすると、楼龍とリモートサウナを楽しめるという良く分からないコラボはまあまあ盛況だと聞いている。

 その代わりに期間中楼龍はほとんどサウナの中から動いていないらしい。

 そんなにサウナばかりに入ってたら逆に健康面に影響が出そうで心配してたが、声を聞く限り本人はめちゃくちゃ元気そうだった。


『今日は珍しくオフモードの兎斗乃依ちゃんだねぃ。基本配信に映る時はサウナに入ってふにゃふにゃになってるからリスナー的には結構新鮮みあるんじゃないかな?』


『ここ密林事務所だし、サウナないから仕方ないね。事務所にもサウナ置いてって何度も直談判してるんだけど、社長が頭固いからなかなか受け入れてもらえなくてさあ。オニキからも言ってやってよ』


『うはは! 兎斗乃依ちゃんは相変わらずサウナのことになると常識なくなるっすね~』


『サウナカー兎斗乃依号、絶賛レンタル中! 画面の前のあなたもこの夏はサウナカーで汗を流そう!』


『お前らごちゃごちゃと関係ない話しすぎなのよ! 自分の案件の宣伝もするななのよ! だからお喋りツートップを並べるのはイヤだったのよ!』


『おっとと、社長がご立腹なので流れを戻すニキ』


 ……有栖原も個性的なVに振り回されてて大変そうだなぁ。

 一鶴みたいなやつらが数十人も居ると想像したらゾッとするし、大型箱は大変だ。


『さて、まずエキシビジョンマッチのルールをおさらいしたいと思います。兎斗乃依ちゃん、これ呼んでもろて』


『うん。えーっと……エキシビジョンマッチはbdがひとりなのに対して、人間側が59人でチーミングして意地でも勝ちに行くっていう酷い企画だね。しかもbdは1対59の戦いを4マッチ同時に処理するって言う、ハンデにハンデを重ねたウルトラハンデ戦を強いられています。社長の性格の悪さが滲み出てるね』


『一言多いのよ!』


 楼龍は奥入瀬さんの件でまだ有栖原に腹を立てているみたいだな。

 あとbdに関する事情を知らないこともあって、心情がbd寄りになっている。

 どちらも仕方ないと言えば仕方ない話なのだが。

 前者の件は有栖原が全面的に悪いしな。根に持たれて当然だ。


『それで、ABCDと4つのカスタムマッチに分かれて戦うわけだけど、4マッチ同時に実況解説するとかここ実況席の負担やばいね。これじゃ目も口も足りないよ』


『基本的にオブザーバーのカメラはbdたそだけを映すから、他の参加者の動きが気になる人は、個々の配信を見に行ってあげてくださーい。みんなマテラテ枠開けてなかなかの祭りになってるニキよ~』


 確かに、名だたるFPSプレイヤーたちも参戦してくれているお陰で、Tube上の配信がほとんどマテラテ一色に染まっている。

 ツブッターのトレンドも密カスが1位を取っているし、そういう意味でも密林配信の箱企画は成功だと言っても良いだろう。

 だがbdをなんとかしないことには真の勝利とは言えない。


『で、参加者の紹介なわけだけど、まずはAグループの紹介からしていこうかな? 兎斗乃依ちゃんよろしくニキ』


『Aグループの参加者は全員密林ライバーだよ。というか密カス本試合の面子まんまだね』


『イエース、さっきまでbdにボコられていたメンバーとなっておりまーす。ただ本試合とは違ってbd以外の参加者が全員味方となっているので、bdを避けながら他のチームを倒さなきゃいけなかったさっきよりは良い戦いになることを祈りたいね。密林の絆ってやつを見せてやってくれ!』


『Aグループで頭一つ抜けて上手いのが、密カス優勝チームの射手咲さん。時点で鰐口と……あれ、北巳神がいないね。出るって言ってなかった?』


案内灯ほたるちんは体調不良でお休みだよん。代役として打麦が出てるよ』


『あ、そうなんだ、北巳神はお大事に』


 北巳神は今頃蘭月と一緒にテロリストを撲滅してる頃だろう。

 殺されそうになった相手ではあるが、今回ばかりは無事であって欲しいものだ。


『他にも蒼空すかいはいとか椰子爺なんかがFPS得意だよね。普段から配信でも結構やってるし』


『って言ってもやっぱりプロクラスには届かないから、そういう意味だとAグループが一番苦しい戦いになるかもだねぃ。他のグループと違ってプロゲーマーが何人も混ざってるわけじゃないからさ』


『直近でbdと戦ってるから、何か攻略の糸口的なものを一つでも得てることを祈るしかないかな。個人的にはbd無双を見てみたいけど』


『兎斗乃依ちゃんはかなりbd寄りだなぁ。さて、お次はBグループの紹介といこう!』


『Bグループは……え、すごい面子じゃないのコレ? LipidリピッドEchoEchoエコーエコーXxXあんのうんって、私でも知ってるプロゲーマーとストリーマーばっかりなんだけど』


 楼龍でも知ってる面子なのか。

 ちなみに俺は誰一人として分からない。


『知らない人のために解説すると、LipidはOPEX世界1位のプロゲーマーで、EchoEchoは同ゲーム2位で有名な方々ニキ。2人ともアメリカのプロチームに所属してるガチのガチもんだよん。XxXは日本の女性プロゲーマーで、CallDの世界大会で上の2人に土を付けて優勝した経験もあるくらい凄い人だよ』


 巨嘴鳥が丁寧に補足してくれたお陰で、とりあえずBグループには世界トップレベルのFPSプレイヤーが居るってことだけは分かった。


『他にもドイツ、イタリア、中国、韓国、タイ、オランダと、色んな国々のプロが一堂に会してるみたいだけど……社長どんだけ払ったの?』


『金なんて払ってないのよ。ただアリスは一言送ってやっただけなのよ。最強のAIと人間、どちらが強いかハッキリさせたくはないか、と』


『ヒュー!』


 本当にその一言だけでこの人数のプロを動かしたのだとすれば大したものだ。

 性格が捻じ曲がっているが、やはり有栖原アリスは並々ならぬカリスマを持っていると評さざるを得ない。

 少なくとも俺に同じ真似は出来ないだろう。

 知らん相手にそんなメッセージを送り付ける段階で二の足を踏んじまうのが目に見えてる。

 そもそもプロゲーマーやストリーマーにそこまで詳しくないしな。

 そこら辺もこの業界で生きていくなら、ちゃんと勉強していかなきゃならないのかもしれない。


『戦力的にはこのBグループが大本命って感じニキね。もうこのグループが勝てなきゃ、世界中の誰もbdたんを倒せないってことになるかも知れないよねん』


『いやいやいや、C、Dグループもほぼプロで固まってるから相当だよ?』


 その流れで巨嘴鳥と楼龍はCグループとDグループの紹介も続けていった。


『あれ? Dグループに見覚えのある名前が』


『なになに兎斗乃依ちゃん、知り合いでも居る感じ?』


『いやほら、ツンがいる。それにFMKの幽名さんと小槌とナキちゃんまで……ツンはともかく、どうしてFMKが?』


 小槌たちの名前があることに気付いた楼龍が、素で驚いた様子でFMKの存在に触れる。

 まあ普通に驚くよな。名だたるプロに混じって、知り合いのそれほど有名じゃないVTuberが参加してたら。しかも楼龍は小槌の腕前も知っているし尚更だろう。

 

『FMK? なにそれおいしいの?』


 そんで巨嘴鳥にいたってはFMKすら知らない様子だった。


『なんで知らないのさ。ほら、琴里が移籍したとこ』


『あー……あー! それか! 完全に忘れてた、うっかりニキ』


 どうやら忘れてただけのようだが、どっちしろ酷い話だ。


『いやいや琴里ちゃんも不運だったよね。わけのわからん理由で密林から追放されて』


『ほんとそれ、おかしいよここの社長』


『お前ら社長の前で……というか本配信で事務所批判とは良い度胸なのよ』


 今密カス本配信の同接は20万人ほどまで増えている。

 その大勢が見ている前で堂々と事務所の悪口を所属ライバーに言われる辺り、密林配信はよっぽどなのだろう。

 知ってたけど。


『それでFMKの人たちってFPSめちゃくちゃ上手い集団だったりするんすか? 実況の巨嘴鳥オニキはそこんとこすごい気になりますよん』


『思い出したように自己アピールするのやめなよ。……幽名さんとナキちゃんは知らないけど、小槌は私より下手だったような』


『兎斗乃依ちゃんより下手って相当じゃない? どうして呼ばれたのか不思議なくらいだなあ』


 楼龍も巨嘴鳥も不思議そうに2Dモデルを斜めに傾がせている。

 この本配信上でその疑問に納得のいく説明を付けられるのは、有栖原以外にはいないだろう。

 俺がそう思っていると、期待通りに有栖原が「それは」と口を挟んできた。


『急に出られなくなったプロがいて、仕方なく数合わせで暇なやつらを呼んだ結果なのよ』


『『あー』』


 もうちょっとマシな理由付けがあるだろ。

 実況2人もコメントしづらそうにしてるじゃねえか。

 有栖原が小槌を貸せと言うから仕方なく貸してるのにひでえ扱いようだ。

 全部終わった後でしっかり文句を言ってやろう。


『ただ、金廻小槌はbdと因縁があるようだから、居たら面白そうだと思ったのもあるのよ』


 空気を読んだのか、有栖原がそう補足する。

 小槌とbdの因縁とは、小槌がbdに言い負かされて尻尾巻いて逃げた時のことを言っているのだろう。

 今日集まった誰よりも因縁深いと言われれば確かにそうかもしれない。

 実際は小槌が一方的に因縁吹っかけただけで、bdの方は歯牙にもかけてなさそうだけども。


『なるほどー、この大舞台で因縁の対決に決着を付けられたら超エモいですねぃ。そういう意味ではFMKの人らが逆に一番の注目株なのもかもしれませんよん。是非ともジャイアントキリングしてもらいたいところです』


 巨嘴鳥が上手い感じに締めてくれたところで各グループの紹介が終わった。

 そして参加者たちも全員がカスタムマッチに集まれた様子だった。


『さて、皆様長らくお待たせしましたぁ! いよいよエキシビジョンマッチの開幕です!』

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