【夏合宿5日目】ナキちゃん姫ちゃんとマテラテやる【FMK/金廻小槌】#3
2マッチ目序盤は順当にアイテムを漁って装備を充実させられた。
漁り中に敵が来ることもなく、雑談しながらワイワイとしていただけだ。
ここまでは、ほぼ前回の流れを踏襲している。
違うことがあったとすれば、パッドからキーボード&マウス操作に変えた幽名の動きが目に見えて改善されたことくらいか。
「やはりこちらの方がしっくり来ますわね」
スムーズに動く幽名のキャラからは、先程までのたどたどしさはもう感じられない。
なんなら既に小槌より上手く見えるくらいだ。
「とりあえず一回くらいは敵プレイヤーをキルしてみたいわね」
「それにゃら、銃声のする方にでも行ってみる?」
「行こう行こう」
1マッチ目は、いきなり襲われて一方的に撃たれて全滅してしまった。
だったら次はやられる前にやろうの精神で、こちらから仕掛けることになった。
戦いを求めて銃声の聞こえる方へと走っていく。
そして辿り着いたのは、大木が林立する巨大樹の森だった。
「視界悪いわね」
「射線切られまくってるし、ショットガンで近接狙った方が良いかもしれにゃい」
「ショットガン?」
「姫依ちゃんの今持ってる銃だよ。遠距離だと威力が低いけど、近距離だとすごい強いの」
「なるほど?」
「とにかくもっと近付いてみにゃいと」
木陰に身を隠しながら、少しずつ銃撃戦の発生源へと距離を詰めていく。
少し近付いた所でプレイヤーらしき影が木々の間を駆けていくのが見えた。
「居た! どうするナキちゃん、撃っちゃう?」
「待って、ここは漁夫を狙おう」
「漁夫とは?」
「漁夫の利のこと。見た感じ2パーティーしかいにゃいみたいだし、片方が落ちるまで待つのが良いと思う」
「で、生き残って油断してる方を回復する前にぶっ潰すと」
「そゆこと」
「なるほど」
削り合って体力の減った相手を狙う方が、万全の相手を狙うより遥かに楽なのは自然の摂理。
少々姑息にも思えるが、バトルロワイアル系のゲームでキルを伸ばすには必要な考え方でもある。
熟練プレイヤーならどちらかが落ちるまで待たずに、2パーティーともまとめて殲滅するかもしれないが、小槌たちは敵が減るのを待つ方を選んだ。
「それで作戦にゃんだけど、魔法で敵の退路を塞いで、混乱してるところを集中砲火する感じで」
「ああ、さっきナキちゃんが氷の壁に囲まれて無様にやられてたアレをやり返すのね」
「一言多いんだよにゃあ……」
全属性に用意されている『指定位置に壁を作り出す魔法』は、汎用性の高さから初心者から上級者まで幅広く使われている魔法……らしい。あくまでもリスナーからの情報であるが、信憑性は高いだろう。
今回のマッチでは3人共、2つまで持っていける魔法の内のひとつを壁生成系魔法にしてある。
これで囲って逃げられなくして、BANGだ。
「森の中をちょこまかと走り回られたら、初心者ばっかのこっちはエイム当たんにゃいと思うし、だったら動きを封じるしかにゃいかにゃって」
「そうね……って、銃撃止んだわよ」
あれほど騒がしかった銃声が、すんっと鳴り止んで静かになった。
静寂を取り戻した森の中で、どたどたと走り回る足音と、誰かが何かを飲むような音が鮮明に聞こえて来る。
「ポーション飲んで回復してるっぽい?」
「全回復する前に叩かにゃいと!」
「ゴー! ですわ!」
妙に楽しそうな幽名の号令に従って、全員で一気に距離を詰めていく。
敵は直ぐに見つかった。3人がほぼ一塊となり、落ちている鞄の周りでたむろしている。
どうやら倒したプレイヤーの遺品を漁りつつ、削られた体力を回復しているようだ。
油断しているように見えるが、しかし相手もバカじゃなかった。
こちらの足音に気付くや否や、一目散に逃げようと走り出す。
が、こちらの方が一手早い。
「全員壁、壁、壁!!」
咄嗟に逃げようとした敵を取り囲むように、炎の壁と土の壁が一斉に乱立した。
混乱に敵の足が止まる。
その隙を逃すまいと、小槌はすかさず銃を構えた。
「小槌! 左のヤツ狙って!」
「りょ!」
ナキに言われるがまま、自分から見て画面左に居る敵に照準を合わせる。
あとはトリガーに掛けた指に力を込めるだけ。
小槌と、それからナキの集中砲火を浴びた敵が一瞬でダウンした。
「よっしゃ! ワンダウン!」
「トドメは私にゃんだけど! あと1人壁越えて逃げてる!」
触れただけでダメージを受ける炎の壁や、つるつると滑って登ることが出来ない氷の壁とは違い、土の壁は普通によじ登れる。
敵1人が迅速な判断で土壁を這い上り、壁の包囲からいち早く離脱してしまった。
「もう1人は宙に浮いてんだけど!?」
そして残る1人は、何らかの魔法――恐らくは風魔法の効果で高所へと舞い上がって行ってしまった。
慌てて上空に向けて銃を乱射するが、中空で左右にふらふらと動かれるのと、木々の梢が絶妙に視界を遮るせいで弾が全然当たらない。
逆に上空から反撃が飛んできて、小槌のヘルスが一気に半分以上削られてしまった。
「上手すぎない!?」
「小槌は一旦下がって回復!」
回復アイテムのポーションは効果を発揮するまで数秒のラグがある。
その間はナキと幽名に全てを任せるしかない。
「飛んでたヤツも逃げた! 姫様!」
「心得てますわ」
敵の逃げた方角へと幽名が疾走する。
もの凄い速度だが、幽名が持ち込んだ風魔法[
[疾風]の効果は、一定時間自身の移動速度を上昇させるというものだ。
どうやら小槌とナキが1人ダウンさせている間に、自身にバフを掛けていたらしい。
後を追うナキが絶対に追いつけないほどの速度で、幽名は森の奥へと消えていった。
そして銃撃の音だけが聞こえて来る。
「当たりませんわ!」
「はい」
「負けましたわ!」
「ですよねー」
今日FPSを始めたばかりの初心者が正面からの撃ち合いで他のプレイヤーに勝てるほど、ゲームの世界は甘くない。
ハンデはそれなりにあったはずだが、それでも有利状況を覆されるくらいのレベル差が幽名と相手にはあった。ただそれだけのことである。
弱っている相手を逃がすまいと即座に詰めていった気概だけは大したものだが。
「ヤバい、
「マジか。っていうかこれ相手かなり上手くない? 飛んでたヤツの弾、全部当たったんだけど」
「わたくしの弾も見えてるみたいに躱されましたわ」
幽名の証言は大げさだろうが、追ってきた幽名を即座にキルしてきた辺り鬼強なのは間違いないだろう。
「逃げてくれて良かったかもしれにゃいね。あのまま続けてたらこっちが全滅してたかも」
「そうね。流石にもう戻ってこないとは思うけど――なんか足音しない?」
「にゃ!?
敵が逃げて落ち着いたと思いきや、今度はあらぬ方向から銃弾と魔法が飛んでくる。
「べっぱとは?」
「別のパーティー! 私達漁夫られてる!」
漁夫からの漁夫。
因果応報。
戦闘音に引き寄せられてきた新しい乱入者によって、小槌たちはまたも全滅させられてしまうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます