【夏合宿5日目】ナキちゃん姫ちゃんとマテラテやる【FMK/金廻小槌】#2

 プレイ人口が多いのか爆速でマッチが成立。

 小槌たちは早速60名のプレイヤーが争い合うバトルフィールドへと放り込まれた。


「これはどうやったら動かせますの?」


「姫依ちゃん、パッドの持ち方が上下逆だよっ……!」


 からの幽名の小ボケである。

 PCのブラウザから遊べるような簡単なゲームなら配信でも何回か触っていたが、ちゃんとしたビデオゲームをプレイするのはこれが初めてなのだろう。

 今時の若者でコントローラーの持ち方も知らないのは天然記念物が過ぎる。流石はガチお嬢様だった。


 幽名へのレクチャーは見学の琴里に任せて、小槌はさっさとゲーム内で物資を集めていく。

 漁りが遅いのは前回から変わらずだが、そこんとこをリスナーに煽られても小槌は鋼のメンタルでそれを跳ねのけた。


「にゃ、にゃ、にゃ」


「なんか猫がいるわね」


 小槌は自分の画面から目を離してチラっとナキの画面を見た。

 ナキは小槌と比べてかなり手際良くアイテムを集めているようだった。

 慣れた手付きでマウスとキーボードをカチカチカタカタと叩いている。


「ナキちゃんって結構コレ系のゲームやってるの? なんかすごい慣れてない?」


たしにゃみ嗜み程度だけど暇にゃ時によく遊んでるかにゃ。そういや配信ではやったことにゃかったっけ」


「マテラテで一緒に遊んでくれる相手を探してる自称ツンデレVTuberがいるんだけど、ナキちゃんのこと紹介してもいい?」


「それツンさんのことでしょ。私あの人ほど上手くにゃいし、実力が釣り合ってにゃいと思うんだけど」


「大丈夫大丈夫、以前もあたしと兎斗乃依っちっていうお荷物2人を抱えたまま笑顔でコラボしてくれたから」


「その配信結構酷かった気がするけど」


 確かにあれは酷かった。小槌が味方2人をキルした挙句、鯖落ちでワンプレイしか出来なかった残念な配信だったもの。

 酷かった原因の半分は小槌にあるが、もう半分はマテラテ運営の責任でイーブンだ。

 あんな初コラボでも仲良くしてくれるツンの懐は本当に広い(あと一応楼龍も)。


 とまあ、雑談しながら物資を集めていると、幽名の操作するアバターがぎこちない動きで小槌の前を横切っていった。

 形容しがたいカクカクとした動きでアイテムを拾っていっている。

 ザ・初心者という感じの操作で、思わずそっちに視線が向いてしまう。


〈バイオ初心者みたいな動き草〉

〈botの方がまだキビキビ動く〉

〈無言でカメラ向けるの面白いからやめろ〉


 やめろと言われても見てるとちょっと面白いので、無言で幽名の背中を追いかけていく。

 すると建物の扉を開けるボタンが分からずに謎屈伸をしたり、段差を越えようとして越えられなかったりと、ジワジワ来る笑いが供給された。


〈小槌ニヤニヤで草〉

〈へらへらすんな〉

〈初心者を笑い者にするな〉

〈実際おもろいからしゃーない〉

〈なぜ笑うんだい? 彼女の操作はとても上手だよ?〉


 小槌に厳しくて、幽名には甘めなFMKリスナー達。

 この差はどこで付いたのか。それが分からない。


「そうそう、姫依ちゃん上手」


「なにか拾いましたわ」


「それは銃だね」


「姫ちゃん銃って分かる?」


「それくらい分かりますわよ? クレー射撃でよく使っていましたもの」


「まさかの実物の方!? やっぱブルジョワジーは違うわね……」


 流石の小槌も本物の銃を使ったことはない。

 向けられたことなら何度かあるが。


「小槌も姫様もバカやってにゃいで次行くよ」


「「はーい」」


 今居る一帯の探索が大体終わったので、3人連れ立って他の場所へと移動を開始する。


「姫依ちゃん、左スティック押し込むと早く走れるよ」


「左スティック……コントローラーの扱いが難しいですわね」


「姫様もキーボード操作の方がいいんじゃにゃい? ブラインドタッチとか超早いし、キーボードの方がにゃれ慣れてるでしょ」


「初心者ならパッドの方が良いと思ったけど、確かに姫依ちゃんの場合なら逆かも……」


「こっちに変えてみますわ」


「まあ、キーボードとマウスもにゃれるまで大変だけど――敵襲!!!」


「「え」」


 ナキの必死の呼びかけがスタジオに響く。

 しかし小槌と幽名はまるで反応出来なかった。

 銃声と爆音が轟き、瞬く間にヘルスが削れていく。


「ちょ、いたたたた!」


「まあ」


 小槌はパニクって四方八方に向かって滅茶苦茶に銃を乱射することしか出来ない(が、奇跡的にそのうちの一発が誰かに命中した音がした。本人は気付かなかったが)。

 幽名はいきなり始まった銃撃戦に対し、お淑やかに驚いているだけだ。

 あっという間に2人がダウンさせられた。


「ごめんナキちゃん」


「面目ないですわ」


 唯一生き残っているナキは割と軽傷だ。

 ナキは風のオーラのようなものを纏っており、その風バリアが弾を防いでくれているようだった。

 そういやそんな便利な防御魔法があったなと、小槌は前回のプレイを思い出す。

 確か[そよぐ風壁ブリーズシールド]とかいう風魔法だったか。


「流石に1対3は無理ゲー……!」


 などと弱気なことを言いながらも、ナキは逃げ回りつつ敵に幾ばくかのダメージを負わせていく。

 だが逃げ回るナキが、不意におかしな挙動で背後に向かって引き寄せられ始めた。


「にゃ――!?」


 その引き寄せが敵の魔法の効果だと気付いた時にはもう遅い。

 そこからの展開は一瞬だった。


 まずは火花が飛んで来て、ナキの風バリアが解除。

 次いで四方に氷の壁が出現。ナキは閉じ込められて身動きが封じられてしまった。

 慌てて登ろうとするナキの頭上に真っ黒な黒雲が発生。氷の壁は滑って登れないことに絶望している間に、黒雲から降ってきた雷に打たれて残りのヘルスを全て持っていかれた。

 ゲームオーバーである。


「ひどいフルボッコを見た」


「なにが起こってるのか分かりませんでしたわ」


「今の登れにゃいの初見殺し過ぎ……氷の壁は水魔法だから、雷魔法持ってきてたら脱出出来たんだろうけど、手持ちが風と火だし詰んでたんだけど」


 血も涙もないデスコンボを喰らったナキが悔しそうに歯噛みする。

 何も出来ずに悔しいのは小槌も同じだ。

 こちとら一方的にやられたままでいられるほど、平和的に育った覚えがない。


「もう1戦いくわよ。姫ちゃんも良いわよね?」


「勿論ですわ」


「待って、その前に持っていく魔法を見にゃおした方がいいかも」


 ナキの冷静な提案で、3人が所持魔法を変更する。

 リスナーからも初心者向けの魔法を教えてもらい、今度こそ準備は万端だ。


「2マッチ目行くわよ」

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