【夏合宿5日目】ナキちゃん姫ちゃんとマテラテやる【FMK/金廻小槌】#1

「しっかし、マテラテかぁ~。FPS苦手だし、あたしは出なくてもよくない?」


 分かっていたが、案の定一鶴はマテラテにあまり乗り気じゃない様子だった。

 俺としてもやりたがっていない人間に配信内容を強制するような真似はしたくない。

 一鶴がbd包囲網の役に立つのか懐疑的だし。


 だがbd云々は置いといて、密林の大型企画に参加出来るのはチャンスなので一鶴には是非参加してもらいたい。

 実はあとちょっとで小槌のチャンネルが10万登録者を超えるのだ。

 その最後の後押しとしてこれ以上都合の良い舞台はないだろう。

 渡りに舟と言うやつだ。


「ということで頑張れ」


「マテラテって3人1組でチーム作って遊ぶゲームでしょ? トレちゃんは今いないからいいけど、他にもう1人遊べない人が出て来ちゃうじゃん。だったらあたしが抜けるわよ」


「有栖原が小槌を指名してんだよ。お前がいなかったら多分参加させてもらえない」


「なんであたし? 気に入られちゃった?」


 むしろ嫌われてる……というか疎まれてるんだが。

 それを一鶴に説明しても意味はないだろう。

 適当に誤魔化しておくか。


「FMKで一番伸びてるからだろ」


「やれやれ、人気者は辛いわね」


「頼むぞ看板娘。で、今一鶴が言った通り、誰か1人は不参加って形になるんだが」


「ここは公平にジャンケンですわね」


 幽名、瑠璃、奥入瀬さんの3人にジャンケンをしてもらった結果、奥入瀬さんが不参加ということになった。

 奥入瀬さんは不参加になって少し安堵しているようだった。

 元密林配信の奥入瀬さんが密林の企画に出るってのも角が立つだろうし、ここは俺がNGを出しておくべきだったかな。

 でも密林との合同キャンプとか普通にやってたし、別に密林ライバーとの仲が悪いってわけでもないからなぁ。ただ有栖原との相性がすこぶる悪いってだけで。

 有栖原と相性の良い人間がどれほどいるのか疑問だが。


「よし、そろそろ配信の準備しとけよ」


「はーい」


 3人がそれぞれの席に着いてモニターと向き合う。

 今回は同じ配信スタジオにPCを3台集めて、そこから各々マテラテを起動してプレイしてもらう。

 配信枠は小槌のチャンネルで取ることになったので、リスナーが見るのは小槌視点となる。

 合宿中3回目の小槌枠になるが、乗り気じゃないところを無理に参加してもらうのだから、それくらいの忖度はしてあげようということで全員納得してくれた。


 そんなこんなで夏合宿5日目の配信が始まる。

 背後に様々な陰謀の臭いを渦巻かせながら。




 ■




【夏合宿5日目】ナキちゃん姫ちゃんとマテラテやる【FMK/金廻小槌】



「んじゃ始めるとしますか」


 シンプルなタイトルを冠した配信枠を開けながら、小槌は気だるげに開始の音頭を取った。


「今日はタイトル通り、ナキちゃん&姫ちゃんと組んでマテラテやってく」


「対戦お願い致しますわ」


「ちにゃみに琴里は今日は見学で、☆ちゃんは体調は回復したけど今度は家の都合で今日も欠席ににゃってるよ~」


「あ、後ろで見学してます」


〈このタイミングでマテラテ?〉

〈あらら、☆ちゃんついてないな〉

〈琴里だけ声遠いの草〉

〈☆ちゃん合宿でなんかあったのか? 流石に休みすぎじゃ……〉

〈裏で密林がマテラテ大会やってるの知ってる?〉



 チャットの流れは、密林が裏でカスタムマッチをやっていることに対する言及と、☆ちゃんの3回休みの方に引っ張られてしまっているようだった。

 ☆ちゃんの件でリスナーが妙な勘繰りをしてしまうのも、まあ無理はないと小槌は思う。

 というか何かあったのは事実なわけだし、そこについては反論の余地がない。


 ただしライバー同士がガチ喧嘩して共演NGになったとかそういう話じゃない。

 むしろ結束だけは以前よりも強くなったと思っている。

 だから小槌はあえて☆ちゃんの件には触れないことにした。

 何事もないのだから、焦って弁明する必要などない。

 それは幽名とナキも同じ気持ちのようだった。



 むしろ対応に困るのは密林のカスタムマッチについてだ。

 代表からも言われていたが、密林カスタムマッチのエキシビジョンマッチはサプライズ企画ということになっている。

 そのエキシビジョンの開始予定時刻は21時。それまではエキシビジョンについては口外しないよう注意されている。

 ツブッターなどで検索してもエキシビジョンについてお漏らししている配信者は1人もいなかったので、ここで小槌がうっかり喋ってしまえば大顰蹙を買うことになるだろう。

 流石の小槌もそんな蛮行には走らない。

 お口にチャックをして、21時までは適当にダラダラマテラテを遊びながら時間を潰すだけだ。


「そういやあたしは前にマテラテやったことあるけど、2人は初めてなのよね?」


「そうだよ。FPS初心者ってわけじゃにゃいけど、マテラテは初プレイだね」


「わたくしは完全なる初心者ですわね。ご迷惑かと存じますが、ご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い致しますわ」


「あたしも人に教えられるほど上手くないんだけど」


 小槌が以前マテラテをプレイしたのは、密林の楼龍にコラボに誘われたからだ。

 やりたくてやったわけじゃない。

 しかも途中でゲームが鯖落ちしたせいで結局ワンプレイしか出来ていない。

 お陰でほどんど初心者同然である。


「上手い下手は気にしにゃいで楽しく遊べばいいと思うよ」


「というか姫ちゃん案外器用だから、FPSもすぐに上手くなりそうだけどね」


「頑張りますわ」


「とにかく一回遊んでみようか」


 配信前から決めていた通り、エキシビジョンマッチが始まるまで、ウォームアップを兼ねて何回か遊ぶことにした。

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