【夏合宿2日目】密林のゲストと人狼パーティー【金廻小槌/FMK】#3

 人狼第3ゲームルール詳細。

・初日占い有り。

・人狼同士の内通有り。

・役職は[人狼]×2 [狂人] [村人]×2 [占い師] [霊媒師] [騎士]の計8人。

・議論時間は5分。

・議論時間を過ぎたら喋ってはいけない。

・死体は喋ってはいけない(夜ターンは喋っても良し)

・投票先は開示する。

・仲良く喧嘩すること。


 ■


【第3ゲーム 1日目 昼 議論タイム】


 ラストゲームの1日目が始まった。

 例によって代表の無残な死体が発見されるところからスタートした人狼会第3ゲーム。

 今回の小槌の役職は――人狼だ。


 第2ゲームから引き続きの人狼役。

 ここは先程の汚名返上と行きたいところではあるが、さてはてどう動いたものか。

 とりあえずは、黙っていると怪しまれそうなので積極的に議論を展開させていこうと小槌は試みることにした。


「じゃ、占い師はぱっぱとCOしちゃって」


 言いながら、小槌はもう1人の人狼へとさりげなく視線を向けた。

 人狼同士の内通有……つまり人狼は仲間の人狼が誰なのか分かるルールとなっている。

 議論開始前にGMから送られてきたメッセージには、そのもう1人の人狼の名前が書いてあった。

 もう1人の人狼は、北巳神だ。


 北巳神は第1ゲームでも第2ゲームでも特に目立った活躍はしていない。

 それに小槌ともあまり絡んだことがないので、どういう性格なのかすらもよく分かっていない。

 なんとなく無駄なことが嫌いな性格ということは分かっているが、それ以上の情報は皆無に等しい。

 お手並み拝見といったところだ。


「ふふ……私が占い師……」


 まず占いCOをしたのは五月冥魔。

 それから、


「…………他には誰もいない? 対抗CO無し?」


 占い対抗COの声は上がらなかった。

 真占いが謎に潜伏でもしていない限りは、これで五月冥魔が占い師で確定となる。

 そして五月冥魔に占われた相手も、白か黒かが確定となってしまう。


「おうコラ、メイてめえ誰を占ったかさっさと言いやがれ」


「ふふふふふ……私が占ったのはスターライト☆ステークル……判定は白……ふふ」


「ステは白確デース!」


 ここまでで早くも五月冥魔と☆ちゃんの白が確定してしまった。

 夜に襲うならこの二人のうちのどちらかを狙っていくことになるが、それはまた夜になったら考えることだろう。

 今考えるべきなのは、初日の吊りを人狼以外の誰かに押し付ける方法である。

 出来ることなら、人狼の味方である狂人も残しておきたいが、誰が狂人なのか見分けが付かない以上は運ゲーとなるのは否めない。

 ここでもし狂人を生かすことが出来たのなら、2日目以降はかなり人狼側に有利な展開になるが……。


「一先ずここからは、五月冥魔様とステちゃん様以外の誰を処刑するのかを決める、ということでよろしいのでしょうか?」


「うん、そうだね……えっと、出来れば私は吊らないで欲しいです。役職持ちなので」


 さらっと琴里が何の役職かを伏せた上での役職COをしてきた。

 大人しい顔をして嫌らしい戦略を打ってくる。


 人狼視点から見えるのは、琴里が霊媒師か騎士、もしくは狂人という線だ。

 いや、ただの村人が人狼のヘイトを引き付けるために役職騙りをしているという線は?

 なくはないだろうが、真役職者が吊られる可能性が上がるような真似はかなりの博打要素を伴う。

 琴里の性格からしてそこまでの無茶はしないはず。

 やはり霊媒師、騎士、狂人のどれかだと考えるのが自然だろう。


「ふふ……成る程。それじゃあ吊りの対象から笛鐘も外しましょう……ふふふふ」


「あ、待った。そういうことにゃら、私も吊って欲しくにゃい。理由は琴里とおんにゃじで」


 と、まさかのナキまでもが役職COをしてきた。

 瞬間、これはマズい流れだと小槌は確信し、咄嗟に手を挙げた。


「ちょっとちょっと、アタシも役職持ちなんだけど」


 一拍遅れて幽名と北巳神までもが手を挙げて来る。


「わたくしも役職でしたわ」


「この流れなら言うしかない。私も役職者」


 最初に役職COをした琴里に続き、ナキ、小槌、幽名、北巳神の5人が役職COをした。

 不明な役職は霊媒師、騎士、狂人だけのはずが、明らかに数が多い。

 となると、村人視点からは人狼が紛れ込んでいるのは確定したようなものだ。実際紛れてるし。


 人狼としては、初日からこんな風に役職騙りをせずに静かに潜伏しておきたかったところだったが、そうもいかなくなってしまった。

 もし役職者COの人数が3人で打ち止めになってしまい、その中に人狼である小槌と北巳神が含まれていなかった場合を想像してみれば分かる。

 その後の当然の流れとして、白確が取れていない人間で、尚且つ役職として名乗り出なかった人間から吊ろうという流れになるのは目に見えている。

 上記の条件に当てはまるのは御影星、北巳神、小槌。

 人狼が吊られる確率は実に3分の2。詰みだ。

 

 だから役職者COの流れが作られた時点で名乗り出る必要があった。

 しかしこの焦りからくる行動が更なる白確を生み出してしまう。


「というコトは、役職COシテナイ、セキララは白デスネ」


「ったりめえよ」


 役職者COが5人。

 村陣営の役職が狂人含めて3人しかいない以上、人狼が2人紛れているのは確定のようなもの。

 つまり逆説的に役職でない御影星が確定とまで言えないが、ほぼ白目になってしまう。


 初日からほぼ白確が3人。

 というか役職COをした5人に人狼がいるのがバレている。

 かなりマズイ展開だ。

 もしかしたら早まったかもしれない。

 下手に役職者COをしない方が良かったか?


 ここまで能動的に村人に主導権を握られるとは思ってもみなかった。

 盤面が複雑化してきて何から考えればいいのか分からなくなってくる。

 それもこれも琴里が役職者COを始めたのが切っ掛けだ。


「えっと……それじゃあ吊るのは役職者COをした人からが良いですね。怪しいのは遅れて名乗りでた人……かな」


 その琴里がまたも人狼にとって厄介なことを言ってくる。

 一番遅れて名乗りでたのは北巳神だ。

 それは良くない。

 ヤバイ。


「ちょ、それはどうかしら」


「え?」


 思わず待ったを掛けた小槌に、琴里が疑惑の眼差しを向けてきた。


「どうかしらって……なにがですか?」


「いや、それは」


「もしかして庇おうとしてますか?」


「全然そんなことない、わよ?」


 あまりにも鋭すぎる指摘に口ごもってしまう。

 これこそ正に墓穴を掘るだ。


「ははーん、そんじゃあ最初に吊るのは小槌にしようぜオイ」


「ステもそれがイイと思いマース!」


「ですわね」


 そこからあっさり小槌が吊る流れになってしまった。

 完全にバレてしまったようだ。


「間抜け」


 最後に北巳神からの罵倒を受け、小槌はテーブルに額を打ち付けるのだった。


 ■


 小槌のプレミ(プレイミスの意)で第3ゲームもあっさりと人狼側の負けとなってしまった。

 これにてFMKと密林配信の合同人狼会は終わりを迎えた。


「あんま目立てにゃかった……」


「どんまいナキちゃん」


「小槌が第2第3ゲームを速攻で終わらせちゃうから」


「ソーリーナキちゃん」


 こればかりは平謝りするしかない。

 思った以上に人狼の経験値が足りていなかった。

 そして第3ゲームはまさか琴里に言い負かされるとは思っておらず完全に油断していた。

 琴里は人見知りするタチだが、ある程度慣れた人間にはあんな風にぐいぐい押してくるタイプらしい。


 絆の深まりを感じる反面、やはり悔しくもある。

 次があるならもう少しまともに立ち回れるよう、少しは勉強しておきたいところだ。

 と、反省もそこそこに配信の方も締めに入るとする。


「いやあ、でも今日は楽しかったわね。密林配信の方々も当日の誘いだったのに来てくれてマジサンキュー」


「おう、超忙しいところ来てやったんだから感謝しとけや」


「ふふふ……楼龍も誘ってたのに、来れなかったのは残念」


「あん野郎は兎斗乃依号が今日から走ってるから仕方ねえよ」


 本当は楼龍も今日の人狼に誘っていたのだが、例のサウナカーとのコラボが忙しいらしく今回は不参加となっていた。

 この8月、一番忙しいのはもしかしたら楼龍なのかもしれない。


「じゃあ最後に告知とかある人どうぞ」


「ふふふ……3日後に、密林配信のライバー59名+スペシャルゲスト1名による『マテラテ密林カスタムマッチ』が開催されるわ……ふふ」


「マテラテ密林カスタムマッチ?」


「マテリアル・ライン・テンペストを密林配信のライバーだけで遊ぶという企画」


「無駄のない説明ありがとうホタルちゃん」


 流石は大人数を抱える大箱なだけあって、箱内コラボの規模もFMKとは比べ物にならない。

 FMKもライバーがもっと増えてくれれば、企画の幅も広がって面白そうなのに。

 新規オーディションの予定はあるのかないのか、忘れてなかったら今度代表に聞いておこうと小槌は頭の隅に留めておく。


「あたしとメイと北巳神は全員参加すっからよぉ、暇なら見てくれや。つーか暇じゃなくても見ろ」


「チナミに、スペシャルゲストは誰が来るんデスカ?」


「bd」


「げっ」


 北巳神の口から出てきた名前に、小槌は反射的に渋い顔をした。


「bdって、小槌が口喧嘩で負けてにゃさけにゃく情けなく敗走した、あのbd?」


「ふふふふ……そのbdで合ってる」


 傷口に塩を塗り込むようなナキの確認に、小槌はますます渋面を強くした。

 泣き落としなんて卑怯な真似でリスナーを味方に付けたbdとの通話から、小槌が這う這うの体で尻尾を巻いて逃げ出したのは、まだ記憶に新しい最近の出来事だ。

 あの時は『あたしがbdにガツンと文句言ってやるわよ』とツン相手に大見得切って戦いに出たのだが、無様に負けてへらへらしながら帰って来た小槌に、さしものツンも呆れ果てていた。


 あれからまだ2週間も経っていないが、bdはあの配信を皮切りにどんどんとAI擁護派の味方を増やしている。

 メジャーなニュースサイトでも、どこぞの国のクーデターの記事やらなんやらを差し置いてトップ記事になっていたほどだ。

 そのbdをゲストに呼ぶとは、数字に貪欲な有栖原らしいといえばらしい。

 いや、有栖原発案なのかどうかは知らないけれども。

 ともかく小槌としては、bdはあまり思い出したくない相手であるのは確かだった。


「是非密林配信のライバーたちには、クソ生意気なAIに人間様の力を見せつけてやって欲しいところね」


「私怨がだだ漏れになってんぞおい。ってか言われなくてもボコボコのボコにしてやっからまあ見てな」


「えっと……御影星先輩ってFPS得意でしたっけ……?」


「琴里ぃ、てめえあたしを誰だと思ってんだ? 苦手に決まってんだろうが、デジタルゲーム全般」


「ふふふ……ちなみに私も雑魚」


「北巳神ちゃんは?」


「まあまあ戦えるけど、あのAIにプログラム上の戦いで勝てるかは微妙。リアルでなら勝てる」


「なにそれ子供の強がりみたいで可愛い」


 だが残念ながら完全なるバーチャル世界の住人たるAIと、現実世界でバトルすることは叶わない。

 屏風の虎を縛ることは一休さんでも出来ないのだから。

 とりあえずこの場に居る面子ではbdに一泡吹かすことは期待出来なさそうだった。


「最悪59対1ならなんとかなるでしょ、がんば」


「それで勝てても嬉しかねえだろ馬鹿野郎」


 御影星達からの告知はそれで終わりだった。

 あとはFMKの方も、明日以降も夏合宿オフコラボがあると告知だけしていおいて配信は無事に終わった。


 ■


「おいコラ小槌、ちょっと面ぁ貸せや」


 人狼配信も終わり、密林配信の3人が帰る寸前というところで、御影星が一鶴を呼び出した。

 御影星は完全にヤンキーが校舎裏に連れて行く感じのノリで、ほとんど強引に一鶴を引っ張っていく。

 流石の一鶴も心穏やかにはいられない。


「ちょっと何よ、怖いんだけど」


「いいから来いや。話があんだよ」


「お金ならびた一文持ってないわよ、ほら」


「ジャンプすんなや、カツアゲじゃねえんだわ……よしここならいいか」


 事務所4Fまで無理やり引っ張って来られてしまった。

 ここなら今は他に人はいない。

 内緒話をするなら打ってつけと言える。


「あによ、告白でもするわけ?」


「女もイケるがてめえみてえのは趣味じゃねえな」


「あ、そう……じゃあなんなの?」


 両刀宣言には深く突っ込まず、用件を問いただす。


「琴里のことだ」


 御影星は壁に背を預けながらそう切り出した。


「奏鳴さんのこと? なに?」


「いや……なんか上手く言えねえんだけどよぉ、どうもFMKのあの金髪メイド女とギクシャクしてるっぽかったのが気になってな」


「あぁ」


 金髪メイド女なんて形容詞が当てはまるのはトレちゃんしかいない。

 そのトレちゃんと奏鳴の間には現在見えない壁が存在してしまっている。

 今日の人狼でもトレちゃん相手に奏鳴が臆している場面がちらほらあった。

 元密林の仲間として御影星はそこが気になったのだろう。

 案外面倒見がいいやつだ。


「あん? なにニヤニヤしてんだ殺すぞ」


「おーこわ」


「ちっ……で、どうなんだよ。喧嘩か?」


「喧嘩じゃないわよ。ちょっと奏鳴さんがトレちゃんを泣かせちゃっただけで」


「え、琴里の方が泣かせたのか? やるなあアイツ」


「んで和解ももうしてるから表面上は問題ないわよ。でも奏鳴さんが気にしすぎちゃってる感はあるわね」


「琴里は一回苦手意識持ったやつにはとことんだかんな」


 言いながら、御影星は壁から背を離した。


「まあ事情は分かった。イジメられてるとかじゃねえのなら、あたしの出る幕じゃねえな。あとはそっちに任せるわ」


「任せられても困るんだけど。結局は本人の意識の問題じゃないの」


「かもな」


 御影星は人を無理やり連れてきておいて、さっさと1人で階段を降りて行ってしまった。

 どうやら本当に奏鳴のことを聞きたかっただけらしい。


「……ま、なるようになるでしょ。ならなかった時のことはその時に考えるわよ」


 階段を降りながら虚空に向かって喋りかける。

 返事は来なかった。


 その後、御影星と五月冥魔と北巳神は普通に帰っていった。

 いや、普通には帰っていない。

 北巳神が何故か蘭月と並んで同じ方向へ帰って行っていた。

 どこで接点があったのか(思い当たる節はキャンプくらいかないが)、いつの間にか仲良くなっていたらしい。

 なんとなく、北巳神のほうが緊張している気配がしたが、面倒事の臭いがしたので一鶴は気にしないことにした。

 蘭月が絡む事件は一鶴にとってバッドニュースになることが多いからだ。

 そんなこんなで夏合宿の2日目は終わった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る