【夏合宿2日目】密林のゲストと人狼パーティー【金廻小槌/FMK】#2


 ■


【第1ゲーム 2日目 昼 議論タイム】


「おうおう、早速だけどよぉ、占い結果から言わせてもらっていいかよ」


 議論が始まるや否や自称占い師の御影星が声を上げた。


「ふふふ……どうぞ、御影星先輩」


 五月冥魔に促され、御影星が2日目の占い結果をやけに自信満々に強気な態度で言った。


「第1ゲームは終わったとだけ先に言わせてもらうぜ。あたしが占ったのは……琴里、てめえだ」


 御影星が琴里を指差してニヤリと笑う。


「占い結果は黒だ!」


「え……ええ!? 私ですか!?」


 御影星による突然の黒宣告を受けた琴里が、本気で驚いたかのように声を裏返させる。

 その驚き振りは、とても演技には見えないほど真に迫っているが……。


「おうコラ、てめえ琴里そういう演技だけはうめえな相変わらずよぉ。前の人狼の時はそれを見抜けねえで騙されたが今回はそうはいかねえからなコラ」


「い、いや、あの時は……確かに演技でしたけど」


 前の人狼の時。と言われても、小槌たちには何のことやら分からない。


「ねえ、前の人狼の時ってなんの話?」


「ふふ……半年前に密林の仲間内で人狼をやった時の話……御影星先輩は、その時に笛鐘にやられたことをまだ根に持ってるの……ふふふふ……」


「てめえメイこの野郎、余計なこと言ってんじゃねえよ。根に持ってるわけじゃねえよ、ただ琴里は見た目よかしたたかだっつってんだ」


 以前のゲームの話を持ち出すのは若干……というかかなりメタが混じった推理になるが、過去に御影星を騙した例があるのなら、先程のリアクションを信用するのは少し難しい話になってしまう。


「でも、私は人狼じゃないです! 御影星先輩が嘘吐きの人狼です!」


 琴里は必死に自己弁護をするが、皆一様に難しい顔で判断を決めかねている様子だった。


「ウーン……タシカニ言われてみると、1日目の議論タイムでコトリは口数が少なカッタデス。人狼ダカラ目立たないヨウニ黙ッテイタ。ソウ考えればツジツマはアイマスネ」


「それは――」


 ☆ちゃんの洞察に、琴里は何か反論をしようとしたが、喉から出かかっていた言葉は尻切れトンボに何処かに消えて行ってしまった。

 それは一見すると痛いところを突かれた人狼が、反論出来ずに言葉を詰まらせてしまったように見えただろう。

 しかし、先日の音楽スタジオでのトレちゃんと奏鳴の一件を知っているFMKのメンバーたちは、別の理由で琴里が沈黙したようにしか感じられなかった。

 その証拠に、琴里の顔が分かりやすいほど蒼褪めてしまっている。


 一瞬の気まずい沈黙。

 その沈黙を打ち破ったのは、場の主導権を握っている御影星だった。


「反論がねーんなら琴里を吊って終わりだな」


 そうこう言い合っているうちに議論の残りは1分を切っている。

 そろそろ結論を急がねばならない。

 だが、勝負を急ぐほど切迫はしていない。


「ちょいまち」


「あん? んだよ小槌、なんか文句あんのかコラ」


「あるわよ。そんで時間がないから端的に言うわよ」


 小槌は慌てず騒がず、残り時間を気にしつつ、勝つための地盤を固めに行く。


「村人陣営にとっての最悪は、御影星が人狼で、ナキちゃんが村だった場合よ。何故なら――」


「ふふふ……御影星先輩が人狼なら笛鐘への黒出しが嘘になる。だとすると、このまま口車に乗って笛鐘を処刑してしまったら、村側は人狼を1人も吊れていないことに……そのまま夜に1人が殺されて、村2人狼2になれば人狼の勝ちになるから……」


「メイメイの言う通りよ」


「ふふ……メイメイって……パンダみたい……ふふふふふ」


 不気味に笑う五月冥魔へのツッコミは時間がないのでしないものとする。


「だからまずは当初の予定通りに占い師ローラーで、御影星を吊るべきよ。琴里ちゃんが黒か白かは、3日目に持ち越しで問題ないわ」


「ちっ……ま、あたしはどっちでもいいけどよぉ」


 2日目で村が負けるリスクを回避するならこの選択肢以外は有り得ないだろう。

 だがいずれにせよ、人数の関係で3日で残る1匹の人狼を吊らなければ、4日目の朝には村1人狼1となってしまい村の負けが確定する。

 つまり3日目が実質的な最終決戦なのだ。


 ピピピピピ


 っとタイマーがなったところで、2日目の議論タイムが終わった。


 ■


【第1ゲーム 2日目 昼 投票タイム】


「それでは投票を開始します。各自、処刑したいプレイヤーの名前をGMのスマホに送ってください」


 1日目と一言一句違わぬ文言コピペで、七椿が投票の開始を宣言する。

 小槌は迷わず御影星の名前を送信した。


「集計結果が出ました。2日目に処刑されるのは――御影星石珀羅々です」


「ちくしょう死んだぜおい」


 死ぬ間際に一言コメントを残して御影星が退場する。

 これで残りは小槌、幽名、☆、琴里、五月冥魔の5人。

 そして夜ターンにこの内の誰かが人狼に襲われてさらに1人減ることになる。


 ちなみに2日目の投票先は以下の通りとなった。


 小槌 → 御影星

 幽名 → 御影星

 ☆  → 御影星

 ナキ(死)

 琴里 → 御影星

 御影星 → 琴里

 五月冥魔 → 御影星

 北巳神(死)


 見事に御影星に投票が集中した。

 ここで他の人間に投票してしまえば、次に槍玉にあげられることになるのだから、まあ当たり前の結果と言える。


「それでは続いて夜のターンに入ります」


 ■


【第1ゲーム 2日目 夜】


 1日目の夜に引き続き、今回も村人である小槌はここでやることがない。

 決められた通り、無役職であることが露見しないようGMにダミーのメッセージを送るくらいなものだ。

 ここでやることがあるのは、次の襲撃先を考える人狼と、まだCOのされていない騎士だけとなる。


 騎士は、任意のプレイヤー1人を人狼の襲撃から守ることが出来る能力を持っている。

 欠点は自分自身は守れないことと、狼の襲撃先を予想して守るのはかなり難しいということか。

 それと今回のルールでは同じプレイヤーを連続で守ることが出来ないことになっている。

 しかしその高いハードルを越えて、騎士の能力が成功した場合の恩恵は計り知れない。


「暇だし夜の時間は死体も喋って良いことにしにゃい?」


「おう良いこと言うじゃねえかてめえ猫被り女」


「喋るのは構いませんが、ゲームに影響する会話はNGとします。破った場合は後で罰ゲームとします」


 喋り出したリビングデッドたちが七椿GMにしっかり釘をさされる。

 そんな会話を聞いている間に、2日目の夜ターンは終わった。


 ■


【第1ゲーム 3日目 昼】


「夜が明けました、皆様おはようございます」


 新しい朝が来た。

 そして流れるように襲撃結果へと移る。


「昨晩の犠牲者は――ゼロです。誰も人狼に殺されることなく、朝を迎えることが出来ました」


「え、それって」


 小槌が全てを問う前に、七椿が小さく頷いた。


「はい。騎士の能力が成功しました」


 人数は昨日昼から変わらず5人のまま。

 一気に村人陣営が有利になった。


「それでは3日目の議論を始めてください」


 ■


【第1ゲーム 3日目 昼 議論タイム】


 騎士による守りが成功した。

 その事実を小槌が飲みこむより早く3日目の議論が始まる。

 そして2日目の議論時間と同じく、誰よりもいち早く手を上げた人物がいた。


「あ、あの……すいません!」


 琴里だ。

 御影星に黒出しを受けたせいで、今最も人狼である疑いが強まっている琴里が、誰かに邪魔される前に最速で己の主張を口にする。


「えっと、COします……私が騎士で、姫依ちゃんを守りました……!」


 それは小槌視点で見れば王手となる発言だった。

 2日目夜の犠牲者なしからの、琴里による騎士CO。


「対抗COは?」


 小槌の咄嗟の呼びかけにも応える声はない。

 対抗がなければ琴里の騎士は確定と言って良い。

 そしてこのゲームも、小槌視点では・・・・・・ほぼ詰みの盤面だ。

 だから待ったなしで攻勢に出る。


「琴里ちゃんが騎士だったってことは、琴里ちゃんに黒を出してた御影星は人狼だったってことになるわよね」


「ふふふ……そうなる……そして薙切ナキが真占い師で確定……」


「ということは、ナキ様に白だと言われていた五月冥魔様は、村人ということになるのでしょうか?」


「なるわね。そして騎士である琴里に守られた姫ちゃんも白確よ。狼は狼自身を噛めないから」


「ナルホド、つまり生存者のナカで白がカクテイしてイルのは――」


 白が確定しているのは、幽名、琴里、五月冥魔の3人。

 そして未だグレーなのが小槌と☆ちゃんの2人だけ。

 だが、小槌は自分が村人だということは分かっている。

 つまり、


「☆ちゃんが人狼ね!」


「コヅチが人狼デース!」


 こういうことになる。


「いやいや絶対☆ちゃんが狼だって! なんか獣臭いし! 洗ってない犬の臭いがする!」


「コヅチこそキバとミミが隠せてナイデスヨ! 口元に代表さんの血が付いてマース!」


「ふふふ……プライドバトル……」


 小槌から見れば☆ちゃんが人狼なのは確定だが、他の3人の視点ではそうはならない。

 小槌が村人だと分っているのは小槌自身だけなのだから。


「コヅチはそもそもニセ占い師のセキララに白判定されてマシタヨネ。つまり人狼同士で庇いアッテイタってコトデスヨネ!」


「そんなの御影星が適当言っただけに決まってるじゃん? そういう☆ちゃんこそ、2日目で御影星が琴里を吊りたそうにしてた時、いきなりそれに乗っかりに来たわよね? それまであんま喋ってなかったのに」


「人狼のクチグルマに乗せられそうにナッタだけデス! コヅチが人狼デス!」


「おっ、小槌が人狼を連呼するしかなくなっちゃった? う~ん苦しいわね~?」


「ミンナもステを信じてくださいデース! ステは村人デス!」


 と、☆ちゃんが小槌との口論に見切りを付けて、白確の3人に訴えかけ始めた。

 琴里と幽名はどちらの言葉が正しいのか真剣に頭を悩ませている様子だ。

 五月冥魔は不気味に笑ってるだけで何を考えているのか分からないが。


 ……とまあ、議論時間が余っていたので口八丁のパフォーマンスを楽しんだが、そうこうしているうちに残り時間が短くなってきたので、小槌はそろそろ第1ゲームの締めに入ることにした。


「オッケーオッケー。そこまで言うなら私を吊っても構わないわよ」


「エッ!?」


「だってこのゲーム、白確が3人の時点でもう詰んでるし」


「……ア」


 今更気が付いたとでも言うように、☆ちゃんが口を半開きにする。

 遅れて琴里も「あ、本当だ」と納得の頷きをした。

 五月冥魔は多分最初から分かっていた気がする。

 で、分かってないのは案の定幽名だけ。


「どういうことですの?」


 との予想通りの質問に、小槌は手短に盤面を説明する。


「生存者が5人で、白確定してるのが3人。グレーがアタシと☆ちゃんの2人だけ。ここまではオーケー?」


「ですわ」


「で、どっちかが人狼なわけだから、どっちかを吊ればいいんだけど、ここは単純にローラーして2人とも吊ればいいのよ」


「……ああ、なるほど。そういうことですのね」


 今度はちゃんと理解出来たと分かる表情で幽名が頷いた。


「人数が5人居るから、ここで処刑に失敗して人狼を倒せず、夜に1人が襲われたとしても、次の日にはまだ3人残っている。人狼の勝ちは確定していない――ということですわね?」


「そういうことになるわね。で、そしたら4日目に残ったもう片方のグレーを吊ればいい。で、村の勝ちは確定ってワケ」


 2日目の夜に騎士の能力が成功した時点で、人狼は詰んでいたのだ。

 仮に☆ちゃんが対抗で騎士COをしていたとしても、騎士ローラーをするだけだったし、ああなったらもうどうしようもない。


「占い師に白出しされてたアタシか五月冥魔を襲ってればまだ分からなかったかもね。まあ、だからこそ騎士に守られるのを警戒して、あえて避けたのかもしれないけど」


「ウゥ……コヅチが人狼デース」


「このレコード壊れちゃった」


 ■


【第1ゲーム 3日目 昼 投票タイム】


「集計結果が出ました。3日目に処刑されるのは――スターライト☆ステープルちゃんです」


 3日目の投票結果は、満場一致で☆ちゃんが処刑されることとなった。

 果たしてその結果は――


「人狼が全ていなくなりましたので、村人陣営の勝利となります。おめでとうございます」


「よっしゃー!!!」


 ■


【第1ゲーム 役職一覧】


[人狼]☆ちゃん、御影星

[村人]小槌、幽名、五月冥魔、北巳神

[占い師]ナキ

[騎士]琴里


 結果――村人陣営の勝利。


 ■


【第1ゲーム 感想戦】



「おいてめえ小槌、てめえちゃんと人狼出来るんじゃねえかよおいコラ」


「出来ないなんて一言も言ってないけど」


 むしろこの手の騙し合いは得意中の得意だ。

 とはいえ今のゲームはちょっと危なかった。

 内心では御影星の誘導に惑わされて、琴里を吊る方向に傾きかけていた。

 初日に御影星が小槌相手に白を出してきたからというのもあるが、それ以上に御影星が自信満々だったのも大きい。

 やはりこの手のゲームは声が大きい人間が強いのだろう。

 場の主導権を握るという意味では。


「ま、アンタも頑張ったけどね」


「うわすげえムカつくなてめえ」


 まるで自身の手柄のように鼻を高くする小槌だが、本当の意味でファインプレーをしたのはやはり騎士だった琴里だろう。

 あの土壇場で人狼の襲撃を防いだのは大きい。


「琴里のお手柄ですわね」


「いやそんな、ただのまぐれです……」


 実際まぐれなのかもしれないが、ファインプレーはファインプレーだ。

 途中御影星に標的にされてからは委縮してしまっていたが、最後の最後に決定打を打っただけで値千金だ。十分に誇っていい。


 対する人狼組は悔しそうだった。

 御影星は一生小槌に突っかかってくるし、☆ちゃんも「ハヤクもう一戦ヤルデース!」と息巻いている。

 そして早々に脱落したナキも、次こそはと第2ゲームを待っている様子だった。

 同じく初日に落ちた北巳神だけは終始無言で、ライバーたちを観察しているだけだったが。


 そんな感じの流れで、第2ゲームもやる流れになった。



 ■



【第2ゲーム 1日目 昼 議論タイム】



 で、第2ゲーム開始早々に珍事が発生してしまった。


「占いのヒトはCOお願いシマース!」


「はいはい、私!」


「はいですわ」


「ふふふ……私も……」


「……っておいおいてめえら馬鹿か」


 占い師に名乗り出たのは3人。

 小槌と幽名と五月冥魔。


 真占い師は当然1人だけ。

 人狼は2人。

 第1ゲームに引き続き狂人狂信者はなしの設定なので、村人が占いを騙っていない限りは、占いCOをした3人の中に人狼が居るのは確定となる。


「ごめん、やっぱ私撤回してもいい? 実は私村人なんだよね」


「もうおせえよ」


「ですよねー」


 占い師3人がローラーされて、1日目に小槌(人狼)が吊られ、2日目に幽名(こっちも人狼)が吊られて第2ゲームは速攻で終了した。


 ■


「もー! にゃにやってるの小槌も姫様も! 私全然遊べてにゃいんだけど!」


「ごめんごめん」


「申し訳ございませんですわ」


 ダブルポンコツ人狼のせいでナキもご立腹だった。

 第1ゲームの御影星の立ち回りを参考に偽占い師としてCOしてみたら、幽名も同じ考えだったらしくてブッキングしてしまった。

 先に名乗った方が本物っぽさが出ると思って、速攻で手を挙げたのが間違いだったのかもしれない。

 小槌は一つ反省を得てから気持ちを切り替える。


「じゃ、第3ゲームもやろうか」


「時間テキにツギが最後デスネ」


「マジか」


 そこまで長く遊んでいたつもりはなかったが、それなりに良い時間らしい。


「だったらよ、最後は役職増やしてやろうぜ。初心者勢も流石にもう慣れただろうし良いだろオイ」


 そんな御影星の提案に乗って、ラストゲームは狂人と霊媒師を追加してのゲームとなった。

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