【夏合宿2日目】密林のゲストと人狼パーティー【金廻小槌/FMK】#1

【夏合宿2日目】密林のゲストと人狼パーティー【金廻小槌/FMK】




「夏合宿2日目となる今日は、みんなで人狼! はい拍手!」


 昨日より拍手の数が若干増えた配信スタジオ内。

 パチパチワーワークスクスと賑やかに盛り上がる配信者達が静かになるのを待ってから、小槌は司会進行役としての責務を全うする。


「この配信を見てるリスナーは、FMKの面子に関しては紹介不要よね。ってなわけでそこはちゃちゃっと省略して、ゲストの皆様自己紹介どぞー」


 小槌が紹介を促すと、真っ先に茶髪のヤンキー女が名乗りを上げた。


「密林配信所属、御影星 石珀羅々せきららぁ。今日はぶっこんでくんで夜露死苦」


 御影星のガワは、赤髪ロングでタオルバンダナを頭に巻いた、いかにもガサツそうな姉御肌風味のデザインをしている。

 配信画面に映っている御影星のガワを見ながら、一鶴は「えーっと」と記憶を辿るように人差し指を顎に添えた。


「御影星はラーメン屋系VTuberなんだっけ?」


「おいおいてめえこの野郎小槌。今てめえ頭にタオル巻いてんの見てイメージで言ったろてめえ」


「違うんだ。じゃあ族系?」


「ラーメン屋でも族でもヤンキーでもねえンだわ。あたしはこれでも一応彫刻家で売ってんだっつーの」


「彫刻家? どのへんが? 彫刻家って職人気質で繊細なイメージあるけど似ても似つかないじゃん」


「人を見た目で判断するなって親に教わらなかったのかよてめえ。あたしは職人気質で繊細で乙女なんだよ」


 乙女。という部分にツッコミを入れるべきか悩んだが、小槌はとりあえずスルーすることに決めた。


「ふふふ……御影星先輩の96時間耐久彫刻配信はレジェンドアーカイブ……」


 御影星の隣で体育座りをしている五月冥魔が捕捉を加えてくる。


「おう。大理石で自分の像を彫ったんだけどよ、海外でも話題になって1000万再生くれえいってたかな」


「1000万再生!? その配信だけでどんだけ儲かってんのよ!?」


「あァ? あの配信にはうざってえ邪魔な広告なんざ付けてねえから直接的な収益はねえよ」


「しょ、職人気質だわ……」


「有栖原のバカは広告付けろ付けろってうるさかったがよ、こう……グリグリってやって黙らせてやったら二度と言ってこなくなったな」


 最後の最後で暴力的な一面を見たことで、やっぱりヤンキーか族だという印象が強まってしまった。

 このガサツさで丁寧に彫刻を彫ってる姿が想像出来ないが、そもそもVTuberなのに彫刻作る実写配信が伸びてるのはどうなんだというツッコミが遅れて湧いてきた。

 でもそれを言ったらFMKも幽名がそんな感じだし、最悪仲間を売ることになりそうなので小槌はそのツッコミは封印することに決めた。

 そんな御影星の紹介も終わり次は五月冥魔の番だ。


「密林配信所属の五月冥魔 皐月めい……ふふふ……5月で皐月でメイ…………ふふふふふ」


「誕生日もやっぱ5月なの?」


「ふふふ……5月5日の午後5時55分55秒生まれ……」


「へー、やっぱ好きな数字も5なのかしら」


「好きな数字は悪魔の数字の6」


「そこは統一しなさいよ」


「ふふふふふ」


 一生不気味に笑ってる五月冥魔のガワは、真っ黒なローブ姿に大きなとんがり帽子を被った、見るからに魔女な風貌をしたデザインとなっている。


「メイっさんは、普段はどんな配信してんの?」


「ふふ……世界中の呪術の効果を検証したり……占いしたり……オカルトグッズを紹介したり……ふふふ」


「おっ、こっちは期待通り見た目通りのオカルティックってわけね」


「あたしが見た目通りじゃなかったみたいな前提で話てんじゃねえぞオラ」


「まあまあ」


「ふふふ……人狼はまあまあ得意だから期待してて欲しい……」


 で、最後のゲストである北巳神の順番だ。


「密林の北巳神 案内灯ほたる。以上」


 端的に紹介を終える北巳神。

 キャンプの時も無駄なことは嫌いだと事あるごとに口にしていたので、長ったらしい自己紹介というなの茶番はしたくないのかもしれない。

 そういう態度を取られると逆にしつこく構いたくなるのが小槌の習性だ。


「ねえねえ、ホタルちゃんは普段どんな配信してんの? ねえねえ」


「ゲーム」


「どんなゲーム?」


「多岐に渡る」


「ゲーム好きなんだ?」


「普通」


「人狼は?」


「普通」


「えー? でも自分から人狼やりたいって参加表明してきたじゃーん」


「……」


「おっ、反論出来なくなってそっぽ向くのかーわーいーいー」


「小槌、そろそろウザ絡みやめとかにゃいと、本気で嫌われても知らにゃいよ」


「え、ナキちゃんそれってヤキモチ? ヤキモチ妬いちゃった?」


「うわウザ」


「素っ!!」


 イイオチがついたところで密林からのゲストの紹介は終わった。

 ちなみに北巳神のガワは、ポニーテールに白髪赤目をした、巫女服を着たフィクション巫女さんだ。

 通常時はホーミング弾、低速化すると高火力の無誘導弾になって当たり判定も他キャラより少し小さいので初心者にオススメらしい。

 なんのこっちゃ。


「さ、自己紹介も終わったし人狼を始めましょうか」


 ■


 人狼とは。

 プレイヤーが村人陣営と人狼陣営に分かれて戦う、所謂テーブルトークRPGの一種である。


 村人陣営は、村人プレイヤーの数が人狼プレイヤーの数と等しくなる前に、全ての人狼を処刑しなければならない。

 昼のターンに人狼を含めた全てのプレイヤーで議論を行い、投票で誰か1人を処刑することが出来る。

 基本的に村人はゲーム開始時点では誰が人狼なのか分からず、昼の議論で考察と推理を重ねて人狼を割り出していかなくてはならない。

 一部の村人は特殊な役職に割り当てられ、夜のターンに能力を使うことで人狼を当てるための情報を得たり、人狼の魔の手から他の村人を守ることが出来る。

 そうして役職者の能力によって得た情報をフックに議論を重ね、全ての人狼を処刑出来れば村人陣営の勝利となる。


 対する人狼陣営は、村人を人狼と同数まで減らすことが勝利条件となっている。

 村人の役職者と同じように、人狼陣営は夜ターンに一度だけ指定した村人1人を殺すことが出来る。

 昼の投票による処刑で1人と、夜の人狼による襲撃で1人。

 1日に2人ずつプレイヤーの数を減らしながらゲームを進めていって、村人と人狼の数が同じになった時点で人狼陣営の勝利が確定する。


 村人は隠れ潜む人狼を議論によって暴かねばならず、人狼は正体がバレないように最後まで立ち回らなければならない。

 人狼とは要するに、村人と人狼による頭脳戦なのである。


「ゲームの進行役――ゲームマスターGMはうちのマネージャーがやってくれるわ」


 人狼はゲーム処理の特性上、進行役となる人間が必要になってくる。

 今回その役割は、FMKのマネージャーである七椿と蘭月が合同で取り仕切ることになった。

 進行役のやることは各プレイヤーへの役職の割り当てと、昼の議論のタイムキーパー、投票の集計と開示、そして夜の役職者による能力処理などだ。

 あとはリスナーが視覚的に楽しめるように、誰が生きていて誰が死んでいるのかとか、投票の結果などを配信画面に表示する役割も今回担ってくれている。

 本来はGM作業もライバーの誰かがやるべきなのだが、今回は全員がプレイヤーとしての参加を希望していたので急遽マネージャーが駆り出されることになった。


「なので、ナレーション的な感じでマネージャーAの声が入るけど、そこんとこ気にしないで頂戴」


 一鶴の説明に各ライバーとリスナー達が了承の意を示す。

 それを確認してから一鶴はモニターから離れて、プレイヤーが集っている円卓へと着席した。

 不正防止のためにゲーム中は配信画面を見ることも禁止されている。

 ここからの進行は全てマネージャー任せだ。

 一鶴が視線を飛ばすと、七椿は眼鏡を光らせながら口を開いた。


 

 ■



【第1ゲーム開始】



「それではプレイヤーの皆様、役職の割り当てを行わせて頂きます」


 七椿の進行に併せて、蘭月がシャッフルしたカードを各プレイヤーに1枚ずつ配っていく。


「今配られたカードには、それぞれの役職が書かれています。決して他のプレイヤーには見せないようにしてください」


 一鶴は目の前のカードを滑らせるようにテーブルの端まで寄せて、誰にも見られないよう慎重にオモテ面を確認した。


[村人]:特殊能力など持たないただの村人。


 一鶴に割り当てられた役職は村人。

 その名の通り村人陣営であり、カードに明記されているように夜に使える能力も持たない一般人だ。

 本当は人狼をやりたかったが、まあこればかりは運なので仕方がないだろう。


「あ~、村人か~」


 などと言いながら、一鶴はカードを伏せた。


「わたくしも村陣営でしたわ」


「ステも村人デース!」


「私も」


「あ、私も姫依ちゃんと同じ村人です……」


「あたしも村だな。おいおいざけんな人狼やらせろってのコラ」


「ふふふ……私も村人……ふふ」


「無駄な駆け引きだけど、私も一応村だと言っておく」


 カードを確認した面々が次々に適当なことを言いつつも、互いの表情をチラチラと見合っていく。

 もう既に騙し合い化かし合いは始まっているのだ。


 ちなみに、今回のゲームで用いられる役職は以下の通りである。


[人狼]×2

[村人]×4

[占い師]

[騎士]


 プレイヤー数が8人で、その内人狼が2人。

 昼の処刑と、夜の殺人で1日2人ずつ減っていくのだから、2日目の夜を終えた時点で人狼を1人も処刑出来ていなければ、人狼残2の村残2となって人狼の勝ちになってしまう。

 つまり最初の2回の投票で、最低1人は人狼を吊って・・・おかなくてはならない。

 まずはそこからだ。


「……役職の確認が終わりましたら、各自スマホからGMに自分の役職をメッセージで教えてください。今回は初日占い有りのルールなので、占い師の方は、占いたい相手の名前も書いて送ってください」


 抑揚のない機械的なナレーションで七椿が進行を促す。

 一鶴は言われた通りに自分の役職をGMへと送信した。

 ここはただのゲームの処理なのでGM相手に嘘を吐いてはいけない。

 どうせもう1人のジャッジである蘭月が確認して回ってるから意味ないし。

 このシークエンスで一番重要なのは、どっちかというと占い師の能力処理の方だろう。


 占い師という役職は、1日に1人を占って、その対象が人狼か否かを判別することが出来る能力を持っている。

 初日占い有りということは、占い師が誰か1人を占った状態でゲームを開始出来るということである。

 その処理を他のプレイヤーに占い師が誰なのか露見させずに行うために、全員にスマホを操作させてメッセージを送らせているのだろう。

 人狼専用アプリなど使わずにアナログな手法で進行しているが故の工夫というやつだ。


「確認が終わりました。占い師の方には占い結果を送ってあります」


 七椿の言葉とほぼ同時に、全員のスマホがバイブした。

 まあ、これで誰か1人のスマホだけにメッセージが届いていたら、そいつが占い師確定になってしまうので当然の処置といえる。

 自分のスマホに届いた『あなたはただの村人です』という意味のないメッセージを見ながら、一鶴はそう納得した。


「それでは最初の昼を始めたいと思います」


 ■


【第1ゲーム 1日目 昼】


「最初の朝が来ました。プレイヤーの皆様、おはようございます」


 GMのナレーションに合わせて、何人かが寝起きのフリをする小ボケを挟んでくる。

 それが終わるのを見計らって、七椿が言葉を続けた。


「朝になると、FMKの代表が無残な死体となって発見されました」


「ぶふっ――!」


 唐突な代表の死に、一鶴含む若干名が吹いた。


 ■


【初日の犠牲者:FMK代表】


「え、なにこれ、俺虐められてる?」


 ■


「代表~!」


「おいたわしや代表様……」


「ち、チンカスが死んだ! 許せねえなオイ!」


 人狼ゲームの慣例として、初日は関係のないNPCが犠牲になるのはよくあることだ。

 要するにただの演出だが、そこんとこにちゃっかり乗っかってロールプレイしていくのもテーブルトーク型ゲームの醍醐味でもある。

 今のはほとんど身内ネタの悪ノリだけども。

 まさかのアドリブをぶっこんで来たGM七椿が、相変わらずの無表情でテキストを読み上げる。


「代表を殺めた犯人――人狼はこの村の中に居ます。このままでは一夜毎に1人ずつ村人が殺されていくこととなるでしょう。村人の皆様は、多数決で怪しい人間を処刑していくことに決めました」


 感情が籠ってないが、自然と耳に入って来る声でナレーションが語られる。

 というか意外にストーリーテラーだった。

 マネージャーの新しい一面に驚きつつ、一鶴は卓を囲む村人たちと視線を交えた。

 既に全員がゲームに入り込んでいる様子だった。


「議論の時間は5分です。議論が終わり次第、誰を処刑するかの投票に移らせて頂きます。それでは――議論開始です」


 ■


 FMK&密林配信 合同人狼ゲーム大会。


 第1ゲームルール詳細。

・初日占い有り。

・人狼同士の内通有り。

・役職は[人狼]×2 [村人]×4 [占い師] [騎士]の計8人。

・議論時間は5分。

・議論時間を過ぎたら喋ってはいけない。

・死体は喋ってはいけない。

・投票先は開示する。

・仲良く喧嘩すること。




【第1ゲーム 1日目 昼 議論タイム】


 GMの合図と同時に卓上に置かれたタイマーが動き出した。

 議論の時間は5分。

 この時間内にまずは1日目に処刑するプレイヤーの目星を付けなければならない。


 議論の場において考察のフックとなる最も重要な要素は、やはり役職者の存在とその能力だろう。

 故に、第一声から小槌は全体に向けて呼びかけを行う。


「占い師は誰なの?」


 ストレートな問いに、挙がった手は二つ。


「おう、あたしだ」


「はいはーい、私がうらにゃい師だよ」


 1人しかいないはずの占い師に名乗り出たのは、御影星とナキの2人だ。

 いきなりの矛盾。

 場がにわかにざわつく。


「ふふふ……占いCOが2人……どっちが嘘吐きか分からないけど、初戦から攻めてる……ふふふふふ」


「CO?」


「ああ、姫ちゃんは専門用語分からないか。COはカミングアウトの略ね。人狼ゲームだと役職者が自分の役職を名乗った時に使われるわ」


「なるほど」


 幽名にルールの説明はしたが、その辺りの用語は解説していなかった。

 幽名相手に懇切丁寧に人狼の手ほどきをする小槌の隣で、御影星が苛立たしげに机を叩いた。


「おうおうおうおう、んなことより早速人狼が見つかったじゃねえかよ! あたしが本物の占い師なんだからよぉ……この猫被り女が人狼ってことでいいよなぁ!?」


「こっちが本物のうらにゃい師にゃんだけど?」


 御影星とナキの間に火花が散る。

 そのまま御影星が何か言おうと立ち上がったところで、北巳神が片手を上げて御影星を制した。 


「その言い合いは時間の無駄。占い師なのだからさっさと2人とも占い結果を言うべき。それともそれは議論をさせないための時間稼ぎ?」


 議論の時間はそう多くない。

 であるならば、考察に役立つ情報をなるだけ早く提出するべきというのは正論だ。

 北巳神の言葉に御影星は不服そうに着席した。

 そして座った側から口を開く。


「じゃあ、あたしの占い結果から先に言わせてもらうぜ」


「無駄なく簡潔に」


「わーってるよ。あたしが占ったのは小槌だ。結果は白だった……白ってのは村人だったって意味な。占い結果が人狼だったら黒って言う。分かったかよモヤシ」


「ありがとうございます。ですが、わたくしのことは姫様とお気軽に」


「しつけー」


 なんだかんだ用語を説明してくれた御影星に、一同は少しだけホッコリする。

 それはさておき占い結果だ。


 御影星の占い結果通り、小槌は村人陣営の村人である。

 つまり小槌視点からすると真の占い師は御影星である……かのように見える。

 もっとも、御影星が本当は人狼で、小槌を白であると適当に占い結果を言っただけという可能性も普通にある。

 だから現時点ではどちらが占い師であるかという断定は出来ない。


「次は私のうらにゃい結果を言うね。私がうらにゃったのは五月冥魔で、結果は白だったよ」


「ふふふふふ」


 御影星は小槌に白を出し、ナキは五月冥魔に白を出した。

 小槌と五月冥魔の両名に探るような視線が集中するが、2人とも占い結果が当たっていると答える他ない。

 まあ、この際どちらの占い結果が当たっているかどうかは、些末な問題なのだが。

 小槌がそう考えていると、北巳神が挙手をして自身に注目を集めてきた。


「占い結果が分かったところで提案。占い師はどちらも吊る方向で良いと思う」


 北巳神の提案は、小槌も言おうと思っていたことだ。

 そうするのが現状最もベターであるが、初心者である幽名が1人だけ首を傾げる。


「何故ですの? 占い師がいないと困るのでは?」


「占い師が1人だけならね。でも今回の場合、占いCOが2人いてどちらか片方は絶対に偽物。で、その偽物はほぼ100%人狼になるんだけど」


「村人が占い師を騙っている可能性はありませんの?」


「うーん……占い師を確定させるために、そういう戦略を取る場合がないわけじゃないけど、基本的にはただの村人が役職を騙るのはデメリットの方が大きいから、ないと思った方がいいと思うわね。そもそもその戦略が通じるのは人狼同士の内通が無しの場合や、狂人が居る場合だけだし」


「なるほど?」


 分かったのか分かってないのか分からない頷きを幽名がする。

 一先ず言えることは、御影星とナキのどちらかが人狼であるということだけ。

 つまり自称占い師である二人を処刑してしまえば、残る人狼は1人となり、村人側が勝利条件に王手をかけることになる。

 2日目の投票までに人狼を1人は吊らないと負けになる(騎士の能力が成功すればその限りではないが)村人陣営にとって、確実に人狼を1人消せるのは大きい。

 そしてその2日目の投票までに確実に人狼を1人屠るには、この1日目の投票から占い師への処刑を敢行していかなくては間に合わなくなる。

 当然、今後は占い師の能力に頼れなくなるが、その存在と引き換えに確実に人狼を1人排除出来るのなら十分に仕事は果たしたと言えるだろう。


「じゃあ占い師をローラーしてくってことで異論はないわね? あ、ローラーってのは特定範囲の怪しいヤツを順番に吊ることね」


「吊る?」


「処刑ね」


 幽名から質問が飛んできた意外に、特に反対の声は上がらなかった。

 占い師2人もそれで納得しているようだった。


「ドッチから吊るんデスカ?」


「そうねー……アタシ的には白出ししてくれた御影星を後に回しときたいけど」


「ふふふふふ……それじゃあ私はナキちゃん推しで……」


「おいおいおい、あたしが本物なんだからあたしが後でいいだろうが」


「私はどっちでもいいかにゃ」


 と、ナキが半ば投げやりな発言をしたことで、ナキが吊られる方向に流れが傾いた。

 逆に自分を必死に生かせと主張した御影星に疑惑が生まれたが、こういうゲームにおいて御影星がどのくらい頭を働かせてプレイしているのか小槌には判断付かなかったため、メタ推理の材料としては少し弱かった。


「えっと……それじゃあ投票したい方に投票するという形でいいと思います」


 最後にそれまで発言数の少なかった琴里がそう言ったところで議論の時間が終わった。

 タイマーが鳴り、途端に全員がピタリと口を閉じる。

 次は投票の時間だ。


 ■


【第1ゲーム 1日目 昼 投票タイム】


「それでは投票を開始します。各自、処刑したいプレイヤーの名前をGMのスマホに送ってください」


 七椿のアナウンスに従い、プレイヤー達がスマホを操作する。

 小槌は少し悩んでから、投票先をナキに選択した。

 流れがナキ吊りに傾いていたこともあるが、やはり御影星が自分に白を出してくれたことが一番の要因だ。


「集計結果が出ました。1日目に処刑されるのは――薙切ナキです」


「仕方にゃいね」


 そのままあっさりとナキが処刑され、これで残るは7人となった。

 人狼が残り何人なのかは分からない。


「それぞれの投票先をメッセージで送りました。確認をお願いします」


 送られてきた投票先は以下の通りだ。


 小槌 → ナキ

 幽名 → 御影星

 ☆  → ナキ

 ナキ → 御影星

 琴里 → 御影星

 御影星 → ナキ

 五月冥魔 → ナキ

 北巳神 → ナキ


 ナキに5票、御影星に3票という形になったようだ。


「それでは続いて夜のターンに入ります」


 ■


【第1ゲーム 1日目 夜】


 夜は人狼陣営が襲撃先を選択するのと、村人陣営の役職者が能力を使用するターンとなっている。

 これも投票の時と同様、スマホからGMである七椿に向けて各々が能力の使用先を選択して送信することになっていた。

 ただの村人でやることがない小槌も、役職バレが起こらないように適当なメッセージをGMに飛ばすようスマホを操作してみせた。

 それで夜は終わりだ。


 ■


【第1ゲーム 2日目 昼】


「夜が明けました、皆様おはようございます」


 七椿の言葉と共に2日目が始まる。

 そして昨夜の襲撃結果も明らかになる。


「朝になると、北巳神案内灯が無残な死体となって冷たくなっているのが見つかりました」


「む」


 1日目夜の犠牲者は北巳神だったようだ。

 これで残るは6人。


「それでは2日目の議論を始めてください」

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