Chapter 3 "Star Rain Concerto"
リリック・メイク・シンキング
【とある少女の述懐】
人は、人を傷付ける生き物だ。
人の歴史は戦争の歴史。
誰かが誰かを傷付けて、血で血を洗うような血みどろの戦いを繰り返し、そうして
ひとつ戦いを終えるたびに人々は屍の上に平和という名の城を建て、そして新たな戦いが始まるとその城を崩して、また建てて、崩して……ずっとその繰り返し。
まさに砂上の楼閣。
そして今ある平和すらも、所詮は仮初の紛い物に過ぎない。
人は争いを止められない。
人が人を傷付けるのは、太古の昔から脈々と受け継がれてきた人類という種の起源なのだから。
誰も遺伝子に刻まれた本能には抗えない。
そんな人間の本質が、今もなお人々によって示されている。
戦争や紛争。
虐待や暴力。
差別や偏見。
人間は弱く、そして醜い生き物だ。
二重螺旋に編み込まれた、他者を害したいという欲求は、きっといつか世界を滅ぼすだろう。
俺は――僕は――あたしは――私は――――自分自身の呼び方すら忘れてしまった『■■■』は、人間として
■■■は、一体何のために作られたのだろう。
この命は何のためにあるのだろう。
誰か答えを教えてください。
◆◇◆
「歌詞が出来ました!」
「いきなり展開が爆速だな」
キャンプから帰って来て早5日。
リフレッシュして体調も万全になったらしい奥入瀬さんは、驚異的な生産性でトレちゃん曲の歌詞まで完成させてきた。
トレちゃんがオリジナル曲が欲しいと言い出してから数十話くらいは進展が牛歩だったのに、いきなりスピードが上がってビックリしたぜ。
これもキャンプのお陰なのだろう。
やっぱ適度に息抜きを挟むことは大事なんだな。
こっちは息抜きどころか、息の根を止められそうになってたけど。
おのれ有栖原。
「歌詞、見せてもらってもいいか?」
「あ、はい」
俺は手渡されたノートを捲って歌詞に目を通す。
「へぇ、あの曲にこういう歌詞が付くのか」
「どうですか……?」
「いいんじゃないか? って偉そうに言えるほど歌詞の良し悪しが分かるわけじゃないけど、俺は好きだぞ。FMKって感じがする」
「ありがとうございます! 良かった~」
俺の評価に奥入瀬さんがホッと胸を撫で下ろす。
「良かったですわね、奏鳴」
「うん、ありがとう姫衣ちゃん」
後ろでやり取りを見守っていた幽名とも喜びを分かち合う奥入瀬さん。
手まで繋いじゃって、まぁ。
仲良きことは素晴らしきかな。
「……にしても凄いな奥入瀬さんは。作曲だけじゃなくて、作詞も出来るなんて」
「え? あっ、違うんです。実はこの歌詞、みんなで作ったんです」
俺が素直な賞賛を口にすると、奥入瀬さんは慌てたようにブンブンと首を振りながら弁明してきた。
「みんなって、一鶴とか?」
「あ、はい。小槌さんと姫衣ちゃんとナキさんとステちゃんさんと、みんなで一緒に考えました」
奥入瀬さんはFMKの1期生たちの名前を羅列した。
密林配信では
例外があるとすれば幽名に対してくらいだろうが、姫衣も姫依も読みは同じなので奥入瀬さんがどっちで呼んでいるのかは本人にしか分からないだろう。
それはさておき。
「みんなで考えるってのは良い発想だな。いつの間にそんな話になってたのかは知らないけど」
「正直私、作詞には自信がなくって……それをキャンプの時にみんなに打ち明けたら、小槌さんが『じゃあ、あたし達も一緒に考えたげるわよ』って言ってくれて」
「そうだったのか」
俺が元暗殺者だが元殺し屋だかに命を狙われている間に、そんなガールズバンドもののアニメみたいな青春ストーリーが繰り広げられていたのか。俺もそっちに参加したかった。
なんで俺だけバトル展開に巻き込まれてんだよ。
やはり世の中は不公平だ。
しかし一鶴のやつが発案者ってのが怖いな。
アイツのことだから曲がヒットしたら、作詞に関わった分の印税とか要求してきそうな気がする。
いや、それくらいは当然の権利なのかもしれないが、後出しされて揉めるのも面倒だからどこかのタイミングで一鶴と話をしておくか。
そうでなくても一鶴に関しては懸案事項が重なっているというのに。本当に退屈させてくれないヤツだよ、まったく。
「ともかく、後はレコーディングすれば曲は完成だな」
「そうですね。なので、どこでもいいので音楽スタジオの予約をして頂ければと……」
「分かった、それはこっちで手配しておく」
七椿がな。
おっと、メインボーカルであるトレちゃんにも予定を聞いておかないと。
今回の主役はトレちゃんなのだから。
俺がトレちゃんにメッセージを飛ばすと、秒で返信が来た。
『いつでもウェルカムデース!』
とのことだ。
メールでもトレちゃんはかわいいですね。
それと他のFMKメンバーも呼ぶ必要がある。
このオリジナル曲は、トレちゃんが以前要望していたようにFMKメンバーによるコーラスが盛り込まれているからだ。
別日収録でも構わないだろうが、どうせなら全員まとめて録った方が効率的だろう。
そんなわけで全員の予定を擦り合わせた結果、2日後に近場の音楽スタジオでレコーディングすることになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます