【サウナ雑談】キャンプに行ってきたよー【楼龍】#2
「――で、密林の社長と、FMKの代表を加えた計15名でキャンプすることになったわけ」
〈えー……誰かキャンプ参加者まとめてくれ〉
〈ほいよ〉
以下がリスナーがまとめたキャンプの参加者である。
金廻 小槌
幽名 姫依
スターライト ☆ ステープルちゃん
薙切 ナキ
笛鐘 琴里
FMKのマネージャー2人
FMK代表
有栖原 アリス
以上。
〈こうやって見ると密林のVの名前……ルビが必須だな?〉
〈名付け親は全部有栖原なんだっけ?〉
〈読めねえんだよなぁ〉
〈蒼空でスカイハイはやってる〉
〈五月冥魔皐月(めいめいまめい)の語感好きなんだけど分かる?〉
〈案内灯でホタルって読ませるのもなかなか〉
〈いうて密林以外のVも読めない名前のやつ結構いるぞ〉
などなど好き勝手に名前を評論して盛り上がるリスナーたち。
完全に本筋から逸れてしまっている。
ちなみに楼龍は自分のV名を結構気に入っている。
名は体を表すと言うが、サウナの化身たる自分にこれ以上相応しい名前はないというくらいにハマっているからだ。
この名前を与えてくれたのは、有栖原の数少ない功績だと言えるだろう。
「あー……密林のVTuberの名前についてはまたの機会に擦るとして……のぼせて口が利けなくなる前に次に行きたいんだけども……」
〈はい〉
〈はい〉
〈水飲め〉
〈はい〉
〈どうぞ〉
〈サ ウ ナ か ら 出 ろ〉
〈絶対そのうち死ぬぞ〉
「…………それで………………我々は道中特に面白いイベントに遭遇することもなく…………無事にキャンプ場に着いたのだった…………」
〈もうだめそう〉
「お腹空いてきたし……サウナ焼肉でもやろうか……」
〈!?〉
〈なんで?〉
〈イカれてる〉
〈いい感じにあったまって来たな〉
サウナの中で焼肉を食べながら続きを語ることにした。
■
FMK事務所前を出てから1時間半とちょっとが経過した。
比較的楽しいドライブはあっという間に終わりを遂げ、俺達は奥多摩のとあるキャンプ場へと到着したのだった。
「う~ん、空気が美味い!」
真っ先に車から飛び降りた一鶴が、ありきたりな感想を叫びながら伸び伸びと身体をほぐす。
同じ東京都とは思えないほど奥多摩は自然に囲まれている。
だからなのか、一鶴の言う通り、肺に取り込む空気が心なしか澄んでいるような気がしなくもない。
しかし枕詞に東京と付けただけで、途端にマズそうに思えてしまうプラシーボ効果の摩訶不思議だ。
なんて無益なことを考えながら一鶴と並んで空気ソムリエの真似事をしていると、有栖原がプリプリ怒りながらこっちにやってきた。
「何をぼやぼやしてるのよ! キャンプ場に着いたら受付したり、荷物運んだり、テント張ったり、色々やることがあるのよ!」
こんな大自然のど真ん中に来てまで何をカリカリしてるんだが。
やれやれ、少しは幽名たちを見習って欲しいものだ。
「探検に行きますわよ」
「付いて行きます姫様」
「私も」
「えー、ズルいズルい。琴里が行くなら私も探検に行く」
幽名と奥入瀬さんと瑠璃と楼龍は、早速自由行動を開始している。
心に余裕がありすぎて他の作業なんてそっちのけだった。
そして他の面々も、各々好き勝手に三々五々に散らばっていってしまった。
うんうん、なんてまとまりのない集団なんだ。
「こらー! お前たちどこに行くのよ! 集団行動をしろなのよー!」
有栖原が叫ぶが、密林のVは誰一人として振り返らない。
人望のないやつだ。
と、言いたいところだが、この流れだとFMKの馬鹿共も俺の呼びかけをノリで無視してくる気がする。
ライバーどもが異端者揃い過ぎて、相対的に俺や有栖原がまともに思えて来るな。
流石にこのままだと有栖原が可哀想なので、今回唯一の男手として馬車馬のように働いてやろう。
えーっとまずは、そうだな……。
「七椿」
「はい、受付は済ませておきました」
「有能」
休日でもやるべきことはパーフェクトにこなす女だ。
七椿はやっぱりすごい(小並感)
で、チェックインを済ませた俺達は、フリーサイトに移動してテントを設営することにした。
かなり早い時間に来ているお陰か、スペースはまだまだ沢山空いている。
フリーサイトの場所取りは基本的に早い者勝ちだ。
キャンプ場が許可を出してる範囲内でならどこでも自由にテントを張れる。
さて、何処に陣取るのが正解か。
これはなかなか責任重大だぞ。
「あそこが良いのよ」
そんな風に俺が頭を悩ませようとした矢先、有栖原が即断即決の勢いでサイトの一画を指差した。
迷いなし。
一歩間違えれば参加者全員から非難轟々のパッシング祭りになるかもしれないのに、有栖原はそんな可能性など微塵も気にしていない様子だった。
腐っても密林配信プロダクションの社長。
大したリーダーシップだ。
巨大な箱を率いるのなら、これくらいの胆力が必要不可欠なのかもしれない。
「炊事棟とトイレからも程良い距離ですし問題ないかと」
七椿からのお墨付きも出た。
「ふ、ふふ……良いよ、良い場所だよ……大自然のエネルギーが集まってる……天然のパワースポットだよ……」
なんか知らん人からのお墨付きも出た。
「えっと」
「ふふ……
咄嗟に名前が出てこなかった俺に、黒髪ロングの女が名乗る。
ああ、この人が五月冥魔の中の人か。
Vの姿は見たことがある(というかキャンプに来てるVの配信は車中でチェックした)が、あっちはとんがり帽子と黒ローブに、紫混じりの黒髪をした魔女姿のアバターだった。
一方でリアルの五月冥魔は、魔女というよりどっちかというと悪霊……貞子みたいな髪型をした日陰オーラ全開の女だ。
御影星とは逆の意味で近寄り難い雰囲気を醸している感じがする。
あと背が高い。
目測で190くらいはありそうだ。
貞子と言うより八尺様か。
「ふふふ……」
その五月冥魔が、ずいっと屈み込むように俺の顔を覗いて来る。
怖いっす。
「お、俺の顔に何か付いてるか?」
「ふふ、失礼……思った通り、面白い相が出ていると思っただけ……ふふふ」
「面白い相?」
「魅厄の相……ふふふふふふふふふふふふ」
近い、近い、近いって!
五月冥魔の奇妙な迫力に気圧されて、逃げたくとも足が動かない。
顔面の距離は、吐息同士が触れ合うほどのガチ恋距離になっているが、生憎と恐怖心しか湧いてこない。
差し詰め俺は蛇に睨まれた蛙だ。
そして俺が動けないのを良い事に、じわじわと五月冥魔の顔が更に近くに寄って来る。
「おいコラ」
と、不意に五月冥魔の顔が一気に遠退いた。
御影星が五月冥魔の後頭部を鷲摑みにして、引き剥がしてくれたのだ。
「メイおらてめえ、誰にでもそれやんのやめろオラ。さっきも金廻にそれやって不気味がられてただろうがよ。気色悪ぃんだよてめえ」
「ふふふ……チクチク言葉」
「うるせえ馬鹿野郎。テント建てるの手伝えこの野郎」
そのまま五月冥魔は御影星に引きずられていってしまった。
なんか良く分からんが助かった……。
その後は特に問題なくテントの設営まで終わった。
好き勝手散らばっていた連中も、途中からちゃんと手伝いに戻ってきてくれたお陰でもある。
意外にもほとんどの参加者がキャンプ慣れしているのか、テントをテキパキと建ててくれていた。
一部のインドア派(俺、瑠璃、幽名)は、ほぼ指示待ちの置物と化していたが、雑用程度の役には立てたので良しとしよう。
大きめのテント4基と、天幕が1つ、それから車を3台だけ横付けして(オートキャンプなので車を一緒に駐車出来た)、キャンプの準備はバッチリ整った。
■
「んでんでんで……モグモグ……パパっとテント設置してモグモグ……したらモグモグみんなお腹モグモグ空いてきたからモグモグ……お昼にしようってことになったんだけどモグモグ……ここら辺はそんな面白いことも起きなかったかなモグモグ」
〈肉食いながら喋んな〉
〈焼肉のせいで全然話頭に入ってこなかった〉
〈初見ですけど、なんでこの人サウナで焼肉してるの?〉
〈ごめん初見じゃないけど分からない〉
むしろ何故サウナで飯を食ったらダメだと思っているのかが理解出来ない。
そう思う楼龍なのであった。
「モグモグ……ごくん……昼飯の時にあったことと言えば、打麦が目立とうとして頑張ってたくらいだね」
■
「お昼の時間! となれば必然! さららの出番!」
テントを張り終え、何かしら行動する前にみんなで昼飯にしようという話になったところで、密林配信の……えー……打麦さららだったっけ? が、ここぞとばかりにエプロンに着替えた。
料理の腕に自信ありといったところか。
コイツは期待出来そうだな。
「神器召喚!」
中二っぽい文言を叫びながら、打麦がせっせと自前の料理道具をテーブルに広げた。
小麦粉っぽい粉にバチにボウルにその他諸々。
「麺料理でも作るのか?」
「ご名答!」
打麦がパチンと指を鳴らした。
屋外で食べる麺料理は美味いと相場が決まっている。
しかも麺から手作りとは相当なこだわりだ。
「ふふふ……打麦は……香川県出身……」
不気味な笑いを浮かべる五月冥魔が、さらっと料理のネタバレをしてきた。
まあ麺料理って時点で候補は大分絞れているが。
「そう! さららの得意料理は――蕎麦!」
「うどん作れよ」
香川県関係なかった。
小麦粉じゃなくて蕎麦粉だったようだ。
五月冥魔はクスクスと笑っているので、これは打麦の鉄板ネタなのかもしれない。
他は御影星くらいしか笑ってなかったが。
「さららはうどんが苦手! 蕎麦が好き!」
香川県を背負って立つVの姿か? これが……。
「おうてめえ打麦、FMKのやつらにあの爆笑ネタ言ってやれや。うどん専門学校の講師に、そば粉投げつけて退校したやつ」
「御影星先輩! オチまで言ってる!」
折角の面白そうなエピソードを御影星に潰された打麦は、悲嘆に暮れながらもそのまま蕎麦を打ち始めた。
蕎麦は普通に美味かった。
ざるそば、とろろ蕎麦、かけ蕎麦、きつね蕎麦など地味バリエーションも豊富だったし。
■
同じ一芸特化型VTuberとして楼龍は打麦に親近感を覚えているが、心情的にはうどん寄りなのでたまには地元の特産にも目を向けて欲しいと思う今日この頃。
楼龍は、キャンプで食べた蕎麦の味を思い出しながら、サウナ焼肉を完食した。
「げふっ……ごちそうさまっと。……それで、打麦の蕎麦を食べ終わったら自由行動ってなったんだけど、ここでいよいよ私のターンってわけだね」
〈おっ〉
〈本題に入るまで長かったな〉
〈どうせテントサウナとかだろ?〉
〈ネタバレやめろ〉
楼龍の出番と聞いてサウナを連想しない者はいない。
鍛えられたリスナーたちもそこの所はしっかり理解しているようだった。
「ま、サウナといえばサウナなんだけど、今回はテントサウナは持っていかなかったんだよね。代わりにもうちょっと面白いものを持ってってたんだけど――」
■
「――と、いうわけでね。琴里とFMKの皆さんには、私楼龍から素敵なサウナの贈り物がございまーす。アウトドアで楽しめる最強サウナグッズの決定版をご紹介だよー。さあさあもっと近くに寄って見ていって」
自由行動時間になって、楼龍がFMK勢をひとところに集めて何やらプレゼンを開始した。
内容は案の定のサウナだったが、こんな自然しかないような環境でサウナと言われてもピンと来ない。
「キャンプでのサウナと言えば、やっぱりテントサウナが定番だけど、今日私が用意したのはもっと本格的で最先端なサウナ体験だよん」
まずそもそも大前提としてテントサウナというものを俺は知らなかったが、話の腰を折るのもどうかと思ったので楼龍に喋らせるままにしておく。
ひとりで良い空気吸ってんなコイツ。
「本日私が用意したサウナがこちらです! ドン!」
楼龍が背後のキャンピングカーに向けて両手をバッと広げた。
うん、まあ、わざわざキャンピングカーの前に全員を集めた時点で察しはついてたけど。
「ってことは、この中がサウナになってんの?」
「おっ、鋭いねえ小槌」
誰でも分かるわ。
ツッコミ疲れが懸念されるので黙っていると、楼龍はお待たせしましたとでも言わんばかりのドヤ顔でキャンピングカーの後部ドアを開けた。
「おぉ、思ったよりもサウナだ」
内装を見て、思わずそう呟いてしまう程度にはサウナだった。
中身は全面ヒノキ張りで、温度を上げるための薪ストーブも完備されている。
「どうどう? なかなか良いでしょ、サウナカー。いつでもどこでもサウナを楽しめちゃう優れものなんだ。ちょっと前にサウナバスなんてのも流行ったけど、流石にバスは個人じゃ所有も難しいからね。これはキャンピングカーを改造したものだからバスほど場所も取らないし、お値段もリーズナブル」
「え、これ楼龍さんが買ったの?」
奥入瀬さんが畏怖半分、尊敬半分くらいの感情で質問した。
しかし楼龍は首を横に振る。
「これはレンタル……みたいなもん?」
楼龍は何故か疑問形になりながら、遠巻きに仏頂面でこちらを見ていた有栖原へと視線を向けた。
自分に話の矛先が向けられたことを感じた有栖原が、ため息交じりにこちらに近付いて来る。
俺の隣で奥入瀬さんが身を固くしたのが分かった。
有栖原への苦手意識は抜けきっていないか。無理もない。
そんな分かりやすく動揺する奥入瀬さんに見向きもせず、有栖原は楼龍の隣に並んだ。
「このサウナカーはレンタカーだけど、今回は特別に無料で借りているものなのよ」
「なんで無料なんだ?」
俺がストレートに尋ねると、有栖原は特に意地悪もせずに口を開いた。
「今度このサウナカーをレンタルしてる会社と、うちの楼龍がコラボするからなのよ」
「ええ!? じゃあこれ案件物!?」
衝撃の事実だった。
■
「というわけでね……GalaxySAUNAさんとのコラボで、8月1日から20日までの期間限定で、レンタルサウナカー[兎斗乃依号]が発進します……。外装にも私の絵が張られたりして超かわいいんですけど、一番の見どころは内部だね……。なんとモニターが付いてて、期間中は私とリモートサウナが楽しめる仕様になってます。どうだ凄いでしょ」
〈いきなりの案件で草〉
〈案件で焼肉食ってたのか……〉
〈リモートサウナってなんだよ〉
〈期間中リモートサウナのためにずっとサウナに居るつもりか?〉
〈死ぬほど体張ってるコラボだぁ……〉
〈良い物見つけたからキャンプに誘ったって言ってたけど、見つけたんじゃなくて見つけられた側だろこれ〉
「いやいや、今回の案件は私から声掛けた結果だから、見つけたで合ってるよ」
〈行動力の化身か?〉
〈興味あるから借りてみようかな〉
〈焼肉もやってええんか?〉
当たり前だがサウナカーでの焼肉はNGだった。
■
配信者界隈でよく使われる案件とは、企業からの依頼で特定の商品やサービスを動画及び配信内で紹介したりするプロモーション活動を指している。
ネットインフルエンサーによる宣伝は下手なテレビCMよりも効果があり、尚且つ費用も比較的控えめだ。
そんなコストパフォーマンスの良さもあってか、今や企業がネットの有名人に自社製品の宣伝をお願いするのは当たり前になっている。
楼龍のサウナカーもその企業案件なのだという。
「いいなー、案件。代表さん、あたしも案件欲しい」
「話があればな」
一鶴がないものねだりをしてくるが、ない袖は振れないのが世の常だ。
それにお前が欲しいのは案件じゃなくて金だろう。
とはいえ、動機はともかく所属ライバーが活動に前向きなのは良い事である。
特に借金まみれで来年度の税金も支払えるか怪しい一鶴は、もっと頑張ってもらわなくてはならない。
一鶴がやる気のあるうちに、何か案件の一件や二件くらいは見つけてこれないだろうか。
そこは俺の腕の見せどころなのだろうけど。
で、サウナカーだ。
煙突やらなんやらの取り付けが完了したらしく、楼龍がさあ来いという顔で自走式蒸し風呂の入り口をオープンさせた。
ストーブには既に薪をくべているようだ。内部からモワっとした熱気が漏れて来ており、煙突からも煙がモクモクとしている。
「私は先に行ってるから、みんなも水着に着替えたら勝手に入って来ていいよ。キャンプ中は24時間フル稼働してるからどうぞご自由に」
言うが早いか、楼龍は真っ黒なサウナスーツを脱ぎ捨てて、サウナカーに飛び込んでドアをぴしゃりと閉め切ってしまった。
いきなり脱いだので一瞬固まってしまったが、どうやら下に水着を着ていたようだ。
用意周到というか横着というか……どんだけ待ちきれなかったんだよ。
名目上は迷惑をかけたFMKへのお礼と感謝のためのキャンプだと聞いていたが、多分本当はサウナを布教したかっただけに違いない。
さては密林配信のメンバーを多く連れて来たのもサウナ布教の一環だな。
見境がなさ過ぎる。
「どうするんだ?」
とりあえずFMK1期生+奥入瀬さんにサウナに入るか否かを聞いてみる。
「そりゃ入るしかないでしょ。兎斗乃依っちを放置するのもアレだし」
「デスネ! ハダカの付き合いで親睦を深めるデス!」
一応言っておくが全員楼龍に言われて水着を持参してきていたようなので断じて裸にはならない。
「さうな、というものは初めてですが、何事も経験ですわね」
「姫様が入るなら私も入るけど、水着か……」
水着と聞いて瑠璃は渋い顔をしている。
瑠璃が気にしているのは多分体型うんぬんの話ではなく、ここがキャンプ場ということだろう。
いい時間になってきているのでフリーサイトにもそこそこ人が増えてきている。
サウナカーなんて珍奇なものを持ち込んでる上に、このグループは色んな意味で悪目立ちする集まりだ。水着に着替えてわちゃわちゃ動いてたら死ぬほど注目を浴びるだろう。
全然気にしてなさそうな一鶴トレちゃん幽名がちょっとおかしいのだ。
そしてそこんところを瑠璃以上に気にしそうな奥入瀬さんはというと、
「楼龍さんとサウナ……やっと」
何やら感慨深そうにサウナカーを見つめていた。
事情は分からないが、少なくともサウナに入りたくないという感じじゃない。
というわけで、全員サウナに入ることになった。
広さ的な問題でマネージャー2人は辞退。
セクハラ的な問題で俺も入れないし入らない。
で、FMKの女子たちはこぞってテントの中で水着に着替えに行った。
テントを締める直前、瑠璃が俺を睨みながら
「覗いたら殺す」
と凄んでいた。
覗かねーよ。
「イヅルはやっぱりスタイル良いデスね」
「トレちゃんも十分良くない? ……ってか奏鳴さんめっちゃ着痩せするタイプじゃん」
「あ、あんまりジロジロ見ないでください……」
……………………煩悩退散。
それから1、2分経った後、テントの中からぞろぞろと水着の集団が小走りで出て来て、そのままサウナカーに吸い込まれていった。
一瞬しか水着を拝むチャンスがなかったが、妹以外の水着姿を俺はしっかりと脳内フィルムに焼き付けた。
「ガン見しすぎなのよ、お前。ちょっと飢えすぎじゃないのよ」
なんかキッズが五月蠅いが、これくらいの役得は許して欲しい。
代表にだって心の休息は必要なんだ。
■
以下、実際にサウナカー兎斗乃依号を利用したモニターの皆様のお言葉。
『大自然でのサウナは解放感があってまあ気持ちよかったわね』
『風情があって素晴らしいと思いますわ』
『最高デース! またみんなとハダカの付き合いがシタイデース!』
『海やプール以外で水着になることに抵抗がなければ……って感じ』
『最高の思い出になりました。今までずっと不甲斐ない私と友達で居てくれてありがとう……これからもよろしくお願いします、兎斗乃依ちゃん!』
兎斗乃依号の案件配信で使うからと貰っておいたFMK勢のコメント見て、楼龍は目頭を熱くさせた。
ずっとずっと感じていた友達との壁を、サウナでの付き合いが取り払ってくれた。
サウナがなければ一生距離感を感じていたままだったかもしれない。
……なんていうのはただの言い訳で、いい歳して積極的に距離を縮めようとするのを楼龍がただ恥ずかしがっていただけの話なのだ。
サウナのお陰にするのも単なる照れ隠しでしかない。
ビバ、サウナ。
サウナ万歳。
「リスナーのみんなも…………密林配信とFMKのVTuberから……大絶賛の兎斗乃依号に……乗って、この夏を満喫しよ…………うっ」
バタンっ。
〈あっ〉
〈あ〉
〈あーあ〉
〈死んだ〉
〈サウナで気絶するの何回目やねん〉
〈案件でも気絶するのか……〉
※この後、サウナの外で待機していたマネージャーに救出されました。
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