【マテラテ】新作FPSやるわよ【金廻小槌/楼龍兎斗乃依/広小路ツン】#4

【マテラテ】新作FPSやるわよ【金廻小槌/楼龍兎斗乃依/広小路ツン】



 一斉掃射。


 3人組のフルパーティと鉢合わせた瞬間、小槌は反射的に迷いなくトリガーを引いた。

 それからコンマ何秒か遅れて、他のプレイヤーが――生き残っている全プレイヤーが攻撃を開始する。


 小槌の視点から確認出来た事実は3つ。

 1つ目は、自分の撃った弾が3人組の後方にある塀に着弾したこと。

 2つ目は、3人組の集中砲火を浴びて、小槌のヘルスがミリ残しまで減ったこと。

 そして3つ目は、小槌を狙っていた3人組が、多方面から飛んで来た銃撃によって蜂の巣にされたことだ。


 別パの漁夫の利に救われた。

 3人組のうちの2人がダウンしたことで、小槌に対するダメージがかなり抑えられた。

 そうでなければ今このタイミングで無様に地面を舐めていたのは小槌の方だっただろう。


 それに小槌とて、ただ棒立ちで銃撃を浴びていたわけじゃない。

 しっかりと左右にステップを踏むことで、多少なりとも被弾量を抑えていた。

 以前、オーディションの参考にと色々なVTuberを見ていた時に、FPSを得意としているVがこういう動きで相手のエイムをずらしていたのを覚えていたお陰だ。


 勝利を引き寄せるために最後まで十全を尽くす。

 小槌の生き汚さが、首の皮一枚のところで命を繋いだ。


 だがまだ終わっていない。

 3人組はまだ1人残っており、ヘイトは小槌の方に向いている。

 ピンチは継続中――、


『引いて引いて! 一回逃げて回復して小槌ちゃん!』


「引かない!」


 ツンの必死なアドバイスを小槌は踵で蹴り飛ばした。

 ここは命を賭ける場面だ。小槌はそう直観していた。

 ほぼ全員が同時にリロードタイムに入ったため生まれた空白の1.5秒間。

 状況は絶体絶命。

 一歩判断を過てば容易にゲームオーバーのこの局面で、小槌は退かないことを選んだ。


 自分が漁夫攻撃の標的にならなかったのは、射線上に遮蔽物があるから。

 この位置はまだ安全なはず。

 しかし3人組の最後の1人は、未だ危険な位置にいるにも関わらず、退避せずに魔法の詠唱モーションを起こしている。

 緑色のエフェクト、風属性。


火炎槍ファイアランス!」


 咄嗟に魔法名を叫んでしまうが、必死すぎて羞恥心を抱いている余裕すらない。

 相変わらず画面上を滑っていくエイムに翻弄されながら、[火炎槍]を前方に向かって射出した。

 敵本体には当たらなかった。

 当たらなかったが、当たった。

そよぐ風壁ブリーズシールド]――名も知らぬ敵プレイヤーを保護する風の膜が、炎の槍によって掻き消された。

 湖で3人組の手の内を見ていたからこその読み、閃き、会心の一手。


「さっさと身を隠してれば良かったのに。欲張ったわね」


 再び、掃射。

[そよぐ風壁]で銃撃を防ぐつもりだったプレイヤーは、どこからともなく飛来した銃弾の雨によって、あっさりと撃沈した。

 キルログにはやはりbd_ENという名前。

 3人組を全滅させたのはbdだったらしい。

 忌々しいくらいに素晴らしいエイムだ。

 ともかく、これで自分を含めて後4人。

 ドン勝が見えて来た。


『火炎槍は外れたけど、たまたま風バリアを破壊出来て良かったね』


『運に極振りって感じの戦い方だったわね!』


「いやいや、今の一応狙ってやったんだけど」


 なんか一連の出来事が偶然の産物にされているようなので、小槌は流石に抗議の声を上げる。

 が、あんまり後から必死に自己弁護しても、それはそれでダサいので仕方なく受け入れておくことにした。

 賭けの要素があったのは事実だし。

 相手の判断ミスがなければこうはならなかっただろう。


 しかしここはまだbdの射程範囲内。

 恐らく小槌の存在も露見しているはず。

 建物の陰に身を潜め、回復アイテムを使いながらbdの出方を窺う。

 どうやら直ぐには詰めてこないようだが、それがかえって不気味さを増しているような気さえする。

 あるいは強者故の驕りなのだろうか。


 bdは相当な腕前のようだが、強いヤツが絶対に勝つとは限らないのが勝負の世界だ。

 時の運に見放されて散っていった強者たちを幾人も見て来た。

 だから小槌は自身が勝てる可能性が0.0001%でもある限り諦めない。

 こっちが適当に撃った弾が、偶然全部当たってあっさり勝てる可能性だって0じゃないのだから。


『最後のエリア縮小が来るわよ!』


 エリアが限界まで狭まろうとしていた。

 これでも決着が付かなければ、最終的に全エリアがダメージゾーンとなって、先に体力がなくなったほうが負けの耐久戦になる。

 だがbdの実力を考えるに、それは有り得ない未来図だと言えた。

 ここで必ず決着が付く。


 そして小槌にとって幸運が1つ。

 現在地が既にエリアの範囲内だった。

 これで余計な動きを取らなくても済む。


 現在4人生存で、3チームがまだ残っている。

 人数配分は1、1、2。

 bdが1人パーティーだったら言う事無し。

 そしてbdと2人パーティーが潰し合ってくれれば尚良し。


「頼むから潰し合え~殺し合え~」


『あまりにも他力本願寺』


『でもそれくらいしか勝ち筋ないわね!』


 だが結果としてそれは叶わぬ望みとなった。

 全力疾走する足音が、小槌の方へと近付いて来るのが聞こえて来ていた。


「あ、やば」


 何となくだが、この足音の主がbdなのだと小槌は直観で悟った。

 同時に敗北の未来までも見えてしまった。

 勝負の世界に身を投じ続けて来たからこそ分かる、圧倒的敗北の予感。

 あれだけ啖呵を切っておいて、何の爪痕も残せていない。

 このままじゃあんまりだ。

 だから小槌は、咄嗟にスナイパーライフルのスコープを外してから、あえて足音の方へと飛び出した。


 見えたのは、アメジスト色の髪をした女のアバター。

 それなりの至近距離。

 スコープを外したのは正解だった。

 この距離なら邪魔になるだけだ。

 それにいくら小槌でも、この近さなら外さない自信があった。

 

 が、ここでbdが即座に銃を構えながら、左に鋭くステップを刻んだ。

 流石の反応の早さ。

 でもそれは、小槌が賭けに勝ったことの証左でもあった。


「右か左かで悩んだけど、左に賭けて正解だったわ」


 小槌のカーソルは、最初からbdの左側に置いてあったのだ。

 決して、焦ってエイムがズレていたわけじゃない。

 ほんとにほんとの大当たり。


「ジャックポ――」


 トリガーを引こうとした瞬間。

 世界の全てが静止した。






《サーバーとの接続が切断されました》






「あ……あ……? はぁあああああああああああ!?」



:草

:草

:草

:は?

:鯖落ちてて草

:えぇ……?

:タイミングに草ァ!


 ■


 とんでもないタイミングでマテラテのサーバーが死んだのだった。


「消化不良ーーーーー!!!」


 マテラテのサーバーが死んだので、本日のコラボはお開きになった。

 配信を始めてからまだ30分ちょっとしか経っていない。

 これがドン勝を獲れた上での幕引きならまだ良かったのだが、よりにもよってノーコンテスト無効試合

 小槌が絶叫するのも無理ないというものだ。


 が、しかしだ。

 消化不良だと言うのなら、小槌以上に文句を言う権利がある人間がいる。


『小槌ちゃんはまだいいでしょ! あたしらなんて1ゲームもまともにプレイ出来てないんだけど!? アンタのせいで!』


 ツンと楼龍は、小槌の(ド下手な)プレイをずっと観戦して茶々を入れていただけで終わってしまった。

 配信的にはアウトもアウト。個人的取れ高なしの残念回。小槌の枠の賑やかし要因でしかなかった。

 

「本当に申し訳ない」


『メタルマンの博士に寄せて言うのやめなさいよ! 誠意ゼロじゃないの!』


「でもあたしはツンちゃんが居てくれて楽しかったわ」


『……っ! な、なによ! じゃあもう結婚する?』


「扱いやすいと見せかけてナックルボールなの怖すぎるんだけど」


 まあツンの方は適当にあしらったので問題ないだろう。

 後は楼龍の方だ。

 さっきから一言も発していないので、もしかしたら機嫌を損ねてしまったのかもしれない。

 それは困る。


 何せ相手は4倍以上のチャンネル登録者数を誇る上位存在のVTuber。

 なんとか機嫌よくして帰ってもらって、今後ともあま~い汁を吸わせて頂きたいというのが小槌の本音なのだから。


「兎斗乃依っちもなんか悪かったわね」


『らいろぉぶらぉ……おぉんだぃあいあら~』


「は? 頭でも打った?」


『あっ! ロウリュ! もう配信終わっちゃうからって水風呂に入ってるわね! 整っちゃうせいで呂律ガバガバになるんだから、それやめてっていつも言ってるのに!』


「整っちゃっただけか、兎斗乃依ととのいだけに」


 しょうもないネーミングセンスもあったものだった。

 ちなみにさっきの楼龍の言葉を翻訳すると『大丈夫だよ、問題ないから』だろうか。


『ぁあ、しょぅふおほぅらどおぉぉへおおえ……えっあうあ、ああのひあいい~』


「もうなに言ってるか分かんないわよ」


 後日メッセージで何を言ってたのか聞いたところ『まあ、勝負の方はドローってことで……決着はまたの機会に~』だったのだそうだ。聞き取れるか。

 小槌も小槌で、楼龍との勝負とかどうでも良くなっていたし、この配信にてその話が蒸し返されることはもうなかった。

 そもそも賭けの報酬となっていた楼龍が自分をコラボに誘った理由自体、元からさして興味があったわけでもない。

 話の繋ぎにと適当に話を振っただけだ。


 それが楼龍の方から妙なタイミングで勝負を持ちかけてきて……。

 思い返してみても最初から最後までよく分からないコラボだった。


 まあ、楼龍のことだ。

 サウナに入ってイカレスイッチが入っている時にでも、唐突に小槌とのコラボを思いついてしまったのかもしれない。

 そのくらいの行動原理不明な思考回路を持っているのがサウナ時の楼龍だ。という印象を小槌は今回のコラボで植え付けられた。


 楼龍が今日サウナに入っていたのは30分ほど。

 いつもは2時間以上の配信をサウナでやっているらしいので(アーカイブの時間がそれくらいだった)、もっと配信が続いていれば今回見た以上の奇行を拝めたかもしれない。

 そう思うと少しだけ残念……でもないか。と、小槌は誰にも見えないのに肩を竦めるジェスチャーをした。


「次はサウナに入ってない兎斗乃依っちとコラボしたいわね」


『そえうい……らっえあぁしさうぁああいぉもいえあ、あぁあぁいおおえ。おあおあおおむぉこおあえどえぇ。ぁあしぉうちあんのおとあいぉういあい~。うぎあぉうちあんもいっろにさうぁへあいいんぃおうえ~、あくぉうあお~』


『ああ! ロウリュが呂律ガバガバのままお喋りモードに戻っちゃってる!』


「あーはいはい、なんて言ってるか大体分かったわ。『それじゃあ次回はサウナなしでコラボしよう』って言ってるわね。はい、言質取りましたと」


『あぅえ~?』


『絶対にロウリュが言わない台詞!』


 最後楼龍が何を言っていたのか整いすぎていて微塵も分からなかったが、多分本当は次は小槌もサウナに的なことを言っていたに違いない。

 今回の詫びも兼ねていずれはサウナ配信を共にしてやるのも良いかも知れないが、だけど倒れるまでやるのだけはごめんだ。

 そう思う小槌なのだった。


『それじゃあもう締めるわよ! 小槌ちゃんは告知とかなにかある?』


「特にないけど、明日も自分のチャンネルでなにかしらやるんで興味ある人は見てね」


『予定ないなら改めて明日マテラテリベンジしたくない? したいわよね!?』


「もうマテラテはしばらくいいわ」


『1ゲームしかプレイしてないのに!?』


「そのうちやるわよ、そのうち」


『絶対だからね!?』


 そんなにFPSが得意じゃないのは自覚していたが、今日は思った以上にグダグダだったので、明日もやろうと言われても全然気乗りしない。

 誘ってくれたツンにはちょっとだけ悪いと思ったが、やはり自分にあったジャンルの配信をするのが一番だろう。

 やりたくないことを無理にやっても辛いだけだ。


「まあ、あのbdとかいうプレイヤーと決着付けたいとは思うけど。あ~あ、あのまま鯖が落ちなかったら、絶対にあたしの弾当たってたはずなのに」


『逃がした魚は大きいわね! で、ロウリュの方は告知か何か言うことあるかしら?』


『とういぁいあな~?』


『全然わかんないけど特にないみたいね!』


「じゃ、おしまいってことで。バイバイ」


『また次回の配信で!』


『あいあい~』


 そんなこんなで楼龍とのコラボ配信は終わった。

 いくつかの疑問だけを置き去りにして。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る