【初配信】エピローグから始まるプロローグ【漆原・ダークネス・クロウ/新人VTuber】
「モー! ひどいデスよ、イヅル! コイントスでイカサマしてたんデスネ! トモダチに相談したら、ソレはすり替えで間違いナイって言われマシタ!」
と、トレちゃんが騒ぎ出したのは、みんなの配信が終わり、事務室に全員が集合した矢先だった。
「げっ……な、なんの話だろうなー?」
棒読みで明後日の方角に顔を背ける一鶴は、あからさまに動揺しているようだった。
コイツ、土壇場の勝負どころでは堂々としてるのに、自分に不利な指摘を喰らうと分かりやすくボロが出るな。
それで、コイントスってなんの話だっけ?
以前どこかで……ああ、一鶴とトレちゃんの器の希望先がかぶったときに、コイントスで勝負を決めたんだったっけか。
「って、おい。まさかあの時の勝負でズルしてたのか?」
「うっ……いや、なんていいますか、自分が勝てる可能性を極限まで高めて戦うのが真のギャンブラーなのであってですね……」
「ズルしたんだな?」
「……しました」
なんてヤツだ。
この期に及んで新しい余罪が発掘されようとは、このリハクの目を持ってしてもうんぬんかんぬん。
「お前本当にクズなんだな……」
「あんまりクズクズ言わないでよー! さっきの配信でもリスナーにクズクズ言われて、自分からもクズですクズですって自虐しすぎて、あたしの繊細な乙女心はもうボロボロなんだからー!」
「自業自得すぎて同情の余地が一切ないのがすげえや」
「うぅ……アイデンティティ崩壊の危機よ……一鶴ちゃんはおしまいよ……」
やかましいわ。
めそめそと被害者面で泣き崩れる一鶴は置いておいて、俺はトレちゃんに向き直った。
「で、どうする? トレちゃんが許せないなら、もういっそクビでも良いかなって思うんだけど」
「え!? 冗談でしょ!?」
当然冗談だ。
こんな所で見捨てたら、さっき高い借金を肩代わりしてまで助けた意味がなくなるしな。
でもこうでも言っておかないとコイツは絶対に反省とかしないし。
俺の申し出に、しかしトレちゃんは即断即決で首を横に振った。
「ソレはヤリすぎデスよ代表さん。イカサマを見抜けナカッたワタシにもヒはありマス! 勝負の世界は時にヒジョーなのデース!」
そうかな……そうかも……トレちゃんがそういうならそれでいいか。
「でもそれじゃあトレちゃんが割を食うばかりだし、やっぱり何かしらのペナルティは与えないと」
「うーん、ソウデスカ? それデハ、次にイヅルと何か取り合いになったトキに、ワタシをユーセンしてくれればソレでオーケーデス!」
まあ、それくらいは当然の権利だろう。
というか一鶴にとって大したペナルティになっていないが、ここは菩薩のように心の広いトレちゃんに免じて許してやるとしようか。
「一鶴もそれでいいな? というかノーとは言わせんが」
「うぅ、トレちゃんありがとう……この恩は一生忘れずに墓まで持っていくわ……」
「墓まで持ってくな、恩は返せ」
ほんとに叩けば叩くほど埃が出てくる女だな。
正直もうお腹いっぱいだからこれ以上は勘弁してほしいものだ。
「というかお前、もしかしていつもコイントス用のコイン持ち歩いてるのか?」
「まあね、いついかなる時もあたしに有利なギャンブルが出来るようにね」
「そうか……みんな、今後一鶴の提案する勝負には絶対に乗らないようにな」
「そんなひどい!」
一鶴が叫び、事務所は賑やかな笑い声に満たされた。
いきなり一人クビかと思う場面が何度かあったが、今こうしてみんなで笑うことが出来て何よりだ。
ここ数日のドタバタの元凶である一鶴も、しばらくは大人しくしているはずだ。
賭けに使えるような元手もないしな……いや、それくらい一鶴ならどうとでもする気がするけど。
ま、平穏無事で波風立たない人生よりは、多少ぶっ飛んでるくらいの方が退屈しないでいい。
灰色の生活にはもう戻りたくないしな。
■
【初配信】エピローグから始まるプロローグ【漆原・ダークネス・クロウ/新人VTuber】
『こんにちは、諸君。我の名は漆原・ダークネス・クロウだ!』
『我は刺激を求めてこのバーチャル世界に顕現した!』
『我は渇いている、我は飽いている、我は……満たされたい!』
『未来に希望などなくても良い、進むべき道も、明日への
『やりたいことなど見つからなくても構わない!』
『ただせめて、退屈と言う名の砂漠から抜け出すための何かさえあればいい!』
『故に! 我は宣言する!』
『全ての
『我の配信によって、このつまらない世界を終焉へと誘ってみせる!』
『これは、
■
「どうしたの代表、急に頭抱えて床を転げ回って」
「な、なんでもない……何の前触れもなく黒歴史がフラッシュバックして脳を焼かれただけだ」
「あぁ、よくあるやつね」
瑠璃は知ったような顔でうんうんと頷く。
お前に俺の何が分かるのやら。
だが、まあ、そうだな。
俺の絶望を終わらせる切っ掛けをくれた瑠璃には感謝しないといけないか。
「お前はすごいよ、瑠璃」
「は? いきなり女の子の頭撫でないでよ。普通にセクハラなんだけど」
手を払いのけられた挙句、脛を思いっきり蹴り飛ばされた。
「いってぇ……本当にお前はFMKだな……」
「なにそれ? っていうか、前々から思ってたけどFMKってどういう意味なの?」
「え? あ、あー、そうだな、アレだよ……
まさか触れるモノみな傷付けるの略だと言うわけにもいかず、咄嗟の出まかせで変なことを言ってしまった。
我ながらなんてダサいネーミングなんだ。
これでは逆にセンスを疑われてもおかしくないだろう。
穴があったら入りたい。
「か、かっこいい」
しかし瑠璃の反応は俺が思ってたのとは違った。
「そんなカッコいい意味があったなんて、あたしも驚いたわ。やるわね、代表さん」
「わたくしも感服致しました、どうやら少々代表様を侮っていたようですわね」
「良いセンスデース! アニメの謎組織みたいでワクワクしマス!」
正気か? こいつら。
なんで全員満場一致で高評価なんだよ。
七椿に目をやると、無表情のまま頷かれた。
なんの頷きだ、それは。
「それじゃあこれから、この4人で、フューチャー・マジェスティック・ナイツを盛り上げていくわよ!」
「「「おー!」」」
テンション高めの一鶴の号令に従って、残り3人が馬鹿みたいに拳を突き上げた。
恥の上塗り、黒歴史のニューページ。
俺はもう泣き寝入りするしかない。
こいつらはどこまで行っても
だけど、こんな退屈しない日々がいつまでも続くのなら、俺が傷付くくらいはいくらでも許容してやろう。
柄にもなく、俺はそんなふうに独り言ちるのだった。
――To Be Continued.
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